リーアム・ニーソン出演100作目となる映画『探偵マーロウ』は「本作単体で楽しめるフィルムノワール」:映画レビュー

推理小説家の巨匠レイモンド・チャンドラーが生み出した“私立探偵フィリップ・マーロウ”をハリウッドの名優リーアム・ニーソンが演じる『探偵マーロウ』が、6月16日(金)より全国公開。本作のレビューをお届けします!

レイモンド・チャンドラー作『ロング・グッドバイ』といえば、1953年にアメリカで刊行されて以来、世界中に多くのファンを持つハードボイルドの代表作のひとつです。日本では2007年に村上春樹による翻訳版が話題になり、2014年には浅野忠信と綾野剛主演でドラマ化されました(2014年のドラマ「ロング・グッドバイ」)。そこで初めてその世界観に触れてファンになった方も多いのではないでしょうか。

そのレイモンド・チャンドラー財団が『ロング・グッドバイ』の続編として公式に認定した作品が『黒い瞳のブロンド』(小鷹信光訳/ハヤカワ文庫)。ブッカー賞(受賞作はカズオ・イシグロ『日の名残り』など)受賞作家ジョン・バンヴィルがベンジャミン・ブラック名義で書いたこの作品は、ニール・ジョーダン監督の手によって映画『探偵マーロウ』として映像化され、6月16日(金)から公開されます。

舞台は1939年のロサンゼルス。フィリップ・マーロウ(リーアム・ニーソン)の探偵事務所に、謎めいた人妻クレア(ダイアン・クルーガー)がやってきます。彼女の依頼は、失踪した愛人ニコを見つけること。ところが捜査を始めた直後、ニコはひき逃げにあってすでに死んでいたことが判明します。しかもクレアはそのことを知っていたのです……。

本作が100本目の出演作となるリーアム・ニーソンは、もともとフィリップ・マーロウのファンで、いつか演じてみたかったとのこと。撮影時はリーアム69歳。原作のマーロウよりはるかに年上のせいか、劇中のセリフで何度も年寄り扱い(?)されているのがご愛嬌ですが、今まで登場したマーロウ像とは一味ちがったタイプを楽しそうに演じています。多くの原作ものに出ているリーアムですが、意外に探偵役は少なく、2014年のローレンス・ブロック原作映画『誘拐の掟』で探偵マット・スカダーを演じて以来となります。

『探偵マーロウ』は、原作『黒い瞳のブロンド』とは時代も舞台も登場人物の設定も大幅に変わっており、映画業界を舞台にしたフィルムノワールに仕上がっています。本作単体で楽しめるようなつくりになっているため『ロング・グッドバイ』を未読でもまったく心配はいりませんが、ジョーダン監督がなぜこのような脚色をしたのか考えながら原作を読んで違いを味わうのも一興です。なお早川書房からは、引退したマーロウ(72歳)が主人公のミステリ、ローレンス・オズボーン『ただの眠りを』(田口俊樹訳)も出ています。こちらはリーアムのリアル年齢により近いので、気になった方はぜひこちらもどうぞ!

【書いた人】♪akira
翻訳ミステリー・映画ライター。翻訳ミステリー大賞シンジケートHP、「本の雑誌」連載、文庫解説等を執筆しています。

【作品情報】
監督:ニール・ジョーダン 脚本:ウィリアム・モナハン 原作:「黒い瞳のブロンド」(ベンジャミン・ブラック/小鷹信光 訳 早川書房刊)
出演:リーアム・ニーソン、ダイアン・クルーガー、ジェシカ・ラング、アドウェール・アキノエ=アグバエ、ダニー・ヒューストン、アラン・カミング
原題:Marlowe/2022 年/アイルランド・スペイン・フランス/英語/109分/カラー/字幕翻訳:船越智子
配給:STAR CHANNEL MOVIES

【ストーリー】
アメリカ・ロサンゼルスに事務所を構える探偵フィリップ・マーロウ(リーアム・ニーソン)を訪ねてきたのは、見るからに裕福そうなブロンドの美女クレア(ダイアン・クルーガー)。「突然姿を消したかつての愛人を探してほしい」――依頼を引き受けたマーロウだったが、映画業界で働いていたというその男はひき逃げ事故で殺されていた…?!捜査を進めるにつれ謎が深まる”ハリウッドの闇”、探偵マーロウが辿り着く真実や如何に。

(C)2022 Parallel Films (Marlowe) Ltd. / Hills Productions A.I.E. / Davis Films

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