空き家を日替わりで活用。地域住民によるコーヒー店から結婚式場まで 東京都調布市深大寺

空き家で街を盛り上げ、人をつなぐ。「空き家をスナックする会」の挑戦

東京都調布市深大寺で空き家問題に取り組むコミュニティ「空き家をスナックする会」。「まずやってみる」をコンセプトに、メンバー自らが空き家のDIY改装を行い、工作や料理のワークショップ、間借りでの店舗運営、さらには結婚式など、さまざまな形で活用している。発起人の薩川良弥さんに、活動の背景やこれまでの事例、今後の展望について聞いてみた。

地域の人たちと空き家の活用方法を模索

――はじめに「空き家をスナックする会」とはなんですか?

薩川良弥(以下、薩川):空き家を活用することによって、街の活性化につなげることを目的としたコミュニティです。メンバーはオンラインでつながり、アイデアを出し合いながら企画を固め、みんなで実践していくチャレンジ型のチームですね。2018年3月に立ち上げて、現在の会員数は70名ほどです。

「空き家をスナックする会」の運営者、薩川良弥さん(写真撮影/松倉広治)

「空き家をスナックする会」の運営者、薩川良弥さん(写真撮影/松倉広治)

薩川:現在、主に運営している元空き家のスペースは2箇所。調布の深大寺エリアにある「いづみや」と「COMORI」です。「空き家をスナックする会」のメンバーであれば利用が可能で、それぞれが企画を発案して自ら協力者を募り、これまでにさまざまな形で利用されています。

――「いづみや」、「COMORI」はどんな施設ですか?

薩川:「いづみや」は元お蕎麦屋さんでした。10年ほど空き店舗だった建物を改装し、今は地域に住むメンバーに間借りしてもらって日替わりのお店を運営しています。リアルな店舗で思い思いの“商売”ができるということで、人気の施設になっていますね。現在、月の半分は埋まっていますよ。

もう1つの「COMORI」は、一般的な二階建ての一戸建て住宅なのですが、静かに1人の時間を過ごす、お一人様向けの宿として運営しています。深大寺の自然を感じながら集中したり、何も考えずに過ごしていただくことができます。

――薩川さんはなぜ「空き家をスナックする会」をつくろうと思ったんですか?

薩川:私はもともとコミュニティマネージャーの仕事をしていて、場の運営とコミュニティづくりをメインに活動してきました。そのなかで「いづみや」の存在を知り、私なりに活用方法を模索してみたんです。

外観や看板は現在もそのまま使用している(写真撮影/松倉広治)

外観や看板は現在もそのまま使用している(写真撮影/松倉広治)

薩川:一般的な空き家活用って、フルリノベーション後に貸すか売るか、もしくは自分で運営するかじゃないですか。でも、私の場合は地域住民に“参加”してほしかったんです。住民のみなさんに改装や運営にも加わってもらい、空き家活用を体験してもらうことで長期的に街に愛される場所になるのではないかと思ったんです。そこで、空き家とコミュニティをセットにしたオンラインサロンとして「空き家をスナックする会」を開くことにしました。

――空き家問題という街の課題について、住民自らが考えるきっかけにもなりますね。

薩川:そうですね。自分自身も、そうやって住民たちが自ら盛り上げていくような街で暮らしたいと思いますし、メンバーも同じような気持ちで参加してくれているように感じます。

――なるほど。ちなみに、「空き家をスナックする会」の“スナック”の由来って?

薩川:以前、(芸人で著作家の)西野亮廣さんが「これからは産業がスナックする」と話されていたんですよね。スナックに集まるお客さんって美味しいお酒やツマミというよりは、コミュケーションを求めていると。だから、ママに「片付けといて」と言われたら、お客さんも働く。つまり、商品を提供して消費するだけではなく、一緒につくり上げることがこれからは重要なんじゃないかというお話で、まさにそのとおりと思ったんです。その象徴がスナックなんです。

――たしかに。みんなで場をつくっている感じがします。

薩川:だから、空き家もオーナーさん、地域住民、行政、地域の企業、みんながフラットな関係でつくれたらいいなと思い、スナックという言葉を用いました。

壁面のペイントや置物はお蕎麦屋さん時代からのもの(写真撮影/松倉広治)

壁面のペイントや置物はお蕎麦屋さん時代からのもの(写真撮影/松倉広治)

空き家のオーナーさんへ飛び込み提案のはずが……なぜか「茶飲み仲間」に

――活動を始めるにあたって、最初はどんな課題がありましたか?

薩川:一番大変だったのは、そもそも空き家が見つからないことでした。いや、空き家自体はあるんですけど、安く借りられて、自由にリノベーションして活用できるような“都合のいい空き家”なんて、実際にはそうそうない。建物自体は魅力的でも、オーナーさんの意向であまり大掛かりなことはしたくないというケースもありますからね。そこで、いい感じの建物を見つけるたびに、手紙を出していました。100件くらいには投函したと思います。

――100件! すごい行動力ですね。

薩川:そんなことを半年ほど続けましたが、実際にオーナーさんと出会えた数でいうと7~8人でしたね。そんな時に「いづみや」の賃貸情報が出たんです。不動産会社を介して物件を見学させてもらい、オーナーさんともお話しすることができました。ただ、不動産会社が設定した賃料が高くて……。当時、とてもそんな予算はありませんでした。

「いづみや」のオーナーさん(右)と話し込む薩川さん(画像提供/薩川良弥)

「いづみや」のオーナーさん(右)と話し込む薩川さん(画像提供/薩川良弥)

――どうされたんですか?

薩川:とにかく、必死に熱意を伝えました。「いづみや」でやりたい事業プランを持っていき、「現状の家賃では難しいのですが、ただただチャレンジしたいんです」と。当時のプランは、1階はコミュニティースペースとして運営し、2階は民泊として外国からの観光客向けに貸し出す、みたいなものでしたね。

――想いは伝わりましたか?

薩川:もちろん、すぐに結論は出ませんでした。ただ、オーナーさんには「信用できるやつだな」と認識していただけたようで、連絡を取り合うようになったんです。気付いたら、一緒にお茶をする関係になっていましたね。

――なんと……!

薩川:それから2~3カ月後くらいですかね、「1日だけお試しで営業してみる?」というようなことを言っていただきまして。僕はそこで「いづみやで何かしたい人は、きっといっぱいいます。僕が地域住民を集めるので、どのように生まれ変わらせるのがいいか、みんなで考える会を開きたいです」と提案しました。

オーナーさんは半信半疑でしたが、告知したところ一瞬で40席が埋まったんです。空き家の活用に興味がある人は多いだろうと思っていたけど、正直、ここまでの反応は予想していませんでしたね。オーナーさんも、ここまで人が集まるならと、私が管理することを条件にしばらく使わせてもらえることになりました。

地域住民と一緒に「いづみや」の活用方法を話し合った時の様子(画像提供/薩川良弥)

地域住民と一緒に「いづみや」の活用方法を話し合った時の様子(画像提供/薩川良弥)

――事業の内容云々の前に、薩川さん自身を認めてもらえたような感じですね。

薩川:そうであれば嬉しいですね。オーナーさんとは今も月に一度、活動の報告会をさせていただき一緒にお茶を飲んでいます。私はもちろん、オーナーさんも楽しそうで、良好な関係を築くための大切な時間になっていると思います。

ちなみに、「いづみや」の運営が始まってから4年が経った今も賃貸借契約は結んでおらず、オーナーさんのご好意で月額の家賃ではなく、その都度安価で貸していただいています。お金だけではなく、人と人との関係性によって成り立っているんです。「いづみや」でやりたいのも、まさにそれ。この場所で地域住民がつながることで、さまざまな街の課題を解決していきたいと思っています。

特に何もしなくても、人と人が自然につながるコミュニティが理想

――「いづみや」では、当初どんな活動をしましたか?

薩川:当初から今のような「間借り」で運用することを考えていたので、まずは飲食許可を取得するための改装を行いました。資金はクラウドファンディングで募り、最終的に200万円ほどのご支援をいただくことができました。

クラウドファンディング前の「いづみや」のキッチン(画像提供/薩川良弥)

クラウドファンディング前の「いづみや」のキッチン(画像提供/薩川良弥)

メンバーとキッチンを改装(画像提供/薩川良弥)

メンバーとキッチンを改装(画像提供/薩川良弥)

クラウドファンディングで支援を受け、生まれ変わったキッチン(画像提供/薩川良弥)

クラウドファンディングで支援を受け、生まれ変わったキッチン(画像提供/薩川良弥)

――間借りをする人はどうやって集めましたか?

薩川:口コミもありましたが、多くは実際に「いづみや」に来たお客様ですね。その日に入っているお店の人と話すなかで「私は木曜日だけ借りているんですよ」みたいな会話から少しずつ増えていきました。大々的に告知をしているわけではないので一気に借り手が増えることはありませんが、このゆるやかなスピード感と、こぢんまりとした規模感が逆に良いと思っています。

なぜなら、そのほうが関わるメンバー全員に当事者意識が生まれます。実際、掃除もみんなでやるし、お店の使い方も私が決めるのではなく、みんなで話し合っています。そうやって、みんなで少しずつ意見を出し合いながら運営していくスタイルが理想的だと思うんです。

――新しく加わる人もネットの情報だけではなく「場の雰囲気」を見て決めているから、ギャップを感じることも少なそうです。

薩川:そうですね。空き家活用ってなんとなくイケてる!お洒落!みたいなイメージだけが先行して、現場の実態を知らないまま来られてしまうと、ちょっと難しいように思いますね。正直、古い空き家って隙間風もすごいし、不便なところもたくさんあります。それに対して「ちゃんと管理して直してくれないと困るよ!」と言われてしまうと、少し辛いかなと。そんな部分も含めて、この場所を愛してくれる人と一緒にやっていきたいです。

――現在、どんな店舗が入られていますか?

薩川:今日(取材日)のコーヒー屋さんをはじめ、壺の焼き芋屋さん、バリ料理屋さん、薬膳カレー屋さん、チャイ屋さん、グルテンフリーカフェ、ほかにも単発でそば打ち体験イベントなどを開催しています。基本的には地域住民が多く、何かチャレンジしてみたい、この場を活用してみたい、という方々にご利用いただいています。

毎週木曜日に出店している自家焙煎コーヒー「みよし珈琲(344coffee)」。コーヒー豆は「いづみや」で焙煎している(写真撮影/松倉広治)

毎週木曜日に出店している自家焙煎コーヒー「みよし珈琲(344coffee)」。コーヒー豆は「いづみや」で焙煎している(写真撮影/松倉広治)

――薩川さんも毎日いるわけじゃないですよね? それでも問題なく運営できていますか?

薩川:そこは入居いただいているみなさんのおかげですね。本当に人柄が良い方ばかりで、私がここにいられない時でも安心して場を任せられます。それに、最近は私がいなくても、自然と人と人のつながりが生まれているんですよ。今日のコーヒー屋さんでも、ここでお客さん同士が出会い、ランチ仲間になったりしています。そうやって、こちらが特に何もしなくても勝手につながりが生まれていくのがコミュニティの本質だと思います。そういう意味では、順調に場が育ってくれているのかなと。

――過去にはここで結婚式もやられたそうですね。

薩川:はい。といっても、私の結婚式なんですが。いづみやで食事を提供し、裏の駐車場にミュージシャンを呼んで、野外パーティーみたいな結婚式でした。我ながら良い式だったなと思うので、次は他のカップルの結婚式もやりたいですね。

薩川さんの結婚式。オーナーさんもとても喜んでくれたそう(画像提供/薩川良弥)

薩川さんの結婚式。オーナーさんもとても喜んでくれたそう(画像提供/薩川良弥)

街の人たちの力を結集し、完成した「森の宿」

――もう一つのスペース「COMORI」の経緯も教えてください。

薩川:こちらも「いづみや」と同じオーナーさんの所有物件で、何年も空き家でした。そこで、サロンのメンバーだけでなく、「いづみや」で出会った方々と一緒につくり上げたんです。例えば、WEBデザイナーのメンバーにサイトをつくってもらったり、コーディネーターに家具を選定してもらったり。企画の段階からみんなで考え、みんなの力を借りながら一緒に形にしていきました。そのぶん、完成した時の喜びも大きかったですね。最初から理想としていた「空き家という課題を、街のみんなで解決する」ことができたのは、とても感慨深かったです。

深大寺の小さい森の中にある、お一人様用の宿「COMORI」(写真撮影/松倉広治)

深大寺の小さい森の中にある、お一人様用の宿「COMORI」(写真撮影/松倉広治)

茶室をイメージした和室(画像提供/薩川良弥)

茶室をイメージした和室(画像提供/薩川良弥)

空き家を通じて、街と街をつなげたい

――4年にわたり「いづみや」を運営してきて、街の人たちからの反応は変わってきていますか?

薩川:少しずつ「いづみや」の存在を認知していただいていると感じます。当初は深大寺という場所柄、観光客の方が中心だったのですが、最近は地域住民のお客様が増え、近所のお蕎麦屋さんなども世間話がてらお茶を飲みに来てくださるようになりました。大きなことではないかもしれませんが、4年かけて街の人が気軽に立ち寄ってくれる場所になったことは、素直に嬉しいですね。

今では地域の交流の場にもなっている(写真撮影/松倉広治)

今では地域の交流の場にもなっている(写真撮影/松倉広治)

――街に「いづみや」のような場所があるだけで、街がどんどん面白くなっていく気がします。今後はどんな展開を考えていますか?

薩川:「いづみや」も「COMORI」も古い建物なので、2階の積極的な活用は避けてきました。とはいえ、せっかくスペースがあるので、なんとか活用したいです。これもメンバーや街のみなさんと一緒に模索していきたいと思います。また、これからは他の空き家の活用も手がけていきたいですね。

オンラインサロンを通じて、それぞれのスタンスで空き家活用に関われる仕組みづくりも模索している(写真撮影/松倉広治)

オンラインサロンを通じて、それぞれのスタンスで空き家活用に関われる仕組みづくりも模索している(写真撮影/松倉広治)

――調布以外での活動も考えていますか?

薩川:そうですね。今は調布でコミュニティとして活動させてもらっていますが、空き家を通じて「街」と「街」がつながっていくようなことができたら面白いと思います。「空き家をスナックする会」がハブとなって人や情報をつなぐことで、姉妹都市のような関係性が生まれるかもしれません。そして、もしかしたら調布からそこに移住するメンバーも出てくるかもしれないですよね。

理想は、空き家を軸に他の街のコミュニティともつながっていき、その輪をどんどん広げていくこと。そのためにも、これからもチャレンジしていきたいですね。

全国的に増え続けている「空き家問題」。しかし、オーナーさんとつながることで、地域にとって意義のある場所へ変化させることができるかもしれない。今後、薩川さんが手がける空き家が楽しみだ。

●取材協力
空き家をスナックする会
深大寺いづみや
COMORI

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