人狼は嘘をつくゲームではない

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人狼は嘘をつくゲームではない


今回はdergeistさんのブログ『長椅子と本棚』からご寄稿いただきました。

人狼は嘘をつくゲームではない

「人狼は嘘をつき騙し合うゲーム」という嘘

このところ、人狼の注目度が上がっていると聞く。そのこと自体の是非はとりあえずどうでもよい。ただ、「嘘をついて人を騙すゲーム」として人狼が紹介されていることには、強い違和感がある。

確かに、ゲームの中で嘘をつかなければならない場面は存在する。しかし、その場面は意外に少ない。というか、明確な仕方で嘘をつく場面というのは、狼陣営で、占い師などの役職を騙るときだけである。嘘をつくことは、かなり限定された場面での戦術の一つにすぎないのである。

そもそも、嘘をつくのは狼陣営だけだ(ハムスターや恋人などの第三陣営は今回は考慮しない)。しかし、ゲームに参加すると、村人になる確率の方が圧倒的に高い。そして、村人は、嘘をついたり、誰かを騙したりしない(少なくとも普通は)。これだけのことからも、嘘をつくことが人狼というゲームの中心でないことはわかる。

「騙し合い」という表現に至っては、完全に誤りだ。確かに狼は村人を騙すのだが、村人は狼を騙さないことがほとんどだからだ。この村人と狼の非対称性は、人狼というゲームの重要な要素となっている。

人狼は、疑い、信じ、扇動するゲーム

それでは、人狼とは何をするゲームなのか。村人と狼それぞれに分けて考えてみよう。

村人である大多数の参加者にとって、それは「疑う」ゲームである。うそをついたり騙したりすることではなく、疑い続けること。しかも、本当のことを言っている村人たちを、嘘をついているのではないかと疑い続けること。これが、人狼というゲームが作り出す特殊な環境の本質だ。

疑うことが人狼というゲームの本質だとすれば、信じることもまた同様に、このゲームの本質である。疑ってばかりいては、村を勝利に導くことはできない。正しい情報に基づいて、信用に足る発言をしているのは誰かを信じること。これなしに、全員を疑ってバラバラに行動していたのでは、狼を追い込むことはできない。共有者が重要な役職なのはこのためだ。誰もが信じて良い一人。この存在が、信じることと疑うことによって進行するゲームの駆動力となる。

次に狼陣営である。意外に思われるかもしれないが、狼陣営にあっても、嘘をつくべき場面は多くない。嘘は、特定の場面で用いられる戦術に過ぎない。例えば、狼陣営に不利にならない程度に本当のことを言うことで、潜伏が可能になる場面もある。また、それ以上に重要なのは、扇動・陽動である。嘘ではないが間違った推理をしている村人を支持すること。自分や仲間が疑われそうになったときに、村の注意を別の場所にそらすこと。事実をおりまぜて誘導することの方が、重要になる場面は多いのだ。

なぜ「騙し合い」が注目されるのか

人狼の楽しさは、人を騙すことのみにあるのではない。むしろ、このゲームの楽しみは、疑心暗鬼になっていく自分と向き合うことにある。それなのに、なぜ「騙す」ことにスポットが当たるのか。

私はここに、動画メディアの宿命があるのではないかと思う。人狼というゲームは本来、参加者でない視点から「見て」もそれほど面白いゲームではない。なぜなら、人狼の本質である「疑うこと」は、表面に現れないからだ。「お前が人狼だろう」と声に出して疑うこともあるが、これは無言で疑うこととは異なる戦術である。また、単なる主観的な疑いを披瀝することは、ゲームを滞らせ、村人の敗北を導く。それゆえ、疑いは主に参加者の内心に蓄積していく。

しかし、これは映像メディアにとっては問題である。参加者が押し黙ってしまっては、面白い画面にはならないからだ。人狼の放送は、静かに疑い合うところにこそ楽しみがあり、ドラマがあるのに、それをわかりやすく画面で表現しなければならないというジレンマを常に抱えることになる。

疑心暗鬼を楽しもう

人狼というゲームは、見るよりもやるほうがずっと面白い。何度かやると、どの行動が無駄かもわかってくる。記憶力を酷使するゲームでもあるし、計算能力(計算高さじゃなくて、確率とかターン数とかの計算)が求められる(ちなみに私はこれがとても苦手なので万年中級者止まりである)。自分がいかに印象で適当に人を信用してしまうかも思い知らされる。だから、興味を持ったら、一度やってみよう。疑心暗鬼に突き落とされるのも、案外楽しいものですよ。

執筆: この記事はdergeistさんのブログ『長椅子と本棚』からご寄稿いただきました。

寄稿いただいた記事は2013年05月09日時点のものです。

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