いま”所沢LOVE”が爆発中! 若手クリエイターや地元の店を発掘・魅力を発見できる「歩きたくなるまちづくり」進行中 埼玉
テレワークが進み、都内中心部に暮らしていた若いファミリーが郊外に移り住み始めており、埼玉県の「所沢」にもその流れが訪れています。背景の一つとして、街の活性化も影響しているようです。近年、市内では再開発が進み、駅前に大型商業施設や、アミューズメント施設が次々オープン。そして、長年の住民たちは、街を愛する人たちを増やすために、シビックプライド(地域への誇りと親しみ)を醸成するイベントを行ってきました。その流れを加速させるのが「TOKOROZAWA STREET PLACE」。いったいどのような試みなのか、関係者のみなさんに話を聞きながら、実際に街を歩いてみました。
埼玉の玄関口・所沢に、シビックプライドを生み出す
埼玉県の南西部に位置する所沢市。市内には西武池袋線、西武新宿線、JR武蔵野線が走り、人口も約34万人と一大規模の街です。古くは鎌倉街道の宿場町で、商店や市場などが集う、商慣習の強い街並み。とはいえ、後継不足による地場商店の衰退や、人口減少も影響して、街の様子は様変わり。2000年以降は、複合再開発に踏み出し、駅前に高層マンションが続々と建設されます。さらに商業施設の開発が続き、この20年近くをかけて見違えるような変化を遂げました。変化に合わせて新しい住民も増えていったのです。
商店街の一角に残る、古き良き飲食店街「盃横丁」(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)
そこで市は、「新旧関わらず、多くの人が共感できる街づくりのビジョン」として「所沢駅周辺グランドデザイン」を策定。古くから地域で暮らす住民や商店街の店主をはじめ、市内で個性的な取り組みをする人々が意見交換を行いました。
昔ながらの一戸建てや低層住宅と、新たに建つタワーマンションのコントラストが印象的(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)
こうして理想的な街づくりの実現に向けた社会実験は、まず2022年度に「TOKOROZAWA STREET PLACE」としてスタート。「歩きたくなる、過ごしたくなる、住み続けたくなる」エリアを創り出すための実験が行われました。市内に点在する個性的なお店などを歩きながら、居心地の良い空間づくりや、歩きたくなる街なかづくりとはどんなものか、を考える試みです。実際に歩いてみることで、それまで知らなかった街の風景を知ることができるきっかけにもなりました。
「こんな所沢にしたい!」を形にして、街歩きしながら社会実験
2年目である2023年度は、晩秋にさしかかった2023年11月18日・19日に、所沢駅周辺エリアのパブリック空間を活用して開催されました。こちらを導くのは、所沢のまちづくりに想いをはせたRFA・公共R不動産・ハートビートプランの3社。市民と共に、グランドデザインをベースに、この日までプログラムをつくり上げてきました。
実験を牽引する公共R不動産の飯石 藍さん(写真左)RFA主宰の藤村 龍至さん(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)
東京藝術大学准教授であり建築設計事務所・RFAを主宰する建築家、藤村 龍至(ふじむら・りゅうじ)さんは、「私たちは、まず第一として住民がこの街の原石を発掘し、暮らしを楽しむことを大切にしています。さらに、眠ったパブリック空間を生かすことと、街中のプレイヤーを発掘するというのも大きな目的です。地域でこの街をよくしていきたいと思うプレイヤー同士が手を組み、連携していくことは、今後大きな意味があるのではと思っています」と話します。
当日はグランドデザインで設定した重点エリアの10箇所のうち、タワーマンション街の一角にある「元町コミュニティ広場」、昔ながらの街並みエリアにある「旧市役所前」、街の守神である「所澤神明社」を中心会場にして、マーケットやワークショップ等のプログラムを実施しました。
元町コミュニティ広場で開催されていた、マーケットの様子。若手のクラフト作家さん、農家さんが出店、にぎわいをつくり出していました(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)
フラワーアーティストや、野菜生産者、小さな書店や、クラフト作家など、所沢周辺エリアで活動する魅力的なお店やマーケットが各所に構えていました。
飯能を拠点にしたクラフト作家さんの作品(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)
また、重点エリアでは、サウンドインスタレーションによる空間演出を実施。道ばたやパブリックスペースには、歩いたら休むことができるストリートファニチャーも設置し、歩き・休み・憩いを順繰り味わうことができる仕掛けが出来上がっていました。
所澤神明社には印象的なモニュメントも。歩き回る人たちの目印になっていた(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)
コーヒーやおやつを片手に、家族や友人と語らう人もいれば、時にはその場でワークショップを行う人も。ローカルの作家やアーティストの方と商品を片手に会話や笑顔がそこかしこに飛び交う姿は、日ごろの街中からはみてとれないほどの熱気でした。
地元、狭山茶の生産者さんと会話を交わすお客さん。生産者さんにとっても、こうした試みへの出店は新たな取り組みだったようです(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)
公共R不動産の飯石 藍(いいし・あい)さんは「新しく住みはじめた方は、街のことを知る機会がなかなかないんです。地元で生産されたり、地元の作家さんのものを知ることができたら買いたいという思いがある。こういった熱意をローカルで循環できるような、きっかけをつくりたいと思いながら実験を積み重ねていますね」とこれまでの思いを話してくれました。
訪れる人たちが、自分のお気に入りスポットを付箋でマーキング。知らない店、知っている店、気になるスポットがマップ上に点在しています(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)
マーケットに訪れた住民に聞いてみると「今日、マーケットをやっていると知って街中を歩いてみたのですが、初めて知ったお店もあって楽しかった。また買ってみようかなと思いました。こうして地元のつくり手を知ることができるのは嬉しいです」と新鮮な気持ちを抱いていたよう。
故郷が西埼玉エリアで、旧来の街並みを知る筆者にとっても、じっくり歩き回ってみると、これまで知っていた所沢とはまた違う姿を目にすることができ、新しい風が吹いているな、と心くすぐられました。
新旧の地元プレーヤーが集う
試みはそれだけにとどまりません。同日開催された7つの実験との連携も、今回の注目ポイント「TOKOROZAWA DESIGN WALK」です。「思わず”歩きたくなる”ストリートに!」を合言葉に、参加者が所沢市内をぐるっと一周できる仕掛けを用意。所沢駅周辺に限らず、市内主要駅各地周辺で、地域プレイヤーの主催による実験も同時に開催されました。
市内7箇所で実験が同時開催(画像引用元/所沢市ホームページ)
「そもそもこの実験の発起は、街のプレーヤーたちです」
藤村さんはそう話します。
2015年より航空公園エリアで開催している、地元若手クリエイターや作家たちが集う「暮らすトコロマーケット」。主催する岡田一(おかだ・はじめ)さんは「いつか、長野・松本のクラフトフェアのように、来場者がマーケットのみならず、街中をゆっくり歩きつくす、あの感じを再現したい」と、当初から「TOKOROZAWA DESIGN WALK(以下「TDW」)」のイメージを描いていたそうです。地元のプレーヤーが集まる席で胸の内を話すと、各々が”いいね”と共感しあい立ち上がったのが、今回実施した同時開催の実験なのです。
市内をはじめ、近郊エリアのクラフト作家 やアーティストなど、104件の出店(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)
出店者の選定は岡田さんを中心に実施。今年は新たに18件の新規出店者が発掘された (写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)
これまで9回にわたってマーケットを開催してきた岡田さんは、
「暮らしや生き方、街のデザインとひとのつながりをモザイク模様のように紡ぎあげたいと思ってこれまで開催してきましたが、ここ数年で作家も、来場者もずいぶん若い方が発掘されているように思います。さらに、今回、試みを同時開催したことで、ぐるりと周回してきた人も感じられました。街を歩くことで何かを考え感じているようにも思います。暮らし方を問い直している方が増えているのではないでしょうか」と思いを話してくれました。
「暮らすトコロマーケット」主催者の岡田 一さん(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)
同時開催にあたっては、岡田さんが話すように、若手のプレーヤーの活躍が目立ちました。これまで市内ではあまり注目されなかったエリアでも、新たな活動家やクリエイターによる試みが開催されてきているのです。
所沢駅周辺西新井エリアには、「理想的な公共トイレ」を具現化した、インフラスタンドを囲む「KAWAYA市」や、西所沢エリアでは地域のクリエイターが中心となって開催したアートや音楽のイベント「西とこ文化祭」が開催されました。
「西とこ文化祭」実行委員のまえはら あさよさん(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)
およそ公共トイレには見えない美しいフォルムのインフラスタンド(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)
「トイレの概念を覆していきたい」と、理想の公共トイレの姿を追求する、有限会社石和設備工業の小澤 大悟(おざわ・だいご)さん(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)
若手の活躍の場が広がったことは、「地元・西所沢の不動産会社である吉祥建設の岡川拓之社長との出会いが大きい」と、西所沢で古書店「サタデーブックス」&「西埼玉暮らしの編集社」を運営する大竹 悠介(おおたけ・ゆうすけ)さんは話します。
古書店サタデーブックス&西埼玉暮らしの編集社の大竹 悠介さん。小さなスペースにぎゅうぎゅうになるほど人が訪れていました(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)
「岡川さんは、お金も実績もないけれど、熱意とビジョンのある若者の声に、耳を傾けてくださいます。この場所も、吉祥建設さんの所有する物件を貸していただいています。先輩方が耕した土壌があってこの街で活動ができていますし、私もまた次の世代が活躍できる文化的な土壌を作っていきたいですね」(大竹さん)
サタデーブックスなどが入る「きちじょう荘」。蔦のからまる雰囲気たっぷりな木造建築。吉祥建設さんからの紹介で入居した(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)
個人も企業も。力を合わせて街をつくり上げる
そして特筆すべきことは、地元企業である西武鉄道やKADOKAWAの2社が参加をしたことです。現在彼らは街のプレーヤーと目線もあゆみもともにそろえて活動をしています。それまでは、「何かをしたい」と思っていても、きっかけがつくれなかったようです。
2020年に東所沢エリアに移転したKADOKAWA。本社の横には、アミューズメント施設「角川武蔵野ミュージアム」が併設され、一体の街「ところざわさくらタウン」としてにぎわいを見せています。これまでは倉庫街、住宅街としての印象が強かった東所沢エリアに、多くの人が訪れるようになりました。しかし、地元の住民とのつながりを持つ機会がなかなか見出せず、いつか地域と手を組んで街を盛り上げたいと思っていたようです。そんな中で出会ったのが地元のオーガナイザーである角田テルノさん。彼をきっかけに、同社はTDWに参加することになります。
特徴的なフォルムをした「角川武蔵野ミュージアム」(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)
この2日間、ところざわさくらタウンでは、KADOKAWA主催で、「武蔵野回廊文化祭」を実施。そのうちの一つのコンテンツ「奇天烈縁日」は角田さんがプロデューサーとして関わるというコラボレーションが生まれました。また、現地ではコスプレイベントも開催。アニメの聖地ここにありを印象付ける催しとなり、所沢に多くの若者が足を延ばしたのです。
この日はコスプレイヤーが集うイベントが開催され、タウン内の各所でお気に入りのコスチュームを身につけ撮影を楽しむ姿が見られた(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)
これら7箇所の回遊を生み出すために力を貸したのが西武鉄道。各地を歩き回る仕掛けの一つとして、西武線アプリスタンプラリーを実施しました。西武鉄道株式会社 事業創造部 沿線価値深耕担当の今成瞬(いまなり・しゅん)さんは、これまでまちなかで特徴的なイベントが実施されていることは知っていたけれど、今回の市の取り組みを通じてプレイヤーとの連携にもつながったことに意義を感じているそうです。
東所沢公園内にある武蔵野樹林パークのライトアップ(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)
「駅を中心としてまちを活性化するため、行政やまちのプレイヤーの方々と連携し、一体感を持って駅やまちの特徴を表出していきたい。規模や組織は関係なく、互いにフラットな思いで街をよくしていきたいと行動しています」(今成さん)
社会実験はまだまだ続く
こうして街を挙げて壮大な仕掛けをつくり上げた社会実験。私たちが地域のプレーヤーの話に耳を傾け、市内を歩き尽くした時には、とっぷり日もくれていました。これほどに所沢の街を歩き尽くしたことは未だかつてないというほど。30代前後の若いプレーヤーたちが新たに街を動かし始めていることに驚きを感じ、すっかりイメージは一新されたのでした。
若い世代がゆるくつながり合いながら街を盛り上げている姿っていいですね。新しい街のつくり方だと体感した1日でした。
●取材協力
・RFA
・公共R不動産
・西武鉄道
・暮らすトコロマーケット
・西とこ文化祭
・KAWAYA市
・武蔵野回廊祭
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