温泉付きリゾートマンションを98万円で購入してみた! 「別荘じまい」が狙い目、Airbnbで宿泊内見など物件選びのコツ満載 小説家・高殿円さん 伊豆
『トッカン』シリーズ(早川書房)などの代表作がある小説家の高殿円さん。最近、伊豆(静岡県)の築75年のリゾートマンションの1室を98万円で購入しました。この体験を、2024年4月に発行した同人誌『98万円で温泉の出る築75年の家を買った』に綴っています。
もともと3Kだった物件をリノベーションとDIYで1Rに仕上げ、部屋のお風呂で温泉を楽しんでいます。自宅は神戸にある高殿さんが2拠点生活を始めたきっかけや、リゾートマンションを購入した経緯、物件選びのポイントを伺いました。
自分の人生を支える拠点・温泉付きのセカンドハウス
小説家の高殿円さんはコロナ禍で大好きな海外旅行ができず、気持ちが塞ぎ込んでしまったことをきっかけに、自分の人生を支える拠点として温泉付きのセカンドハウスの購入を決めました。
「昔から大の温泉好き。それに、自宅は神戸(兵庫県)なんですけど、東京へ出張する度に小さなストレスが重なっていたんですよね。ホテルに泊まってもドライヤーの風量が気になるし、いつもの美容液やお気に入りのタオルケットとか、荷物が多くなって大変だなと思ったんです」
高殿円さん
伊豆のリゾートマンションから東京までは、特急列車「サフィール踊り子」を使えば約2時間。最寄駅からはタクシー圏内で、観光資源が豊かな土地だけに、買い物もネットスーパーを利用できるそう。
「静岡県の南側はすべて海。視界も抜けがあって気持ちがいいし、太陽の光でどこも暖かく、睡眠の質もよくなりました」
山の上に立つリゾートマンションは海からの照り返しで冬でもエアコンなしの半袖で過ごせるほどの温かさ。箱根の山から海へ向かって風が吹くため、潮風の影響を受けることもほとんどないのだそう。
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見知らぬ土地での物件取得 情報収集のポイントは?
「物件探しでは、セカンドハウスで自分が叶えたいポイントを整理することから始めました。私はお風呂好きで、1日の3分の1は漬かっていたいタイプです。だから温泉と、海が見える景観の2つを重視して探し始めました」
どの温泉地がいいか、まずは草津温泉や別府温泉、道後温泉、有馬温泉などあらゆる場所を旅しました。
「そのうち自分のなかで『瀬戸内海以外の海が見たい』『神戸からアクセスしやすい場所がいい』と条件が出てきて、最終的に伊豆エリアでセカンドハウスを探すことに決めました」
おおよそのエリアを決めた後は、よりリアルな現地の状況を知るために、近隣のお店を訪ねます。
「情報収集で良かったのは美容院。ご高齢の方が経営する場所ではなく、若い人が働く活気のある美容院で話を聞きたかったので、まずはネット予約できる場所を探しました」
そこでヘアカラーとカットを注文。その間に「最近どうですか?」と話しかけて、地域の良いところやおすすめのお店をヒアリングしていきます。たまたま高殿さんが訪ねた美容院は、東京で修業して、コロナ禍をきっかけに地元で店を構えた美容師だったといいます。
DIYしたこだわりのドレッサースペース 日々のメイクも楽しいのだとか
高殿さんは美容院で情報収集するだけでなく、美容院に来るお客さんにも注目しました。
「白髪染めや子どものヘアカットは、セルフで仕上げるか、美容院へ通うかの二択ですよね。美容院って、実は家計の余裕と切実に結びついているんです。美容院の客層や施術内容を、地域の豊かさを測るポイントにしていました」
特に重視したのは、子どものヘアカット。高殿さんが訪れた美容院では、入れ代わり立ち代わり近所の子どもが一人でやってきて施術していたそう。
「子どもが一人で美容院へ通うのは、母親が忙しく働いている家庭で、周辺の治安が良いからこそできることだと考えました。子育て世代が活気づく地域は少子化が緩やかですし、移住者が増える余地があるとわかりました」
「お部屋で源泉を楽しみたい」温泉好きのマニアックな物件探し
情報収集を進める一方、温泉の条件についても整理していきました。実際に物件を見るだけではなくAirbnb(民泊)やマンスリーマンションを利用して、さまざまな温泉付きマンションや一軒家に宿泊。改めて、温泉付き物件を所有する難しさを感じたといいます。
温泉を一軒家などで利用する際は温泉権が必要です。温泉権は新規取得後10年ごとに更新料がかかります。建設当初は温泉権を所有していた物件でも、相続を機に手放してしまうケースや、温泉権を所有していないのに「温泉付き」を謳ってトラックなどで温泉を運び入れるケースもありました。
加えて、温泉は温度が低くても成分を含有していれば認められるため、ガスボイラーで沸かす管理費にコストがかかる場合もあったそう。
「温泉付きマンションの管理費は、高いと約10万円もかかることもあるんです。2拠点生活では維持費が重要。軽視することはできませんでした。また、リゾートマンションで空き部屋が多い物件は、管理費の負担が増えるケースもありますから、その辺りの事情も尋ねるようにしていました」
一方、さまざまな物件と出会うなかで、高殿さん好みの温泉付き物件の条件も見えてきます。
「大浴場付きリゾートマンションは冬は寒いなかを出歩かないといけないし、同じマンションの住民と会ったら挨拶もしなくちゃいけない。それよりは、1人でじっくりお部屋のお風呂に漬かって、好きに過ごしたいなと気付きました」
将来的に売ることも考えて物件購入
最初に提示していた条件以外にも、実際に住むとなると細かなところが気になってきます。例えば虫。高殿さんは虫が苦手なので、マンションの下の階や山の中にある一軒家を避けたそう。
「リゾートマンションの1階は虫が出やすいだけでなく、湿気が上がってきやすいので床が傷んでいる可能性もあるんです。でも、庭付きでペット可物件の場合は1階でも人気が出ます。人によって好みは分かれますが、私は上層階を選ぶようにしました」
加えて、将来的に売ったり貸したりすることも考えたといいます。
「住みたい地域のマーケットを見続けると、すぐに売れるマンションとなかなか売れないマンションの違いがわかってくるんです。流動性が高い物件は売りやすいから、まずはそういう物件を探しました」
最初にあげていた高殿さんの条件である海が見える景観は、マリンスポーツ好きなどから変わらない人気があります。加えて温泉が楽しめるとあれば魅力的な物件です。
「リゾートマンションの場合は、Airbnbとして貸し出しているケースも多いので、購入希望のマンションに滞在してみて、人気の理由を探るようにしていました」
宿泊するAirbnbは、ほかの部屋と同じ間取り。どれくらいのリノベーションができるか配管の位置などもチェックしたそうです。
高殿さんが購入したリゾートマンションは0円で売られている部屋もあります。相続したはいいけれど維持費がかかり手放す選択をした場合や、高齢になってから介護付きマンションへ移るために「別荘じまい」をするケースも多いのです。
「0円物件はお値打ち価格ですが、給湯器などの設備が古いと入れ替えに何十万円もかかったりします。また、築年数が古いと、建築素材にアスベストが含まれる可能性がある物件もあります。いざリノベーション工事を依頼したら『請けられません』なんてことも。どこまで内装が変えられるかは、リノベーションを経験した人と一緒に行かないとわからないかもしれません。同じマンション内にリノベ済みの部屋があれば、参考になると思います」
購入意思を固めた後は、マンションの管理組合の議事録も忘れずにチェック。
「まず、新しく入居した人と、元から住んでいた人が仲良く暮らすために建設的な対話ができているかを見ます。例えば『1階はペット可物件じゃなかったけど、空き部屋になるよりは需要が見込める選択をしよう』など、前向きな議論ができているか。壮絶な論争があったマンションには、ご近所トラブルが発生しないか、構えてしまいますよね。入居者同士の話し合いの様子は、長く物件を所有するつもりであればまずチェックしたいポイントです」
60度の源泉が出るリゾートマンションを購入し、現在は月のうち1週間ほどを伊豆で過ごしている高殿さん。高殿さんのSNSでは地魚を使ったおいしそうな料理が見られ、満喫している様子が伝わってきます。
「ひとりで過ごすのはもちろん、滞在中は友達が代わる代わる遊びに来ます。みんなで順番に温泉に入って、絶景を眺めて、伊豆の海鮮を楽しむんです。友達が友達を連れてくることもあります」
大人数で滞在となると光熱費も心配になりそうですが、なんとこの物件、温泉付きだからこそ節約ができているのだとか。
「まず、温泉は沸かす必要がないため、ガス代は月に約980円。その分、熱いお湯を運ぶための配管メンテナンスが必要ですが、私のようなお風呂好きはガス代を気にせずに使いまくれるのでお得な気分です。加えて、温泉代は月額利用料が決まっていて、水道代とは別請求。結果として水道代が抑えらえます」夢の温泉付きリゾートマンション、初期費用は98万円の購入費のほか、リノベーションとDIYに約200万円がかかったそう。物件取得後のDIYやインテリアについても、別記事で詳しく伺います。
●取材協力
高殿円さん
小説家。漫画の原作や脚本なども担う。2000年、『マグダミリア 三つの星』で第4回角川学園小説大賞奨励賞を受賞。2013年、『カミングアウト』で第1回エキナカ書店大賞を受賞。2024年4月には同人誌『98万円で温泉の出る築75年の家を買った』を刊行。X(旧Twitter)
<取材・編集小沢あや(ピース株式会社)/撮影:曽我美芽 / 構成:結井ゆき江 / >
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