藤岡みなみ|ものが多くて困っています【思い立ったがDIY吉日】vol.89
文筆家・ラジオパーソナリティの藤岡みなみさんが、モノづくりに対してのあれこれをつづるコラム連載!題字ももちろん本人。かわいくも愉快な世界観に、思わず引き込まれちゃいます。今回は、DIYな思い出の残し方について!
藤岡みなみ
文筆家。暮らしの中の異文化をテーマにした『パンダのうんこはいい匂い』(左右社)が発売中。
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ものが多くて困っています
▲捨てられない服と向き合うDIY。
とにかく捨てられない。
自分にとって、管理するものは少なければ少ない方がいいことは身をもって実感しているというのに。
家の中の9割のものは、普段思い出すこともなく棚やクローゼットの中にしまわれている。
1年着ていない服は処分するとか、2つある道具はひとつにするとか、あらゆるセオリーを頭の中で唱えてみても、心が従わない。
全く使っていないしこれからも使う予定はないけれどそれでも捨てられないのは、思い出が宿りすぎているからだ。
例えばいつかの韓国旅行で買ったトップス。
柄も好きだし、触れると当時の楽しかった旅が甦ってくる。
洋服屋さんがずらっと並ぶ商店街で、偶然好みにぴったり合う店に巡り合い、夜の散歩のついでに買ったのだ。
それでも多分、もう着ない。
洗うとすぐシワシワになるから。
何を隠そうこの数年、私がアイロンがけをしたのはほんの数える程度。
時間がなくて、アイロンがけ必須の服をそもそも着なくなった。
洗濯乾燥機でガーッと回しても傷まない強靭な服のみを毎日着回している。
▲柄が好きだと処分しづらい。
それから、サイズが合わなくなった子どもの服。
もう着ないけれどどれも愛着がある。
洗ってもとれない泥汚れがついていたり、毛玉がもろもろだったり、襟ぐりがびよ〜んとなったりしているから、誰かにあげられるような状態でもない。
こんなにボロボロになっても捨てることができない。
写真を撮って処分するという方法もよく聞くけれど、一緒に過ごした布としての存在感、手触りがなくなってしまうのが惜しくて、写真ではもの足りないと思ってしまう。
ならば無理して捨てなくてもいいのではないか。
それもたしかにそう。
でも私は、もう私のキャパシティを結構正確に把握してしまった。
私は絶対アイロンをかけない。
ちょっと頑張ればできそうに思えるだろう。
しかしその考えは甘いのだ。
私のアイロンがけのしなさは、筋金入りだ。
アイロンをかけるかもしれないということよりも、アイロンをかけないだろうという方を信じる。
毎日バタバタして、全然やばくない時でもやばいやばい!と慌てながら、いつも油性ペンのありかを捜している。
必要な時に必要なものがなくて捜し回っている時間、ぎゅっとまとめたら人生で何年ぶんあるだろう。
そんな私だから、なるべくものを減らしたい。
生きていると、日々ものは増えていく。
意識的に減らしていかないと、いつかものに埋もれて動けなくなってしまう。
DIYで思い出を生まれ変わらせる
▲ボタン作り、心が静かになる。
今回試みたのは思い出の圧縮だ。
思い出を「思い出.zip」にしたい。
小さくなればずっとそばにいられるかもしれない。
そう思って、くるみボタン用のパーツと、キーホルダーのケースを用意した。
くるみボタンは布で作れるボタンで、好きな模様を切り取ってパーツにはめ込むだけで完成する。
使ったのははさみと木工用接着剤のみ。
ころんとしてかわいい仕上がりになった。
なんといっても布の手触りが残るのがいい。
布って過去が染み込んでいる気がする。
思い出をくるむくるみボタンの出来上がり。
小さな箱にしまっておいて、たまに取り出してながめるのもいいし、ボタンだから洋服やカバンにつけることもできて嬉しい。
細長いキーホルダーにはダックスフントの柄を、大きめのキーホルダーにはお気に入りの土星の柄を入れた。
▲思い出が特に濃い箇所を探す。
夏にプールで着ていた水着のプリント。
着なくても身につけられたり、持ち運ぶことができたりするのがキーホルダー化のいいところだ。
前世が服のキーホルダー。
これで、20分の1ほどのサイズになっただろうか。
もうタンスを圧迫することもない。
服から思い出成分が抽出され、ほぼ概念のようになった。
これからも思い出と一緒にいられるように。
今日も私の悩みをDIYが解決してくれたのだった。
▲どこにも売ってない思い出.zipたち。
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