『金の国 水の国』渡邉こと乃監督インタビュー「細部までこだわり抜いた劇場版」制作中にふれた“やさしさ”とは?

1位に輝いた作品は飛ぶように売れるという各界から大注目のランキング「このマンガがすごい!」で、2017年(「金の国 水の国」)、2018年(「マロニエ王国の七人の騎士」)と連続して1位(オンナ編)を獲得し、別作品で史上初めて二連覇(※異なる作品で)を達成した稀代の作家・岩本ナオ。マンガ好きの域を超え、各界から絶賛され映像化希望が殺到した『金の国 水の国』が待望の映画化!2023年1月27日(金)より全国劇場公開を迎えます。

100年断絶している2つの国。<金の国>の誰からも相手にされないおっとり王女サーラと、<水の国>の貧しい家族思いの建築士ナランバヤルは、敵国同士の身でありながら、国の思惑に巻き込まれ“偽りの夫婦”を演じることに。お互いの想いを胸に秘めながら、真実を言い出せない不器用な2人の<やさしい嘘>は、国の未来を変えるのかー。

本作の監督を務めた渡邉こと乃監督にお話を伺いました!

――本作、とても素晴らしかったです。ありがとうございました。映画の公開を控えて今のお気持ちはいかがですか?

SNSをよく見ているのですが、すでに試写会で映画をご覧になった方々の感想をたくさんいただいています。原作を愛してくださっている方から読んだことがない方まで「やさしい気持ちになれたよ」など嬉しい言葉をたくさんいただいていて、実際広く公開されるようになったら、みなさんどんな風に観てくださるのかなとワクワクしている状態です。映像化した意図がきちんと伝わっているというか、こうやって作品を愛していただいているなという感想をいただくと、改めて作って良かったと思います。

――監督に決まった時のお気持ち、どの様にこの作品を作ろうと思いましたか?

『金の国 水の国』の原作コミック全1巻分を1本の映画にするにあたって、どのように構成していくかをまず考えました。たとえばTVシリーズのアニメであれば、30分の番組が1クールで12本ほど、1週間に1本放送されるので、作品の内容を次回が楽しみになるように区切るとか、色々な手段が使えます。ただし劇場版となると、約120分インターバルのない繋がった映像として作る必要があるので、観てくださるお客さんがどういう情報を映像で受け取るか、タイミングも計算しないといけないので、そのあたりには気を配りました。

――監督はもともと原作の大ファンだったそうですね。

岩本先生の独特な作風が好きで『町でうわさの天狗の子』も読んでいたのですが、『金の国 水の国』は、「このマンガがすごい!2017」オンナ編1位を受賞された時に知って読んで、とにかく内容が最高で印象強い作品でした。その時はまさか自分が監督をするとは全く思っておらず、決定した時に「そんな!いいんですか!?うれしい!」みたいな、驚きと喜びでいっぱいでした(笑)。本作もそうですし、振り返ると愛読している作品のアニメ化にたずさわる機会に恵まれてきたなと思います。『ちはやふる』も原作が好きで読んでいたのですが、アニメ化の際に演出として参加できることになってガッツポーズしました(笑)。漫画を幅広く読むのが好きなので、マッドハウスにいると、そうした素敵な作品を担当させていただく機会が多いなと感じています。

――原作に忠実でありながら、ダイナミックな動きなどアニメで無いと表現できない部分が素晴らしかったです。アニメ化において一番工夫したこと、気をつけたことを教えてください。

『金の国 水の国』は、アニメ化するのに結構難しいタイプの作品だったなと思います。原作はコマ割りが他の作品に比べてダイナミックだったり、普通は描かないようなアングルが採用されていたり、ストーリーも結構複雑で伏線もたくさんあって、心に響く台詞が沢山ある、岩本先生のすごさが全面に出ている作品だと思います。漫画だと繰り返し読めるんですけど、劇場アニメでは時間が一定軸で流れていくので、観ていただく方にどこまで説明しなければならないかとか、そうした調整が大変でした。

また、映画館は閉ざされた空間の中で映像や音響など作品すべてを普く堪能できる場所なので、その有利さを感じられるように、細部までかなりこだわり抜きました。特に美術さんには本当にがんばっていただいて、<金の国>のモザイクタイルの建築とか、自然豊かな<水の国>の湿気のある感じとか、それぞれの国の景色をかなり細かいところまで対応してもらいました。今回は岩本先生の初映像化でもあるので、岩本先生の特徴でもあるやわらかい水彩の感じを大事にして、手描きをベースに作り込んでもらっています。そういう細かいこだわりの積み重ねが、最後の大きな感動に繋がればいいなと思いながら作っていきましたね。とにかく映画館はダイナミックなシーンが映える環境なので、原作を読んだ時の印象はそのままに、原作で感じた大きな感動をいかに映画にしつつ落とし込むかがチャレンジでした。

――繊細なのに力強く、美しいシーンがとても印象的でした。

映画館で特に観ていただきたいのは、サーラとナランバヤルが月明かりの下の橋で会話するシーン。映画の最初のクライマックスなのですが、絵コンテ・演出で参加いただいた浅香守生さん(『カードキャプターさくら』『ちはやふる』シリーズなど)にとても素敵に演出していただいて、独特な質感が生まれて浅香さんにしかできないシーンに仕上がりました。ほかにも、いかに<金の国>が<金の国>たるかを示す映像美など、こだわって作り込んでいます。

――さまざまな話題作で活躍してきたトップクリエイターが集結している本作ですが、監督としてそうした方々の先頭に立ち作品を作っていくのはいかがでしたか?

私が子育て中ということもあり、映画の監督をやるとなると大変なところもあるので、大先輩たちとご一緒出来て本当に心強かったですね。色々アドバイスをいただいたり相談したりできる環境はとてもありがたかったなと思います。いろんなクリエイターの方たちに協力してもらわないとアニメは作れないので、本作ではそれぞれベストな位置でみなさんにご協力いただいて、ひとつの作品を作り上げられたかと思います。

――声の出演をしている賀来賢人さん、浜辺美波さんの印象を教えてください。

作品や岩本ナオ先生の作風的にも、俳優さんと声優さんを組み合わせたキャスティングが合いそうというところからスタートして、主人公2人についても、いろんな俳優さんの声を聴き込んでいくなかで、賀来さんと浜辺さんが一番良いと感じてオファーさせていただきました。お2人ともキャラクターに対して真摯に向き合って寄り添ってくださったので、想像以上に雰囲気が合致したなと思います。

ナランバヤル役の賀来さんは、アフレコの最初から「え、賀来さん?本当にナランバヤルなんじゃ…?」というレベルで声も雰囲気もぴったりでした。今回はコロナ禍での制作ということもあって、キャストの皆さんは一人ずつアフレコすることもあったのですが、“イケメン左大臣”サラディーン役の神谷浩史さんとのシーンは2人一緒に収録できて、その時に賀来さんが神谷さんから声優の技を吸収されたのか、より声の演技がレベルアップされていてすごい俳優さんだなと思いました。

浜辺さんが演じたサーラは、王女だけど絶世の美女ではなくどちらかというとふっくらしていて、性格は控えめで穏やかだけど、実は精神の根幹の部分は図太い…という岩本先生ならではの魅力的なキャラクター。全編通して登場するので、普通の声やか細い声では合わないし、ふっくらしているからといって太い声を当てるわけにもいかないし、主人公だからといって前に前に出るような俳優さんの演技でも困ってしまう…と課題が多い役でした。そんな中でいろんな俳優さんの声を聴いていたところ、α派が出ているような癒される声だな、良いな、と思ったのが浜辺さんの声だったんです。やさしさの中にも芯の強さがあって、最終的にサーラは浜辺さんしかいないと思うほどぴったりだったと思います。

――観る人が“最高純度のやさしさ”に包まれる本作ですが、監督が本作の制作を通して出会った「やさしさ」を教えてください。

私はこの業界では珍しく、朝に仕事を始めて夕方に終えて保育園に子供を迎えに行くような働き方ができていて、監督の私がそうだと他のみなさんも時間が読みやすいのか、本作でも家庭を持っているスタッフが集まっていました。ですが制作初期にコロナ禍に見舞われてしまって、保育園や学校が閉じてしまったこともあったので、そういう意味ではコロナの影響を他より多く受けたチームだったかもしれません。だけどそのせいで逆に結束力が増したというか、この困難を乗り越えてみんなで映画を完成させようという気持が高まって、ひとつになっていく感じがありました。スタッフのみなさんには本当に「やさしさ」をいただいたなと思います。

――原作ファンの方とまだ読んだことない方へ、それぞれにメッセージをお願いします!

私自身が岩本先生のファンであり漫画ファンでもあるので、原作ファンの方々を裏切らないこと、そして自分自身が満足できるように作るという思いで制作しました。ですので、どうか見捨てずに(笑)、岩本先生の作品が初めて映像になっていることを楽しんでいただければと思っています。この映画を作る上で、原作が持っている多幸感を映像でも再現したいというのが、私が一番最初に感じたことでした。物語の大きな流れは原作に忠実にしつつ、見応えのある映画として成立するように構成しているので、原作ファンの方も充実感を得られるように、裏切らないように、心がけました。
それから、私は漫画が好きなので、漫画が映像化される時はまずコミックスを買って履修するものだと勝手に思っていたんですが、どうやらそれはオタクの考え方だったらしくて(笑)、原作を知らずに観る人も多いことを周囲に指摘されました。この映画は、原作を読んでいない初見の方にも原作の魅力が伝わるように作り込んでいますので、むしろ読んでいないからこそまっさらな気持ちで、映画館でじっくり堪能できる特別な時間を楽しみに、観に行っていただけたら嬉しいです!

◆監督/絵コンテ/演出:渡邉こと乃プロフィール
マッドハウス所属。「BTOOOM!」(12)にて初監督。キャラクター間の心理戦とアクションをかけあわせた演出で海外から高い評価を得た。絵コンテ・演出として、浅香守生監督作品「ちやはふる」(11)、「ちはやふる 2」(13)、「俺物語!!」(15)、「ちはやふる 3」(19-20)、いしづかあつこ監督作品「ノーゲーム・ノーライフ」(14)、「ハナヤマタ」(14)、「プリンスオブストライド オルタナティブ」(16)、『ノーゲーム・ノーライフ ゼロ』(17)に参加。

映画『金の国 水の国』は1月27日(金)より全国ロードショー!

【キャスト】賀来賢人 浜辺美波
戸田恵子 神谷浩史 茶風林 てらそままさき 銀河万丈
木村昴 丸山壮史 沢城みゆき
【原作】岩本ナオ「金の国 水の国」(小学館フラワーコミックスαスペシャル刊)
【テーマ曲(劇中歌)】「優しい予感」「Brand New World」「Love Birds」  Vocal:琴音(ビクターエンタテインメント)
【スタッフ】監督:渡邉こと乃  脚本:坪田 文  音楽:Evan Call
アニメーションプロデューサー:服部優太  キャラクターデザイン:高橋瑞香  美術設定:矢内京子
美術監督:清水友幸  色彩設計:田中花奈実  撮影監督:尾形拓哉  3DCG監督:田中康隆、板井義隆  特殊効果ディレクター:谷口久美子
編集:木村佳史子  音楽プロデューサー:千陽崇之、鈴木優花  音響監督:清水洋史
アニメーションスーパーバイザー:増原光幸
プロデューサー:谷生俊美 アソシエイトプロデューサー:小布施顕介
【アニメーション制作】マッドハウス
【配給】ワーナー・ブラザース映画
【コピーライト】©岩本ナオ/小学館 ©2023「金の国 水の国」製作委員会
【映画公式サイト】http://kinnokuni-mizunokuni-movie.jp
【映画公式Twitter】https://twitter.com/kinmizu_movie
【ハッシュタグ】#金の国水の国 #最高純度のやさしさ
【本予告映像】https://www.youtube.com/watch?v=ZxYh-ezfyDk

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藤本エリ

映画・アニメ・美容が好きなライターです。

ウェブサイト: https://twitter.com/ZOKU_F

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