かけがえのない自治体パートナーを探せ!官民連携プロジェクトを成功させるための第一歩とは?

自治体と連携し官民一体となって、社会貢献や事業開発、人材育成などに取り組もうとする民間企業にとって避けられない最初の壁はパートナーとなる自治体探しです。かけがえのないパートナーとなる自治体を探すためにどのような点に着目、検討するべきか…。

一般社団法人官民共創未来コンソーシアム 代表理事の小田理恵子氏に、民間企業の視点から解説していただきます。

連携先を探すチェックポイント

多くの民間企業が自治体と協働で社会課題に取り組み始めています。社会貢献や事業開発、人材育成など、企業が自治体と連携する目的は様々ですが、そうした自治体を選ぶ際に共通して押さえるべきポイントについて説明します。

一口に自治体といっても、目指す方向や組織のあり方は全く異なります。民間でも同業と言えど会社が異なれば全く別物であるように、自治体もそれぞれ異なる性質を持ちます。

民間企業が付き合う自治体を選ぶ際のチェックポイントは以下の3点です。

1)官民連携の仕組みや組織を持っているか
2)首長(市長や町長)が官民連携やその取り組みに熱意を持っているか
3)担当職員が官民連携やその取り組みに熱意を持っているか

官民連携の仕組みや組織が自治体にあるか、庁内に熱意のある首長や職員がいるかで、その後の進捗・成果が大きく変わります。

1)官民連携の仕組みや組織を持っているか

1-1)官民連携の仕組みがある自治体
10年ほど前から、自治体の中で民間企業や学識などと連携するオープンイノベーションの仕組みを作る動きが出ています。民間企業からの提案を受け付け、あらかじめ定められた基準に従って提案を選定します。基準とプロセスが定義され、自動化された「仕組み」です。その先駆けとなるものが、横浜市の「共創フロント」や神戸市の「Urban Innovation Japan」などです。

また、横瀬町(埼玉県秩父郡)の「よこらぼ」は、小規模自治体ならではの機動力を活かして、社会問題に向き合う企業や、イノベーター人材と密に連携することで“顔の見える関係”を築いています。

こうした官民連携の仕組みを持つ自治体は、手順や基準に従って組織的に動くことができます。連携の窓口や基準がない場合、企業は官民連携の必要性を説明して自治体に納得してもらう必要があります。なぜ民間企業と連携するのか、なぜその企業なのか、ということを自治体へ説明、説得することには時間と労力を要します。このハードルがあらかじめクリアされている点は大変魅力的です。

図:官民連携の仕組み(一例)
1-2)専門組織がある自治体

官民連携の仕組みはないが、専門組織を持つ自治体もあります。官民連携課を設置していたり、官民連携担当が各課に配置されていたりしますが、提案受付の窓口や選定基準などが定められていません。

民間企業からの提案を受け入れる意思を持って組織を設置し、意識の高い職員が配置されています。仕組みが定められていないことは、担当職員の労力や熱意に左右されるリスクとなり得ますし、ステークホルダへの説明コストを高めますが、組織内に官民連携の経験値が蓄積されていることで組織がない自治体よりも、はるかに付き合いやすいと言えるでしょう。

1-3)連携の仕組みや組織がない自治体

官民連携の仕組みや組織がない自治体は、民間の提案を受け付ける窓口もなければノウハウの蓄積もありません。こうした自治体は官民連携をどうやって進めたらよいか分かっていません。

自治体との連携経験があまりない企業や、経験豊富な外部のアドバイザーがいない場合は避けた方が無難です。

2)首長が官民連携やその取り組みに熱意を持っているか

民間企業からの提案は、その自治体にとって初めての経験となる事業がほとんどです。未知の領域に踏み込むにはトップの意思が成否を左右するといっても過言ではありません。

現場から新しいことに挑戦する稟議を出したとしても上長、またはその上の管理職から否決されてしまうことはよくあります。前例主義、事例を重視する自治体の幹部職員の多くに「成功すると決まっているものしかGOサインを出さない」マインドが蔓延していることが原因です。これが必要なのだという熱意と意思で、トップが幹部職員を説得する必要があります。

3)担当職員が官民連携やその取り組みに熱意を持っているか

いくらトップが必要だと声高に叫んだとしても、実務に落とし込む職員がいなければ、計画倒れで終わってしまいます。官民連携はトップ(意思決定)と職員(実務)の両方が揃ってこそ実現します。

ただし、どちらか片方にしか“企業の味方”がいない場合、民間企業が補足することで実現にこぎつけることは可能です。

職員に熱意があるが、トップが熱心ではない場合、庁内合意を取り付けるまでに民間側は説明資料や説得材料を提供するなど労力が必要です。

一方、首長に熱意はあるが、職員の協力を得られない場合、計画はすんなり通りますが、その後の実務面で企業の負担が増します。職員の労力をあてにせず進められるよう計画段階から人員やタスクを見積っておく必要があります。

連携しやすい自治体とパートナーの選び方

ここまでのチェックポイント3点をマトリクスにしました。

左上が最も推進しやすく、右下になるにつれ難易度が上がります。

また、難易度だけでなく、その後の連携事業の中で自社側の作業負荷がどこにかかってくるかを推し量ることができます。連携先の自治体がどこに該当するか確認してみて下さい。

この中で気を付けたいのが、熱意のある職員がいるが、仕組み・組織がないケースです。職員の中には、熱意がある故に組織の合意を取り付けずに、独断で進めてしまう方がいます。この場合、途中で組織からの横やりが入って計画が中断してしまうことがあり得ます。

企業から「自治体が非常に協力的だったのに、ある日突然計画中止と言われて担当者も変わってしまって困っている」という相談を受けると、職員の独断専行ケースが原因だったことがほとんどです。熱意のある職員が組織内の合意を取り付けてくれれば良いのですが、独断で進めてしまうと組織の反発を招きます。組織の合意があるかを確認して、必要に応じて担当者の後押しをしましょう。

やりやすさだけを求めず、柔軟な発想も大切

さて、最も進めやすいのは、官民連携の仕組みを持っており、首長と職員が熱心な自治体です。しかし、どの企業もこうした自治体と付き合いたいと考えますので、多くの民間企業が集まるレッドオーシャンでもあります。

やりやすさだけを求めず、戦略と求める成果によって柔軟に付き合う自治体を判断することも良いでしょう。今まで企業と付き合ったことがない自治体がかけがえのないパートナーとなる可能性もあります。

こうしたチェックポイントとなる情報は自治体のHPの組織図や各種計画情報から仕組みや組織を知ることができます。また、「オープンイノベーション+自治体名」「官民連携(官民共創)+自治体名」などでインターネット検索を行ってリサーチすることもできます。

首長や職員の熱意に関しては、実際に付き合ってみることが大切ですが、会話を交わすだけでも分かることがあります。これは多くの首長や職員と話をすればするほど、その感覚が養われますので、自治体と繋がるイベントやワークショップに参加して自治体との接点を増やしてみましょう。

動画やインタビューなどで自分の哲学や考えを発信する首長も増えました。是非そうした機会を活かし、自社に合った自治体を発見するための感性を養ってみて下さい。

<著者プロフィール>
小田理恵子
一般社団法人官民共創未来コンソーシアム
代表理事

大手SI企業にてシステム戦略、業務プロセス改革に従事。電力会社、総合商社、ハウスメーカーなど幅広い業界を支援。

自治体の行政改革プロジェクトを契機に、地方自治体の抱える根深い課題を知ったことをきっかけに地方議員となることを決意し、2011年より川崎市議会議員を2期8年務める。民間時代の経験を活かし、行財政制度改革分野での改革に注力。

地域のコミュニティと協働しての新制度実現や、他都市の地方議員と連携した自治体を超えた行政のオープンデータ化、オープンイノベーションを推進し国への政策提言、制度改正へ繋げるなど、共創による社会課題解決を得意とする。

現在は官と民両方の人材育成や事業開発(政策実現)の伴走支援・アドバイザーとして活躍。

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Techable

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