村上淳インタビュー「沖縄戦をやるのかという緊張感が走った記憶はあります」 映画『島守の塔』で実在の人物演じる
20万人が犠牲となった日本国内唯一の地上戦、沖縄戦を題材に、その渦中で「生きろ!」と叫び続け、後世に希望を託した2人の官僚と、沖縄の人々の苦悩と希望を映画化した『島守の塔』が現在公開中です。本土復帰50年の節目に<命の尊さ>を次世代に継承する映画が誕生しましたが、職務を超え県民の命を守ろうとした警察部長・荒井退造役を演じた村上淳さんは「引き締まる題材」だったと撮影を述懐します。話を聞きました。
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●大変心動かされる作品でした。出演が決まった時はいかがでしたか?
僕は映画人として、これまで多くの先輩方が「沖縄戦にまつわる作品に挑戦したい」と言っていたことを傍で聞いていたんです。でも、それには余程の覚悟といくつかのタイミングも必要だということも分かっていました。だから最初に脚本をいただいた際、物語の詳細が自分の中に入る前に沖縄戦をやるのか、という緊張感が走った記憶はあります。
●実話ならではの重み、ということでしょうか?
そうですね。とはいえ、そもそも僕が関わってきた多くの作品は、人の命を預かっているものが多かったと思うのですが、あとはちょうど僕も俳優として次のフェーズに行かなければと葛藤していた時期でもありました。そういう時にこの引き締まる題材をやるということは、自分はまだまだやれることは多いのだなと、感じることはありましたね。
●実在した人物を演じることはいかがでしたか?
ある程度、大筋さえズレなければ、よいだろうと。都合がいい、映画的なウソさえつかなければ成立をすると僕は信じていたので、どこか遠くに行ってしまうようなアプローチはしませんでしたが、再現VTRではないので形態模写のような近づきすぎるアプローチもしなかったです。あとは映画を観るお客さんの判断になるのかなと思っています。
それに、これまでも街のあんちゃん、気のいいあんちゃんみたいな役柄を演じて、映画上ではハプニングやら問題も起こして、どこか弊害にもなりうるキャラクターはありましたが、ここまでの責任を背負う役柄は、そうそうないと思うんです。だからこそ今回、僕のアプローチは、力強い萩原(聖人)君、吉岡(里帆)さん含めて、みんなでこの作品を作ろうというアプローチをしました。ひとりで背負わなかったんですよね。
●五十嵐匠監督とのお仕事はいかがでしたか?本作はとてもシリアスなのですが、一気に観終わってしまう力強さもありますよね。
僕もそう思いました。監督はジェントルなのですが、五十嵐監督の途方もない優しい執念があったと思うんです。この作品はコロナ禍で1年半くらい延期して、幸いにも完成して公開できたわけですが、その間、俳優部たちは別の仕事に散っていたけれど、監督は一点突破で念を送ってくれていたと言うか、それが我々も救ってくれたなとは思います。
●村上さんもこれまでのインタビューや舞台あいさつを拝見していて、映画への優しい執念をお持ちですよね。
真面目にやっているのは、観客のみなさんって、実は全部見抜いていると思うからなんですよね。ある種の実直さと言うか。真面目な感じやストイックな芝居とは意味合いがやや違うのですが、自分がこうだと信じる道・方向性、それを我がもの顔で貫くのではなく、たとえば役の設定があるのである方向に行こう、現場がそう動いているから僕もそう動こうみたいな動き方が好きなので、それがそう映っているのかもですね。
●仕事以前に映画に対する愛みたいなものは伝わりますからね。
ただ、みなさんに映画を観ていただくということは、すごく難しいことなんですよ。お時間とお金をいただいて、観に来ていただくって。だから今回の映画も、みなさんが期待できる僕らしいワンフレーズが、なかなか出せないところはあります。本当のところは難しいですよ。たとえば、「次世代につなぐ作品」「今、観るべき作品」だと思います、みたいなことで言うと、はたしてそれが本当に「そうなのか?」というところもあると思うんですよね。
ただ、ひとつだけ言えることは、この『島守の塔』、おそらく30年・50年耐え得る作品になったと思います。もし本当にそうであれば、うれしいですけどね。今の皆さんが観てどう思うのか、そんな感じのことしか宣伝活動で言えないのですが、どうか観ていただければと思います。
■ストーリー
沖縄戦末期、本土より派遣された2人の内務官僚がいた。
1人は学生野球の名プレーヤーとしてならし、戦中最後の沖縄県知事として沖縄に赴任した島田叡(あきら)。島田は、度重なる軍の要請を受け内務官僚としての職務を全うしようとする。
しかし、戦禍が激しくなるにつれ、島田は県政のトップとして軍の論理を優先し、住民保護とは相反する戦意高揚へと向かわせていることに苦悩する。そして、多くの住民の犠牲を目の当たりにした島田は「県民の命を守ることこそが自らの使命である」と決意する。
もう1人は、警察部長の荒井退造。
島田と行動を共にし、職務を超え県民の命を守ろうと努力する。
実は、沖縄戦で2人はそれぞれ重い十字架を背負っていた。荒井は、子供など県民の疎開を必死に推し進めていた。その矢先、本土に向かっていた学童疎開船「対馬丸」が米軍の攻撃に遭い、数多くの子供たちが犠牲となった。また、島田は知事として、軍の命令で鉄血勤皇隊やひめゆり部隊などに多くの青少年を戦場へと向かわせていた。
2人はそれぞれ十字架を背負いながらも、戦禍が激しくなるのに伴い、必死に県民の疎開に尽力し多くの沖縄県民を救っていった。
一億総玉砕が叫ばれる中、島田は叫んだ。
「命どぅ宝、生きぬけ!」と。
配給:毎日新聞社、ポニーキャニオンエンタープライズ
(C) 2022映画「島守の塔」製作委員会
全国公開中
(執筆者: ときたたかし)
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