霊妙な領域を描く名匠オリヴァー・オニオンズ

霊妙な領域を描く名匠オリヴァー・オニオンズ

 知るひとぞ知る名匠オリヴァー・オニオンズの傑作選。オニオンズは二十世紀前半に活躍し、同業の作家や批評家からは高く評価されたものの、世間の広い認知を得ることよりもあくまで自分の創作と向きあう姿勢を貫いた。芸術家肌の作家である。本書には八篇の短篇・中篇と、作者自身が考える幽霊譚の要諦をまとめた序文「信条」を収録する。

 オニオンズの作風については中島晶也さんが巻末解説で詳述されているが、彼の物語はおおむね理性的な現代人が超自然的な怪異にさらされる展開を取る。

 ツヴェタン・トドロフは『幻想文学論序説』で、〔テクスト中で語られる奇怪な出来事に対し、合理的な説明をとるべきか、超自然的な説明をとるべきか、読者に「ためらい」を強いることこそが幻想文学の第一条件〕と指摘した。オニオンズの小説はその「ためらい」を効果的に演出しながらも、あくまで軸足は超自然にある。怪異は微かな雰囲気や兆候からはじまり、漸進的に日常を侵していくのだ。ただし、ラヴクラフトやスティーヴン・キングのようにスペクタクル的に超自然を描くのとは違う。その筆致は精妙というほかはない。

 表題作「手招く美女」は、アルジャナン・ブラックウッドをして「最も恐ろしく美しい幽霊小説」を言わしめた傑作。霊的領域である古屋敷が蠱惑的に、主人公のオレロンを引きずりこんでいく。オレロンは真摯な小説家であり、彼の創作活動にアドバイスをおこなう怜悧なヒロインも登場し(彼女の存在が幽霊屋敷に対置される)、芸術小説としても興味深く読める。

「ベンリアン」も芸術小説。彫刻家ベンリアンは奇怪な神像をつくりつづけ、これが完成すれば自らの魂をそのなかに転生できるのだと主張する。ベンリアン自身は奇矯な人物だが、彼の知りあいの画家を語り手として配置することで、客観的に事態の推移が描かれる。

「ルーウム」は、何かが自分を追いかけてくるとの強迫観念を抱いている男ルーウムの物語。彼は天才的な技術者だが、この強迫観念のため常勤の仕事に就くことができない。「追い越す」ことについての物理学的な議論が、異様な結末へと繋がっていく。少しSF的な作品。

(牧眞司)

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