『ストリートファイター6』レビュー:格ゲーというよりもはやコミュニティ! 俺より強い奴と共に生きる世界

2022年に発表があってから1年以上、待ちに待った……それこそ初代『ストリートファイターII』の待ちガイルのように待った『ストリートファイター6』が、とうとうリリースされた! βテストにもしっかり参加し、「デラックスエディション」を購入して先行プレイ可能にするなど万全の態勢で迎えた本作。

結論から言えば、本作にはカプコンの本気と凄みが詰まっていると感じた。「対戦格闘ゲームの新作」ではあるのだが、そんな単純な言葉に収まるような作品ではない。「対戦格闘ゲームコミュニティ」を丸ごと作り出す……そんなスケールの大きな一作なのだ。

駆け引きの仕組みを再構築したシリーズ最新作! 『ストリートファイター6』

『ストリートファイター6』は対戦格闘ゲームの元祖と言える「ストリートファイター」シリーズの最新作。「バイオハザード」シリーズなどで採用されているREエンジンが使われており、実写に匹敵するほど美しいビジュアルが特徴だ。

ここで「対戦格闘ゲーム」について改めて説明しておこう。「対戦格闘ゲーム」とは、1対1で主に格闘技を使って勝敗を競う、サイドビューの対戦型アクションゲームのこと。

勝利条件は、制限時間以内に相手の体力をゼロにすること。レバーの入力方向とボタン操作を組み合わせることで多彩な技を使え、複数の技を連続で繰り出す、通称「コンボ」が勝敗に強く影響を与える。「どんな技を出すか?」という駆け引きと、技を出すための操作技術が問われるため、プレイヤーの能力がダイレクトに出るゲームだ。

(画像は『ストリートファイター30th アニバーサリーコレクション』収録の『ストリートファイターII』)

こうした基本的な部分を完成させたのが『ストリートファイターII』で、同作のキャッチフレーズは「俺より強い奴に会いに行く」だった。「プレイヤーの能力がダイレクトに出る」というゲーム的特性と、「当時の対戦はゲームセンター中心に行われていた」という環境的特性。2つの特性を見事に言い表した名キャッチフレーズだ。

シリーズ最新作となる『ストリートファイター6』では、新たに「ドライブシステム」というものが搭載された。その内容は、追加された「ドライブゲージ」を消費して様々な特殊アクションが繰り出せる……というもの。表面的には「新作ならではの新アクションができるよ」という形に見える。

しかし筆者はこのシステムを、単なる「新アクション」に留まらない、「対戦格闘ゲームの駆け引きの仕組みを再構築するもの」だと感じた。

「対戦格闘ゲームの駆け引き」の基本は「3すくみ」……平たく言うと、「じゃんけん」だ。「じゃんけん」にはグー、チョキ、パーという3つのアクションがあり、グーはチョキに勝ち、チョキはパーに勝ち、パーはグーに勝つ……といった具合にそれぞれ有利不利の相性が設定されている。対戦格闘ゲームでグー、チョキ、パーの代わりに存在するのが、打撃技、ガード、投げ技。

投げ技をしようと接近してくる相手には打撃技が決まり、打撃技を出されたらガードで防ぐことができる。そして、ガードしている相手には投げ技が有効だ。

ただ「じゃんけん」の場合、グー、チョキ、パーに性能差が存在しない。これに対して対戦格闘ゲームの場合は、性能差が存在している。

たとえば、ガードは確かに打撃技に有効だ。しかし、打撃や投げと違って相手にダメージを与えることができない。グーでもチョキでもパーでも勝つことができる「じゃんけん」と違い、対戦格闘ゲームはガードだけでは勝てないのだ。

しかし、だからこそ「駆け引き」が発生する。ガードだけでは勝てないので、いつまでもガードし続けるわけにはいかない。言い換えれば、いつかは打撃技か投げ技を仕掛けることになる。

ではそれはいつなのか?……相手の行動を読む。もちろん、相手もこちらの行動を読んでくる。そして、相手が行動を読んでくるということは、「引っ掛け」ができるということ。

たとえば相手の方へ近づいていくと、相手は投げ技を警戒し、打撃技を出してくる可能性が高い。そこで、近づくと見せかけ途中で止まる。すると相手の打撃技が空振りし、その隙にこちらの攻撃を与えることができる……といった具合だ。

グー、チョキ、パーという「3すくみ」のバランスを崩すことで「駆け引き」の楽しさが生まれた。しかしバランスが崩れるということは、「特定の行動が強くなりすぎてしまう」という問題を抱えやすい。たとえば、「投げハメ」。

(画像は『ストリートファイター30th アニバーサリーコレクション』収録の『ストリートファイターII』)

ダウン状態から起き上がってくる相手に打撃技を繰り出すと、相手はガードせざるを得ない。そこで隙の少ない打撃技を出し、ガードした相手を投げてしまうという手法が「投げハメ」。キャラクターによっては対抗手段を持っているのだが、持っていない場合、一度ダウンするだけで負けが確定してしまう。

(画像は『ストリートファイター30th アニバーサリーコレクション』収録の『ストリートファイターII』)

こうした問題点を解消すると同時に、「駆け引き」の楽しさを増やす……。『ストリートファイター』シリーズの歴史は、この繰り返しだったと言ってもいいだろう。

たとえば「投げハメ」については、『スーパーストリートファイターIIX(スパ2X)』において、「投げ受け身」というかたちで対策が行われた。「投げ受け身」は、投げられた後にボタンを押すことでダメージを軽減すると同時に、ダウンを回避できるというもの。ダウンを回避できるため、継続して投げられてしまうことがなくなったわけだ。

(画像は『ストリートファイター30th アニバーサリーコレクション』収録の『スーパーストリートファイターIIX』)

また、『スパ2X』では「スーパーコンボ」も導入された。これはゲージを消費することで、通常の必殺技よりも強力な技を繰り出せるという要素。

この要素によって、ド派手な技で一気に相手の体力を減らす爽快感が生まれた。さらに、いつ「スーパーコンボ」を繰り出すかという新たな読み合いが発生、劣勢から逆転できるという可能性ももたらされた。

(画像は『ストリートファイター30th アニバーサリーコレクション』収録の『スーパーストリートファイターIIX』)

その後『ストリートファイターIII』では、「投げハメ」への新たな対策として「グラップディフェンス」……通称「投げ外し」が採用されている。相手が投げを仕掛けてきた時、こちらも投げボタンを押すことで投げ技を回避できるというもの。

ダメージ軽減だった「投げ受け身」に対してこちらは完全にダメージを回避可能。ただしその分タイミングがシビアで、「ここで相手が投げてくるだろう」というタイミングを読み切らなければならない。このため、読み合いの奥深さという意味では「投げ受け身」より「グラップディフェンス」の方が上といえる。

(画像は『ストリートファイター30th アニバーサリーコレクション』収録の『ストリートファイターIII 3rd STRIKE』)

「タイミングがシビアな分、読み合いが奥深くなる」という意味では、同じく『ストリートファイターIII』で採用された「ブロッキング」が見逃せない。「ブロッキング」は相手の攻撃をはじき、打撃技のダメージをゼロにするという要素。

「対戦格闘ゲーム」のガードは、通常技のダメージはゼロにするものの必殺技のダメージはわずかに受けてしまう。しかし「ブロッキング」は必殺技のダメージもゼロにすることが可能。また相手に隙が生まれるため、反撃のきっかけにもなる。

(画像は『ストリートファイター30th アニバーサリーコレクション』収録の『ストリートファイターIII 3rd STRIKE』)

ガードよりも強力なアクションだが、その分操作難易度は高い。相手と逆方向へレバーを倒すことで行うガードと違い、「ブロッキング」は相手の方向へレバーを倒さなければならない。しかも相手の攻撃がヒットする寸前、瞬間的にレバーを倒すという操作なので、ミスするともろにダメージを喰らってしまう。

(画像は『ストリートファイター30th アニバーサリーコレクション』収録の『ストリートファイターIII 3rd STRIKE』)

「ブロッキング」を使った駆け引きは非常にハイレベルな楽しさを持っていた。ただ『ストリートファイターIII』以降、対戦格闘ゲームは冬の時代を迎えることになる。対戦格闘ゲームの新作はリリースされていたし、大会も開かれてはいたのだが、以前ほどの盛り上がりはなくなっていったのだ。

結果として、当時の『ストリートファイターIII』の最終バージョンである『ストリートファイターIII 3rd STRIKE』から『ストリートファイターIV』リリースまでには9年という年月が経過している。

(画像は『ウルトラストリートファイターⅣ』)

10年近い空白の時間を考慮してか、『ストリートファイターIV』で採用された新アクション「セービング」は、「ブロッキング」程シビアな操作が要求されるものではない。

「セービング」はボタンを押すことでいつでも発動でき、ボタンを離すまでの間、相手の攻撃を一発だけ耐久できる……というアクション。ボタンを離すと、ボタンを押していた時間に応じたレベルの攻撃が発動。最大レベルの攻撃だと、相手のガードを崩すことができる。

(画像は『ウルトラストリートファイターⅣ』)

『ストリートファイターIII』以降、冬の時代を迎えた対戦格闘ゲームだが、『ストリートファイターIV』で再び存在感を取り戻していくことになる。そして、今回の『ストリートファイター6』へとつながってくるわけだ。

シリーズの歴史を長々と語ってきたのは、今回の『ストリートファイター6』は、こうした「対戦格闘ゲームにおける駆け引きの歴史」を踏まえて「ドライブシステム」として再構築しているから。前述のとおり、「ドライブシステム」はドライブゲージを消費してさまざまな特殊アクションが繰り出せるというもの。その中心となっているのは「ドライブインパクト」。

「ドライブインパクト」は、相手の攻撃を2発まで耐えつつ攻撃を行うというアクションだ。ここまで読んでくれた人なら、『ストリートファイターIV』の「セービング」に近いと感じるのではないだろうか。

ただ、ボタンを押して離すという操作が必要な「セービング」と違い、「ドライブインパクト」は即座に繰り出すことができる。このため、相手の技に合わせて出せば、強引にこちらの攻撃を当てることが可能。さらには、ガードしている相手を吹き飛ばすことができるので、たとえガードされても反撃を受けにくい。

ここでやや無理やりにではあるが、あえて「じゃんけん」でたとえたい。

「ドライブインパクト」を「じゃんけん」でたとえるなら、グーを超えるスーパーグーといったところだ。通常グーとグーを出したらあいこになるが、スーパーグーはグーに対しても勝利でき、本来負けるはずのパーに対してもあいこに持ち込める。

「スーパーグーなんて、さすがに強すぎるだろ!」……と思うところだが、スーパーグーがある以上、第二の手段となるスーパーパーも存在する。それが「ドライブシステム」のひとつ、「ドライブパリィ」だ。

「ドライブパリィ」はボタンを押している間、相手の攻撃をオートガードできるというアクションで、「ドライブインパクト」もガード可能。また『ストリートファイターIII』の「セービング」のように、相手の攻撃がヒットする瞬間タイミングよく出せば「ジャストパリィ」が成立。「ジャストパリィ」時は相手の攻撃がスローモーションになるので、反撃のきっかけとなる。

ちなみに、「ドライブインパクト」も「ドライブパリィ」も、通常の投げ技でダメージを与えることが可能。つまり、今回の投げ技は「ドライブシステム」への対抗策という役割を持っているといえる。したがって今作の投げ技は、過去シリーズから相対的に強化されているといっていいだろう。

投げ技そのものが「ドライブインパクト」「ドライブパリィ」の対抗手段になるということを踏まえると、一見、第三の手段となるスーパーチョキにあたるシステムは存在していないように思える。確かに、直接スーパーチョキに該当するようなシステムはない。ただ、近い役割を持つシステムなら存在している。

それが「ドライブラッシュ」だ。

「ドライブラッシュ」は、一部のアクションや「ドライブパリィ」から即座にダッシュ状態へ移行するアクション。これを利用して技を繋げ「コンボ」に仕立てることが可能。ただ、そもそも瞬間的にダッシュで相手に近づけるということは、接近が必要な投げ技と親和性が高いということでもある。

「ドライブラッシュ」は直接的に投げ技を強化したアクションではないものの、間接的に投げ技を強化するシステムといえるだろう。スーパーチョキに近い役割を備えていると書いたのはこのためだ。

つまり、グー、チョキ、パーという「3すくみ」の外側に、スーパーグー、スーパーチョキ、スーパーパーという「スーパー3すくみ」が存在する駆け引き。これが今回の『ストリートファイター6』の駆け引きといえる。

当然、グー、チョキ、パーよりもスーパーグー、スーパーチョキ、スーパーパーの方が強力。だからこそ制約が設けられている。それが、「ドライブゲージ」だ。

「ドライブシステム」は「ドライブゲージ」がなければ使用できない。また「ドライブゲージ」は相手の攻撃を通常ガードすることでも減少。ゲージがゼロになると「バーンアウト」という弱体化状態を招いてしまう。

ただ、「ドライブゲージ」は回復することができる。回復するには時間経過を待つか、相手の攻撃を「ドライブパリィ」で受け止めなければならない。

ここでも駆け引きが発生する。積極的な攻撃で相手をガード状態に追い込み、「ドライブゲージ」の枯渇を狙うか? あるいは「ドライブパリィ」で敵の攻撃をさばいて「ドライブゲージ」を維持しつつ、「ドライブインパクト」による反撃を狙うか……?

本作には新たな3すくみによる駆け引きに加え、ゲージを「いつ使うか?」「どう使うか?」をという読み合い要素がある。こうした多彩な駆け引きを「ドライブシステム」というひとつの形にまとめあげた手腕は、見事というほかない。

正直この「ドライブシステム」をめぐる駆け引きだけでめちゃくちゃおもしろい。この時点で、対戦格闘ゲーム好きなら買って損はない。以上、レビュー終了……と普通の対戦格闘ゲームならなるところだが、本作はここで終わりじゃない。

最初に書いた通り、本作はそんなスケールに収まるような作品ではないのだ。

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