「立てこもり犯に人質にされた」京都の信用金庫に勤める女子行員の告白

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どうも特殊犯罪アナリストの丸野裕行です。

今から22年前の年末の京都で、大変センセーショナルな事件が起こりました。12月26日午前10時、地元密着の地方信用金庫である京都中央信用金庫の本店に、拳銃2丁を所持したT(当時60)が押し入って、「理事長と会わせろ」と告げて、職員4名を人質にとり立てこもったのです。

そこで、男性3名と女性1名がだったのですが、事件発生から6時間が経った午後4時40分に女性行員は解放されました。

今回は、その事件で人質になった女性行員Hさん(現在、50歳)に、当時の緊迫した現場や犯人とのやりとりなどを思い出し、語ってもらいました。

その重い口から語られる事件の真相とは……。

犯人は不動産会社社長

丸野(以下、丸)「犯人はどのような人物だったんですか?」

Hさん「大変、優しい方でしたよ。私に対しても男性行員に対しても。ただ、最後まで残された債券管理部の部長と課長の2人に関しては厳しかったです。このことを問題にしてやる、と」

丸「そうですか。T氏は、事件の前に自分の犯行声明をビデオに残して、検察と京都府警に送っていたようですね」

Hさん「社会問題になっていましたが、テープの中ではTさんは京都中信とのやりとりで融資を受けられる条件(※前の社長の負債を個人保証するとしながらも、実際には融資が受理されなかったこと)、検察や警察に幾度となく相談しては取り合ってくれなかったこを理由に犯行を決意したそうです」

あれから風化していない事件

丸「で、事件の後に懲役9年の実刑判決を受けたわけですね。今では刑期を終え、出所。個人でのブログやXで獄中での生活や犯行動機ついて、常に発信しているようです。獄中では、事件を取りあげた『週刊新潮』報道が事実無根だとして、告発。裁判で勝ち、慰謝料まで得たとのことです」

Hさん「ええ。京都中信はTさんの他にトラブルがあって、多くの事業者より提訴されていました。今も闘う方がいるんじゃないでしょうか」

丸「そりゃヒドい。それじゃあ、この事件は風化するわけがないですよ。金融業界では当然のルールなのかもしれないけど、所詮はそこも会社組織なんですから、配慮しないと。検察は次に続かないようにするための見せしめのつもりだったのしょうか」

京都中信の“悪辣な貸付”と“貸し剥がし”

Hさん「京都中信の悪質な“偽装融資=押し貸し=書類偽造”“追い込み=貸し剥がし”の手口については、被害者や内通者からの情報があふれかえり、報道されているんですよね」

丸「京都っていうのは、信金の王国なんて呼ばれて、一種異様なんですよね。僕も融資を受けようとしたことがあるんですが、まずは信金、地域密着の地方銀行、大手地銀、メガバンクの順番でした。そんな土地柄なんです。その中でも、強い力を誇るのが、京都市烏丸四条に本店がある京都中信なんですよね」

Hさん「信用金庫なのに、中信は預金を含めた資金量が全国500もある都銀などの金融機関で40位。関西では4位につけています。貸出金や内部留保金のいずれも業界トップ。経営破綻した信用金庫の事業をカバーして吸収合併。全国で最大規模です」

丸「それと同時に、悪質な書類偽造を含めた偽装融資、貸し剥がしや追い込みがこのときの立てこもり事件を巻き起こしたということなんですね。しかし、T氏は現場ではどうでしたか?」

言葉の声かけを忘れない

Hさん「一応繕ってはいましたが、私たちには声をかけたり、トイレに立たせてくれるなど配慮がありました。こちらは、なんだかんだいっても、Tさんとは相反する存在。でも、人間味があって、好感は持てました」

丸「ははぁ、なるほど」

京都中信の立てこもり事件では、T氏の説得に京都府警捜査一課の課長補佐があたり、ネゴシエーションして解決に向かいました。この交渉専門のベテラン捜査員も、この事件では、どうも腑に落ちないことが多くあったようです。

Hさん「そうだと思います。どの正義にのっとって交渉しているのかわからないですから。加害者の悲痛な声も理解できたのではないでしょうか?」

確かに、借金を返済することは債務者としての義務ではありますし、立てこもり犯のとったこの方法は決して法的に認められるわけではないと思います。ですが、訴訟沙汰に発展してしまうレベルの中信側の回収方法について、疑問は残ります。地元京都の中小企業を支える術を提供することが要求される重要な金融機関であった京都中信、企業としてのコンプライアンスはどこに行ってしまったのでしょうか。

今もまだ悪しき根が残っているのであれば、更なる改善をしていただきたいものです。

(C)写真AC

(執筆者: 丸野裕行)

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