政府は、戦後の創業期に次ぐ第2創業期を実現するため「スタートアップ5か年計画」を設定。2022年1月の年頭記者会見では岸田首相により「2022年をスタートアップ創出元年」として表明され、以来スタートアップへの注目が高まりつつある。一方でスタートアップ創出の課題には、地方と東京との機会格差が挙げられている。現状、ベンチャー企業数や投資資金は東京に集中する傾向があり、地方と比べて圧倒的な差がある。だが、東京で起業する起業家の出身地は地方ということも珍しくない。つまり起業家として活躍できる人材は全国にいるものの、資金やノウハウ、起業を学ぶ機会、人的ネットワークが東京に集中しているため、地方で起業家が生まれづらいと言える。
そのような格差を是正するべく、実業家・投資家の海老根智仁氏らレジェンド・パートナーズと三井住友信託銀行は共同でNES社を2019年に設立。各地の大学や地方公共団体と共同で起業家教育プログラムを実施してきた。
そしてこの度、三井住友信託銀行や信金中央金庫、公的機関、機関投資家、起業経験者らにより総額数十億円規模の地域発スタートアップに投資を行うファンドが設立された。NES社が展開してきたプログラムを加速させ、さらなる起業家の輩出を目指す取り組みが始動した。
本プロジェクトのゴールはNES 社が行ってきた起業家育成活動と、NES ファンドの出資者が保有する機能の融合による事業創出の促進だ。また産学官金の連携をより強固にし、イノベーションを起こす体制づくりを加速させ、持続可能な地域経済の実現を目指す。
NES 社は豊富な企業経営経験に基づき、大学や地方公共団体と連携して、スタートアップ企業への事業計画のブラッシュアップ、資金サポートまで幅広く活動を支援していく。今後はNES 社の活動に、信金中央金庫や三井住友信託銀行の金融機関としてのネットワーク、公的機関、機関投資家、エンジェル投資家などの NES ファンドの出資者が長年培ってきた起業家支援への専門性を活かしていく。また、上場企業創業者や企業経営経験のある投資家が有する経営ノウハウの伝承や起業家育成の場を、大学・地方公共団体と連携しながら提供していくことで、起業家輩出の好循環、さらには持続可能な地域経済の実現も目標とする。
具体的な各社の役割として、NES社は起業家教育プログラムの企画・運営、上場企業創業者や企業経営経験のある投資家とのリレーションを活用した伴走支援、さらに技術シーズの事業化サポートなどを行っていく。7月4日(月)に開催されたプロジェクト発表会にて、NES社代表取締役社長の今川信宏氏は「我々のビジョンである“日本のどこにいても社会課題を解決でき、イノベーションが起こせる社会”を見据えて取り組んでいきたい」と述べた。
信金中央金庫は全国の信用金庫のネットワークを活用した起業家育成プログラムの参加者の募集、各地域の信用金庫を通じた地域関係者間の連携促進、創業支援プラットフォーム「しんきん創業の扉」による起業家育成プログラム参加者の募集を行う。さらにしんきん地域創生ネットワークとしんきんコネクトによるビジネスマッチング支援、また信金シンガポールなどの海外拠点と連携した取引先への海外業務支援を担っていく。
信金中央金庫理事長の柴田弘之氏は「今回のプロジェクトを通じて、地域発スタートアップを全国各地で生み出し、持続可能な地域社会の実現を目指していきたい」と意気込んだ。
三井住友トラスト・ホールディングスと三井住友信託銀行は大学・地方公共団体とのネットワーク活用による起業家支援プログラム開催地域拡大のサポート、各支店や地域金融機関とのネットワーク活用による起業家育成プログラム参加者の募集を展開していく。また取引先企業とのビジネスマッチング支援、取引先紹介によるファイナンス支援、銀行・信託・不動産の信託銀行機能提供による経営支援、証券代行機能による上場支援も推進する。
三井住友トラスト・ホールディングス取締役執行役社長の高倉透氏は「気候変動や超高齢社会、デジタルトランスフォーメーションなど、日本は今、大きな社会課題と直面しています。個人が蓄えてきた貯蓄を未来づくりに投資し、さらに豊かな社会作りに生かしていくタイミングが到来していると言えます。次世代に豊かな社会を紡ぐため、様々な機関と強固に連携し、本プロジェクトを取り組んでいければ」と話した。
成長の見込める起業家へ投資する従来のベンチャーキャピタルとは異なり、育成から投資を一貫して行い、さらに地方格差解消も見据える本プロジェクト。新たな取り組みに、今後もますます注目が集まるに違いない。