78歳は体力低下の転換期!?70歳を過ぎたら日常生活動作と深呼吸を大切に

78歳は体力低下の転換期!?70歳を過ぎたら日常生活動作と深呼吸を大切に

70歳代は人生100年を生きる体力を培(つちか)う時?!

40年に及び診療していますが、70歳代の日本人女性は、とても肌艶が良く、元気な印象です。動きも60歳代に比べて遜色ありません。日本人女性の平均寿命(2021年)は、87.57歳です(2022年7月厚生労働省)。80歳を超えてからの人生も10年近くあると言えます。一方、男性の平均寿命は81.47歳です。78歳から86歳くらいの9年間が平均的な寿命と考えられます。
アメリカ・スタンフォード大学で行われた研究(2019年)では、血液の中にある血漿タンパクが老化と関連し、34歳、60歳、78歳に大きなピークを迎えると伝えています。
70歳代の筋肉量は、20歳代の筋力を100%とすると

 上肢屈筋群 87%
 大腿伸筋群 60%

です。単純に言うと、物を持つ力はそんなに低下(約13%
)しないものの、歩く速さが、40%ほど遅くなる事を意味します。また、呼吸機能も大きく低下します。多くの女性が元気と感じるのに比べ、男性は60歳代と変わらず元気な人と体力が急激に低下して日常生活が困難になる人とに分かれる印象です。その理由はなぜなのかを研究している論文は沢山ありますが、ここでは元気ではない人を対象に話を進めます。
78歳頃から寿命が尽きて行く傾向にある男性にとっては、70歳代の過ごし方が、その後の人生を左右する体力の転換期とも言えます。

20歳代から60歳代までの体力に関しては、JIJICO内にある下記コラムをご参照戴きたく思います。
青春時代の体力転換期は26歳?体力低下を防ぐ秘訣はあるのか!?
人生100年時代を生きる体力の転換期は62歳?体力低下を防ぐ秘訣はあるのか!?

70歳から78歳の9年間が体力(筋力)の低下を感じる転換期!?

体力(筋力)は、20歳をピークとして、年々低下します。男性は女性に比べて筋肉量がありますので、70歳代になると体力が落ちたと感じるのも女性に比べて多いと考えられます。多くの男性は筋力低下を痛感している事と思います。特に、大腿部(ふともも)の筋力が低下しますので、起居や移動する動作が辛くなります。
東洋思想では人生の周期を9年で考えます。つまり、体力面においては老化のピークを迎える78歳の前9年間が転換期として捉えられるという事です。70歳からいかに体力の低下を防止するかが大切です。
文部科学省スポーツ庁が定期的に行っている体力・運動能力調査で、令和3年度のデータ見ると、「走れない」と答えた方が、

男性 65-69歳  4.95 %
   70-74歳  7.11 %
   75-79歳   8.24 %
女性 65-69歳  4.58 %
   70-74歳  8.37 %
   75-79歳  10.77 %

となっています。世代ごとに比率が高くなっています。
また、開眼片脚立ちを見ると、「できない」と答えた方が、

男性 65-69歳  1.25 %
   70-74歳  3.35 %
   75-79歳   7.49 %
女性 65-69歳  2.76 %
   70-74歳  4.57 %
   75-79歳  7.58 %

となっています。いずれも、下肢の筋力低下を示すデータです。60歳代後半から70歳代にかけて、筋力低下を顕著に感じる人の比率と言えます。
下半身の筋力低下を防ぐために、毎日ウオーキングやスクワットなどの筋肉トレーニング(以下筋トレ)をする事は有効です。また、週に数回しっかり汗をかくほどの運動も必要です。しかしながら、長時間運動する事が困難な年代です。また、筋肉の持続性が低下しているため、毎日こまめに運動する必要があります。
筋力の低下を感じる60歳以降は、以下の運動量が最低限必要だと考えています。

年代    週    日
60歳代前半週2日間1時間~1時間半
60歳代後半 週3日間  50分~1時間程度
70歳代前半週4日間40分程度
70歳代後半週5日間30分程度

まだ現役で働いている人も多い世代ですが、40歳~50歳代よりもなお一層運動する意識を高く持ち、60歳代前半から備えなえれば、70歳代も元気で過ごす事が可能です。

70歳代の体力(筋力)低下に有効な方法は日常生活動作(所作)!?

70歳代になっても、忙しい毎日を過ごしている方は、運動に時間を割く事が困難だと思います。また、運動する事が苦手な人は、億劫に感じる事でしょう。
私は、毎日の臨床を通じて、患者様に所作(しょさ)を大切にする事を勧めています。所作とは、日常生活動作の事です。
日本人は、靴を脱いで家に上がります。脱いだ靴は、しゃがんで、向きを変える動作(所作)をします。この動作を毎回怠る事なくすれば、下肢の筋力トレになります。また、床にある物を持ち上げる時も、腰を屈曲して取るのではなく、しっかり膝を折り曲げ、蹲踞(そんきょ)の姿勢から持ち上げれば、下肢の筋トレになります。日本人は、畳で生活していますので、正坐をして立ち上がる動作は筋トレになります。また、布団の上げ下ろしも筋トレになります。これらの動作(所作)は下半身の筋力低下に役立ちます。
しかしながら、1960年代から1970年代、団地が多く建設されるようになった頃から洋式スタイルの生活が併用され、椅子で生活する人が多くなりました。世代で言うと、60歳代前半より若い人です。生まれた時から洋式での生活スタイルという人が多くなっていると思われます。70歳代の方も、20歳代の頃には椅子での生活が多くなったのではないかと思います。また、畳に布団を敷いて就寝するよりベッドで寝ている人も多いのではないでしょうか。自分の体を支えて立ち上がる生活をする動作(所作)が少なくなっています。下肢の筋力低下が助長される生活様式と言えます。
また、上肢の屈筋群13%低下は、指の力が低下している事を意味します。物をつまむ動作や物を置く動作が苦手になって来ます。それを防ぐためには、茶わんや新聞等を置く時、音を立てないようにして静かに置く動作を毎回心がける事が筋トレになります。物を床にドンと置いている人は、全身の筋力が低下している事を意味します。物を放り投げるような所作を改めるだけで、筋力低下防止に役立ちます。食器を洗う力が落ち、きれいに洗えなくなるのも、70歳代の特徴です。シャツのボタンをスムースに出来ない人が増える世代でもあります。Yシャツを着る機会が少なくなると、ボタンをかける動作が要らない洋服を好むようになります。男性は、女性に比べると、食器洗い、裁縫や洗濯物干しなどをする人が少ない傾向にありますので、日常生活で指先を使う機会が少ない事も、指先の力が低下する要因として挙げられます。最近は、男女平等に家事労働をしている傾向にありますが、今の70歳代は、「男子厨房に入らず」の世代ですので、今も家事労働をしていない人が多いのではないでしょうか。そのため、指先の筋力低下を感じている人は少なくないのではないかと思います。毎日指を使う動作(所作)を的確に遂行すれば、筋力(体力)低下防止に役立つと考えます。

呼吸機能の低下が体力低下の要因?!

70歳代の人に見られる体力低下で特徴的な事の一つに、呼吸機能の低下が挙げられます。筋力低下と並び、多くの人が認識します。
呼吸機能の肺活量は、80歳になると30歳の約40~50%に低下すると言われています。若い時の半分以下ですので、かなり低下します。しかしながら、呼吸機能の「1秒量」が1ℓ以下にならないと自覚症状が現れにくいため、肺の基礎疾患がない人は、呼吸困難で日常生活が障害されることはありません。
「1秒量」とは、「努力性肺活量」のうちの最初の 1 秒間に吐き出された空気の量です。「努力性肺活量」とは、胸いっぱいに息を吸い込み、一気に吐き出した空気量の事です。つまり、1秒で、どのくらい吐く事が出来るかが、息苦しさを左右します。したがって、安静にして深呼吸している分には、呼吸機能の低下を感じません。
では、どんな時に呼吸機能の低下を感じるかというと、持続的な活動(動作)をしている時だと思います。その分析方法に、「運動耐容能」の評価法があります。「運動耐容能」とは、その人がどれくらいまでの運動に耐えられるかの限界を指します。運動耐容能の評価法として、「6分間歩行テスト」があります。このテストにより、

1.病気により日常生活において運動能力がどの程度障害されているか
2.どの程度の運動(歩行速度等)が適当であるか
3.間質性肺炎や慢性閉塞性肺疾患(COPD)など呼吸器疾患の重症度
4.酸素吸入が必要かどうか
5.酸素濃度が適当であるかどうか

の評価をしています。
 「6分間歩行テスト」は、6分間で出来るだけ早く歩くテストです。6分間で歩いた距離は、スポーツ庁の調査(平成27年度体力・運動能力調査結果)によると、

男性 65-69歳  620.19m (総数829)
   70-74歳  605.11m (総数846)
   75-79歳   579.19m (総数840)
女性 65-69歳  590.32m (総数833)
   70-74歳  565.59m (総数818)
   75-79歳  530.97m (総数807)

となっています。年代を追う毎に、歩ける距離は短くなっている事が分かります。つまり、歩く速度が遅くなっている事を意味します。
「6分間歩行テスト」は、酸素をうまく体内に取り込み、筋肉を十分活用しているのかがわかります。簡単に言うと、心肺機能が正常に働いているかが分かるという事です。60歳代後半と70歳代後半を比べてみると、大きな違いがみられます。呼吸機能の低下を最小限に抑える努力が必要な事を示すデータです。

70歳代の体力低下に有効な方法は深呼吸!?

呼吸機能向上に必要な事は、運動です。筋力向上にも不可欠ですが、70歳代は、腎機能、循環器や消化器など、様々な身体低下がみられる年代でもあります。運動する事自体困難な人も少なくないと思われます。関節に痛みがある、体調が悪い状態にある人は、ますます運動が遠のきます。
私は、運動が困難な患者様に、深呼吸を勧めています。呼吸機能が低下している人、普段深呼吸をしていない人は、1回4秒(吸息2秒吐息2秒)程度の人が多い印象です。少し頑張ると、1回6秒(吸息3秒吐息3秒)で出来ますが、何回も出来ないという人が多いように感じています。まずは、出来る所からスタートします。深呼吸する際は、毎朝決まった時間に決まった場所で行う事を提案します。窓を開けられる環境であれば、朝の新鮮な空気を吸い込むと良いでしょう。
1回の深呼吸を6秒からスタートした場合

①1回6秒(吸息3秒・吐息3秒)を3回 18秒 2週間

行います。2週間毎日行えば、深呼吸する習慣が身に付きます。徐々に呼吸するための筋肉が付きます。呼吸する姿勢は、立位が良いと思います。
3週間目には、2秒伸ばします。

②1回8秒(吸息4秒・吐息4秒)を3回 24秒 2週間

立っている事がつらい人は、椅子に腰かけて行います。深呼吸する時は、背もたれに背中を付けず、浅く腰かけ、背筋を伸ばして行います。
1か月を経過したら、次第に秒数を伸ばします。

③1回10秒(吸息5秒・吐息5秒)を3回 30秒 2週間
④1回12秒(吸息6秒・吐息6秒)を3回 36秒 2週間
⑤1回14秒(吸息7秒・吐息7秒)を3回 42秒 2週間

ここで約2か月半になります。この間、2週間毎に同じ秒数を行います。今日は調子が良いから1回12秒、今日は体調が悪いから1回8秒という方法は良くありません。毎日同じことを繰り返す事が、呼吸量増大のポイントです。
3か月目からの段階は、少し息を止める方法を加えます。ここからは、椅子に座って行います。足の裏を床にしっかり付けて行う事がポイントです。

⑥1回15秒(吸息6秒・止息1秒・吐息8秒)を3回 45秒 2週間
⑦1回17秒(吸息7秒・止息1秒・吐息9秒)を3回 51秒 2週間

4か月目は、1回20秒で行います。1回20秒までが目標です。3か月毎日繰り返すと、出来るようになると思います。

⑧1回20秒(吸息8秒・止息2秒・吐息10秒)を3回 60秒 4週間

毎朝1分間深呼吸をするようになれば、日常生活において、心身共に変化を感じるようになるはずです。
5か月目以降は1か月ごとに深呼吸を1回ずつ増やします。

⑨1回20秒(吸息8秒・止息2秒・吐息10秒)を4回 1分20秒 4週間(5か月目)
⑩1回20秒(吸息8秒・止息2秒・吐息10秒)を5回 1分40秒 4週間(6か月目)
⑪1回20秒(吸息8秒・止息2秒・吐息10秒)を6回 2分  4週間(7か月目)
⑫1回20秒(吸息8秒・止息2秒・吐息10秒)を7回 2分20秒 4週間(8か月目)
⑬1回20秒(吸息8秒・止息2秒・吐息10秒)を8回 2分40秒 4週間(9か月目)
⑭1回20秒(吸息8秒・止息2秒・吐息10秒)を9回 3分  4週間(10か月目)

深呼吸は、毎朝3分が目標です。毎日深呼吸をする事により、少しずつ「肺活量」が増大します。「1秒量」も向上しますので、運動耐容能力も伸びて来ます。10カ月かけてゆっくり呼吸機能を向上する事により、呼吸機能の向上が期待出来ます。生涯に渡り深呼吸を繰り返せば、人生100年を元気で過ごす事も夢ではないと思っています。運動や日常生活の注意点について詳しく知りたい方は、清野鍼灸整骨院ホームページ内にある「くらしと養生」をご覧ください。

鍼灸治療やヨガ(YOGA)は筋肉の痛み解消や呼吸機能向上に有効です

70歳代の人は、運動しようと思っても、関節が痛い、筋肉の疲れが取れない状態にあり、運動が困難だという年代です。運動出来る体作りをご希望の人には、鍼灸治療が最適です。鍼灸治療は痛みの解消に有効な治療ですので、是非、お近くの鍼灸院をご利用戴きたく思います。
また、基礎疾患があり、運動に制限があるという人も、ご相談頂きたく思います。鍼灸治療は身体の外側から内臓機能に働きかける事が可能な、「内外科治療」です。薬物治療(内科治療)で効果を得られない人や外科手術(外科治療)をしても痛みが消失しない人は、是非鍼灸治療(内外科治療)をお試し戴きたく思います。お近くの鍼灸院または鍼灸師が勤務している医療機関にご相談ください。
運動法や呼吸法の習得には、ヨガ(YOGA)が最適です。ご希望の人は、清野メディカルヨーガもしくはお近くのヨガ教室にご相談頂きたく思います。

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