“写真のワールドカップ”WPCウェディング部門のトップ10入りを果たした日本人フォトグラファーが語る「日本の写真界の課題」

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“異業種”からデビューを果たした“異色”のフォトグラファー

写真の世界大会「WPC(ワールドフォトグラフィックカップ)」のウェディング部門において、日本人フォトグラファーが、今年、栄えあるトップ10入りを果たしたのはご存知だろうか。WPCは、2013年にスタートしたプロ写真業界初の「写真における世界大会」で、今年は世界30各国が参戦。日本ではまだまだ知名度が低いものの、欧米ではポピュラーな大会であり、「ナチュラルポートレート」「ネイチャー」「スポーツ」など10部門において、それぞれに各国から100点ほどの作品がエントリーされる。公平な立場にある国際審査員が厳正に評価する、スポンサーの意向が届かない“冠なし”の“ガチ”な競技として知られている。

欧米列強がひしめく世界大会において、日本人がトップ10に入るのはまさに快挙といえるが、その偉業を果たした24toWedding代表の池内基曜氏は、決してこれまで“カメラ一筋”の半生を送ってきたわけではない。今からわずか7年前、まったくの“異業種”からデビューを果たした“異色”のフォトグラファーだ。
「以前は、小規模のコンサルティングファームを経営していました。当時、取締役として入らせていただいていた企業から、立ちいかなくなったウェディングドレス事業をテナントも含めて譲受。立て直しを図るために、販売からレンタル事業に転換し、併せて“撮影サービス”を付加したタイミングでカメラマンに転向しました。単純に“こういうサービスがあれば、お客さんが喜んでくれるのでは?”という思いが起点になっていました。要するに、ビジネス的な発想ですね」(池内氏)

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ウェディングフォトグラファーであることを少しも希釈したくない

池内氏のウェディングフォトビジネスが大きくブレイクスルーするきっかけになったのは、それまでのウェディングフォトの概念を覆すことになった“ロケーション撮影”“夜撮影”へのシフトだ。
「お客様の方から『東京駅で撮影したい』といった、ちょっとしたニーズはありました。当時は、昼間に撮影するカメラマンがほとんどで、“かわいい”テイストの写真が流行っていましたが、私はどちらかというと“カッコイイ”写真が好みだったこともあり、夜の東京駅をバックに撮影することを思い立ち、お客様に提案。“東京駅での撮影でまずはシェアナンバーワン”になろう、うちのスタジオ=東京駅というジオグラフィック的な印象を与えようと考え、徹底的にやりました」(池内氏)

それが爆発的な支持を集めることになった。これまでの“型にはまった撮影”に、実は利用者自身も満足していなかったのだろう。
「撮影技術で勝負しようというフォトグラファーも多いかと思いますが、私たちは技術ではなく、勝てるところで勝っていこうと考えていますし、これは私たちの会社の本質でもあります。私たちが勝てるところと言えば、まずはお客さんの気持ちにきちんと応えることです。弊社の経営理念はあくまで『カスタマーファースト』です」(池内氏)

池内氏は、ウェディングフォトグラファーはあくまで“サービス業”であり、お客様あってこその私たちの業種だと力説する。
「技術を提供してお客様から対価を得るというのは揺るがない事実なので、徹底的にお客様を大事にしよう、お客様にご満足いただこうと、一生に一度のブライダルにかける情熱は負けないようにしようと思いました」(池内氏)

多様な趣味趣向を持つ利用者を、撮影する写真によって満足させるのは、それほど簡単なことではあるまい。しかし、池内氏は“満足される写真の本質”について揺るがぬ真理を口にする。
「お客様にとって、“いかに記憶に残る一日にするか”を意識しています。当たり前のことですが、“良い写真を撮ればお客さんが満足する”というプロダクトアウトな発想を持つカメラマンも多いなか、その当たり前がないがしろにされがちです。私たちはあらゆるサービスがプロダクトアウト的な発想で展開されていた頃から、マーケットインの発想で仕事に取り組んできました。満足する写真の基準はお客様の中にあります」(池内氏)

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徹底的な顧客第一主義の姿勢の根底には、池内氏のウェディングフォトグラファーとしてのこだわりと仕事愛がある。
「私はウェディング以外の写真は絶対に撮りません。例え著名人からオファーがあっても、ウェディングでなければお断りしています。私はウェディングが大好きなので、“ウェディングフォトグラファーである”ことを少しも希釈したくありません。一生に一度のウェディングの機会に、私の存在があるというのは、純粋に承認欲求を満足させてくれるものです。結婚式の写真を撮っていて感動することもあるので、純粋に“結婚式っていいな”とも思っています」(池内氏)

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ウェディングフォトグラファーという仕事に誇りを持ちながら、その一方で業界内の立ち位置について思うところはある。一般的な見方として、ウェディングフォトグラファーは、広告をトップに据えた写真界のヒエラルキーのなかでまだまだ“低く見られがち”だという。
「広告カメラマンは、ある意味エキセントリックで、ビジネス的にも成功していると言われがちですが、私はそう思いません。私がこの事業を立ち上げたときも、スタートしてから2年で2億円近く売り上げたので、広告カメラマンと比べても圧倒的なスピード感で圧倒的なビジネスを構築したとの自負があります。既成概念の中での“格”というヒエラルキーでは一番下にいるかもしれませんが、経済的な観点からいえば一番上にいます。そして、撮影した人からの感謝の言葉をたくさんいただき、幸せな人を作った数で言えば、私は圧倒的と言えますね」(池内氏)

“写真の権威”にはなりたくない

そんな池内氏が初めてWPCの日本代表に選出されたのは2023年のこと。それまでも何度かチャレンジはしていたが、“補欠どまり”という状況が続いた。「ビジネスを進めるうえで、何かのタイトルを保持した方が良いと考えていた時期がありました。国内でもコンテストはたくさん開催されていますが、国内の賞を取ってもパンチが効かないので、どうせだったら早々に世界を目指した方が良いだろうと挑戦しましたが、ハードルは高かったですね」(池内氏)

“このままでは高みには行けない”と思い、初めてセミナーや講習などに出席し、はじめて理論を学んだ。これまで独学で習得してきたものを固めていった感覚だったという。それが功を奏し、2023年にはじめて日本代表となったが、残念ながらファイナリストには選ばれなかった。
「悔しくて、もっと頑張って、もっと良い作品を撮らなくちゃと、真剣に世界を狙ってみようと考え、撮った作品が今回、トップ10に選出されました。自分の名前が呼ばれたときは本当に驚きました。目標にしていたタイトルでもあったので、とても嬉しかったですね。お金を支払っても取れないタイトルなので、スタッフもお客様も喜んでくれました」(池内氏)

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今年の4月にアメリカのダラスでファイナリストが集まり、そこで金・銀・銅メダル受賞者が発表される。もちろん、受賞に対する欲もあるというが、それ以上に“自分が活躍することで刺激になれば”という思いが強い。それは世界を知ったことで日本の写真のレベルの低さに気が付いてしまったことに起因する。刺激を与えたい相手は、日本の若手フォトグラファーたちだ。
「日本の写真レベルは、アメリカや中国、オーストラリアはもちろん、マレーシアなど新興国に比べても低い。海外には、まだ10代なのにレベルの高いフォトグラファーがゴロゴロいます。良い意味でも悪い意味でも、上を目指そうとしない、挑戦しないカメラマンでも食えてしまうからです。しかし海外では無理ですね。世界にはこの仕事で生きていくために写真と向き合い、WPCに臨んでくる人がたくさんいます」(池内氏)

だからこそ、日本においてもWPCがもっと注目を浴びればいいと思っていると池内氏は言う。それによって挑戦者がもっと増えて、自然と日本のフォトグラファーの力が上がっていく。池内氏が目指すのは、自らの活躍を後進に示し、背中を押すこと、自らの在り方としてはそれで十分だと言う。その言葉の根底には、写真の権威になりたくない、あくまで“サービス業である”という思いがある。
「コンペ優勝者は往々にして、“巨匠”扱いされがちです。既存のお客様は喜んでくれますが、新規のお客様には“敷居の高さ”を感じさせてしまいます。私はそれも打ち破っていきたいですね。賞をとっても勘違いしてはいけません。サービス業なので、どこからお金をもらっているのかを意識することも重要ですね。お客様の琴線に触れれば、しっかりと評価をしてもらえると思っています」(池内氏)

業界の中で作り上げられてきた権威や慣習が、いつのまにかユーザーのニーズと大きく乖離していく。誰も望んでいないものを“これが正しい”と押し付けられてきた時代はとっくに終わりを告げている。新しい“価値”を作っていくのは、池内氏のように既成概念にとらわれず、あくまで市場に寄り添い貢献意識が高い人、すなわちそれが今時の“真のプロフェッショナル”なのだろう。
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