映画『ザ・ウォッチャーズ』イシャナ・ナイト・シャマラン監督に聞く「心配事をひととき忘れて、恐怖と発見の旅に出かけて欲しい」
『オールド』『ノック 終末の訪問者』のM・ナイト・シャマランが製作し、彼の娘であるイシャナ・ナイト・シャマランが長編初監督を務めるホラー映画『ザ・ウォッチャーズ』が6月21日より公開となります。
本作は、地図にない森にあるガラス貼りの部屋で、毎晩やってくる“見えない何か”に監視され続けるという奇妙なストーリー。イシャナ・ナイト・シャマラン監督が語る、本作へのこだわりや影響を受けた作品やアートについてお話を伺いました!
――大ヒットホラー小説を元にした作品ということですが、原作を読んだきっかけを教えてください。
あるプロデューサーが持ってきてくれて、読みました。長編映画の世界に乗り出そうという開放感と興奮に包まれていた時に渡されて、完璧なタイミングでした。この本には、私がアーティストとして求めていたものがすべて詰まっていました。キャラクターもよく描かれていましたし、美しい映像も浮かびます。このお話を映画に出来ることはとても光栄なことだと思いました。
――初の長編映画製作で、アイデアを具現化するために苦戦したこと、楽しかったことを教えてください。
とてもたくさんのチャレンジがありました。映画作りは、全体的にとても困難で厳しい芸術だと思います。持久力と正確さが必要だし、特定の瞬間に身を委ねる能力も必要です。どのように粘り強く、どのように道を見失うことなく、あるものの見方で目指すものを目指し続けるかということが、私にとっては非常に大きな教えとなりました。映画作りはマラソンのようなものだと思います。短距離競争じゃないんです。
私は、撮影現場にいるときが、人生で一番幸せだと感じるんです。芸術を作ることが大好きで、自分と同じようにこの特殊な芸術(映画)を作ることが大好きな人たちと一緒の空間にいるという感覚は、最高にクールなものだと思います。私が映画学校に通っていたときにも感じたんですが、クリエイティブなマインドを持った人たちがたくさんいる空間は、本当に、本当に素晴らしいものです。
――初の長編作品ということで、プレッシャーはありましたか?
私は、偉大な映画作家たちが、初めての長編映画に着手する瞬間にどんなことを感じているのかをずっと見てきました。そして興味深いのは、芸術形式を始めようとするとき、誰もが同じレベルの恐れやインポスター症候群(自分の達成を内面的に肯定できず、自分は詐欺師であると感じる傾向であり、社会的に成功した人たちの中に多く見られる)を経験するということです。そういう恐怖を感じるのはごく普通のことだと知って、私はとても安らかな気持ちになりました。
――『鬼婆』(1964)という古い日本映画にインスピレーションを受けたそうですね。
この映画に最も強く色々な影響を与えた作品のひとつです。『鬼婆』にある大きな穴と、『ザ・ウォッチャーズ』の中に出てくる大きな穴の間には、視覚的なつながりがあるんです。『鬼婆』の中で、自然がとても恐ろしい言語になっているかということにインスピレーションを受けました。『鬼婆』の中で背の高い草の中を走る女性のショットがあるんですが、そこで鬼婆の存在を感じたり、聞いたりするんです。『ザ・ウォッチャーズ』の中で、自然の存在を究極の神のようなキャラクターとして使うことに、とてもインスピレーションを受けました。『鬼婆』でのキャラクターの描き方は、『ザ・ウォッチャーズ』とはかなり異なっていますが、とても美しくてダーク。ハイパーセクシュアル(極度に性的)なところも大好きです。本当に素晴らしい映画だと思います。
――昔からスリラー、ホラー映画のジャンルがお好きだったのでしょうか?
ホラー映画を観に行くのは、私の好きなことのひとつです。私は演劇的なホラージャンルの空間が大好きなんです。今、それはとてもポピュラーなものになっていると思います。人生経験の異なる様々なタイプの人々を結びつける“映画”という空間の中で、“ホラー”というのはとてもクールなセクションだと思います。なぜなら、物事を怖がるというのは、すごく人間の中心的な感情だからです。
本当にたくさんの映画監督が私にインスピレーションを与えてくれました。特にホラーという意味では、ヒッチコックの映画を見て育ったので、彼が恐怖を構成や人間関係の中に組み込んでいく手法に深く敬服しています。スリラー・ホラー空間の古典的な伝説の様な監督だと思っています。
――本作も、まさに様々なタイプの人々を結びつける“映画”となっていますよね。
私にとって、『ザ・ウォッチャーズ』の製作は、「映画館に行って映画を観る」という自分自身の楽しみそのものについてでした。サウンド面を、完全に没入体験できて広がりのあるものにすること。ビジュアルは目をそらすことができないようなものにするにはどうしたらいいのか?そして、キャラクターや音楽、それらすべての要素もです。映画館に足を踏み入れ、心配事をひととき忘れて、恐怖と発見の旅に出かけて欲しい。観客が現実逃避できるひとときになればいいなと思います。
――日本には、お父さまの作品が大好きな“シャマラー”がとても多いです。
とてもクールですね!素晴らしいことだと思います。私も父も、日本映画や日本の芸術全般に対して、とても強いつながりを感じているんです。父の作品にはとてもたくさんのお気に入りがありますが、特に『レディ・イン・ザ・ウォーター』(2006)と『ヴィレッジ』(2004)は私にとって、「一体あれをどうやって作ったの?」って思う作品です(笑)。
私は、『ヴィレッジ』からトーン的に非常に影響を受けています。 私の映画『ザ・ウォッチャーズ』は、『ヴィレッジ』のフィーリングにもかなりインスパイアされているんです。森の風景の中にいること。あの映画からはいつも視覚的なインスピレーションを感じていました。黄色や赤の使い方、空間の使い方とか。『ヴィレッジ』は、完璧に観客を惹きつけて離さず、思いがけない結末へと導いてくれる、構造的な傑作だと思います。私は、あの構造の緻密さにいつもとても敬服していました。
『レディ・イン・ザ・ウォーター』は、父が映画の不思議さや魔法に触れたような気がした作品です。父はあの空間で大人のおとぎ話のようなものを作ろうとしました。あの映画を観ると、自分の無邪気さと大人っぽさの両方に共感できるように感じます。
――幼少期からお父さまの現場を見学してきたそうですね。いつ頃から映画に興味を抱いていたのでしょうか。
幼い頃から、映画にはとても感動していたと思います。私は映画を観ると、いつもすごく感情移入をしてしまい、そうじゃないことがないほどです。若い頃から、私を泣かせたり、何かを感じさせたりする映画を見ることがほとんどでした。でも、自分が映画監督になるとは思っていませんでした。特に、当時は女性監督をあまり見かけなかったからだと思います。だから、大学を目指すようになった時まで、映画という芸術を追求することは考えられませんでした。自分がキャリアとして何をしたいのか、本当の決断を迫られたその時、私は映画と映画への愛に立ち返り、これこそが自分のやるべきことだと感じたんです。
――『オールド』(2021)、『ノック 終末の訪問者』(2023)ではセカンドユニットで監督を、「『サーヴァント ターナー家の子守』では脚本・監督を手掛けられましたが、この経験からどのようなことを学びましたか?
とても多くのことを学びました。特に『オールド』はフィルムで撮影した唯一の作品だったんです。それが私にとって大きな教訓のひとつでした。フィルムで撮影するときの映画作りへのアプローチ。フィルムには限りがあるから、初めてカメラを回す前に、膨大なレベルの準備が必要なんです。だから、その経験から、撮影には無限のリソースがあるわけではなく、カメラを回す前に膨大な準備が必要だということを学びました。それが、これらのプロジェクトでの経験から得た最も深い教訓のひとつだと思います。
――あなたが描かれた素敵なイラストをInstagramで拝見しました。絵を描くことは、監督に挑戦するなかでどのように役立ちましたか?
複数のアートフォーム(芸術形式)の分野を持つことが好きなんです。今は1つの分野に集中しているけれど、それは、行き詰まりを感じている時に自分を解き放ち、別の形でストーリーテリングを探求するのに役立つものだと思います。だから私にとって、絵やドローイングは、技術的にはあまり長けているとは思えないけれど、感情的に対処する上でとても役立っています。とても触感的で二次元的なことができるのは、私にとって大きな助けになるし、絵やドローイングを描いているときは、いつも安堵感と解放感を感じるんです。
――あなたは宮崎駿作品のファンだそうですね。
はい、そうです(笑)。『もののけ姫』(1997)は私が最も好きな映画のひとつです。私の人生を通して、宮崎監督の映画はすべて、私が感じる驚きと愛の最大の源のようなものだと思います。宮崎監督のストーリーテリングの形式に、とても強い絆を感じるんです。彼はすごい伝説の人だから、彼の作品にインスパイアされたなんて言うだけでちょっとおこがましいのですが、『ザ・ウォッチャーズ』では、ある意味、彼の映画を観たときに感じるような冒険心や、大人であることと無邪気であることのバランス、自然や周りの世界を探求する感覚を再現しようと思っているんです。私の生涯を通して、彼はアーティストとしての私に大きなインスピレーションを与えてくれます。
――本作以降もあなたがどんな作品を作られるのかとても楽しみにしています!
私は、ホラー・ファンタジーの空間が大好きなんですが、ジャンルを破ることに常に興味があります。特に今、メディア全般が氾濫している中で、ジャンルの融合は本当にクールな新しい誕生(出現)だと思います。だから、いつも違う要素を取り入れることに興味があるんです。もっとコメディ・ホラーや、ホラーの中のロマンスや、いろいろ違うものをやってみることに興味があるんです。時代物とか。そういったさまざまな要素を同じ世界に持ち込むことで、なにか本当に新鮮で新しいものを生み出すことができると思っています。
『ザ・ウォッチャーズ』6月21日(金)公開
<ストーリー>
地図にない森、ガラス貼りの部屋、見知らぬ3人ー
28歳の孤独なアーティスト ミナは、
贈り物を届けるだけのはずだったが、
そこに閉じ込められ“謎の何か”に毎晩監視されているー
“監視者”は何者なのか?そして何故…?
・公式サイト: thewatchers.jp
・公式X:
/ warnerjp
■監督:イシャナ・ナイト・シャマラン
■製作:M・ナイト・シャマラン、アシュウィン・ラジャン、ニミット・マンカド
■製作総指揮:ジョー・ホームウッド
■脚本:イシャナ・ナイト・シャマラン
■出演:ダコタ・ファニング、ジョージナ・キャンベル、オルウェン・フエレ、アリスター・ブラマー、オリバー・フィネガン
(C)2024 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED
- ガジェット通信編集部への情報提供はこちら
- 記事内の筆者見解は明示のない限りガジェット通信を代表するものではありません。