「お岩さんと澪のシスターフッド」「妖怪の世界の魅力」『映画 妖怪シェアハウスー白馬の王子様じゃないん怪―』豊島監督インタビュー
大人気ホラーコメディ『妖怪シェアハウス』が映画化。『映画 妖怪シェアハウスー白馬の王子様じゃないん怪―』が6月17日より公開中です。
主人公・目黒澪役の小芝風花をはじめ、 澪とひとつ屋根の下で暮らすシェアハウスに住まう妖怪、お岩さん/四谷伊和役の松本まりか、 酒吞童子/酒井涼役の毎熊克哉、 座敷童子/和良部詩子役の池谷のぶえ、 ぬらりひょん/沼田飛世役の大倉孝二の他、 澪に想いを寄せる交番の巡査・佐藤満役の豊田裕大、そして映画オリジナルキャラクターであり、映画の“鍵”を握る澪の運命の恋の相手・AITO役の望月歩と豪華キャストが集結した本作。
ドラマシリーズのファンはもちろん、映画からでも楽しめる作品となっている本作。コメディでありながら、時々うるっとするこの妖怪ストーリーをどの様に作り上げたのか。豊島圭介監督にお話を伺いました。
――本作大変楽しく拝見いたしました!ドラマ『妖怪シェアハウス』の2期目が先日最終回を迎えましたが、反響はいかがですか?
もともと大人向けに作ったドラマのつもりだったのに、実はたくさんの子供たちが観てくれていて。今「Tver」があるので、土曜の夜にやっても日曜に子供たちが観れるんですよね。シーズン1の時もミソジニーの話があったりとか。男性社会における女性の生き方とか、そういうテーマを妖怪のストーリーにのせて、大人向けに作っていたから、子供たちが好きと言ってくれるのは意外でした。脚本は真面目な感じであるんですけど、僕が演出で“パーティー”にしちゃってるというか(笑)。そのパーティー部分が子供たちにウケてるのかなと。
――本当にあらゆる世代の人が楽しめる作品ですよね!
妖怪モノでありながら、そういった批評精神みたいなものがあることを新鮮に受け止めてくれる人たちと、小芝風花さんのファンと、こういうふざけ倒している世界観が好きな人と…。色々な方が観てくれてありがたいです。
――キャスティングも最高に素敵ですよね。小芝さんはもちろん、大倉孝二さんや池谷のぶえさんという名俳優の皆さんが全力の妖怪メイクで。
プロデューサーの飯田サヤカさんが演劇マニアで。だから小劇場から、いっぱいキャスティングするのも味になっていると思います。
――私も安井順平さんを舞台で拝見していたので。
「イキウメ」ですね。「外の道」という公演では安井さんと池谷さんが共演されていて。基本的にドラマにはなかなかあんなに演劇の人たち呼ばないですからね。すごく面白いと思います。
――劇中はアドリブが多いそうですね。
そうですね。シーズン1は、メイクも衣装も演技のスタイルも手探りで作っていった中で、大倉さんがボヤきながらツッコむっていうのが完成して。シーズン2は、あまり何も考えずに始まった、というか。地続きで(シェアハウスでの)生活が繋がっている感じだったんです。今日、完成披露試写の舞台挨拶をしてきたんですけど(※取材時)、毎熊克哉さんが「大倉さんはアドリブをものすごく緻密に考えている」って話をバラしちゃって(笑)。「営業妨害だ」って言われてましたね。
――実はすごく考えられていたと(笑)。
各俳優陣、どうしたら台本をコメディとして成立させられるかっていうことに命を削ってやっている感じがしまして。だから、みんな事前にものすごく考えてくるんですよ。キャラクターの在り方とか、このシーン自体のゴールとか。このギャグは果たして本当に面白いのか?とか。現場は、みんなが頭をフル回転させているので、意外に大変な現場というか。のんびり楽しくというより、本当に身を削りあってコメディを作っている感じでした。
――なるほど…!戦いというか。
戦い、戦い!和やかですけど、我々スタッフも気を抜くとやられますね(笑)。“やられる”っていうのは悪い意味じゃないんですけど、どっちが深く考えているか合戦になる時もある。そのくらい、みんなで面白くしようという気持ちで一つの方向に向かっているっていうのが今回の映画版にも繋がっていますね。台本はありますけど、みんなのアイデアで、モコモコって世界観が広がっていきました。アドリブだけじゃなくて、持ち寄るアイデアで自体で。
――その戦いの中に、座長として小芝さんがいらっしゃると思うとすごいですね。
小芝さんは明るいし人に嫌われないタイプですけれど、人の何倍も役のことを考えたりするので。年長者とか僕に言われても「違う」と思ったら「違う」って言いますし。だから、彼女が納得しないものは、うまく成立させられない気もするので、納得するまで寄り添うというか。すごいですよ。大倉孝二さんに対しても「それ、違うと思います」って。嫌な感じではないですけど、言います。小芝さんの中で、“澪像”というか澪の在り方というのが、すごくしっかりしていて。
――小芝さんとのやりとりで印象に残っていることはどんなことですか?
いっぱいあります。例えば、「ここは澪が踊るシーンにしたいんだけど」って言ったら、「いやちょっと…今の澪の心情だと踊れないんじゃないですかね」って。みんなそれぞれ、自分のキャラクターに責任を持ってやっているので。自分がお芝居で嘘をついてしまうと、人にバレてしまうんじゃないかって思っているんです。嘘のない芝居をするために、みんな凌ぎを削っているというか、頭を使っているのだと思います。
――小芝さんのインスタグラムでの告知も大好きでした。
すごいですよね!「餓鬼」を彼女が落武者のカツラをつけて、ガキのメイクをしてノリノリで「こんなん出来ました」ってやったら、お母さんに「引かれた」って言っていました(笑)。「あんた、何やってんの」って。
映画版の「四谷怪談ループ」に行った時に、戸板返しで落武者で出てくるのが(和良部)詩子さんなんですけど。あのカツラを流用して澪の餓鬼を作ったそうです。
――そんな流用があったのですね!
もうね、スタッフ全員と協力してやっているんですよね。みんなクタクタになっても、それだけは一生懸命やるって。そういうところが良いチームだなって思いますね。僕は何にも関わってないですからね(笑)。勝手にいろんなことが進行していて、すごいなって。小芝さんは人を幸せにしてくれるタイプの人ですよね。
――本作は、お岩さんと澪の友情が良かったです。姉妹のような友情のような…。感動しました。
シスターフッドというか。そうですよね。お岩さんって、澪をこの世界に連れてきた張本人なんですよ。だから澪の未来に責任を持たないといけないと思っているし。あとは、個人的に愛してしまっているんでしょうし…。滑稽なくらい溺愛してしまってる感じが面白いというか。
この映画も、「はじめて澪が、ダメ男ではないまともな人と恋愛をする」っていうところから始まるんですけど。裏テーマとして、「お岩さんから澪への愛情」があります。お岩さんからの愛情を澪が、どう返すかっていうのもテーマになっていて。僕が一個、チャレンジとしてやりたかったのが、“白目テレパシー”っていう面白いポーズがドラマの時からあるのですが、その白目テレパシーで最後、泣けるシーンをできないかって。
――最高でした笑い泣きです。
良かったです! 松本さんが、すごいトリッキーなことをしていて。白目なのに涙を流すっていう。現場で普通に撮ろうと思ったら「ちょっと待ってください」って言われて。「何するのかな?」って思っていたら、涙を流していて。「白目で涙を流した女優は、まだこの世にいないんじゃないかなと思って、やってみました」って。僕は涙をリクエストしていなかったので驚きました。すごいですよね。そういった感じで、皆様からのアイデアの持ちこみで出来ています。
――本作で「ツルツルの世界が理想だ」といった描写が出てきます。面白いシーンもありつつ、現代社会は今、本当にツルツルになっちゃってる部分もあるのかなと。
突き詰めると争いが無くなって、みんなのことを同様に愛して…博愛って言うんですか?それで楽しいかなって…。戦争したいって思う気持ちを、なんとか自分でコントロールして抑えつつ、生きていくことが人間が生きることなんじゃないかなと思ったり。でも、その「自分でコントロールする」というのは、諸刃の刃で。悲しい事件や事故が多いですけれど、ツルツルになってしまえば、あんなことないのにと、理想を持つ人の気持ちも分かるという。
ツルツルの世界になった方が幸せになるケースも多分あるっていうことなのか。でも、ゴツゴツしていても良いから、私はそっちを選ぶんだっていう澪の姿は一つの理想というか…僕らが生きる=そういうことじゃないかなって気がしました。
――白い衣装を着て花輪をつけた集団というのも面白い描写でした。
『ミッドサマー』を何の照れもなくアレだけパクれたのは、この映画が初めてじゃないかなと思っています。
――(笑)。でも、喜びそうですよね。アリー・アスター側も。日本の伝統的な妖怪ストーリーにという。
観て欲しいですね(笑)。アリー・アスターってもちろん面識ないんですけど、僕がアメリカで通っていた映画学校の後輩に当たる人なんです。後輩の方が大出世してるんですけど。だから、後輩の映画をパクったってことになります!(笑)
――それはこの映画のもう一つの見どころですね!(笑)。監督は長い期間、この作品に携わってきて。妖怪、妖怪話に相当詳しくなったのではないでしょうか。
以前、「本当は怖い昔話」とか流行りましたよね。要するに見方を変えると当時の残酷な世相が昔話という形に置き換えられているとか。あるいは今の視点で昔話を見ると、いかに当時の女性が虐待されているか見えるというか。というように、切り口を変えると見方も変わるっていうのがドラマシリーズから映画に至るまでの面白さになるといいなって思ってやってきたんですけど。
――本当にそう思います。
そういう意味では劇場版の100分の物語が、新しい昔話になると良いなと思っています。
――本当にそうですね。お岩さんの四谷怪談の件は、意外と知らない方が多い。
四谷怪談、今の若い人、知らないんですよ。それで急遽、冒頭にシーズン1で使ったやつを入れて、「ゲキメーション」で、少し分かってもらおうと。四谷怪談のお岩さんがお化けとして怖いですっていう話なのに、欲望が加速した状態を新しい解釈で描いています。そういうことができるのも、このシリーズの面白さだと思います。
――監督は昔から妖怪作品がお好きだったんですか?
僕は手塚治虫ファンなんですけど。映画にもなった「妖怪どろろ」。あれって醍醐景光っていう武将が自分の子供を48体の鬼に差し出して好きなところを持っていけと。で、それぞれの部位を持っていくんですけど、奇形になった主人公が一体一体たおしては奪われた目や体の部位を獲得していく…という、すごい話なんですけど、はじまりは「妖怪どろろ」ですね。
――私は世代的に90年代の「ゲゲゲの鬼太郎」が直撃なんですけど、今の子供たちも新しい「ゲゲゲの鬼太郎」があったり「妖怪ウォッチ」もあったり。
妖怪ウォッチもあるしね。すごいですよね。どの世代にも寄り添うように、なんらかの妖怪作品があって。江戸時代も、きっとそうだったんでしょうねって。ああいう妖怪ものを子供たちが見たりして、「怖い、怖い」って。日本には妖怪の世界がずっと側らにあって。八百万の神につながるような、生活の知恵として、そこにあるのは本当に面白い。良い国に生まれたって気がします(笑)。
――監督が好きな妖怪は、いらっしゃいますか?
僕は家で風呂掃除担当なんですよ。で、風呂掃除しながら「あかなめ」がいたら良いなって思います(笑)ちょっと気持ち悪い気もしますけど、掃除が楽そう。
――個人的に『妖怪シェアハウス』はずっと観ていきたい世界というか、勝手な発言ですけど次シリーズも期待しています。
そうですね、がんばります。なんの約束もできないですけど…(笑)。こないだ、ドラマの最終回を放送したばかりですけど、澪ちゃんにツノが生えたところで、みんなが拍手するのが、すごい世界だなって思って。「そっちになれたんだ!」っていう、価値の転倒が面白いなと思います。
映画では、もちろん澪のラブストーリーという新しい切り口も見ていただきたいですけど、基本的には、やりたいこと全部乗せでやったので(笑)後半、訳がわからない脳が溶け出すようなグルーヴを作りたくて。みんな踊り狂ったり、四谷怪談になったり。ぜひ楽しんでいただきたいです。
以下ネタバレに触れる箇所となります。気になる方はお気をつけください!
――本作での新キャラクターとなる「AITO」については、ネタバレが多いキャラクターのため、お聞きするのが難しいのですが…。望月歩さんの存在感も素晴らしかったです。
そもそもネタバレを禁止しているっていう方針も僕は分からなくて。タイトルで「白馬の王子様じゃないん怪」って言っている時点で矛盾なんですよね(笑)。望月さんは今回、天才数学者の「AITO」を演じてくださっていますが、天才を映画で演じるって、ものすごく難しいと思うんですね。しかも人間じゃないもの。人外的なものを演じる。しかも、この人の場合は新種の妖怪なので参照すべきサンプルがないんです。「ぬらりひょん」だったら、過去に絵があったり、水木しげる先生の漫画があったりするんですけど。この人だけないから全部、自分で作らないといけないっていう。
――なるほど、完全に現代の妖怪ですものね。
そもそも天才を描くのってすごく難しい中で、天才であり新種妖怪であるAITOという存在を作るのが、すごく難しかったと思います。生まれ落ちたばかりの鹿の子みたいな感じで。電脳空間では存在していたけど、受肉して肉体として現れたのは初めてであるっていう設定にしてあるので。やたら体を使い慣れていなくて、転んでみたり、落ちそうになったりとか、体が制御できなくて震えてみたりとか、人間になりたてっていう要素をいっぱいやってもらいました。
望月さんも脳は明晰だけど体がついてこないっていうのを、すごく一生懸命考えてやってくれていて。あとは、彼が目指す世界が“ツルツル”だとするなら、生身のゴツゴツした欲望を持った澪のような人の計算できない行動がグサグサ刺さる…という描写があります。そうした所で「澪のどこで僕は心を震わせたらいいでしょうか」みたいなことを言ってくれたり。「考えて欲しい」ってリクエストしたら、いろんなことを彼なりに考えてくれたりしたっていう。
――彼はゴツゴツとした欲望を知らないからこそ、お岩さんの不器用だけど強い愛がとても引き立つというか。AITOとお岩さんの対比が個人的にもすごく好きな展開でした。今日は楽しいお話をありがとうございました!
『映画 妖怪シェアハウスー白馬の王子様じゃないん怪―』
<あらすじ>
澪は相変わらず妖怪たちと楽しく暮らしながら、作家になる夢を追いかけている。世間では AI 恋人アプリが大流行し、誰もがスマホを見てニヤニヤしていたが、出版社での仕事に追われている澪は恋愛とはご無沙汰だった。そんなある日、上司に無茶振りされた取材でイギリス育ちの天才数学者・AITO に出会い、恋に落ちる。理想の王子様との幸せな日々もつかの間、澪はその恋がシェアハウスだけでなく巷の妖怪たちを危険に晒していることを知る。その頃、人間社会にもある“現象”が起き、人間の未来は大きく変わろうとしていた。人間と妖怪の歴史の分岐点の鍵となる、澪の決断やいかに……!?
【クレジット】
小芝風花 松本まりか 毎熊克哉 豊田裕大 池谷のぶえ
佐津川愛美 長井短 井頭愛海 尾碕真花 小久保寿人 片桐仁 安井順平
望月歩 池田成志 大倉孝二
監督:豊島圭介 脚本:西荻弓絵 音楽:井筒昭雄 主題歌:ayaho「アミ feat. 和ぬか」
製作総指揮:早河洋 製作統括:手塚治 製作:村松秀信、西新、今村俊昭、堀内大示、伊藤貴宣、寺内達郎、能田剛志、森君夫
企画協力:古賀誠一 エグゼクティブプロデューサー:内山聖子 プロデューサー:飯田サヤカ 遠藤英明 押切大機 宮内貴子
撮影:大鋸恵太 照明:坂本心 録音:金杉貴史 映像:浅香康介 編集:村上雅樹 記録:井手希美
セットデザイン:村竹良二 装飾:鈴木仁 衣裳:岩本起法子 ヘアメイク:長島由香 特殊メイク:こまつよしお ゲキメーション:宇治茶
VFX:後藤洋二 選曲:稲川壮 音響効果:西村洋一 助監督:北野 隆 天野隆太
制作担当:白石治
制作プロダクション:角川大映スタジオ
映画「妖怪シェアハウス」製作委員会:東映 テレビ朝日 朝日放送テレビ 角川大映スタジオ メ〜テレ
北海道テレビ 北陸朝日放送 九州朝日放送
映画公式サイト :https://youkai-movie2022.jp/
ドラマ公式サイト:https://www.tv-asahi.co.jp/youkai_kaettekita/ 公式 twitter:@youkaihouse5
(C)2022 映画「妖怪シェアハウス」製作委員会
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