【冬のごちそう旅】寒ダラ汁に弁慶飯。食の理想郷・山形県鶴岡へ
日本各地に食自慢の都市は数多くありますが、東北にはユネスコ食文化創造都市に認定された市があるのをご存じですか? それが山形県の鶴岡市。豊かな山と海の幸があり、伝統料理が今も根づいています。郷土食を愛するライター、白央篤司がその魅力を探ります。
東京駅
世界も認めた食の都・鶴岡へGO!
目指すは、冬の山形。そう書くだけでワクワクする。寒い時期はグッと魚もうまくなるし、雪見酒もいいもの。せっかくだしお昼から食べ回ろうと、早朝に上越新幹線「とき」に乗り込みました。
JR新潟駅で秋田行きの特急「いなほ」に乗り換え。
特急「いなほ」のシート、チケットホルダーがついてました。なんか、和みます。
JRあつみ温泉駅に到着。本日の宿はここが最寄り駅なんですが、普通列車に乗り換えてさらに先を目指します。おいしいお蕎麦屋さんがあると聞いたもんでね。
車窓いっぱいに冬の日本海、大迫力!
羽前水沢駅
絶品の蕎麦と山形郷土料理を楽しめる店へ
JR羽前水沢駅に到着、幸いなことに雪も降らず、歩きやすくてラッキーでした。
歩くこと15分ぐらいかな、「大松庵」(だいしょうあん)さんが見えてきたぞ。
なんとも立派な門構え。営業中の札にホッとしました、「大雪の日は臨時休業も」と聞いていたので。あつみ温泉駅で電話確認してはいたんですけどね。
店の内部も実に立派で、歴史が感じられます。江戸時代の名家・鈴木家の旧宅を移転復元したものだそう。由緒あるたたずまいは、もうそれだけで「ごちそう」でした。
注文したのは、お蕎麦と麦きりを一緒に楽しめる「合のり」。麦きりとは、地元でおなじみの細切りうどんのこと。
初体験でしたが、なめらかでむっちりした食感が実にいい……! のどごしが良くて、つるっと軽くて。ただ柔らかいだけじゃなく、きちんとコシもあります。
毎朝石臼挽きで手打ちされるというお蕎麦、納得の香りの良さ。こちらもしなやかさと弾力を兼ね備えた食感とのどごしが素晴らしかったです。麦きりの小麦粉、蕎麦ともに地元産。庄内の大地の恵み、しっかりいただきました!
でも……せっかくここまで来たんです、もっと大松庵さんを味わいたい。
オリジナルメニューの「海坂」(うなさか)を追加オーダー。中央に盛られているのが地元のお麩「庄内麩」で、黒いのは岩のりです。
山形沿岸部の冬の名物のひとつ、岩のり。先ほどの列車からも、磯で岩のり獲りをする人たちが見られました。食感はしっかり、香りもいいんです。
岩のりが蕎麦にからんだところをツルツルッとすするの、たまらない。磯の香と蕎麦、だしの匂いが幾重にもかさなり合う楽しさよ。おつゆをたっぷり含んだ庄内麩もよかったなあ、これだけをつまみに一杯やりたくなりました。
さらにさらに! 「弁慶飯」がありますよ、これは頼むっきゃありません。庄内の郷土メシのひとつです。
白むすびに味噌をぬり、「青菜(せいさい)漬け」という地元の漬物でくるんで焼いたもの。甘めの味噌と漬物の塩気、そして白ごはんが口の中で一体化するともう……最高なんです。
「昔はこれを農家の人や林業の人が、田畑や山へ持っていったわけですね。仕事中のごはんとして。私も小さい頃からよく食べてきました。青菜でなく、白菜漬で巻いてつくることも」とは、大松庵のご主人、漆山永吉さんの談。
なるほど、手軽な携帯食だったわけですね。味噌をぬってさらに焼きつける。食感の良さも生まれるし、保存の意味もあったのかもしれないな。
あつみ温泉駅
山形食を堪能できる温泉旅館で一泊
すっかりお腹もいっぱいに。羽前水沢駅からあつみ温泉駅まで戻ってきました。今夜の宿「たちばなや」さんを目指します。
宿の送迎バス(事前予約制)に乗って、駅から大体10分ぐらい。山がすぐ目の前で、川沿いにある素敵な立地のお宿でしたよ。
館内に入り、目を奪われたのが中庭。趣のある日本庭園だったなあ。
夕食前にひとっ風呂、旅の楽しみですね。ほのかにとろみを感じるような、肌に柔らかいお湯が心地よかったー!
露天風呂がまた、よくてねえ。湯の湧き出るところに腰を当てて思わず「はあぁ……」なんて、声出ちゃいましたよ。寒さと疲れで硬くなっていた体が軸からほぐれていく感じ。滞在中、4回も入ってしまいました。
お楽しみの夕食。「山形の魅力を存分に味わってもらおう」という心意気が伝わってくる内容!
山形牛モモ肉のすき焼き。さっぱりめの割り下が牛肉の良さを引き立て、スッキリといただけるのが嬉しい。
活アワビの踊り焼き。なんとも柔らかいアワビ。
ノドグロの姿焼き、つまみとして最高でしたね。皮やヒレはパリッと香ばしく上がって、焼き加減もお見事。熱燗が進んじゃったな。
待ってました!
冬の山形、これを食べずには帰れない。名物・寒ダラ汁です。タラのアラと身、白子を豪快に使い、味噌で仕上げたもの。タラはうま味が抜けるのが早いので、真価を味わうなら水揚げされた地元で食べるのが一番ッ。コクがあって、うまいんだ……。
あ、黒いのは岩のりです。寒ダラ汁にも欠かせないもので、実にいいアクセントに。
山形といえば米どころ、夕食は「はえぬき」、朝食は「つや姫」と県を代表する2種を出してくれる心づかいが嬉しいなあ。
他にもお刺身や椀物などおいしいものいろいろでしたが、文字数の関係で全部を紹介できず……残念無念。
朝食も庄内風の芋煮や郷土の漬物など、山形食の楽しさがいっぱいに。本来は夏の食べ物である「だし」(ナスやキュウリなどを細かく刻んだもの)が少量ついてくるのも、「地元のうまいもん全部味わって!」という感じで、嬉しかった。
たちばなやさん、館内のあちこちに生花が飾られて、清潔感もあって、素敵なお宿でした。スタッフのみなさんも温かくてね。またぜひとも、訪ねたいです。
鶴岡駅
歴史ある荘内神社で参拝
チェックアウト後、あつみ温泉駅までまた送迎バスで送っていただき、羽越本線でJR鶴岡駅へ。観光もして帰りましょう。
鶴岡駅からバスで8分ほど、「荘内神社」へ。歴代藩主であった酒井家・四人の方々が御祭神となられており、地元の人々にとって大切な場所と聞きます。
鯛の形をしたおみくじが可愛かったですよ。ひとつ引いたら、中吉でした。
つるおか食文化市場 FOODEVER
山形食の魅力をギュッとまとめて楽しめる
鶴岡駅に戻り、駅前すぐの「つるおか食文化市場 FOODEVER」へ。鶴岡の特産物を味わえる飲食店が軒を連ねています。しかし残念ながら楽しみにしていたお店がお休み(涙)。山形ならではの食材をたっぷり食べられるという「つるおか旬暦 彩鶴」に行きたかったんだよなあ……。次回でリベンジ!
県産のおいしいものが買える「荘内さらく」は営業中、岩のりやお茶、ドライフルーツなどが豊富にそろっていました。
おみやげに選んだ「だだちゃ豆ごはんの素」です。山形の夏の名物・だだちゃ豆がフリーズドライになって、雑穀と一緒に炊き込めるというのに惹かれました。だだちゃ豆はもちろん鶴岡産。帰ってつくるのが楽しみだ。
帰りは往路と違う車窓を楽しもうと、JR新庄駅まで出て山形新幹線で帰ることに。ああでも……まだ帰りたくない! 山形の幸をもっともっと食べたかった。いい店が多いらしいんだ、鶴岡。また絶対に再訪しよう。
東京駅
掲載情報は2022年3月9日配信時のものです。現在の内容と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
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