お支払いはお金じゃなくてモノで! 物々交換ショップに人が集まる訳。赤字でも営業を続ける店長に聞いた 「サルベージSHOPレトロカルチャー」愛知県岡崎市
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愛知県岡崎市にある「サルベージSHOP レトロカルチャー」は、不要なモノを持ち込み、それに相当する価値の必要なモノを持って帰ることができるという、物々交換で成り立つショップ。どんな物々交換が行われているのか、筆者も物々交換に参加しがてら、お話を聞いてきた。
廃棄物処分場の廃棄物を見て「なんとかしたい」と考案
岡崎市は愛知県の三河地域に位置し、徳川家康公生誕の地として寺社や史跡が多く残る街。物々交換ショップ「サルベージSHOP レトロカルチャー」は、岡崎市南部ののどかな街にある。

住宅街に立つ2階建ての倉庫が「サルベージSHOP レトロカルチャー」。店の前に3台の車が停められ、大量の持ち込みもOK(写真撮影/倉畑桐子)
約50坪あるという2階建ての倉庫に、数千点の衣類や雑貨が並ぶ「サルベージSHOP レトロカルチャー」は目を引き、住宅街の中ですぐに見つけられる。リサイクルショップが好きな人であれば、「何かおもしろいものが見つかりそう」とワクワクすることは間違いない。
ここで「物々交換を楽しんでいってください!」と明るく迎えてくれるのは、代表の古田雄大さんと妻のゆうこさん。「サルベージ」とは“救済”という意味だという。捨てられてしまうモノの救済のために、古田さんが「サルベージSHOP レトロカルチャー」を始めたきっかけは、片付け業をしていた時のことだった。
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本業の片付け・不用品回収事業の傍ら、「サルベージSHOP レトロカルチャー」を運営する古田雄大さん(47歳)。古民家改築の経験から地域の空き家の情報にも詳しく、貸主と借主のマッチングのボランティアも検討中(写真撮影/倉畑桐子)
海上自衛隊に入隊し、5年間の任期を満了した後、東京のIT企業に就職した古田さん。3年後、地元である愛知県岡崎市に戻り、前職の関連業を立ち上げたものの仕事が増えず、片付けや不用品回収、遺品整理のアルバイトを始めた。地域で信頼を得て整理事業が拡大する中で、市内の廃棄物処分場の様子を目の当たりにする。
「トラックの荷台から、まだ使える大量のモノを処分場に流し捨てる様子を見て、『なんとかできないかな。自分は持ち帰ることができないけど、これを欲しい人もいるよな』と考えたんです」
元々、古民家を購入して自力で改築するなど、古いモノが好きだった古田さん。まずは、捨てられてしまうモノを激安価格で販売するリサイクルショップを始めることにした。
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店頭に立つのは、妻のゆうこさん(43歳)がメイン。こちらはパーティーグッズの棚の前(写真撮影/倉畑桐子)
「すると、次第に売り上げが気になるようになり、モノを救うために始めた事業なのに、これでは当初の目的とは違うなと。そして、うちが不要だと判断したものを販売するんじゃなくて、みんなが不要なモノを持ってきて、必要なモノを持って帰る方がいいなとひらめいたんです」
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訪れた人が次々に足を止めたアクセサリーコーナー。子どもも大人っぽいアクセサリーに挑戦できる(写真撮影/倉畑桐子)
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おしゃれな色のランドセルが棚に並んでいた(写真撮影/倉畑桐子)
誰もがいつでも気軽に来られる物々交換スタイルを確立
「当初は入場料や参加費をもらうことも考えました。でも、モノを救うには『誰もがいつでも気軽に』来られなければ意味がないなと考えて、お子さんでもふらりと来られるように、完全に無料にすることにしました」と古田さん。
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バトンを持ってポーズする子。子どもが気軽におもちゃや雑貨を選んでいけるのが魅力(写真提供/レトロカルチャー)
こうして、現在の「自宅の不要品を持ち込み、誰かの不要品を自由に持ち帰ることができる」というスタイルを確立。持ち込んだモノよりも多くもらいたいという場合は、相当額をこの店に募金する。また、何も持ち込まないけれど欲しいモノがある時は、店内にある瓶に500円を募金し、こちらも店の運営資金にするというシステムだ。
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持ち込んだモノ以上に欲しいモノがある時は、店内にある瓶へ募金を(写真撮影/倉畑桐子)
「2020年のスタート時は、どのくらいの人が来てくれるか予想もつかず、1カ月のうち1週間だけオープンする形で数カ月続けたのですが、毎回、お客さんが多すぎて、お店の前に大混雑をつくってしまったんです」と古田さん。不要品の物々交換には多くのニーズがあった。
試行錯誤を経て、現在は週4日、午前中に営業する形式に。1日平均20人くらいが、1人当たり約10個の不要なモノを持ち込み、必要なモノを選んで持ち帰る。
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不要なモノと必要なモノを交換できると、みんな思わずニッコリ(写真提供/レトロカルチャー)
「物々交換をせず、不要なモノを持ち込むだけで帰る人もいますし、何時間も商品を眺めるだけで楽しんでいく年配の方もいます」とゆうこさん。日課のように立ち寄る人もいて、地域の“遊べるコンテンツ”としても浸透しているようだ。
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使い終わった語学学習の本などを持ち込んだ人(写真提供/レトロカルチャー)
「どうしても売れ残り、日にちが経ってしまったものなどは処分場へ持ち込みますが、それは月に1度、軽トラで半分くらいの量だけです」と古田さん。持ち込まれる商品数から考えると、かなりの量のモノを救済できているといえるだろう。
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小説や絵本、ビジネス書など、さまざまな書籍が並ぶ本のコーナー。ゆうこさんが定期的に整理整頓している(写真撮影/倉畑桐子)
商品は持ち込まれ、人件費は夫妻が店頭に立って削減するとしても、家賃や光熱費などがかかるはず。古田さんに運営の費用面について尋ねると、「赤字です、赤字!」と笑う。「サルベージSHOP レトロカルチャー」の現金収入は、1年間約30万円の募金のみ。それに対して2階建ての倉庫の家賃は年間180万円だという。差額は古田さんの自腹で賄い、運営しているという状況だ。
「日々、利益が出る方法を模索していますが、なかなか難しいですね。古着の着物を使ったレンタル事業なども試しましたが、うまくいきませんでした。現在、『サルベージSHOP レトロカルチャー』は完全なボランティアです。でも、お金を稼ぐこと以外で幸せを感じられるのって豊かなことなんですよ」と古田さん。
環境問題に対する身近なアクションを起こすきっかけに
持ち込まれるモノの中で一番多いのは古着や雑貨。人気商品は食品だという。
「お歳暮やお中元の余りの缶詰や食用油を寄付してくれる人や、自宅の家の庭でできた果物を大量に分けてくれる人、近隣の農家の人が規格外の野菜を持ち込んでくれるというケースもあります。朝、持ち込まれて店頭に並べると、すぐになくなります」
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すぐに空っぽになってしまうという食品コーナー。筆者の訪問時、野菜や果物はすでになかった(写真撮影/倉畑桐子)
活動に賛同した企業が化粧品の在庫などを提供してくれることもあり、店内には新品の商品も見られる。「新品の商品は募金につながるのでありがたいですね」と古田さん。他に家電やウエディングドレスなども並び、まさに「なんでもある」という印象だが、珍しいモノでは、バイク販売会社が中古の原付バイクを提供してくれたケースもあったという。「原付バイクは欲しい人が多かったので、SNS経由で入札を実施し、購入権を得た方には入札価格を募金していただきました」
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化粧品や医療用ウィッグを企画販売する企業から、使用期限が2カ月後という美容液の提供も。フリープライスで寄付を募って配布(写真提供/レトロカルチャー)
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肌のハリをアップする美容液は大人気。期限が過ぎると廃棄物になってしまうところ、2200本が必要な人の元へ届いた(写真提供/レトロカルチャー)
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レトロな原付バイクは、入札して購入権を得た必要としている人の元へ(写真提供/レトロカルチャー)
土曜日は小学生が多く訪れるという。
「小さい頃に遊んでいたおもちゃやぬいぐるみ、本を持ち込んでくれて、これから遊びたいおもちゃや文具などを持って帰ります。小学3、4年生の女の子は、アクセサリーやバッグを楽しそうに選んでいきますね」とゆうこさん。
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子どもに人気のおもちゃコーナー。遊んで満足したら、また物々交換に持ち込んで循環(写真撮影/倉畑桐子)
古田さんは話す。「親御さんから聞いた話ですが、『おもちゃを捨てるよ』というと『絶対イヤ!』という子どもも、『おもちゃを物々交換に持っていって、誰かに使ってもらおうか』というと、自ら持っていくようになるのだと。このお店が、モノを大切に使って、まだ使えるモノを次の人に使ってもらうという循環を、自然と身に付けてくれるきっかけになったらうれしいです。現代の環境問題に対して、身近で楽しく行動を起こせることの一つとして、気軽に物々交換に参加してもらえたらと思っています」
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きょうだいで来店しておもちゃを選び、募金していく子どもたち(写真提供/レトロカルチャー)
いざ物々交換。自分が持ち込んだ不要品の価値とは……?
筆者も物々交換に参加してみた。来店した人は、まず、持ってきた不要品を店先にあるテーブルの上に並べる。大きな家具や5年以上前の家電、布団や枕、壊れているものや汚れているものなど、いくつか持ち込みNGのものがあるので、ホームページで確認を。
筆者は今回、子どもが使い終わった絵本やおもちゃと、使わなかったベビー用品など10点ほどを持ち込んだ。
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店先のテーブルで、筆者が持ち込んだ商品を検品してくれるゆうこさん(写真撮影/倉畑桐子)
持ち込まれた品物は、ゆうこさんが検品する。「使えないものを持って来られると、ここでゴミになってしまいますから」
どうしても使えないものは持ち帰ってもらうというが、多くは、検品後ブラシをかけるなどしてきれいにしてから、衣類やおもちゃなど、ジャンルごとのコーナーに並べられる。
人手が足りないため、一気に持ち込まれると検品が間に合わず、良くも悪くも、「こんなモノが持ち込まれたの!? 」と驚くようなモノが混ざることもあるそう。だからこそ、ブランド物などの掘り出し物が見つかる楽しさもあるという。
その後、持ち込んだ人は自由に店内を見て周り、持ち込んだものと「だいたいの価値が合う」と自己判断した必要なものを持ち帰ることができる。持ち帰ったものを転売したり人に配ったりするのは禁止事項だ。
持ち帰る商品やタイミングは自由なので、「中には、消しゴム1個を持ち込んだだけで、大量の商品を持ち帰るような大人もいますが……」と表情を曇らせるゆうこさん。それは明らかにマナー違反だが、「持ち込んだモノに相当する価値の必要なモノを持ち帰る」という自己判断は、なかなか難しい。持ち込むモノを選ぶ時にも悩んだのだけれど、物々交換にはモラルが問われる気がする……。
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アイテムごとに仕分けられたファッションのコーナー。物々交換であれば新しいコーディネートにも挑戦しやすい。ただ試着室はないので、「合わなかったらまた持ち込んで」とのこと(写真撮影/倉畑桐子)
物々交換が成り立つ社会を、いずれは地域の観光資源に
「だから、物々交換が成り立っているということは、すごいことなんです。ここ岡崎市で成立しているということは、地域の人達のモラルが高いということであり、これは自慢できるものと言ってもいいと思う。物々交換の活動が、ゆくゆくは岡崎市の観光資源の一つになればうれしいですね」と古田さん。
実際、他の地域の人からも興味を持たれることが多いといい、東京や静岡、岐阜などから車で乗り付けて、大量の不要品を持ち込むケースもあるそう。ある時は、岡崎市に来た海外からの観光客が、SNSで調べて「レトロカルチャー」に立ち寄り、物々交換をしていったこともあるという。
「お店の立ち上げ当初、本当の幸せってなんだろうと考えました。行き着いたのは、地域の人を助けて、感謝が循環するような地域社会をつくり、その中で暮らすことでした。今、お店の存在が地域の人から感謝され、僕たちへの差し入れをいただくこともあります。環境問題に対して行動しながら、感謝が循環する場を自分たちで提供できていることは、とても幸せです」と古田さんは語る。
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古着屋感覚で友達と一緒に来ると、ますます楽しい(写真提供/レトロカルチャー)
「実績を積み重ねたら、認可を受けて、いずれは就労継続支援B型事業所の就労対象者や、退職後のシニアが店頭に立てるようにしたいという目標もあります。また、自宅の不要品の整理が難しいシニアのために、高齢者支援団体や老人ホームと提携したいという計画も。レトロカルチャーの物々交換のモデルが、全国に広がっていってほしいと思います」と話してくれた。
元々リサイクルショップが好きで、日頃から寄付や購入をしている筆者にとって、物々交換はとても楽しかった。事前に持ち込むおもちゃをキレイに拭いたり、子どもの幼児期を思い出したりと、準備段階から充実していた。
モノとモノの価値の交換は、寄付とは違った緊張感やワクワク感があると思った。これからもモノを大切に使って、また物々交換に行ってみたいと思う。
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筆者が物々交換でゲットしたのは、シャツとキャラクターグッズ計4点。とても気に入っている(写真撮影/倉畑桐子)
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