<ライブレポート>スピッツの音楽は色褪せない――新旧ナンバーで彩る武道館

<ライブレポート>スピッツの音楽は色褪せない――新旧ナンバーで彩る武道館

 スピッツが1月11日・12日に、全国ツアー【SPITZ JAMBOREE TOUR ’23-’24 “HIMITSU STUDIO”】の東京公演を日本武道館で開催した。本レポートでは2日目の模様をお伝えする。

 2022年に結成35周年を迎え、今なお音楽シーンの最前線で活動を続けるスピッツ。昨年5月リリースの17thアルバム『ひみつスタジオ』を携えた今回のツアーで彼らは、現在進行形のスピッツを鮮やかに、そして、強烈に体現してみせた。

 19時ちょうどに会場が暗転し、まず三輪テツヤ(Gt)が登場。客席から大きな拍手と歓声が沸き上がるが、他のメンバーがなかなか出てこない。「何かあったの?!」という声がかかり、手拍子が起こるなか、数分後ようやくサポートのクジヒロコ(Key)、?山龍男(Dr)、田村明浩(Ba)、草野マサムネ(Vo / Gt)が姿を見せる(その後のMCで、イヤモニの取り違いがあり、セッティングに時間がかかっていたことが明かされた)。?山がカウントを出し、1曲目の「めぐりめぐって」へ。心地よい疾走感に溢れたギターロックが鳴り響き、武道館全体の熱気を一気に引き上げてみせた。

 セットリストの軸はもちろん、最新アルバム『ひみつスタジオ』の楽曲。切なさと軽やかさが共存するポップチューン「ときめきpart1」では、工場をモチーフにした舞台(巨大なペンチに挟まれたイチゴ、大きなスケボーのオブジェ、アルバムのジャケットになったロボット)に組み込まれた大小のスクリーンにメンバーの姿が映し出される。

 田村のベースソロからはじまった「けもの道」(アルバム『三日月ロック』)を挟み、〈跳べ 跳べ 跳べ 跳べ〉とオーディエンスを鼓舞するようなフレーズが印象的な超アッパーチューン「跳べ」によって観客の高揚感はさらにアップ。田村、三輪はステージの端まで移動し、オーディエンスと積極的にコミュニケーションを取りながら、ナチュラルな一体感を生み出した。そして「紫の夜を越えて」。三輪のアルペジオから始まり、紫色のライトとともにタフでエモーショナルなバンドサウンドが響き渡ったこの曲によって、ライブは早くも最初のピークを迎えた。

 「寒い中、しかも平日の忙しい中、スピッツのために時間を割いていただいて本当にありがとうございます」「最初ちょっともたつきましたが、今日は楽しい夜にしますので。よろしくお願いします」(草野)という心のこもった挨拶からはじまったMCの後は、「大好物」。劇場版『きのう何食べた?』の主題歌として制作されたこの曲は、〈君の大好きな物なら 僕も多分明日には好き〉というフレーズが印象的なミディアムチューン。今回のツアーでスピッツの新たな代表曲になったと言っていいだろう。さらに「チェリー」へ。何度も聴いたことがある名曲が、まるで初めて披露されたかのように新鮮に響く。

 オルタナティブ・ハードロックと呼ぶべき「青春生き残りゲーム」、「久しぶりの武道館の前に、矢沢永吉さんの武道館公演をWOWOWで観た」というMCの後は、様々な時期の楽曲が演奏された。まずは『ひみつスタジオ』から、飛び跳ねるようなリズムが楽しい「手鞠」、傷ついた心と身体を直しながら、“君”と一緒に進んでいきたいという願いを込めた「i-O(修理のうた)」。そこから「みなと」(2016年)、「楓」(1998年)が連なったのだが、なぜか懐かしさはあまり感じず、すべてが“今”の音楽として伝わってきた。それはまさに普遍性と斬新さが共存し続けるスピッツのすごさだと思う。

 「2023年は充実した年でした。アルバム『ひみつスタジオ』を出して……」(草野)という流れから、【ロックロックこんにちは!】でカバーした「きらり」(藤井 風)の一節を披露。さらに“半分スピッツ”(他のアーティストのメロディにスピッツの歌詞を当てはめる遊び)にハマっているという話から、「チェリー」の歌詞を「栄光の架橋」(ゆず)、「オトナブルー」(新しい学校のリーダーズ)のメロディで歌うという余興(?)も。リラックスした雰囲気のトークもまた、彼らのライブの楽しみだ。

 ライブアンセムの一つ「俺のすべて」では草野がタンバリンを鳴らし、ハンドマイクで歌唱。ステージ前に設置された花道に移動し、観客のすぐそばで歌うことでさらなる一体感を演出してみせた。「今日はオラつかなくていいの?」(田村)、「ちょっと飽きてきたけど……まだまだスピッツについてこれるのか?! そんなんじゃ足りねえよ(笑)」(草野)というやり取りに導かれた「美しい鰭」(劇場版『名探偵コナン 黒鉄の魚影(くろがねのサブマリン)』)からライブは後半へ。メンバー全員がボーカルを担当する「オバケのロックバンド」では、草野、?山、田村、三輪が歌を繋ぎ、そのたびに観客が大きな歓声を上げた。「甘ったれクリーチャー」「8823」とライブで鍛えられてきたナンバーを高らかに鳴らし、本編ラストは「涙がキラリ☆」。美しく、切ないメロディが武道館を包み込み、豊かな感動へと結びついた。

 鳴り続ける手拍子に導かれ、再びメンバーがステージに姿を見せ、まずは「僕の天使マリ」を演奏。ブルーグラス、カントリーをポップに昇華したサウンド、心地よいハーモニーによって観客の心と身体を揺らした。

 ここでメンバー全員が挨拶。「怒髪天の武道館ライブを観て『いいな』と思って。その後、フラワーカンパニーズ、THE COLLECTORS、The ピーズもやって、やっぱり特別な場所だなと。でも、実際やってみたら、ライブはライブだね。基本、どこでも楽しいんで。これは断定できるんだけど、みんなより俺のほうが楽しい(笑)。今日も特別な夜になりました。また会えることを期待して」(田村)、「学生のとき、ここでBOOWYを見たんですよ。あとはスティング。すごく音が良くてね。みなさんにも印象に残るライブになったらうれしいです」(?山)、「(ライブの冒頭、ひとりでステージにいる時間があったため)今までのライブの中で、俺のバックショットを見る時間がいちばん長かったんじゃないかな(笑)。今日はありがとうございました!」(三輪)

 最後に草野が「最初に『今日は楽しい夜にします』と言いましたが、みなさんに楽しい夜にしていただいたという感じです。一人が欠けてもできなかったと思うので、一人一人に申し上げたいです。みなさん、生まれてきてくれてありがとうございます」とコメント。「まだまだスピッツは続けていきますので、また思い出して、会いに来てほしいです」という言葉から、「醒めない」へ。バンドに対する、ロックに対する醒めることのない感情をストレートに表出し、ライブはエンディングを迎えた。

Text by 森朋之
Photos by 西槇太一

◎セットリスト
【SPITZ JAMBOREE TOUR ’23-’24 “HIMITSU STUDIO”】
※2024年1月12日(金)東京・日本武道館公演
1. めぐりめぐって
2. ときめきpart1
3. けもの道
4. 跳べ
5. 紫の夜を越えて
6. 大好物
7. チェリー
8. 青春生き残りゲーム
9. 手鞠
10. i-O(修理のうた)
11. みなと
12. 楓
13. サンシャイン
14. 未来未来
15. 夜を駆ける
16. 俺のすべて
17. 美しい鰭
18. オバケのロックバンド
19. 甘ったれクリーチャー
20. 8823
21. 涙がキラリ☆
<アンコール>
1. 僕の天使マリ
2. 醒めない

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