「祝祭の呪物展2」の推し呪物たち(辛酸なめ子)

日本の酷暑から逃れるには、もはや呪物で涼しくなるしかないのかもしれません。去年、東京や大阪で開催されて大人気だった「祝祭の呪物展」。「インドネシアの呪いの書」や「首狩り族のお面」「拷問木偶」「人骨ナイフ」「百年前の呪い釘」といった、国内外の呪物を集めた瘴気渦巻くイベントです。なんと今年も第2弾となる「祝祭の呪物展2」が東京と札幌で開催(東京会場は6月21日~7月4日、札幌会場は7月22日~8月6日)。

今回も呪物コレクター、はやせやすひろ氏と田中俊行氏の珠玉のコレクションが中心で、イベントを企画した「アシタノホラー」名誉顧問で文様作家のApsu Shusei氏の作品なども展示。密度の濃い空間です。

「澁谷藝術」で開催された東京での展示に伺ってきました。今回も整理券が発行されるほどの人気です。既に行った人によると、会場で具合が悪くなってうずくまっていた女性客がいたとか。私は去年、展示を観たあと悪夢にうなされ数日間首が痛かったのですが、今回も覚悟を持って会場へ。

渋谷のおしゃれなギャラリーは前回の会場よりも明るくて風通しが良く、そんなに邪気はよどんでいない印象です。若いお客さんが多く、怖くないのか呪物に顔を近付けて見入っています。若者の生体エネルギーも呪力を抑えているようです。

今回も民族学的に貴重な呪物が多いです。かつて首狩りの風習があったインド北東部の「ナガ族の面と首飾り」のお面は、前回展示されていたお面よりも恐ろしい印象です。若い男性が「だいぶイカつくてかっこいい」と感想をもらしていました。「首狩り族の枕」は、インドネシア領ニューギニア島の少数民族、アスマット族の頭蓋骨でできた呪物。彼らも首狩りの風習があり、敵の部族の頭蓋骨を枕にして休む風習があるそうです。人間の頭蓋骨が使われた呪物を日本に輸入できるというのも驚きです。

タイの果実の精霊「ナリーポンとマカリーポン」もはじめて見ることができました。森の木に実る、人間の形をした果実で、地面に落ちると歌ったり踊ったりできるそうです。7日間誰にも拾われないと魔力を失い、枯れてしまうとか。展示されていたのは乾燥したような人形だったので枯れてしまったあとかもしれません。穏やかな表情で良かったです。

西アフリカの「ンコンディ」は、悪さをした人を追跡し罰を与えると言われる偶像。一見、素朴な土産物ですが、所有者によると聞き取れない言葉で何かつぶやいていることがあるそうです。

ゾッとしたのは何かが憑いているらしい「呪いのマリア像」。両手が動かせるようになっていて歯がちょっと見えるのが不気味です。アンティークの十字架のネックレスを付けて来たお客さんがいたそうですが、このマリア像の前でネックレスがちぎれて床に落ちたそうです……。そのネックレスまで展示。呪物とりが呪物になるような現象です。

また、今回は日本人形でグループアイドルが作れるのでは? と思うくらい人形が充実していました。ある女性の亡くなった祖母が大事にしていた「歩く日本人形」は、足だけが中空を歩くそうです。想像すると風流です。

深泥池で殺された孫娘が大事にしていた「抱き人形」は、警察が預かっていたのに勝手に家に戻って来たそうです。布でできていて歩かなそうに見えますが……。意外とアクティブなギャップ感が魅力です。

「妹の人形」も、病気で亡くなった少女と一緒に火葬したはずなのに人形だけが戻ってきたという不思議なエピソードが。お寺での魂抜きの儀式中も嫌がるように動いて、魂抜きは中止になったとか。たしかに意志が強そうなお顔です。

「釘人形と坊ちゃん」は、中古物件の天袋から出てきた少女の人形と男の子の顔だけの人形のセット。少女の人形は口や手足などに釘が打ち付けられています。かわいそうでかわいい……萌えの原型でしょうか。つぶらな瞳に哀愁が漂っています。

「可愛がると歌う人形」は、おばあさんが所有していた人形で、時折歌を歌っていたそうです。孫が触ると頬を引っ掻いたとか。おばあさんが亡くなったあとも、うなり声を発したり歌ったりしていたとのことで、結構気が強そうです。

会場では人形たちの呪力がせめぎ合い、競い合っているのかもしれません。誰が一番かわいいかセンター争いしているかのようです。推し呪物には、人間のアイドルにはない危険な魔力が。

会場には、呪力とは反対の浄化力がありそうなアイテムも展示されていて、少し救いを感じました。丸石をお祀りする「丸石神信仰」、魔を祓う鬼の面「石見神能面」など。邪気に恐怖を感じたら救いを求めたいです。

呪物たちは、それぞれエピソードや物語を持っているのも興味深いです。悲惨な話や禍々しい話でも、多くの人たちが共有することで、呪物の怨念も成仏しそうです。呪物をむやみに怖がるのではなく、慈愛で包み、積年の思いを共有する……実は呪物展に集う若者たちは、優しさにあふれた人々なのかもしれません。

(イラスト・文:辛酸なめ子)

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