「高齢者が賃貸を借りづらい問題」に解決策はあるか? R65代表取締役に聞いた!

「高齢者が賃貸を借りづらい問題」に解決策はあるか? R65代表取締役に聞いた!

「65歳以上の高齢者は賃貸住宅を借りづらい」ということは、近年報道などを通じて知られるようになってきた。山本 遼さんが代表取締役を務めるR65では、65歳からの部屋探しを支援し、専用サイト「R65不動産」で高齢者が入居できる物件を紹介している。また、高齢者の賃貸入居を難しくする課題を解消する取り組みも積極的に行っている。高齢者の部屋探しの実態について、山本さんに話を聞いた。

65歳以上の4人に1人が経験する“入居拒否”の実態

筆者は2年前に「65歳以上の“入居拒否”4人に1人。知られざる賃貸の「高齢者差別」」という記事を書いた。この記事で、全国の65歳以上の23.6%が「不動産会社に入居を断られた経験がある」と回答し、断られた経験の回数は「1回」という人が半数近くになるが、「5回以上」という人も13.4%いたという、R65の調査結果を紹介したものだ。

筆者が気になったのは、65歳以上の4人に1人は入居拒否に遭う一方、4人に3人は問題なく入居できているのか?その場合、どんな高齢者なら入居を断られないのだろうか?高齢者の入居拒否の実態に詳しいR65の山本さんに質問をぶつけてみた。

R65代表取締役の山本遼さん(筆者撮影)

R65代表取締役の山本遼さん(筆者撮影)

「高齢者の4人に3人は入居できる状態と思わないでほしい」と山本さん。収入があって保証人もいる高齢者でも、賃貸住宅を見つけるのに時間がかかっている。むしろ、4人に1人は時間をかけても物件が見つからない状態と見るべきだというのだ。R65の調査結果でも、年収200万円未満とそれ以上(年金以外に仕事をして収入を得ていると想定)で比較しても、入居拒否の経験の有無や断られた回数に違いはなかった。

出典:R65「『65歳以上が賃貸住宅を借りにくい問題』に関する調査」

出典:R65「『65歳以上が賃貸住宅を借りにくい問題』に関する調査」

後期高齢期(75歳以上)の年齢になったり障害があったりすれば、さらにハードルが高くなるだけで、入居については、まず「65歳以上という年齢」が大きなハードルになるのだという。

65歳以上が入居しづらい要因はあるが、ケアする手立てもある

ではなぜ、65歳以上で入居が難しくなるのだろうか?山本さんによれば、最も大きな要因は、貸主(オーナー)側に高齢者に貸した経験が少ないことで、理解が不足しているからだという。

一般的な賃貸住宅では、貸主側にやむを得ない事情がない限り、入居者が希望すればそのまま住み続けることができる。住み続ければ入居者が高齢化して、孤独死や死後の残置物の問題が生じるなど、若年層に貸すのとは異なるトラブルが起きると考え、それを懸念して年齢だけで入居を拒む貸主が多いようなのだ。

(公財)日本賃貸住宅管理協会による調査では、「高齢者世帯の入居に拒否感がある」と回答した貸主は全体の70.2%を占める。この拒否感を解消するには、貸主のリスクをケアする手立てを講じて、安心して貸せる環境を整備していくことが必要だと、山本さんは考えている。以降は、どんな課題があるか、それに対するどんな手立てがあるかを整理していこう。

●孤独死
貸主にとって孤独死は大きな問題だ。発見が遅れると、臭いや床面の損傷などが発生して、その部屋を特殊清掃したり改修したりする必要がある。かつ、その間は入居者募集もできないので、貸主の損失も大きくなる。だから、孤独死は早期発見がカギになるのだ。これについては、「見守りサービス」を活用することで、異常な状態を検知することができる。

●身元保証
賃貸借契約では連帯保証人などの身元保証を求められるが、保証人がいない高齢者も多い。身元保証で求められるのは主に家賃の滞納だが、これは高齢者に限らず、「家賃債務保証会社」と契約するのが一般的になっている。このほか、入院時や死亡時にまで対応する「身元保証サービス」の利用も考えられる。

●死亡後の残置物の処理
死後に賃貸住宅に残された物は、貸主が勝手に処分することはできない。相続人に残置物の処分や部屋の明け渡しなどの対応を依頼するのが基本だ。一人暮らしで相続人が不明の場合、貸主は推定相続人を探し出して交渉することになり、それにかなりの時間を要する場合がある。これについては、国土交通省と法務省が「残置物の処理等に関するモデル契約条項」を策定した。入居者の推定相続人か、それが難しいときは居住支援法人※などの第三者が入居者と委任契約を結び、それによって代理権を得た者が賃貸借契約の解除や残置物の処理を行うというものだ。
※居住支援法人とは、住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律(住宅セーフティネット法)に基づき、都道府県が指定する、要配慮者の居住支援を行う法人。

R65でも独自に高齢者のリスクケア商品を用意

こうした高齢者ならではのリスクについては、行政が対応すべき課題もある。このなかで不動産会社が考えるべきことは、賃貸経営で重要となる、物件の資産価値を下げず、空室期間を長期化させないことに絞られると山本さん。

そこで、R65でも高齢者の入居リスクをケアする商品を用意している。まず、孤独死の問題については、「あんしんみまもりパック」(月額980円~)を提供している。これは、電気の使用量をチェックして見守るもので、貸主の原状回復費用や家賃を補償する保険もセットにしている。比較的安価で見守りと補償をセットにすることで、貸主が利用しやすいようにしているのが特徴だ。

残置物の処理については、R65のパートナー不動産会社に対しては、居住支援法人でもあるR65が残置物処理に関する委任契約を受ける契約書を用意しているほか、他の不動産会社などが使える賃貸借契約の解除と残置物処理に関する契約書(推定相続人が受託する想定)を一般公開している。

なお、家賃の滞納については、実は高齢者だからといって多いわけではないという。たしかに、家賃債務保証会社を利用することで滞納のリスクは解消されるし、年金のなかでやりくりできる賃料であれば問題はあまり発生しないはずだ。

難しいのは認知症を発症して、賃貸住宅での生活が難しくなる場合だ。特に身寄りのない単身高齢者の場合、認知症が進んでしまうと意思能力がないと判断されてしまうので、まだ軽症のうちに地域包括支援センター※などと連携して、グループホームなどの環境が整った場所に移ってもらうのがよいという。
※地域包括支援センターは、地域の高齢者を支えるために市町村が設置するもので、「介護予防ケアマネジメント」「総合相談支援」「包括的・継続的ケアマネジメント支援」「権利擁護」の業務を行う。

高齢者が賃貸住宅を探しやすくするためには?

高齢者がもっと賃貸住宅を探しやすくするためには、不動産情報サイトの充実が挙げられる。現状でも、掲載物件数の豊富な大手ポータルサイトで、「高齢者歓迎」などの項目で検索して、高齢者の入居を拒まない物件を探すことはできる。さらに、高齢者対象の賃貸住宅に特化したR65不動産のサイトでは、エリア検索のほかに、二人入居可、駅徒歩5分、保証人不要相談、庭付き、ペット可、1階またはエレベータなどのテーマ別検索ができるようにしている。これらは、高齢者が部屋探しをする際に主要な条件として挙げる場合が多いからだ。ただし現状では、必ずしも、高齢者のニーズと掲載物件がマッチするとは限らない。

そこで、山本さんがもう一つの課題として挙げるのが、不動産流通の問題だ。高齢者の入居を拒まない物件自体を増やす必要があるからだ。

貸主が高齢者に賃貸住宅を貸すことに拒否感がない場合でも、不動産会社のほうで手間がかかるなどの理由で、積極的でない場合もある。そこで、高齢者の部屋探しに積極的なR65のパートナー不動産会社を増やし、R65不動産の掲載物件を増やそうと考えている。パートナー不動産会社に高齢者に関する仲介や賃貸管理のノウハウがないという場合は、ノウハウの提供を惜しまないという。

次に、貸主の理解を深めること。「高齢者世帯の入居に拒否感がある」という貸主が70.2%いたが、拒否感を示していない残りの3割にしっかりと、見守りサービスなどのリスクをケアする手立てを紹介することで、高齢者に多くの賃貸住宅を提供してもらいたいという。

山本さんの高齢者のイメージには、亡くなる2年前まで薬局で長く働き続けた祖母の姿がある。高齢者が暮らす場としては、介護が受けられる施設やサービス付き高齢者向け住宅などもあるが、自立して自分らしい生活を送るには、街の中に数多くある賃貸住宅が適していると思っている。それを実現するために、R65不動産を拡充させたいという考えだ。

今後、日本の高齢化はますます進んでいく。政府も、「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」や「残置物の処理等に関するモデル契約条項」を策定し、高齢者などの住宅確保要配慮者の支援を拡充するための検討会を立ち上げるなどの取り組みも行っている。

こうした後押しも必要だが、困っている高齢者の部屋探しを支援しようという、山本さんのような情熱も必要だ。「高齢者に賃貸住宅を貸すのが当たり前の社会になったときには、R65不動産はなくなってよい」という、山本さんの発言が印象に残っている。

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