藤岡みなみ|黒くそびえる敵。まずはホームセンターへ【思い立ったがDIY吉日】vol.90
文筆家・ラジオパーソナリティの藤岡みなみさんが、モノづくりに対してのあれこれをつづるコラム連載!題字ももちろん本人。かわいくも愉快な世界観に、思わず引き込まれちゃいます。今回は、DIYな窓掃除について!
藤岡みなみ
文筆家。暮らしの中の異文化をテーマにした『パンダのうんこはいい匂い』(左右社)が発売中。
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黒くそびえる敵。まずはホームセンターへ
▲汚れに立ち向かう勇者の姿です。
家の掃除は、時に戦いである。
新しく借りた家の窓はひどく汚れていた。
前の住人の退去時に全体的にクリーニングされてはいたが、私たちが借りるまですこし時間があいていたこともあり、特に窓の外側の汚れが気になった。
数ヵ月間、砂埃や雨にさらされたのだろう、外の景色も黒くぼやけて見える。
全部の窓がそうなので、これは専門の業者さんに依頼するしかないと考えていたが、ふと、DIY精神が湧いてきた。
新しく住む家の窓を自分の手でピカピカにする。そのことが、新居と私の最初のコミュニケーションであり、ささやかな儀式のようにも思えた。
「自分でやるぜ」の気持ちが湧き上がったら、まずホームセンターに向かえばいい。
窓掃除コーナーで腕を組む。
ほほう、こんなに種類があったとは。
ホームセンターは宇宙だから、各コーナーに深淵がある。
普段は通り過ぎていても、一度目が合うとミクロな世界に引き込まれてしまう。
窓用、網戸用、サッシ用。水拭き、から拭き、総仕上げ。
あの頑固な汚れに対応するにはどのアイテムが必要なのだろう。
ロールプレーイングゲームで、ボス戦の前に武器屋に行くときの気持ちを思い出した。
敵の弱点をとらえる武器、私のレベルに合った防具をそろえる。
戦略と没頭、そして休息へ……
▲ホームセンターで装備をそろえました。
いざ勝負。ベランダに出て、黒い窓と対峙する。
最初に手に取ったのは窓ワイパー。
窓掃除といえばワイパーというイメージがあり、憧れがあったのでお店でも最初にカゴに入れた。
しかし結論から言うと、初手の正解はワイパーではなかった。
ガラスにざらざらと汚れがこびりついているので全然うまくすべらない。
これどちらかというと仕上げのやつだ。
形から入ってしまった。
▲砂漠に立つ家なのかな?という汚れ。
水拭きの後、重曹水スプレーをかける。
水垢汚れにはクエン酸スプレーらしい。
掃除は化学だ。
炎系のモンスターには水の必殺技で対抗する必要がある。
またゲームを思い出している。
ようやくワイパーを使ってみると、何度も拭いた後なのにまだ黒い涙が滴り落ちた。
効きそうなスプレーや道具で黒ずみを狙い、何度か繰り返すことでやっときれいになってきた。
ラジオや音楽を聴きながら作業してもよかったが、久々の無心を楽しむことにする。
情報量の多い日々の中、無心になるにはコツがいる。
窓掃除はうってつけの方法だ。
こんなに没頭できるなんてある意味贅沢な時間かもしれない。
網戸掃除には秘策があった。
かためのブラシでやさしくこする作戦。
網目が細かいので、ブラシ型の掃除アイテムで埃を細かくかき出す必要があった。
最初のひとこすりで真っ黒な砂煙が立ちのぼり、思わずギャッと声が出た。
掃除せずに生活していたらどうなっていただろう。
網戸にして「あ、なんかいい風~」とか思っているうちに家の中に砂埃が入り放題だったかもしれない。
くそう、私は私の暮らしを守る!
黒い風を部屋に入れてたまるものか。
負けない、という気持ちで掃除を続ける。
ブラシの後は水拭きもした。
▲黒い涙を流す窓。泣きたいのはこちら。
かくして15枚の窓、5枚の網戸との戦いを終えた。
力尽きてサッシまでたどり着くことができなかった。
待ってろサッシ汚れ、次は必ず倒してやる……!
なんだか本当のボスはこちらのような気もする。
迷路のようなレールの上、きめ細かい対応が望まれる。
勝つのは私か黒ずみか。
部屋の中から窓の外をながめると、外の景色は見違えるようになった。
自分が苦労して磨いた窓越しの景色だから、という心理的な補正も大いにあるだろう。
だけど頑張った分だけちゃんときれいになった。
ホームセンターで装備を整えた、あの手この手が効いたのだ。
翌日、全身筋肉痛。戦いの後は休息が必要だ。
当初、業者さんに頼もうとしていた予算を私のごほうびに使っていいかしらん?と家族に交渉する予定である。
▲掃除後に見えた、いっそう美しい空。
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