映画『ベイビー・ブローカー』ソン・ガンホ インタビュー「是枝監督の冷静な視点」「IUが“僕を見てくれなくなった”出来事」

是枝裕和監督の最新作にして、<赤ちゃんポスト>をきっかけに出会った赤ん坊の母親、 ベイビー・ブローカーの男たち、そして彼らを現行犯逮しようと追いかける刑事―― 彼らが絡み合いながら繰り広げる一風変わった旅路を描く、 衝撃と感動のヒューマンドラマ『ベイビー・ブローカー』が大ヒット上映中です。

監督初となるオール韓国キャスト、韓国ロケとなった本作。ソン・ガンホ、カン・ドンウォン、ぺ・ドゥナ、イ・ジウン、イ・ジュヨンら豪華俳優陣が集結しています。本作で、第75回カンヌ国際映画祭最優秀男優賞を受賞したソン・ガンホさんに貴重なお話を伺いました!

――本作はすでに韓国で公開され話題を呼んでいる様ですが、どの様な反響・反応がありましたか?

韓国では本当に様々な反応がありました。韓国で是枝監督はとても人気のある監督で、マニアと呼ばれる方もたくさんいます。そんな状況の中、多くの人が期待を持って公開されました。これまでのファンだけではなく、これまで是枝監督が作ってきた一貫したテーマ、冷静沈着にこの世界を描写している作品に興味を持つ新しいファンも多い様です。

――是枝監督とソン・ガンホさんは以前より交流があり、本作では念願の映画作りとなりましたね。

是枝監督の作品をずっとファンとして拝見してきました。長い時間がかかりましたが、その約束が叶って今回ご一緒することが出来ました。人生をとらえる視点、冷静に社会を切り取る眼差しに俳優としても多くのことを学びました。

是枝監督の作品についてある種の先入観の様なものがありました。それは、暗く厳しい社会を描いた後にハッピーエンドがやってくるのだろうと。そして、自分(ソン・ガンホさん)が出演することで“ジャンル映画”の様なものになるのではないか、とも。でも、これまでの是枝作品を全て見ていれば、そんなことはないはずなのに、人間は本当に忘却の生き物だな、と思わされました。

――本作でも監督の視点で社会が見事に描かれていますよね。

改めて是枝監督の作品を観ていると、題材そのものに焦点があてられているのではないと気付きます。今回でいえば「ブローカー」という存在が重要なのではなく、題材を通して私たちが生きているこの社会の空気や、なりたちを語っているのだと。それを決して劇的に加工や誇張をすることなく、冷静にとらえている。そこから(社会に対しての)怖さを感じることも出来ます。

――とても深く是枝監督作品について感じ取っていらっしゃるのですね。ソン・ガンホさんが初めてご覧になった是枝作品や、好きな作品は何ですか?

個人的に最も好きな作品でもあり、一番最初に観た是枝作品でもあるのですが、『誰も知らない』(2004)です。今も本当に大好きな作品で、そのことは是枝監督本人にもお伝えしています。『ベイビー・ブローカー』は『誰も知らない』の延長戦にある作品であると感じますが、『誰も知らない』の結末では決して希望が描かれていないのですが、観客の心の中に希望の花が少し咲く様な、心の中でそっと黙祷する様なそんな作品であると思います。

――先日のカンヌ国際映画祭では最優秀男優賞を受賞されましたが、今のお気持ちを教えてください。

韓国でも「カンヌ映画祭での受賞をどう思っているか」という質問をたくさんいただいたのですが、これは回答を決めているのではなくて心からそう思うのですが、芸術家にとって、何か賞を獲りたくて作品を作っているわけではないんですね。これは是枝監督も同じだと思います。本当に光栄なことですし、俳優としてとてもありがたいことですが、それが“絶対”というわけでは無いと思います。

芸術家にとって一番重要なのは「観客との疎通」だと思います。僕たちが作った作品をどれだけの方が感じてくれるか、共感してくれるか、伝えたいことを分かってくれるか。その為に作品を作っている。その過程に映画祭などがあるのだと思います。

――本作にはイ・ジウンさんとイ・ジュヨンさんという若手の俳優さんが出演されていますが、俳優の大先輩であるソン・ガンホさんから観て、お2人の魅力をどんな所に感じましたか?

イ・ジウンさんは歌手IUとしてとても有名なスターですよね。俳優としても韓国で多くの作品で活躍していて、私も素晴らしい(演技の)潜在力をお持ちの方だと注目していました。これからが本当に楽しみです。イ・ジュヨンさんも同じで、すごいポテンシャルを感じましたので、これからたくさんの作品に出れば出るほど、さらに磨かれていくのではないでしょうか。

ぺ・ドゥナさんは皆さんご存知のベテランですよね。今回すごく難しい役柄だと思いますが、老練な演技を見せてくれました(一呼吸おいて)あ、カン・ドンウォンさんについてのコメントもですね(笑)。彼は本当に親しい人物で、僕にとっては本当に弟の様な存在です。見た目はこんな感じですが、純朴で田舎の青年っぽい所があります。ピュアな眼差しから、すきとおった魂が見えますよね。実際にもそうなんですよ。大スターですけれど、スター意識にとらわれることの無い方です。

――ちなみに、ソン・ガンホさんはIUさんの音楽を聴かれたりもするのでしょうか?

実は曲はあまり知らないんですね。先日も、韓国のバラエティー番組の企画で「IUの曲じゃないものは?」というクイズで見事に外しました。そこからIUさんが僕をあまり見てくれなくなりました(笑)。

――貴重なエピソードをありがとうございます(笑)。本作には様々な“出会い”が描かれていますが、ソン・ガンホさんにとってそんな大切な出会いはありましたか?

これまでたくさんの素晴らしい出会いがありました。これまで俳優として生きてきて疲れてしまったり、危機を迎えることももちろんありました。出会いというのは一つ、一人にしぼることは出来なくて、もちろん、是枝監督との出会いも10本の指の一つに入る出会いでもあります。

今回是枝監督と作品をご一緒して、シナリオを書く際に、いまだにパソコンを使わず手書きでしていらして、アナログが持つ真実性というのでしょうか、そんな姿に感銘をうけました。現場でも俳優の演技をモニター越しではなく、カメラの横にたって、自分の目で直接見て演出していらっしゃいましたし、これだけテクノロジーが発達する中で、映画にとって本当は何が大切なのか、ということを手放さずにいるところがとても印象的でした。

――今日は本当に素敵なお話をありがとうございました!

こちらこそ、お2人(※)にたくさん褒めていただいて嬉しかったです。ありがとうございました!
(1人はご一緒した他媒体の記者さん)

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藤本エリ

映画・アニメ・美容が好きなライターです。

ウェブサイト: https://twitter.com/ZOKU_F

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