『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』レビュー:「活用する自由」から「創造する自由」へと楽しさを発展させた神ゲー

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活用を越え創造へ! 『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』

前作からの直接的な続編と書いた通り、今作……『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』は『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』のエンディング後からストーリーがはじまる。エンディング後なので、主人公・リンクは厄災ガノンを退けており、既に十分強い。もちろん、脇にはヒロインのゼルダ姫の姿も見える。

ここからどんなストーリーが展開するのか? 筆者はまずこの導入部で驚かされた。神がかったクオリティだと思う。

……といっても恐らく本作をプレイした人は、「えっ、導入部ってそんなにすごかった?」と思うかもしれない。だがその自然さこそまさに、筆者が驚いた点だ。

映画やマンガなどのシナリオ制作において、導入部には「やらなければならないこと」が存在している。主要登場人物の紹介と、世界観や状況の説明、そして主人公が果たすべき最終目的の提示。昨今のゲームの場合はここに、操作方法やルールの説明といったチュートリアル要素が加わってくる。

本作の場合、導入部でまず前作のエンディング後であること、ゼルダ姫がどこにいるか、今リンクとゼルダ姫は何の目的でどんな行動をしているのか……といったことを語らなければならない。この点について本作は、ハイラル城地下に異常事態が発生しており、リンクとゼルダ姫でともに原因を調べている……という形で見せつつ、一本道の階段を下りていくというシチュエーションを使って操作説明も行っていく。

さらにこの時のリンクはハートの数が大量なことから、前作のストーリーを見事乗り越えた勇者だとわかる。

リンクのことを勇者と書いたが、本作のように前作と直接つながる続編タイトルでは、主人公の能力をどう扱うか、一工夫必要だ。ゲームに限らずストーリー的なおもしろさというのは、基本的に「成長をどう描くか」という要素が担っている。ということは、最初から成長した姿であってはストーリーも……加えてゲーム的な育成要素も成立しない。

この点について本作は、敵役であるガノンドロフを用いることでスマートに解決している。ハイラル城地下の奥にはガノンドロフのミイラがあり、封印が解けかかっていた。この封印がリンクとゼルダ姫の来訪によって解除され、その際の瘴気によってリンクは力の大半を失うとともに右手を失い、ゼルダ姫はさらなる地下へと姿を消してしまう。

単に敵役が登場しただけ……と思う人もいるかもしれない。だがこのシーンでは、冒頭で敵役を明らかにすることでストーリーで果たすべき役割(ガノンドロフを討伐して、ゼルダ姫を救う)を明確にしている。加えて、プレイヤーが敵役に対する嫌悪感を掻き立てることに成功しているのも巧妙だ。

ガノンドロフがリンクの敵であることは「ゼルダの伝説」シリーズファンには周知の事実だし、ファンでなくともその姿を見れば敵役で、倒さなければならない存在だと分かること。ただ当然のことではなるが、プレイヤー自身がガノンドロフに恨みをもっているわけではない。

だがエンターテインメントを成立させるためには、プレイヤーにも敵への悪感情を持たせる必要がある。個々のプレイヤーが「こいつは許せない敵だ!」と感じることで深いレベルでの感情移入が実現する。本来プレイヤーとは別人であるはずの主人公の冒険を、プレイヤーが自分事として感じられるようになるからだ。

本作においてプレイヤーに敵への悪感情を持たせる役割を担っているのが、リンクが力を失うという表現だろう。プレイヤー視点から見るとこの演出は、「自分の保有するキャラクターが弱体化される」ということであり、これはプレイヤー自身にとっての明確なデメリットとなる。

主人公に成長の余地を生むため能力をリセットするという機能のみならず、同時に感情移入までも実現。さらには、前作を通して成長したはずの主人公をここまで追い詰める……というかたちでガノンドロフの強大さまで描いていることは、巧妙と言わざるを得ないだろう。

でも、これだけじゃない。続いてデザインを介して本作においてのリンクの機能説明まで行われるのだ。

ゼルダ姫とともに奈落へ転落する運命だったはずのリンクだが、ミイラを封じていた「謎の右手」によって救出され、別の場所へと移される。そして目を覚ましたリンクは、失ったはずの自分の右手部分に「謎の右手」が移植されていることに気づく。この右手こそ、本作におけるリンクの新能力の象徴だ。

本作でリンクは、物体を移動したり接着したりする「ウルトラハンド」、手持ちの武器に物体を接着する「スクラビルド」、特定の天井を通り抜ける「トーレルーフ」、物体の動きを過去へと巻き戻す「モドレコ」という新たな能力を獲得する。そしてこれらの新能力は、いずれも謎の右手に宿っている能力だ。

見せ方としては、これらの能力を個別にリンクが技術として習得していく……ことにもできただろう。だが謎の右手という形に集約して見せることで、「なぜそんな能力が使えるのか」「その能力はどんなかたちで発現するのか」「どんな操作方法によってその能力が発現するのか」といった説明が実にスマートに行われている。また、謎の右手の本来の持ち主によって能力の使い方を説明させることで、ナビゲートもとても自然。

そしてこうした導入の最後に待っているのが、大空へのダイブだ。目覚めた場所を出たリンクが目にするのは、明るく爽快な大空。ここまでの展開は暗い屋内が舞台な上、主人公にとって苦難が続いていたので、ここにきての大空は余計にまぶしく思える。

ただこの、暗い屋内を舞台に基本操作のチュートリアルを行い、終了とともに屋外の美しい風景が待っている……という展開は実は前作も同様だ。ただ今作の場合、その美しい風景にダイブする。その爽快感は、前作を経験した身であっても、感動を覚えるほど。

ダイブする時にはもう、プレイヤーはリンクと一体だ。基本操作を知り、ガノンドロフへの怒りを魂に刻み、謎の場所に不安を覚え、そして美しい空へとダイブする気持ちよさに心を躍らせている。極限まで無駄をなくした上で必要なことをすべて伝え、感動まで与えた上でプレイヤーと主人公の感情移入を実現する……どう考えてもクオリティが神がかっている。

導入だけでこれだけ語りたくなってしまうほどスゴイ本作だが、本当にスゴイのはもちろん本編。本作では、前作『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』が持っていた「世界を活用する」という要素を、「創造する」方向へと発展させている。

注目したいのは本作で追加された「ウルトラハンド」、「スクラビルド」、「トーレルーフ」、「モドレコ」という4つの新能力のうちのひとつ、「ウルトラハンド」とアイテムの「ゾナウギア」。「ウルトラハンド」は先ほど触れたとおり、物体を移動したり接着したりできる能力。この能力を使うと、たとえば板とフック状の物体を接着してレールに引っかけ、リフトとして使う……なんてことが可能だ。

「ゾナウギア」は、ゾナウエネルギーという動力によって動く道具で、要するに現実世界における「電動の道具」のようなもの。武器で叩くことでスイッチが入り、もう一度叩くことでスイッチがオフに。「ゾナウギア」にはたとえば、風を作り出す扇風機のようなアイテムが存在している。

「ゾナウギア」と「ウルトラハンド」を組み合わせて使えば、たとえば「ゾナウギア」の力で風を生み出し、自動的に推進するトロッコやイカダ、空中を自由に移動する飛空艇などといったものが作れてしまう。もちろん、ゲームが進めばそのバリエーションはさらに増えていく。

ここで行われているのはつまり、設計と創造だ。自然界に存在するものを創意工夫で活用していた前作から、本作は「世界を活用」した上で「道具を創造する」という次元へ発展させている。

ではこの「創造」によってどんな楽しさが味わえるのか? それは、「創造する楽しさ」だろう。

言葉遊びで煙に巻いているように感じるかもしれないが、そうではない。そもそも「創造」すること自体が、面白さを持っているのだ。おもちゃの世界に目を向けてみると「レゴブロック」が、ゲームの世界であれば「マインクラフト」がすでに「創造」することは楽しいと証明してくれている。

さらに、「移動」のおもしろさも増している。地続きのマップを持つ「オープンワールド」では、「どう対応するか」という自由度がおもしろさだと書いた。そして本作は、「どう移動するか」という自由度が圧倒的に高い。

普通に移動してもいいし「ウルトラハンド」で乗り物を作ってもいい、そこに「ゾナウギア」を組み合わせて自動化することもできるが、それだけではない。「トーレルーフ」を使って天井を越えたり、「モドレコ」を使って乗り物を逆方向へ動かしたり……ということを組み合わせたら、さらにさまざまな移動が可能になる。

前作で「オープンエアー」という言葉の元に目指したのは「プレイヤーがその世界の一部になるような世界」とのことだが、本作の場合は「プレイヤーがその世界を拡張している」かのようだ。

Switch本体&前作と一緒に購入しても後悔することのない一本

正直なところ本作は、単におもしろいゲームではなく、これほどまでにおもしろいゲームが出ることはなかなかない……というレベルの作品だ。これまでに「ゼルダの伝説」シリーズを一作もやっておらず、Nintendo Switch本体も持っていない人が本体と同時に購入しても満足できるのではないかと思う。仮に前作をやっていないとしても体験する価値はある。

ただ、前作は前作で「これほどまでにおもしろいゲームが出ることはなかなかない」という傑作なので、買うなら同時に購入するのもオススメ。一時期はNintendo Switch本体が売り切れていてなかなか買えなかったが現在は解消しているし、Nintendo Switch Onlineの有料プランに加入することで購入可能な「2本でお得 ニンテンドーカタログチケット」を使えば、2本まとめて9980円(税込み)でお得に買える。

興味を持っているなら、購入を渋る理由はないと言っていい。

筆者は小学生2年生から現在まで40年近くのゲームをプレイし続けているが、ここまで長く、大量にゲームをプレイしていると、中にはプレイしたことを忘れてしまうタイトルもある。だが本作をプレイしたことは決して忘れないだろう。思い出に残る……いや、魂に刻まれる一作だ。

『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』をプレイすることができてよかったと、心から思う。

文/田中一広

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