【レポート】中国デリバリー大手「美団」の第3世代“配送ドローン”を試してみた

2010年創業の美団グループは中国のデリバリー大手で、デリバリーのほか、シェアサイクルやレストランの予約・レビューなど、多様なビジネスを展開している。2022年の総売上は326億ドル(約4.6兆円)。ソフトバンクグループ等に匹敵する大企業で、2018年には香港取引所に上場している。

美団グループは、豊富な資金をベンチャー投資や新技術の実験に投資していることでも知られる。日本でも有名な猫型のレストラン内配送ロボットPuduへ最大の投資を行ったのも美団だ。

その美団が、昨今大規模なドローン配送実験を行っている。ドローンや配送ステーションなどシステム全体を自社開発し、実際に一般の人々からお金を取って運用している本格的なものだ。

現時点での運用の様子を見ていると、人間の配達員に比べてコストが安くなり利益が上がるのはまだまだ先と思われるが、ほぼ1年ごとにシステム全体をアップデートさせる開発速度は凄まじい。

雨天でも飛行可能なドローンによる配送サービス

2023年9月、深センにて、第3世代のシステムによる配送サービスが始まった。深セン市内の公園「深セン市人材公園」にドローン配送用の宅配ボックスが設置され、横に説明/広告用のパネルが立っている。パネルのQRを読み込むとメニュー注文画面が開き、ミルクティーやサンドウィッチなどのメニューを注文すると、ドローンが配送してくれるという流れだ。 飾り立てられた配送センターを見ると、これが実証実験だけでなく、宣伝や社会へのアピールを含めたプロジェクトであることが伝わってくる。

雨風のなかでも無事に配送

筆者がトライした日は雨模様だったが、無事ドローン配送で飲み物が運ばれてきた。

また、当日はオープン直後だったこともあってか、多くの人々がドローンでの配送をテストし、写真を撮る、SNSでシェアするなどを行っていた。

なお美団はこれまでに累計200件以上の発送、28000時間以上の飛行実績があることを発表している。使用されているドローンは、ペイロード3kgと大型のものであり、美団が自社開発。安全性を重視して、多重化された2系統の飛行システムを積み、バッテリーなども2つ積載。さらにパラシュートまで備える念の入れようだ。

美団の発表では「全天候型」とあり、実際にかなり風雨が強いときに注文しても無事に運んできた。

配送料は100円程度、400~800円程度の注文をこなす商用化実験

美団は、日本でのウーバーイーツのようなデリバリーサービスを運営している。配送員の手数料は通常、100円(5元)程度だ。今回のドローン配送も同じ水準で行っている。一般の注文と同じく美団のスマホアプリで注文が行われ、通常アプリ上で配達員が配送する様子を確認できるところで、ドローン配送のサービスではドローンが飛んでくる。

発送されてくるのはスターバックスやサブウェイ、タピオカミルクティーなどの一般的な飲食物だ。飲食店が食事を作り、それを配達員が受け取って「配送中」となる一連の流れの中で、配送員の役割がドローンに置き換わっているというイメージである。

なお現在のオペレーションではかなりの手作業が発生しており、人間の配達員よりもコストが安くなるのはだいぶ先になりそうだが、人間の配達員と同じ水準の価格にしているのは、技術のデモンストレーションに終わらない、実用化に向けた実証実験ということだろう。

発着所への配送やバッテリー交換など、まだまだ手作業も…

同サービスのスマホアプリ上では、複数の店から買い物ができるように見えるが、実際には配達員がドローンの“発着所”まで運ぶ必要がある。つまり飲食店のオペレーションは従来と変わらず、店頭で美団の配達員に飲食物を渡す必要がある。そのあと配達員がドローンの発着所まで運び、ドローン配送用のボックスに入れ、重さを測ってからドローンにセットして、スマホアプリから離陸動作をおこなう。

また、配達を終えて戻ってきたドローンが着陸したあと、2つのバッテリを回収して交換するのも配達員の仕事だ。

ドローンの飛行は離陸から着陸、発送基地に戻ってきてくるところまで全自動化されているようだが、配達員の役目はまだまだ多く、現在この配達員は美団のエンジニアが行っているようだ。大規模に自動化されて採算が合うようになる正式サービスのリリースはだいぶ先ということだろう。

発着所自体が宣伝媒体に

ドローンの発着所は多くの人が訪れるショッピングモールのデッキにあり、地面に巨大なQRコードが設置され、ドローンが何台も飛んでいるので非常に目立つ。

発着所にはドローン配送実験の説明や、どこで注文できるか、スペックなどが書いてあり、頻繁に発着するドローンの姿と合わせて、絶好のアピールになっていた。

なお飲食店は発着所の近くが選ばれているので、省力化にはなっている。今後の拡張として、同じ発着所から複数のステーションに対応するのも容易だろう。このように大々的にアピールしながら実験が行えることは、ドローン配送の技術がかなり安定・成熟して、多くの人目に触れさせる段階に来たことを示している。

頻繁なアップデート、1年前と比べてステーションもドローンも進化

この1年前、2022年9月にも筆者は美団のドローン配送サービスを体験した。体験全体は同様だが、ステーションもドローンも、今回はまったく異なる新世代のものにアップグレードされていた。当時は第2世代、今回体験したものは第3世代と思われる。

2022年当時はステーションに貯められる箱は2つ。箱のそばには片付けるための配送員がついていた。さらにドローンも、トラブル時に介入できるように操縦士が待機し、配送開始時にはトランシーバーでやりとりしてから飛行開始していた。

実際のサービスとつなげた実証実験であり、“お金を取っている”から商用化といえるが、実験が前面に出ているプロジェクトで、期間中の稼働もそれほど長くなかった。


また第2世代では配送センターもほぼ手作業で、5~6人のエンジニアが常に待機していた。今回はほぼ1名のみ、ステーションのほうはほぼ無人で運営できていることを考えると、全体のコストは大きく変わっているはずだ。

第3世代の実験は基本的に毎日行われており、範囲もこの人材公園だけでなく、深セン市内の大学キャンパスなどに広がっている。中国国内の報道ではさらに新世代、第4世代のドローンシステムについても発表されている。

実験そのものが一層大規模になっていることから、美団の技術とその成熟を感じる。

(取材/文・高須正和

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