実家じまい跡に65平米コンパクト平屋を新築。家事ラク&ご近所づきあい増え60代ひとり暮らしを満喫
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一戸建てマイホームといえば「2階建て3LDK以上」が一般的でしたが、70平米前後の平屋が少しずつ需要を伸ばしています。実家の土地を相続したのをきっかけに、60代で家を建てることにしたTさんもそのひとり。「家との出合いに感謝している」と話すTさんの、約65平米・2LDKの家づくりストーリーを通して“コンパクト平屋”の可能性に迫ります。
実家の土地を相続したのを機に、単身で家を建てることを計画
都会でひとり暮らしをしてきたTさん(60代・女性)は、約20年前、両親の介護をするために埼玉県郊外の故郷にUターン。その後、15年ほど実家で生活しますが、両親を見送ったことで50代後半のときに再びひとり暮らしになります。
まずTさんを悩ませたのは、実家が立つ広大な土地にかかる、多額の相続税でした。悩んだ末、土地の半分を売って税金の負担を軽くするのがベストだと判断。次に浮かんだのは、「これからの住まい方をどうするか」ということだったと言います。
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T邸の敷地は旗竿地。庭は外部から視線が届きにくい位置にあるため、プライベート感が漂います(写真撮影/片山貴博)
「実家は私が中学生のころに両親が建てたもので、築50年近く経っていたため、断熱性や耐震面で不安がありました。一戸建てであることは気に入っていましたが、110平米もあるため、広過ぎてひとりだと使いづらくて。以前から『人生の後半は豊かな暮らしがしたい』と思っていたこともあり、土地を売却し、手元に残った資金で新しい家に住み替えようと思い立ちました」(Tさん)
Tさんにはマンションを購入して都心に住む選択肢もありましたが、相続した土地に新築することを考えます。それも“コンパクトな平屋”にすることが大前提でした。
「集合住宅だとどうしても、コミュニティと疎遠になりがちではないでしょうか。うちの家族は昔から近所づき合いが大好きだったので、近隣の方が気軽に遊びにきてくれる家にしたかったですし、自然に親しみがあったため、地面に近い暮らしをして、家庭菜園を楽しみたいとも思いました。幼いころから慣れ親しんだ敷地に、ひとりで住むのにほどよいサイズの平屋を建てるのが、一番、好ましかったのです」(Tさん)
建築会社との出合いで問題が解決し、家づくりが現実に
とはいえ「ひとりで家を建てるなんて、無理に違いない」とTさんは当初、家づくりに及び腰だったそう。しかし、建築会社の担当者に話を聞いてもらうなかで「私にもできるかも」と思うようになったと言います。
「ネックになったのは費用面です。というのも相続した不動産は、実家の敷地部分と、そこに隣接する野菜畑。野菜畑のほうが、日当たりが良かったので、そちらに建てたかったのですが、建築資金を得るには『売り先行』で実家側の土地を売却しなければならず、そうなると、住んでいる実家をすぐに出ていかなくてはいけません。それを建築会社の担当者に打ち明けたところ、『うちで不動産事業もしているので、土地を買い取りますよ』と、買主になることで資金面の融通をつけてくれることになったのです」(Tさん)
そうしてTさんは、建築会社と工事請負契約を結び、以降4カ月ほど打ち合わせを重ね、プランを詰めていきます。
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Tさんの平屋は2LDK・65平米。北側の個室は主に収納に使っていて、クローゼットを大きめにつくってもらいました。
「照明ひとつを選ぶにしても、実際どんな空間になるかは、なかなかイメージできません。それをひとりで決めなくてはならないので、想像力が限界に達するほど大変でした。それでも乗り越えられたのは、建築会社が家族のように親身になってくれたおかげです」(Tさん)
「年を重ねるほど気力も体力も衰える」と感じていたTさんは、「60歳を目途に完成させよう」という強い気持ちで話を進めていったと話します。
ほどよいサイズの平屋で、良好な近所づき合いと自然を満喫
そうして約1年半前に竣工したのが、約65平米・2LDKの平屋です。
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アメリカ・西海岸の住宅を思わせる、下見板張りの平屋。玄関とひとつながりにしたカバードポーチが、くつろいだ雰囲気を醸し出します(写真撮影/片山貴博)
LDKは吹抜け、約27平米、17畳弱のゆったりした空間。リビングの延長には約10平米のカバードポーチ(屋根つきのウッドデッキ)が配置されていて、近所の人たちとの格好の交流スペースになっています。
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ウッドデッキは屋根つきなので、雨天でも活躍。「道路から見えるためか、近隣の方が気軽に遊びにきてくれるようになりました」(Tさん)(写真撮影/片山貴博)
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勾配させた屋根裏を現しにしているため、LDKは開放感がいっぱい。無垢の木の梁が、あたたかなムードを加えます(写真撮影/片山貴博)
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キッチンの一角に仏壇を設置。「日常で自然と接することができ、いつも一緒にいる気持ちになれるので、一番いい場所におさまりました」(Tさん)(写真撮影/片山貴博)
「『人とつながりを持ち、自然とも触れ合いたい』という思いから、ウッドデッキと窓のサイズを大きくしました。自然をダイレクトに感じられるのはもちろんですが、不思議と若いご家族にも立ち寄ってもらえるようになって。お友だちが増えたのは、とても嬉しい変化です」(Tさん)
掃除が断然ラクになるミニマムサイズの平屋は、この先の強い見方
T邸の扉はすべて“上吊りタイプ”のため、床にはレールがなく、すみずみまでフラット。「ひとり暮らしに3つは多すぎる」と個室は2つにとどめ、上り下りが必要になるロフトなどは一切設けませんでした。
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扉はすべて、敷居が不要な上吊りタイプ。「リビングの床をコンクリートにすることもできましたが、足が冷えると思い、無垢の床で統一しました」(Tさん)(写真撮影/片山貴博)
「最初はLDKと寝室があれば十分だと思ったのですが、やはり荷物専用の部屋が必要だと思い2LDKに。もしこれがファミリー世帯だったら、少しでも部屋を広く使ったり、いろいろな造作を設けたくなったりしたでしょう。でも私にはこれが最適でした」(Tさん)
「ひとり暮らしならではのシンプルで使い勝手のいいつくりが気に入っている」とTさん。
「必要最小限の広さであること」「生活のなかで上下の移動がないこと」「床に段差のないこと」により、格段の暮らしやすさが生まれていると話します。
「床が平坦だと掃除がしやすくて、気がついたときにサッと掃除機をかけられます。ミニマムな平屋だけにキッチン・バスルーム・トイレが近くにまとまり、少ない移動で用事が済むのもよいです。
年上の先輩から『年々、動くのが面倒になるよ』と聞きますし、実際、階段から落ちてケガをする80代の方の話を耳にします。この先の体への負担を考えても、正解だったと思いますね」(Tさん)
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洗面スペースはあえて扉を設けず、トイレや洗面室も、開け放てるよう引き戸にして広さを確保。洗面室・洗濯スペース・トイレが行き来しやすいつくりになっています(写真撮影/片山貴博)
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玄関は、廊下とLDKの2方向からアクセスが可能。廊下側の通路にはシューズクロークがあり、靴や鞄を置いたり、出がけにサッとコートを羽織ったりできます(写真撮影/片山貴博)
強固な構造により耐震等級3をクリア。冷暖房費の削減にも成功
メリットが見られる平屋ですが、「耐震面でも理に適っている」と話すのは、設計を担当したヒロ建工の淺見貴寅(あさみ・たかとも)さんです。
「もちろんほかの建物でも耐震性は出せますが、平屋だと2階以上の住居に比べて上部からかかる負荷が少ない分、強固につくりやすいといえます。65平米のT邸は面積の都合上、減税の対象となる『長期優良住宅』の対象外で、認定を受けられませんでしたが、『耐震等級3』はその条件を優に満たしています。そのため『住宅性能評価書』を取得することで高品質な住宅であることを証明し、減税措置を受けられるようにしました」(淺見さん)
断熱面では、断熱材を専任の大工が施工するほか、第三者機関による品質チェックを入れて精度を徹底したと言います。
「家全体が魔法瓶のように冷気・暖気を逃さないため、年中、快適に過ごせます。冷暖房費が思ったよりかからないことに驚きました」(Tさん)
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優れた断熱性能によりLDKは年中、快適。ここではヨガにDIYにと趣味にいそしみます(写真撮影/片山貴博)
快適な平屋でオフは趣味に没頭。かけがえない家との出合いに感謝
現在はマイペースに週3回だけ仕事をしているTさん。たっぷりある自由時間はDIYで家具にペイントしたり、ヨガにいそしんだり、自分らしく過ごすことに使っています。
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家を建ててから「全部、自分でつくる」という意識が芽生えたTさん。カラフルな箪笥やスツールは、愛着ある実家の家具をペイントしたもの(写真撮影/片山貴博)
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軒先に小さな花々を植えるための花壇をDIY。庭では木を植えたり、夏に野菜を育てたりして楽しむ予定(写真撮影/片山貴博)
「この家にいると旅先のコテージを訪れたようにリラックスできて、『毎日、わが家にいたい』『早く帰りたい』という気持ちになるのです。つくづく人だけでなく“家”にも出合いがあるのだと実感。とても幸せな気持ちで暮らしています」(Tさん)
「コンパクトな平屋はシニアにこそおすすめ」とTさんは続けます。
「とくに女性だと『家を建てるなんて無理』と思われるかもしれませんが、私にもできました。参考にしてもらえたら、こんなに嬉しいことはありません」(Tさん)
都会での生活に両親の介護にと、人生のさまざまな経験を経てたどり着いた平屋という選択。充実した暮らしぶりが、新たなひとり暮らしのあり方としての可能性を物語っていました。
●取材協力
ヒロ建工
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