「ほとんどの曲はロックダウン中のイギリスで書かれたもので、その影響や余波がアルバムからは聴き取れると思う」Interview wtith Squid
デビュー作『Bright Green Field』のリリースから1年。待望の初来日となったサマーソニックのステージは、アルバムの評判に違わずかれらが現在のイギリスのロック・シーンにおいて未来を嘱望されるバンドの一角であることをあらためて伝える機会となった。とりわけインプロヴィゼーションやアレンジを挟みフォルムに変化を加えた楽曲の端々からは、ロックダウンが明けてツアーを再開して以降、ライヴ・パフォーマンスを通じて演奏や機材面でさまざまな試行錯誤が重ねられてきた成果がうかがえる。今回インタヴューに答えてくれたメンバーによれば、2作目となるニュー・アルバムもすでに制作がほぼ終了しているとのこと。「かなりマッドなレコードに仕上がっている」――かれらの発言をヒントに、バンドの現在地を辿り、そして次回作の方向性について探ってみたい。(→ in English)
――昨日のサマーソニックのステージ、最高でした。とくに“Boy Racer”から“G.S.K.”に続くシークエンスはひとつのハイライトだったと思います。
アーサー・レッドベター(Key)「自分たちとしてはつねに、インプロヴィゼーションの瞬間を作ることに興味がある。あの一連の流れはそのようにして発展させたもので、演奏を重ねるごとに徐々に形になっていった。エレクトロニックな緊張感を高めていくことは面白いし興味深い。最近はそれが成果として現れてきているんだと思う。音楽が、前もって何かを考えるのではなく、ライヴ・セットによって形作られていくのは本当に素晴らしいし理想的だと思う。オーディエンスからのフィードバックによって曲が完成されていく感覚が楽しいんだ」
――ライヴによって曲の形や長さが変わることもある?
オリー・ジャッジ(Vo、Dr)「この一年でかなりリハーサルができるようになったからね。曲順を変えたり、同じセットリストを2回やらないようにしたりしていて」
ルイス・ボアレス(G)「曲の入り方を変えたりとか、ある程度の変化はあるけど、基本的には同じ構成になっている。ただ自分たちとしては、楽曲を作る際には、ある特定のスペース――探求する余白や余地みたいなものを残しておきたくて。そういう部分がライヴによって変化をもたらしているんだと思う」
――“Boy Racers”もそうですが、他にも“Narrator”や“Pamphlets”など、スクイッドには7分や8分を超える楽曲が多いですよね。そこは意識的なのか、それとも、作っていたら自然と長くなったのか、どちらなんでしょうか。
オリー「僕らはいつも3分ぐらいの曲を作ろうとするんだ。でも、いざ曲作りを始めるとたくさんのアイデアが浮かんできて、それをひとつにまとめたくなってしまう。それで結果的に長くなってしまうんだよ(笑)」
――以前、ブラック・ミディのメンバーに話を聞いたら、かれらの場合、仮にツアーでサポート・アクトがキャンセルになったり、フェスで前後の出演バンドがなくなったりして持ち時間が長くなっても、いくらでも演奏を引き延ばすことができるから問題ないらしくて。スクイッドもそうだったりします?
オリー「そうだね、自分たちでフォローできると思う。前にベルリンで、チェロ奏者と一緒にエレクトロニックのインプロヴィゼーション・ミュージックのロング・セットをやったことがあって。いつかまたそれをやってみたい。サポート・バンドがキャンセルになったときにね(と、なぜか吹き出す)」
――そうしたスクイッドにおけるインプロヴィゼーションの重要性、あるいは先ほど話していた、さまざまな要素やアイデアを組み合わせてサウンドを形作るといったアプローチには、どんな背景や影響があるのでしょうか。
ルイス「インプロヴィゼーションといえば、最近だとブリストルのジャイアント・スワンをよく聴いている。完全に即興で作られたエレクトロニック・ミュージックのセットを観ていると、とてもインスピレーションを受ける。そのエネルギーはまさにスポンテニアスなもので、一時間半にも及ぶかれらのライヴは本当に感動的なんだ」
オリー「ブリストルにはビッグ・ファスというジャズ・アンサンブルがいて、かれらは今もっとも刺激的なグループだよ。とくにドラマーがものすごいプレイヤーで。自分の場合、即興演奏については十分な知識がないので、時間があれば勉強したいと思っている」
――スクイッドといえばミニマリズム、ミニマル・ミュージックの影響も重要なポイントだと思います。去年リリースされたEP『Cover Versions』ではスティーヴ・ライヒの“Clapping Music”をカヴァーしていましたが、たとえばライヒの音楽のどんなところに惹かれますか。
アーサー「いい質問だね。ミニマル・ミュージックは瞑想的な音楽のひとつであるわけだけど、そこで生じる変化は漸進的なもので、聴いているといつどこで何が起きるのかわからないのが魅力だと思う。だからミニマル・ミュージックを聴いた後は、いつも脳がリフレッシュされたようないい気分になるんだ。スティーヴ・ライヒの影響は確実にあると思っていて、たとえばメロディや、重なり合う音の位相が変化していくところや、セクションごとに演奏しているところとか自分たちと似ていると思う。それは自分たちも意識しているところで、これからもそこは追求していきたいし、リハーサルをしていると無意識に出てきてしまうとところでもあるんだ」
――いま話してくれたインプロヴィゼーションやミニマリズムについての話はとても興味深いのですが……ところで、デビュー・アルバムの『Bright Green Field』に続く次のアルバムの制作状況は現状どんな感じなのでしょうか。
オリー「かなり進んでいて、ほとんど完成に近づいている。あともう少しというところだね。ただ自分たちの場合、曲を作り始めてからリリースされるまで長い時間がかかるんだ。時々、長すぎるぐらいに(笑)」
――どんなアルバムになりそうですか。
オリー「進化や発展が感じられて、これまでとは違う作品になっていると思う」
アーサー「作曲のプロセス自体は(前作と)ある程度似ていると思うけど、最終的には独自のサウンドになっているんじゃないかな。僕ら5人のメンバーそれぞれの要素、影響が投影されていて、それを少しづつ混ぜ合わせて、結果的にこれまでとはちょっと違ったものが出来上がった感じだね」
オリー「ほとんどの曲はロックダウン中のイギリスで書かれたもので、その影響や余波がアルバムからは聴き取れると思う。かなりマッドなレコードに仕上がっているよ」
――楽しみです。少しヒントが探れればと思うのですが……たとえば、今回の曲作りの間によく聴いていたものとか、ハマっていた音楽とかってありますか。
ルイス「何を聴いてるとか、音楽の話題とか、そういう話はあまりしなかったと思う。たた部屋にこもって。ひたすら音楽を作っている感じだったんで」
オリー「今度のアルバムと関連づけられるような特定の具体的なリファレンスはないんじゃないかな。というのも、(影響を)ひとつのアーティストやグループに絞ることが難しいから」
アーサー「以前の僕たちだったら、ツアーのバンに乗って一緒に聴くようなプレイリストのようなものがあったんだけど、今回はみんなバラバラだったからね。だから、自分たちがそれぞれ自分のやるべきことをやっていたって感じなんだよね」
ルイス「それにライヴを観る機会もなかったし。前だったら、ライヴでバンドが演奏しているのを見たり、フェスやギグに行ったりして、そこからたくさんの影響を受けていた。ただ今度のアルバムを作っているときは、そういう機会がない状況だったんで。そこが違う」
――なるほど。ちなみに、さっき話してくれたロックダウンの影響や余波というのは、サウンド以外にもリリックやアルバムのテーマ、ストーリーにも見て取れるものですか。
オリー「直接的な影響というのはあまりないと思う。ただ、ひとがライヴをしているのを観るだけで、少しはリフレッシュできる。そこは言葉で説明するのが難しいんだけどね。それに、バンドが演奏しているのを観るだけで曲を作りたくなるんだよ。だからロックダウン中にライヴを観れなかったのはかなり辛かった」
――それにしても、ブラック・ミディしかり、ブラック・カントリー・ニュー・ロードしかり、最近のイギリスのバンドはリリースのサイクルが早いですよね。正直、焦ったりしませんか。
アーサー「他のバンドが何をやってるかなんて考えないほうがいい(笑)」
オリー「かれらは僕らよりも何歳か若いので、エネルギーがあるんだよ(笑)。一年に一枚のアルバムを出すのは大変な作業なんだ。だから僕たちは自分たちのことをやるだけだし、それでいい。それにレーベルの〈Warp〉は理解があって、僕たちのやりたいことをやりたいようにやらせてくれる。最高だよ」
――パンデミックのせいで「ライヴが観れなかった」と話していましたが、「ライヴが出来なかった」影響も、次の段階の曲作りに進むうえで大きかったのではないでしょうか。
オリー「そうだね。“Boy Racer”と“G.S.K.”のインタールードもそうだけど、あれだってライヴが再開できるようになって始めたことなんだ。ああいう演奏ができるようになってたまらなく楽しかったし、興奮した。その(ライヴの再開の)タイミングで音楽機材を全部揃えて、新しい曲を作り始めたんだ。それで2021年の5月にツアーに出て、ロックダウンの間に書いていた未完成の曲をライヴで演奏するようになった。そのことは新しい曲を完成させるうえで大きなインスピレーションになったよ。だからかなり刺激的な時間だったね」
――ということは、ライヴではすでに新しい曲が断片的な形で披露されてるってわけですね。
アーサー「そう。ツアーが再開した2021年の5月からだけど、新しいインプロヴィゼーション・ミュージックを演奏するライヴをやって、なかなか楽しかったね。その時点ではまだレコーディングについてとくに考えていなかったんだけど、それが新しいアルバムのトラックの多くを形作ることになったのは間違いない。実際にレコーディングを始めたのはそれから一年以上経ってからだった」
――ちなみに、さっき話を伺ったEPですが、ライヒの他にもビル・キャラハンやロバート・ワイアット、ロビー・バショウもカヴァーしてましたよね。その手のフォークやシンガー・ソングライター系のセレクトは、誰の趣味で?
オリー「それらはふだんツアーのバンのなかで一緒に聴いていた曲で。カヴァーする曲を考えるのはいつも楽しいよ。自分たちのコンフォート・ゾーンから少し外れた曲をカヴァーするのが好きなんだ」
アーサー「前にミニー・リパートンのカヴァーに挑戦したこともあって。でも、それはうまくいかなかった(笑)」
――アコースティック・ギターで弾き語りして曲を書くこともある?
オリー「一度試したことがあるんだけど、どうもしっくりこなくて。だから(やるとしたら)3枚目のアルバムかな(笑)」
――同じく昨年には、ロレイン・ジェイムズとコージー・ファニー・トゥッティ(スロッビング・グリッスル)が手がけたリミックスも発表されましたね。あのセレクトは?
オリー「幸いにも自分たちはみな、エレクトロニック・ミュージックとのコネクションを持っているので、それが役立っている。ロレイン・ジェイムズはすごいよ。彼女はUKのダンス・ミュージックで素晴らしいことをやっている。セレクトに関してはとくに基準みたいなものはなくて、エクスペリメンタルなことをやってくれるプロデューサーにお願いしたかった。コージー・ファニー・トゥッティは伝説のような存在だから、彼女にリミックスを依頼するのは格別なことだったよ。ただ、彼女がリミックスを手がけた音源はとても怖くて、自分自身、怖すぎて数回しか聴いていない(笑)。あれは怖すぎるよ、ほんと」
――(笑)インダスタル・ミュージックの影響は、スクイッドのサウンドにおいても重要な要素のひとつですよね?
オリー「ヒューマン・リーグの初期の作品はとても“インダストリアル”で素晴らしい。ナイン・インチ・ネイルズも昔からずっと聴いている。アーサーのシンセ・ワークにはスロッビング・グリッスルの影響を聴くことができると思う。かれの作る音はとてもユニークだよ」
――ロレイン・ジェイムズはどんなところが好きですか。
オリー「彼女が操作するヴォーカル・サンプルは本当に素晴らしい。最高のアンビエント・ミュージックであり、前衛的なダンス・ミュージックであり、たくさんのインスピレーションを受けているよ」
――彼女の音楽にはグライムやドリル・ミュージックの影響も聴き取ることができますが、そのあたりはいかがですか。
アーサー「いくつかのUKグライムはマストだね。ダブステップのようなものが流行り始めた頃からグライムも並行して聴いている。それに素晴らしいインストゥルメンタルもある。ただ、バンドとして頻繁に聴いているわけではなくて。ドリルにはまだそこまで入れ込んでいないけど、聴いてみる必要があるかなって思っているよ」
オリー「MCトリムはいいよね」
――ありがとうございます。じゃあ、そろそろフライトのため移動の時間が迫っているということなので、最後に。ずばり、次のアルバムはいつリリースされますか。
オリー「わからない(笑)。来週かもしれないし、来年かもしれない(笑)」
アーサー「間違いなく来週にはならない(笑)」
ルイス「なんとも言えないね」
photography Marisa Suda(https://www.instagram.com/marisatakesokphotos/)
text Junnosuke Amai(TW)
Squid
『Bright Green Field』
(WARP RECORDS / BEAT RECORDS)
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TRACKLISTING
01. Resolution Square
02. G.S.K.
03. Narrator ft. Martha Skye Murphy
04. Boy Racers
05. Paddling
06. Documentary Filmmaker
07. 2010
08. The Flyover
09. Peel St.
10. Global Groove
11. Pamphlets
12. Sludge (Bonus Track)
13. Broadcaster (Bonus Track)
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