「一方的な援助ではなく持てる力を交換する生活を書きたかった」津村記久子さんインタビュー(1)

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「一方的な援助ではなく持てる力を交換する生活を書きたかった」津村記久子さんインタビュー(1)

母親とその再婚相手への反発から、家を出た18歳の姉と8歳の妹。世捨て人のように生きてきた若い男。

津村記久子さんの新作『水車小屋のネネ』(毎日新聞出版刊)は、さまざまな事情から水車小屋のある街にたどりついた人々が、地元の人々に支えられ、そして自分にできることで恩返しをしながらその土地に根を張り、少しずつ自分の人生を切り拓いていく物語。劇的な変化もなければ、価値観を揺さぶるような出会いもない。しかし、そこには人間にとって必要な心の交流がある。

この物語がいかにして構想され、書き上げられたのか。津村さんにお話をうかがった。

■「水車」と「ヨウム」 2つのキーワードから始まった大長編

――じわりと心が温まるような、背中をさすられるような小説でした。昨年の七月まで一年ほど夕刊に連載されていた作品ですが、書きはじめのアイデアはどのようなものだったのでしょうか。

津村:「一年間で750枚書いてください」ということをまず言われて、心配だったのが途中で書くのに飽きてしまうんじゃないかということでした。何を書いていても「もう嫌や…」となる瞬間がくるので。

そうならないように自分の好きなものについて書こう、と。私は賢い動物が好きで、なかでもヨウムについてはいつか小説で書いてみたいと思っていました。ヨウムは人間が話す言葉を覚えて話すのですが、年老いたヨウムが生涯で覚えた言葉をランダムに話し始めて、その言葉を覚えたシチュエーションがどんなものだったのか、という小説を前々から考えていたりもしましたし。

それと「水車」も好きで、水車についての本を読んだり見に行ったりしていたので、この2つが入った小説なら書けるだろうと思ったのが最初ですね。

――都心部にいると水車を見かけることはありませんが、少し離れるとあったりしますよね。

津村:私が見に行ったのは中山道の宿場町だった岐阜県の馬籠や、奈良と大阪の県境の生駒です。辻小谷というところなのですが、山の上の方に製薬に使っている水車があるんです。滋賀の東近江の水車資料館にも行きました。

――製薬に使う水車は作中にも出てきますね。

津村:そうですね。水車で何ができるかって調べていくと結構あるんです。製材もそうですし、製鉄にも使われたりします。

水車とヨウムをどうするかというところで、「水車の番をするヨウム」というのを考えました。そしてそのヨウムの周りにはどんな人が集まってくるか、というようにアイデアを膨らませていった感じです。作中では40年の時が流れるのですが、それはヨウムが長生きだからです。短命ならもっと短い話になったと思います。

――YouTubeにヨウムの動画がたくさん出ていますが、アレクサに話しかけたりしていて驚きました。

津村:ものすごく賢いんですよ。あと、地味なのがいいですよね。青みがかったグレーでインコだと言われると意外に思うぐらい地味じゃないですか。

単行本化にあたっての予備取材でヨウムを飼っている方にお目にかかったのですが、その方に飼われているヨウムは背中を撫でられるのが嫌いなんですよ。そういう特徴は作中でも参考にしています。

――まつぼっくりが好きなのもヨウムの特徴なんですか?

津村:それはヨウムの一般的な特徴だと思います。有名な「アレックス」もまつぼっくりが好きでした。私が取材した「トリンさん」というヨウムはガムテープの芯とか段ボールをいじるのが好きでしたね。

――750枚という長編です。これだけ分量的にも作中で過ぎる時間的にも長い作品は書き上げた時は感慨深いのではないですか?

津村:「終わったな…ようやく書けた…」とは思いました。どの作品も書き上げる直前になると寂しくなるのですが、そうはいっても書き上げた瞬間はうれしいです。

――登場人物に愛着を持って書かれている印象を受けました。書き終わってもう彼らを書けなくなるという寂しさがあるのでしょうか。

津村:十分書いたなとは思っていますよ。ただ、ヨウムの「ネネ」をもらってきたおじいさんの話はいつか書きたいですね。

――都会から特急で郊外に一時間ほどの場所が舞台となっています。どことなく秩父を想像したのですが、モデルとなった場所はあるんですか?

津村:どこにでもあるような「都会から特急で一時間から二時間くらいの場所」ということで、そこは読者の方々がそれぞれに想像していただけばいいと思いますが、名古屋と長野県の塩尻を結ぶ特急「しなの」の沿線がモデルになっています。

私は2015年から2017年にかけてサッカーのサポーターの小説を書いていて「松本山雅FC」とか「ヴァンフォーレ甲府」を取材する時に「しなの」に乗ってたんですが、車窓から見える渓谷の風景が大好きで、750枚書くとなった時に、長野とか「しなの」の沿線のことなら書けると思ってモデルにしました。傾斜の多い土地なのできっと水車もあるだろう、ということで。

――18歳と8歳の姉妹が、母親とその再婚相手への反発から、家出ではなく「独立」という形で、舞台となる町に移住して、地域に根を張っていくストーリーです。姉妹をはじめ各登場人物が様々な人と関わり、助けたり助けられたりしながら生きていく姿は、人間の生活の原点を見るようでした。この作品を通して津村さんが表現したかったことを教えてください。

津村:先ほどのお話にもありましたが、まず水車ありきで始まった小説で、水車の周りにはどんな人が集まるのか、という風に想像して登場人物を作っていきました。

特に「人間のこういう部分を書きたい」という思いがあったわけではありません。ただ、自分が「水車小屋の番人」を描くとしたらどんな人だろうと考えた時に、血縁に恵まれないというか実家を頼れなかったり、親が力になってくれない人が想像できたので、そういう人が無理のない範囲の親切をいろんな人にもらうことによって、次第に自分も誰かに何かを与えられるようになり、しっかり生きていく姿を書きたいとは思っていました。

――姉の理佐にしても、妹の律や世捨て人のようだった聡にしても、誰かに少しずつ支えられるだけでなく、自分ができることで恩返しをしながら生きていますよね。

津村:誰かが生活を丸抱えして面倒を見るわけでもなく、誰かが誰かの人生を変えることもなく、みんな自分ができる程度のことをして支えあっています。

理佐の場合は蕎麦屋の浪子さんにはできないことができた人(浪子さんはアレルギー体質のため鳥の世話ができない)なので、浪子さんからしたら理佐はありがたい。理佐からしたら住み込みで働けるのはありがたい。そうやって一方的な親切ではなくて助け合い、力を交換することで成り立つ生活を書けたらいいなと思っていました。

(後編につづく)

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