冬の富山で紅ズワイガニ&寒ブリを満喫。勝興寺で七不思議探し
紅ズワイガニと寒ブリという富山を代表する海産物がある。冬はその両方を同時に楽しむことができる季節だ。富山に行かなければと強く思う。だって食べたいじゃない。私は普段、このように原稿を書いたり、写真を撮ったりしている。胃袋というファインダーにカニもブリもおさめたいのだ。
ということで、富山に行くことにした。東京から遠くないのだ。JR東京駅から北陸新幹線に乗って2時間半ほどでJR富山駅に着いてしまう。そこからはバスや列車に乗って、カメラと胃袋という2つのファインダーに富山の食をおさめたいと思う。
東京駅
富山の冬の味覚を求めて
日本海に面する富山県。3,000メートル級の山々が連なる立山連峰と水深1,000メートルを超える富山湾を有している。森は海の恋人というように、良質な水が山から海へと流れ込む富山湾は、プランクトンが豊富で天然の生簀(いけす)ともいわれている。
そんな富山を目指し、東京駅から北陸新幹線に乗った。
日本海には約800種類の魚介類が生息していて、富山湾では約500種類を見ることができるそうだ。半分以上が富山湾にいるのだ。それだけ海が豊かなのだろう。楽しみだな、と窓の外を流れる景色を見ているうちに富山駅に着いた。あっという間だ。
富山駅
富山ぶりかにバスに乗る
例年、10月から3月いっぱいまで、富山駅前から「富山ぶりかにバス」が出ている。素敵な名前だ。食べたいものが全てバスの名前になっている。
私の目的地は「新湊きっときと市場」。ここでまずはカニを食べる。ただのカニではない。富山の漁業者は紅ズワイガニを「アカガニ」と呼んでおり、県の地名ゆかりの「高志(こし)」と高い志を重ねたネーミングを持つ「高志の紅(あか)ガニ(※)」を食べるのだ。
※編集部注:富山湾で獲れる紅ズワイガニが「高志の紅ガニ」と呼ばれています
高志の紅ガニの美味しさの一つは鮮度にある。漁場が近いため水揚げまでの時間が短いのだ。長くても12時間程度で水揚げされる。沖合漁業の場合は120時間ほどかかることを考えると12時間は驚異的な短さだ。
新湊きっときと市場
昼セリを見学する
新湊きっときと市場は、お土産屋や富山湾の海産物を食べることができる飲食店などが入っている。その裏に「新湊漁港」があり、高志の紅ガニの漁期である9月から5月まで昼間(12時半から)に昼セリを行っている。朝、東京を出れば、昼セリを見学できるのだ。まずはそれを見学する。(※)
※編集部注:昼セリ見学は大人・小人100円(税込・予約制)。詳しくはこちら
カニの絨毯とでも言えばいいのだろうか。高志の紅ガニが並んでいる。あとで聞いたら、この日は3,000杯くらい並んでいたそうだ。カニは茹でると赤くなるイメージがあるけれど、紅ガニは名前からもわかるように、茹でる前から赤い、いや紅い。
セリは独特の掛け声で行われ、素人の私には何を言っているのか全然わからなかった。流れるような速さでセリは進んでいき、どんどんと競り落とされていった。終わった後にこの辺りを歩いていたら、紅ガニをのせたトラックとすれ違った。
新湊かに小屋
新鮮な食べ放題
新湊きっときと市場から徒歩1分ほどの場所に「新湊かに小屋」というお店がある。さっき私が見学をしていた昼セリで競り落とされた高志の紅ガニを食べることができるお店だ。水揚げまでの時間も早ければ、私が食べるまでの時間も早い。
先程競り落とされた紅ガニがもう茹でられている。まず真水で絞めて、20分ほど茹でる。辺りにはカニのいい匂いが立ち込めている。今回、私は食べ放題を予約した。(※)60分間、高志の紅ガニが食べ放題なのだ。食べ放題と書いて天国と呼びたい。
※編集部注:予約した「昼セリ見学&新湊かに小屋で味わう高志の紅ガニ食べ放題プラン」について詳しくはこちら
上記の写真は私が例外的にカニの表面をカメラに向けているけれど、市場に並んでいる時も、茹でる時もカニは基本的に裏側を向いていた。これには理由があって、カニの旨みが甲羅に溜まるようにらしい。ただでさえ高志の紅ガニは水揚げしてから茹でるまでが短いので、水分が豊富。それをこぼしちゃうのはもったいないというわけだ。
自分で剥いて、食べ終わったらおかわりできる仕組みだ。食べると高志の紅ガニの美味しさに驚く。柔らかく、あまり海産物に使う言葉ではないと思うけれど、ジューシーなのだ。甘みと旨み。ありがとうと言いたかった。富山の恵みにありがとうと言いたくなる味なのだ。
3杯ほど食べた。やはり素人の私にはカニを剥く作業は難しい。ちなみに、お店の方にお話を聞くと、5分で剥けると言っていた。高志の紅ガニは深海に生息するので殻が柔らかいのも特徴。そのためなのか、お店の方は殻を割るとか、関節を折るとかではなく、なんと言えばいいのかわからないけど、と言っていた。とにかく割るとか折るではない、素人には理解できないコツがあるようだ。
万葉線に乗り高岡駅へ。今日はこの近くのホテルに泊まる。
氷見漁港 魚市場食堂
早朝にブリを食べる
そして、次の日になった。この日は朝早かった。まだ陽は昇っていない。
JR高岡駅から氷見線に乗ってJR氷見駅を目指す。30分ほどの道のりだ。今日は寒ブリを食べに行く。6時半からやっているお店で、人気なので早朝に行くわけだ。昨日はカニで今日はブリ、幸せだ。
氷見線は、全国的に有名な雨晴海岸沿いを走った。松尾芭蕉が「わせの香や分入右は有磯海」と詠み、大伴家持は「立山に振りおける雪を常夏に見れども飽かず神からなし」と詠った。ただ、この日は天気がイマイチで立山を望むことはできなかった。
氷見駅からは歩いて15分ほど、氷見漁港を目指す。最短の道ではないけれど、せっかくなので海岸沿いを歩いた。富山湾を心のファインダーに収めたかったのだ。穏やかだった。ここに「富山湾の王者」と呼ばれるブリがいるのだ。
ブリの故郷は、九州の五島列島付近、暖かい海と考えられている。春から夏にかけて対馬海流に乗って日本海を北上し、北海道周辺で秋を過ごす。水温が下がり始める晩秋に南下を始め、富山湾にやってくる。産卵のためにたっぷり脂を蓄えた寒ブリだ。前田利家は献上品としてこの寒ブリを秀吉に送っている。つまり美味しいのだ。
氷見漁港の2階に「魚市場食堂」はある。絶対に美味しいだろうと食べる前からわかってしまう雰囲気を持っている。実際に食べたからわかるのだけれど、美味しいです。
富山では、ツバイソ・コヅクラ・フクラギ・ガンド・ブリと、成長具合でブリの呼び名は変わっていく。ブリは出世魚なのでどの地域でも名前が変わる魚だが、呼び方は地域で異なる。でも、最終的にはブリなのだ。そして、私はブリを食べるのだ。
分厚い、そして溢れんばかりにブリ。しかもいろいろな部位がのっている。400年以上の歴史を持つ越中式定置網で獲れた寒ブリだ。秀吉も食べたブリだ。それがもうご飯の上にドーン。しかも、漁師汁もついていて、そちらにもブリは入っている。
もはやアートと呼びたいほどに美しい。食べるとやはり美味しい。身が締まっており、臭みはなく、脂が乗っている。美味しいとはこういうことなんだ、というお手本のようだ。ありがとうと言いたかった。富山の恵みに。
勝興寺
国宝を見に行こう
氷見駅から再び氷見線に乗り15分くらい、JR伏木駅で降りた。2022年に国宝に指定された「勝興寺」に行くためだ。勝興寺は、駅から歩いてすぐ。本堂(国宝)は、浄土真宗寺院では屈指の規模で、江戸後期を代表する大型寺院建築なのだ。
このお寺には「実ならずの銀杏」「天から降った石」「屋根を支える猿」などの七不思議がある。また「デカローソク」のお寺としても有名だ。本堂に入るとわかるのだけれど、ローソクがデカいのだ。大きいと言わず「デカ」というところが素敵だ。
富山県は西日本なのか、東日本なのか、と、本堂で内陣(御本尊を本堂内部にて安置する場所)を見ていると西日本だと納得できた。浄土真宗には西と東があり、ここの内陣は西の特徴がある。金色なのだ。東は柱などに黒を使うけれど、勝興寺は綺麗に金色。西日本だ。
そういえば、ブリの幼魚を富山では「ツバイソ」と呼んでいたけれど、西日本の方言である「ツバエル(戯れる)」から来ているという説がある。言葉の面からでも富山県が西日本であることがわかる。
とても静かで美しいお寺だった。紅ガニとブリと、2日も続けて幸せを味わったので、この後も幸せが続きますようにと手を合わせ、お寺を後にした。
新高岡駅
食は富山にあり!
いい旅だった。たらふく美味しいものを食べ、美しいお寺を歩く。これ以上に何を求めればいいのか。強いて言えば、と考えてみたけど、特に何も浮かばないほどいい旅だった。マジで美味しかった、カニもブリも。
伏木駅から、高岡駅とJR新高岡駅を経由して東京へと帰った。富山の全てを味わったとは、まだ言えない。海岸地域だけで考えても、白エビとかホタルイカとかもあるのだ。ホタルイカの旬は春だし、季節ごとに名物があるのだ。ズルい。また来なければならない。だって絶対に美味しいもん。
東京駅
掲載情報は2023年3月7日配信時のものです。現在の内容と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
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