身分を隠して高級娼館に潜入した作家、その行方とは?『ラ・メゾン 小説家と娼婦』アニッサ監督インタビュー

身分を隠して高級娼館に潜入した作家エマ・ベッケルの2年間を描き、2019年、フランスで発表されると同時に賛否両論を巻き起こした一冊の小説『La Maison』。本作を完全映画化した『ラ・メゾン 小説家と娼婦』が12/29(金)より公開中です。

フランスからベルリンに移り住んだ27才の小説家エマ(アナ・ジラルド)は、作家としての好奇心と野心から、娼婦たちの裏側に惹かれてゆく。そして、大胆にも彼女たちの実情を理解するために、有名な高級娼館“ラ・メゾン”に娼婦として潜入する。危険と隣り合わせの女性たちの日常、そして孤独や恋愛の尽きない悩み…。そこでの日々は、エマにとって新たな発見に溢れていた。そして2週間のつもりが、いつしか2年もの月日が流れて解き放つ。

本作の監督を務めたアニッサ・ボンヌフォンさんにお話を伺いました!

――本作大変興味深く、楽しく拝見させていただきました。まず映像がとても美しく、主人公の心情によってカメラや画角を変えたりなどの工夫をされていますね。どの様に映画作りについて学ばれたのですか?

撮影方法については本能的に撮影現場で決めていくんですけど、そもそもの私のベースにシネフィルであるということがあるんですね。小さな頃から映画が好きで、映画がどういうものかっていうことを観ながら学んだんじゃないかなと思います。最初は私は女優になりたかったので、ニューヨークの演劇学校に通ったことがあります。でも、技術を学ぶためのスクールには通ってないんですよ。ただ、写真を撮っていて、写真というと、やっぱ構図というものがとても大切になりますよね。だから、そういう目は育てられたのかなと思います。

映画というものあ、とても正直な媒体だと私は信じていて、「このカメラワークが何を語りたいか」ということがストーリーと結びついていれば、すごく説得力のある映像になるし、「自分はこういうテクニックが出来るんだ」というエゴを出してしまうと観客にとってバレてしまうと考えています。

――確かにおっしゃる通り、今はスマートフォンで綺麗な写真が誰にでも撮りますけれど、構図であったり、撮る側と撮られる側の関係によっても全然違う写真に仕上がりますものね。

全く、そうですよね。映画というのはストーリー、演技、映像、音楽など様々な要素で完成する総合芸術ですが、うっとりするような美しいものを見せることで日常生活から離れてほしいという思いもあります。

――衣装もとても素敵で、“ラ・メゾン”で働く彼女たちのランジェリーも美しかったです。

コスチュームの衣装って大事なんですよね。衣装があるからこそ、我々観客は、「この人はこういう人なんだ」と少しずつ人となりを発見することが出来る。1人1人にビジュアル的なアイデンティティをつけていくのが衣装の役割だと言えるじゃないでしょうか。今回私が特に気を付けたのは、クライアント(男性)と一緒にいる時は、優雅なランジェリー姿なんですけども、女性同士で集まるとすごくざっくりした服装をしている。男性のクライアントと一緒の時は別の人物を演じるっていう、そうやって彼女たちが自分を使い分けているんですよね。

――“ラ・メゾン”皆さんの関係ってお互いの本名とか知らなくて、生い立ちとか知らなかったとしても、ある意味親友の様な親密な空気を持っていますよね。あの様な心地良いセリフというのはどの様に生まれているのでしょうか。

シナリオを書くときに、1人1人の人物っていうものをよく理解しようとするんですね。その1人1人が集団でまた集まった時に、どう反応しあうかということ。それは家族でもそうですよね。私にとっては、“ラ・メゾン”は女性だけのちょっとした家族だと思うんですね。それぞれがどういう理由で、そこにいるかということ。彼女たちはおたあいの素性を知らないわけですけども、色々な関係性が、そのちっちゃな家族の中で
関係性がどう出来上がっていくのか、そういうことを考えながらセリフを考えることが大好きなんです。

――小説が発表された時に、フェミニストの方を中心に批判があったそうですね。私は作品に賛否両論があることは全然良いと思ってるんですけど、あ、フェミニストの人が怒るんだって、結構意外だったんですよね。本作は決して女性を卑下している作品ではなくて、むしろ女性の意思を支持するものだと感じました。

私も同じように意外に思いました。フランスにも過激なフェミニストの人たちはいて、この小説に出てくる様な自分のセクシャリティーというものに責任を持って、肯定的にとらえているということが「あり得ない」となるわけです。全ての売春婦というのは、自分で選択していると思ってるつもりだろうけども、 実はそれを選ばされているんだっていうのが、(過激なフェミニストの)彼女たちのロジックなんですよね。私はそれはちょっと、馬鹿げているなっていう風に思うんです。例えば脱毛する女性に対して、「それも男性目線を意識している」と批判するんですよね。治療のために脱毛する女性なんていっぱいいるじゃないですか。かなり偏狭な見方だなと思いますし、女性同士で、自分とは違う女性がいるっていうことを認められなかったら、誰が女性を認めることができるでしょうかって私は思うんですよね。

――私もそう思います。本作の好きなところが、娼婦という仕事の怖さや危険性をちゃんと描いているところです。今、日本でも若い女性の間で「減るものではないし」と売春に手を出すというケースがありますが、魂など確実に何かはすり減っていってしまう。そんな事を描いてくださっていることが素晴らしいなと思います。

エマが危険な目に遭うところを見せるということは、私にとってはとても大事だったんですね。もちろん彼女たちがあの職業を自覚的に選んでるにしても、危険なことは確実にあるのだと。普通の選択ではないんですよね。仕事の後、自分たちの本当に愛している人たちの元に帰っていくときに、自分の本来のセクシャリティーというものに混乱をきたしてしまう。私はセックスシーンを、セックスを⾒せるとか、飾りのように描いたのではありません。娼婦という仕事について⾒たくない、知りたくないという、そういうふうな視点をちょっと変えてほしいなと思って、この作品に挑みました。たくさんの方に観ていただいて、色々なことを感じていただけたら嬉しいです。

――今日は素敵なお話をありがとうございました!

『ラ・メゾン 小説家と娼婦』
監督:アニッサ・ボンヌフォン
原作:「La Maison」エマ・ベッケル著 出演:アナ・ジラルド、オーレ・アッティカ、ロッシ・デ・パルマ、ヤニ
ック・レニエ、フィリップ・リボット、ジーナ・ヒメネス、ニキータ・ベルッチ 2022 年/フランス、ベルギー/フランス語、英語、ドイツ語/89
分/カラー/1:2.35/5.1ch/原題:La Maison/字幕翻訳:安本熙生 /R-18
後援:在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本 配給:シンカ
© RADAR FILMS – REZO PRODUCTIONS – UMEDIA – CARL HIRSCHMANN – STELLA MARIS PICTURES
本作は“French Cinema Season in Japan”の一環として、ユニフランスの支援を受けて公開されます。

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藤本エリ

映画・アニメ・美容が好きなライターです。

ウェブサイト: https://twitter.com/ZOKU_F

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