湧き水の滝・元滝伏流水。鳥海山の美しい水に癒やされる秋田の旅
鳥海山(ちょうかいさん)というものがある。秋田県と山形県の県境に位置する標高2,236mの山で、独立峰としては東北で最高クラスだ。この山から美しい水が生まれている。普段私は記事を書くなどのデスクワークが多い。この美しい水から生まれるマイナスイオンで癒やしてもらおうではないか。
ということで、今回は秋田に癒やしの旅に出かける。JR東京駅からJR秋田駅まで秋田新幹線「こまち」で約4時間、そこから羽越本線に乗り換え40分ほどでJR羽後本荘駅に到着する。そこからレンタカーで鳥海山の麓を旅しようではないか。
東京駅
秋田への旅
夏は暑いのでやはり「涼」を求めている。同時に仕事もしているので「癒やし」も欲しい。その2つを同時にかなえることができるのはどこか、と考えると秋田の鳥海山ということになった。のんびりとした旅、いいじゃないか。
鳥海山は古くは火山活動が盛んで、大物忌神として崇拝されて来た信仰の山だ。修験者もいた。古代は国家の守護神として、中世では出羽国の信仰の山となり、近代では農業の神として崇拝されている。
そしてまた、鳥海山は美しい水を生み出す。山に降った雨や雪は10年から20年という時間をかけて、周辺の至るところに湧き出す。長い年月をかけることで濾過されミネラルが溶け込み、美しい水となるのだ。だから農業の神となったのかもしれない。農業にとって水は大切だ。
鳥海山に登るというのは今回はなしだ。癒やしにならない。人によるけれど、私にとっての登山は運動なので、しかもキツめの運動なので、その周辺で涼と癒やしを求めたい。なるたけ楽にマイナスイオンを探す旅でもあるのだ。
矢島駅
駅長になりたい
羽後本荘駅からは「駅レンタカー」を借りて、矢島駅を目指した。羽後本荘駅と矢島駅を結ぶ由利高原鉄道鳥海山ろく線の終着駅でもある矢島駅は、1938年に開業し、東北の駅百選にも選定された駅だ。30分ほどのドライブ。途中で鳥海山ろく線とすれ違った。
終着駅という言葉にロマンを感じる。果てにやって来た気がする。遠くを訪れた満足感がある。そして、その駅は美しく面白いこともしている。矢島駅には「一口駅長室」という取り組みがあるのだ。
鳥海山ろく線・鮎川駅にある「こどもまちあいしつ」などの整備をクラウドファンディング(募集は終了しています)で支援した方々の駅長室が、矢島駅にあるのだ。とても小さくかわいい駅長室だ。自宅に「こけし駅長」が届き、矢島駅にやってきて、自分の駅長室に納めることができる仕組み。
矢島駅では鳥海山ろく線グッズも売られており、使用済硬券を買った。私の子どもの頃の切符は硬かったのだ。懐かしく感じて買ってしまった。600円が安いのかわからないけれど、買った。安いと思って。
天寿酒造
鳥海山を冠にした日本酒を買う
矢島駅から徒歩3分ほどの場所にある「天寿酒造」を訪れた。天寿酒造は矢島駅のある矢島町に1830年に創業した歴史ある酒蔵だ。鳥海山の生み出す清らかな水を使い、米から育てて日本酒をつくっている。試飲もやっているそうだけれど、今回は車だからなしだ。
いろいろあったのだけれど、お店の方に聞いたら、かさばらないサイズのお酒がお土産にいいと教えてくれた。「鳥海山」という名前がいい。華やかな香りと優しい口当たりの純米大吟醸だ。お土産といいつつ、この夜飲んじゃったけどね。
鳥海 猿倉温泉 フォレスタ鳥海
鳥海山が見え、お湯がトロトロ
再びレンタカーを20分ほど走らせ、本日の宿「鳥海 猿倉温泉 フォレスタ鳥海」に向かった。もっとあれを見たり、これを見たり、と欲張ってもいいけれど(夏は陽も長いし)、そうではない。今回は癒やしの旅。とろけるほどに温泉に浸かるのだ。
このホテルの素晴らしい点は客室の全てから鳥海山を望めること。部屋からは人工物がほぼ見えないのだ。鳥海山麓に広がる壮大なブナ原生林と鳥海山を堪能できる。
この記事はここまで鳥海山と散々書いているけれど、1枚も鳥海山の写真がない。それはなぜか、雲がかかっていて見えないからだ。そんな日だってある。でも、安心して欲しい。1泊2日の旅。明日もあるから。
こちらの温泉の特徴はトロトロしていることだ。もちろん片栗粉を入れたみたいなトロみが見た目にあるわけではない。ただ入るとわかる。体に絡みつくような、包み込むような感覚があるのだ。こんな温泉初めてだ。
入った、入りまくった。暑い日の温泉は最高で(春夏秋冬最高だけど)、さらに明るいうちから入る温泉は格別で、癒やしが最大限に存在する。肌がツルツルになっていた。ごく控えめにいって、この温泉最高ではないか。
温泉に2回入っていたら夕食の時間だった。空はまだ明るい。1日が長い。その長い1日を優雅に過ごすのだ。食事も最高だ。この地域は海までも1時間ほど、山にも囲まれているので、海の幸も山の幸も豊富なのだ。
銀カレイの西京焼きやヒラメの香草パン粉焼きクリームソースなどは地元でとれた食材を使っている。山菜のあんかけ茶碗蒸しの山菜もこの辺りでとれたもの。遠くに出かけその地域の味を楽しめる時ほど幸せを感じることはない。
ボリュームがあるのもこのホテルの食事のいい点だ。もちろん、味は申し分ない。本当に美味しいものを食べていると感じる。いつも食べているものだって美味しいのだけれど、なんというか美味しいの格が違う。一口ごとにニンマリする美味しさなのだ。
星空も綺麗だった。月が明るく、ホテルの光もあるので、写真ではそこまで綺麗に見えないかもしれない。しかし、肉眼ではめちゃくちゃ星が綺麗なのだ。街の光もここには届かない。本当に美しかった。癒やしだ。
天寿酒造でお土産用に買った日本酒を飲んでしまった。美味しかった。華やかなのだ。
元滝伏流水
マイナスイオンだ、元滝伏流水
ぐっすり眠り朝になった。カーテンを開けると空は青く、くっきりはっきり鳥海山が見えていた。美しい。ここに来てから私は美しいと美味しいしかいっていない気がする。だってそれしか言葉が見つからないんだもん、仕方がない。
やっと鳥海山が見えた。鳥海山にうっとりしつつ、温泉に入り、朝食を食べ、レンタカーに乗り込んだ。マイナスイオンを探しに行くのだ。車を1時間ほど走らせて「元滝伏流水」を目指す。車からも鳥海山が見え、気持ちがいいドライブだった。
駐車場に車を止めて10分ほど歩く。道は舗装こそされていないけれど、歩きやすく整備されている。すでに癒やしと涼を感じている。マイナスイオンがビンビンに飛んでいるのがわかる。いまマイナスイオンとすれ違った、と勘違いするほどの勢いで癒やしがあるのだ。
滝というと川の水が、どこかの落差で落ちて滝になるのを想像する。しかし、元滝伏流水は違う。鳥海山に染み込んだ雨や雪が伏流水となり、地表に湧き出す。それが元滝伏流水なのだ。いま私はまっさらな水を見ているのだ。
水の活きがいい。水を見て活きがいいと感じたのはこれが初めてだ。水が跳ねている。水が自主的に跳ねている感じ。ピチピチしているとでもいえばいいのだろうか。釣りたての魚のように水が跳ねているのだ。
金峰神社
金峰神社と滝で癒やされる
元滝伏流水から車を5分ほど走らせて「金峰神社」を目指す。金峰神社境内は散策できるように道が整備され、そこには「奈曽の白滝」もある。先の滝(元滝伏流水)とは違い、川の流れが滝になったもの。まずは金峰神社だ。
金峰神社は象潟町の小滝集落にある。ここには登拝道の起点となる小滝口があり、修験者が多く住み、各地から訪れる登拝者、参詣者を世話する秋田唯一の宿坊集落だった。金峰神社の草創は680年で蔵王権現と鳥海山大権現を祀っている。
修験の影響で生まれた独自の文化は金峰神社の神事や民俗芸能として今も残っている。チョウクライロ舞は毎年例祭で奉奏される。その歴史は1100年以上も遡る。ちなみに「チョウクライロ」は長く久しく生きる容(すがた)を意味するといわれている。
金峰神社に手を合わせ振り向くと奈曽の白滝を見ることができる。この構図に歴史を感じる。滝と向かい合うように修験と関わりの深い金峰神社を祀るのだ。奈曽の白滝は小滝修験の荒行の場であったと考えられている。
奈曽の白滝は高さ26m、幅11mと、滝といわれた時に思い浮かべるお手本のような姿をしている。展望台から滝は離れているけれど、ごー、という滝の音が聞こえる。暑さを忘れるような涼しさもつくり出している。
下におりることもできる。ここで荒行をやっていた修験者はすごい。水しぶきがまるで霧のように舞い、物理的にも涼を感じることができる。マイナスイオンがどんなものか実は知らないけれど、これがマイナスイオンか、と納得できる場所だ。
この日気温は34度あった。しかし、それを感じさせない涼しさがある。そんな涼しさと癒やしを体と心に感じ、私はレンタカーに乗り羽後本荘駅に向かい、秋田新幹線で東京へ戻った。リフレッシュという言葉がぴったりだろう。いまこれを書きながら、元滝伏流水の駐車場の自販機で買った水を飲んでいる。また行きたい、と心から思う。心の鳥海山は今日もくっきりはっきり見えている。ポエミーに終わってみました。
東京駅
掲載情報は2022年8月30日配信時のものです。現在の内容と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
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