『明け方の若者たち』松本花奈監督インタビュー「その未熟さこそが人生のマジックアワーの体現でもあるんじゃないか、と」

「私と飲んだ方が、楽しいかもよ笑?」 その16文字から始まった、沼のような5年間-。 人生のマジックアワーを描いた、20代の青春譚。カツセマサヒコさんの大ヒットを記録した話題の青春恋愛小説が映画化。北村匠海さん主演、黒島結菜さん共演の『明け方の若者たち』が12月31日に公開となります。

近くて遠い2010年代のリアリティ溢れる青春劇の映像化に挑戦するのは、映画、TV、MV、広告、写真と幅広いジャンルで活動をしており、今年公開された映画、実写『ホリミヤ』でも監督を務めた23歳新進気鋭の松本花奈監督。松本監督に映画作りについてお話を伺いました。

ーー本作楽しく拝見させていただきました。この原作に登場する音楽等は2010年代に20代だった人にストライクという感じで、監督の世代では無いと思うのですが、どの様に登場させたいと思いましたか?

例えば原作に書かれている「RADWIMPSの何枚目のアルバムが好きか?」という談義は実際に自分自身もしたことがありましたし、KIRINJIやきのこ帝国も日常的に聞いているアーティストです。原作に登場する楽曲はどれも普遍的なものばかりなので、時代性を表すという意味だけでなく、主人公<僕>の心情を表すものとしても上手く作用すれば良いな、と思っていました。

ーー監督が原作をすごく好きで映画化につながったそうですね。どんな部分に特に魅力を感じましたか?

<僕>の”言葉にできない感情”に魅力を感じました。<僕>の抱いている気持ちってきっと、しっかり言葉にしようとすると、すごく難しい。なんで<彼女>のことが好きかと聞かれても好きなものは好きだし、なんで毎日モヤモヤしてるのかと聞かれても理由は一つじゃないし、一言じゃ言えないし。でもその未熟さこそが、人生のマジックアワーの体現でもあるんじゃないか、と思いました。

ーー実写化される際に工夫された部分、難しかった部分はありますか?

明け方のシーンには特にこだわりました。明け方って、本当に刻一刻と陽が変わっていくんですよ。まだ暗いかなー、なんてボーッとしていると数分後にはもうすっかり太陽が昇ってきていて。だから実際に撮影できる時間は、30分もない位でした。高円寺での<僕>、<彼女>、尚人の3人のシーンでは、深夜から集まってリハーサルを行い、どのカットから撮っていくかの順番や立ち位置などを綿密に決めていきました。無事にやりきれた時の達成感は凄かったです。

ーー北村匠海さんをはじめ、どのキャストさんも素敵でした。

北村さんとは、お互いが中学生の時に学園ドラマで共演したことがあり、その時からの知り合いだったので、こうして再会することができて「何か、不思議な感じだね」と話していました。出てくる場所や音楽も北村さんご自身の思い出とリンクするところもあったそうで、「とにかく自然体でいよう」という共通認識を持って撮影しました。<僕>はあまり感情を表に出すタイプではないのですが、それでもヒシヒシと<僕>の気持ちが伝わってくる繊細なお芝居が、本当に良かったです。

ーー「彼女」役の黒島さんは、一歩間違えると嫌な女になってしまう所を絶妙に演じていらっしゃいましたね。

黒島さんは、<彼女>の意志や、芯の強さをとっても魅力的に演じて下さったと思います。脚本の段階では、<彼女>の行動の理由を説明するような台詞や、胸の内を明かすようなシーンがあったのですが、撮影を進めていく中で、そういう描写っていらないのかも…と感じるようになって。黒島さんがまっすぐ<彼女>に向き合ってくれたことで、あえて説明するような描写を入れない方がいいと思い直しました。

ーー監督は10代の頃から映画を作りはじめて、今も様々なジャンルで活躍されていますが、監督が作品作りをする原動力はどんな所にありますか?

自分の撮った作品をしばらく経って見返すと、大体「今だったらこう撮るのに!」とか、「もっと上手くやれる!」という気持ちになるんですよね。それで、また撮るという。その繰り返しです。

ーー監督が映画を作りたいと思ったルーツ的な作品はありますか?

李相日監督の『69 sixty nine』です。男子高校生たちがバカやってる青春映画なんですけど、当時私は高校生で、あまり学校生活を楽しめていませんでした。でも映画を見て、とってもエネルギーを貰って。その時に、映画ってすごいなあ、と感じました。

ーー私も『69 sixty nine』大好きなので勝手にすごく嬉しいです!今日は素敵なお話をどうもありがとうございました。監督のこれからの作品もすごく楽しみにしております。

『明け方の若者たち』2021年12月31日公開
(C)カツセマサヒコ・幻冬舎/「明け方の若者たち」製作委員会

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藤本エリ

映画・アニメ・美容が好きなライターです。

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