“世界初のレストラン”開店を描いた『デリシュ!』監督に聞く「食事というのは人生の選択である」
美食の国、フランス。そのフランスで初めてレストランを作った男の爽快な人間ドラマ『デリシュ!』が9月2日より公開中です。貴族と庶民が同じ場所で食を共にすることが考えられなかった時代から、「レストラン」は、その誕生と共に貴族も庶民も共に食事を楽しむ場に。本作はフランス革命と共に訪れる「食の革命」を描いた、“世界初のレストラン”開店を描いた物語です。
【ストーリー】1789 年、フランス革命前夜。宮廷料理人マンスロン(グレゴリー・ガドゥボワ)は、自慢の創作料理「デリシュ」にジャガイモを使ったことが貴族たちの反感を買い、主人である傲慢な公爵(バンジャマン・ラベルネ)に解任される。失意を抱えた彼は、息子(ロレンゾ・ルフェーブル)を連れて実家に帰る。ある日、料理を学びたいという謎めいた女性ルイーズ(イザベル・カレ)が現れる。彼女の助けと息子の協力を得たマンスロンは料理を作る喜びを再び見出し、世界で初めて一般人のために開かれたレストランを営むとことに。店はたちまち評判となり、公爵が訪れることに…。 貴族と庶民が同じ場所で食を共にすることが考えられなかった時代に、世界で初めての「レストラン」はいかにして生まれたのか!?
本作の監督を務めたエリック・ベナールさんにお話を伺いました!
――本作、大変楽しく拝見させていただきました。「世界初のレストラン」という着目点がまずすごく面白いですね。
レストランが作られる前は宿で食事を提供したり、酒場はあったのですが、シェフが自分の視点で作ったものを人に提供するというものは無かった。「レストラン」が18世紀に作られたということは私も知らなくてとても驚いたんですね。「啓蒙思想」について調べていて、レストランがまさにそうだということが分かったんです。
――監督にとってはじめての時代劇だそうですね。
だいぶ前から時代物のシナリオを書いていきました。この映画は西部劇と思って書いています。マンスロンが料理をバカにされて、でもまた再び料理で戦う。これは、バカにされたガンマンが銃を持って再び戦うという構図と似ています。なのでジョン・フォード(西部劇で知られる映画監督、俳優)にリスペクトを捧げている部分も多いです。時代物を撮ることによって得られる喜びというのは、「観客が現実から離れられること」もあると思う。映画により集中してもらえますよね。
――映像がすごく綺麗で、お料理も美味しそうに撮影されていました。映像部分でこだわった部分を教えてください。
この時代には照明がありませんので、暖炉の火や月から光をもらっていて、その様な映像作りをすることは楽しかったです。全体にランプをつけるとべたっとした感じになるのですが、アナログな光の影や光沢がエロティックな雰囲気を出してくれています。
本物のシネマスコープ(映画撮影で用いられていたワイドスクリーン技術の一つ)で撮影しているんですね。ぼかしであるとか、奥行きを出すことに役立ちました。料理も、観客に「美味しそう!」だと官能的に感じていただけないといけない。なので、俳優さんの“手”にこだわりました。「この人の手が良い」と思った人に出演をお願いしています。
――映画の中で、主人公がじゃがいも料理を出して激怒されますが、今では考えられない食のルールがあったのですね。
フランスとじゃがいもの関係というのは複雑なものがあります。フランスはパンの国なので、じゃがいもではパンが出来ないので、食べる習慣が無くて、ナポレオンが飢えの対策として取り入れる様に施策してから食べる様になったんです。キリスト教から端を発する、食材のヒエラルキーがあって、「天に近い方が高貴な食材である」という考え方なので、鳩は空を飛んでいるので地位が高く、土に埋まっているじゃがいもは地位が低い。「口と舌で食べていた」のではなく「頭と信仰で食べていた」とも言えますね。
――監督が現代のフランスの食文化について感じることはありますか?
少し前から、食文化の変化というのことは感じています。パリでは「歩きながらのガストロノミー(美食)」という矛盾した言葉も生まれています。本来ならば座って、時間をかけて、人と話をしながら食事をするのが美食なのですが、今ではウーバーイーツを頼んで手軽に食事を済ましてしまうことが多い。だからこそ『デリシュ!』では、フランス人の食文化のルーツというのを描きたかったんです。
食事というのは人生の選択であるわけですよね、家族や友人とゆっくりごはんを食べて人生を語りあう時間を選ぶのか、ウーバーイーツを家のソファに座ってNetflixを見ながら食べるのか。市民であるか消費者になるか、これは哲学的な問題になってきます。コロナ禍によって、より消費者的な傾向が強くなってきて、僕は戦っていかないといけないと思っているんだ。
食の楽しさというのは、美味しい食事の味を味わうということだけではなく、季節の移り変わりだったり、人々の心の機微を感じ取れる時間なのだと思う。ぜひ、この映画で料理の楽しさ、料理を味わうことの素晴らしさを感じて欲しいと思っているよ。
――忙しくて食事がおざなりになることは現代人にとって多いと思います。私自身、とても考えさせられる部分が多いです。今日は素敵なお話をありがとうございました!
『デリシュ!』公開中
出演:グレゴリー・ガドゥボワ、イザベル・カレ、バンジャマン・ラベルネ、ギヨーム・ドゥ・トンケデック
プロデューサー:クリストフ・ロシニョン & フィリップ・ボエファール
脚本:エリック・ベナール、ニコラ・ブークリエフ
撮影監督:ジャン=マリー・ドルージュ
音楽:クリストフ・ジュリアン
2020/フランス・ベルギー/フランス語/シネマスコープ/5.1ch/112分/原題:DÉLICIEUX/配給:彩プロ 映倫G
(C)2020 NORD-OUEST FILMS―SND GROUE M6ーFRANCE 3 CINÉMA―AUVERGNE-RHôNE-ALPES CINÉMA―ALTÉMIS PRODUCTIONS
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