「成果主義を捨てるべき」 人材不足にあえぐ保険業界への提言

「成果主義を捨てるべき」 人材不足にあえぐ保険業界への提言

年功序列型の雇用制度が崩れ、成果主義を採り入れる企業が増えている日本だが、こと保険業界に関しては年功序列型の企業が大半だった時代から「フルコミッション」に代表されるような成果主義型の賃金体系をとる企業が多かった。

しかし、今「保険業界こそ成果主義をすてるべき」と提言しているのが『人材が続々集まる、メキメキ育つ! スゴい保険代理店経営』(パノラボ刊)の著者で自身も保険代理店を経営している稲葉晴一さんだ。本書で稲葉さんは「保険代理店の大淘汰時代がくる」と予見。生き残るために代理店がやるべきことをつづっている。

なぜ稲葉さんは「成果主義」を問題にしているのか。ご本人にお話をうかがった。

■「成果主義を捨てるべき」人材不足にあえぐ保険業界への提言

――『人材が続々集まる、メキメキ育つ! スゴい保険代理店経営』は保険代理店の経営に一石を投じる内容となっています。冒頭の「成果主義の考えは捨てるべき」というお考えが印象的ですが、稲葉さんがこのように考える理由を教えていただければと思います。

稲葉:保険業界には、いまだに保険商品を売った量を表彰する制度があります。それはそれですばらしいことなのですが、顧客の視点からすると、その営業マンが売った量には価値を感じないじゃないですか。そうではなく、どんな代理店のどんな営業(どんなサービスを持っていて、どれだけ顧客を理解しているか)から買ったか、つまり「誰から買ったか」が価値になるはずです。

――顧客からすると、どれだけ営業マンが自分のことを考えてプランニングしてくれたり、先のことを見通して商品をすすめてくれたか、というところが大事ですよね。

稲葉:そうです。だから、保険代理店として企業価値を高めようとした時に、売った量で営業を評価していたら、本質的に会社の成長にはつながらないんじゃないか、と考えています。それで「成果主義は捨てるべき」と書きました。

――成果主義を採り入れていない保険代理店はあるんですか?

稲葉:ないかもしれません。もちろん、きれいごとばかり言っても仕方なくて、保険がちゃんと売れていることは言葉を変えれば、それだけ多くの顧客の課題に対して保険という商品で応えたということにもなりますし、売れていないとそれこそ会社の成長につながらないのですが、この仕事って顧客への準備が整っていなくても偶然契約が取れて、大きな保険料をお預かりできることもあるんです。

完全な成果主義でいうと、こうした「偶然」による契約であっても評価されることになります。だけど、それでは再現性がありません。本来なら営業としての力がついて、再現性の高いやり方で契約をお預かりする、お客さんからの信頼も積み重なっているからこそ会社は高く評価をしたいわけで、「契約件数」だけを見る形の成果主義だとここのプロセスの部分がないがしろになるんですよね。

――逆にこれまでの保険業界でフルコミッションをはじめとする「成果型」が採用されてきたのはなぜでしょうか。

稲葉:私が思うには、終身雇用で年功序列といった昔の日本型経営を採用している会社が主だった時代は、若い人は稼げなかったんですよ。でも、保険業界はキャリアもなにも関係なくて、売ったら売っただけ稼げたわけです。そこに魅力を感じて集まる人が多かったので、このスタイルが続いてきたのではないかと思います。**

それに、フルコミッションであれば時間をかけて、人材に投資したり、教育したりするよりも、新たに人を採用した方が、効率がよく。一定期間、成長できなかった人材は退職していく事が多いように思います。つまり、マネジメントが必要ないので会社側は楽なんですよね。一方で企業文化や風土などは育たず、経営ガバナンスは弱くなりがちです。そのため、保険業界はストックビジネスで、属人性の高い業界ですので、法人化している保険代理店でも「個」が強く「組織」が脆弱なのは人材に投資をしようという、普通の会社なら当たり前の企業活動への意識が薄いからかもしれません。

――本書ではこうした成果主義を続けていると今後保険業界は立ち行かなくなると指摘されています。その理由の一つとして、営業マンをやりたがる人が減ってしまう点を挙げていましたね。

稲葉:お金を稼ぐためにプライベートを犠牲にして体を酷使して、という人はどんどん減ってきているように思います。お金はほどほどでいいけど、自分の時間を楽しみたいというようなメンタリティの人にとって保険業界が魅力的に見えるかというと、そうではないと思うんです。

(後編につづく)

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