【蔵の街・栃木市】レトロ建築巡り、歴史と伝統を知る旅
生活雑貨のセレクトショップ「MIGO LABO」ディレクター/カメラマンの石黒美穂子です。古い建物が大好きで街中で見かけるだけでも嬉しくなります。栃木県栃木市には古い町並みの残るエリアがあると聞いてワクワクして出掛けました。
東京駅
乗り換え1回の楽々ショートトリップ
JR東京駅から東北新幹線「やまびこ」で約40分、JR小山駅へ。
小山駅でJR両毛線に乗り換えて約10分でJR栃木駅に到着。
明るいガラス張りの三角屋根の駅舎と駅前ロータリーの大きなオブジェのコンビネーションがポップで楽しげです。
栃木駅北口のロータリーに面したところに栃木市観光交流館「蔵なび」があります。スタッフの方から最新の地元情報を教えてもらえます。
横山郷土館
石蔵と西洋建築のハーモニー
まずは「横山郷土館」(入館料・一般300円)に行くことに。栃木駅から蔵の街大通りを歩いて15分ほどの巴波川(うずまがわ)沿いにあります。
横山家は、栃木県特産の「麻」で財を築いた明治期の豪商。その財を元手に金融業も営んだそうです。
当時、麻は下駄の鼻緒の芯にも使用されていたそうです。
右半分で麻問屋、左半分で銀行が営まれていた両袖切妻造(りょうそできりづまづくり)と呼ばれる建物は、中央の店舗を挟んで、左右対称に石蔵が建てられています。この付近は水害が多かったので、大谷石よりも耐水性の高い鹿沼産の深岩石(ふかいわいし)を使った重厚な石蔵で財産や商品を守っていました。
梁の木材は、麻問屋側はけやきですが、銀行側には松を用いていて「お客を待つ(松)」という験担ぎをしているのだとか。磨り(すり)ガラスは職人が手作業で一枚一枚磨り上げた、こだわりのある贅沢なつくりです。
中庭の奥には、ゲストハウスとして使われていたという水色と白のかわいい建物があります。
洋館なのですが、建物内部には畳が敷かれていて、当時の和洋折衷な生活が垣間見られます。
旧栃木町役場庁舎
カラフルな栃木のランドマーク
横山郷土館から歩いてすぐの「旧栃木町役場庁舎」は、栃木市のシンボリックな建物。訪れる人も多く、三角屋根が特徴で写真映えします。取材時は開館準備中で建物の中は見学することができませんでしたが、2022年4月には「栃木市立文学館」として開館予定だそうです。
日光珈琲 蔵ノ街
こだわりの栃木オリジナルメニューが人気のカフェ
旧栃木町役場庁舎から3分ほど歩き、休憩に立ち寄ったのは「日光珈琲 蔵ノ街」。江戸時代後期建築の「綿忠はきもの店」の見世蔵(※)を改装し、2018年にオープンしました。
※編集部注:土蔵の建築様式の特徴を生かして、店舗や住居として利用した蔵
大きな梁を生かした吹き抜けに、カウンターのあるエントランススペースがとても良い雰囲気。
店内にはアンティークの額縁の浮世絵が江戸情緒を漂わせています。しかし、よく見るとこの絵の中にはマグカップやコーヒーメーカーなどが描き込まれている現代の作品。
これらは美大出身のアーティストで、日光珈琲のスタッフでもある井上淳さんの作品だそうです。江戸時代の建物とシックなインテリア、手の込んだアート作品が見事に溶け込んだ素晴らしい空間で、ついつい長居したくなります。
麹カレーはスパイスを利かせながらも辛すぎない絶妙な味。栃木産のお米・NIPPA米(ニッパマイ)を使ったカレーに合う少し硬めのライスも実に美味。
おすすめスイーツのガトーショコラは、甘みを抑えた大人味でコーヒーによく合います。
この麹カレーとガトーショコラは、隠し味に地元栃木の油伝味噌を使っているそうです。
とちぎ蔵の街観光館
大きな梁と今も現役のガイシと振り子時計
次に、蔵の街大通りと呼ばれる旧日光例幣使街道(にっこうれいへいしかいどう)沿いにある「とちぎ蔵の街観光館」へ。1905年(明治38年)に建てられた麻問屋を、栃木市が指定文化財として保存している建物です。入館無料で気軽に立ち寄れます。
天井には、今では見かけなくなった配線をつなぐガイシがたくさん並び、壁に掛けられた年代物の振り子時計が、定時になるとノスタルジックな音を鳴らします。スタッフに案内してもらった建物の奥にある文庫蔵には桶やおひつ、火鉢、ブリキ製の入れ物など庶⺠的な生活用品が展示されていました。
北エリアの重要伝統的建造物群保存地区にも行きたかったのですが、あっという間に日が傾いてきました。後ろ髪を引かれる思いで宿に向かいます。
栃木駅から小山駅を経由してJR宇都宮駅に到着。この日は宇都宮駅近くのホテルに宿泊しました。
中川染工場
受け継がれる伝統の染物・宮染め
2日目は、染め物工場「中川染工場」へ。宇都宮の伝統工芸品である「宮染め」の作業風景を見学します。
※編集部注:中川染工場の見学は事前予約制。詳しくはこちら
宇都宮駅から徒歩20分程、大谷石の石蔵と染め物を干す大きな櫓(やぐら)が見えてくると、手ぬぐい愛用者の私の期待は膨らみます。
「宮染め」は木綿の一大産地であった栃木県真岡市産の木綿を染めるために、染色職人が宇都宮市の中心を流れる田川の周辺に移り住んだのが始まりなんだとか。染めた後の水洗いに田川の清流が使われています。
工場は、戦前の最盛期には30軒ほど、昭和中頃でも20軒以上あったそうですが、現在では3軒しか残っていないそうです。
中川染工場では30代の若手から70代のベテランの職人さんまで総勢17人が、「注染(ちゅうせん)」という伝統的技法で宮染めに携わっています。
注染は、型紙を生地の上に置いて防染のための糊(のり)を付け、たたんだ生地の上から染料をしみ込ませ、生地の両面に絵を浮かび上がらせます。プリントと違って糸の1本1本を染めているので、使い込むと布が柔らかくなり、風通しがよくなるのが特徴だそうです。
工程はいくつかに分かれていて、中川染工場では分業制です。
まず、生地に染料をしみ込みやすくするために、浸透剤につけてから洗い、乾燥させたら、生地を丸くまとめ、圧をかけてしわを伸ばします。
専用の台に生地をのせて、型紙を生地の上に置きます。その上からヘラでのりを付けて、1回ごとに生地を折りたたんでいきます。均一にのりを付けるのは、とても難しいそうです。
のり付けをした生地の上からヤカンで染料を注ぎ、染めていきます。細かい柄を別の色で染め分けるときは、柄の周りをのりで囲って、その中に染料を注いでいきます。
色の濃さやぼかし具合は職人さんの腕次第。簡単そうに見える作業でも熟練の技が光ります。
染め終わった生地は振り子のような機械に掛け、川から汲み上げた水で4、5回勢いよく洗ってのりを落とし、干して乾燥させます。
その後、手ぬぐいはハサミを入れて(長い生地を切って手ぬぐいの長さにすること)仕上げます。
生地を染める際に使われる布のカバーは、何度も洗って使いまわしています。最初は真っ白だった布もいろいろな柄や色が混じり、絶妙な色合いに。今はない貴重な絵柄が残っている布もあり、見学にきた手ぬぐい好きのツボにハマり、欲しいと言われて困ることもあるそうです。
工場を見学して、職人さんたちの技術が詰まった物の良さを、改めて実感しました。
帰りは田川沿いを徒歩で宇都宮駅へ。新幹線に乗る前に、宇都宮駅に隣接する「PASEO(パセオ)」にある栃木県の名産を集めたショップ「とちびより」で中川染工場のオリジナル手ぬぐいを購入することにしました。
ジャズの街・宇都宮にちなんだジャズバンド柄と伝統の豆絞りを選びました。
今回の栃木への旅は、古い町並みと建物、愛用している手ぬぐいの工場も見学でき、とても有意義で濃厚な列車旅となりました。栃木には古い建物が多く残っているので、次回はほかの町も訪れたいと思います。
東京駅
掲載情報は2022年1月13日配信時のものです。現在の内容と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
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