【山岳ライターがおすすめ】箱根旧街道で楽しむ低山ハイキング
自然の中に身を置いてリフレッシュ。天候が安定し、空が澄んで眺望のよくなる秋は、低山ハイキングのベストシーズンです。関東近郊には、山歩きに慣れていなくても楽しめる短時間で歩けるハイキングコースがたくさんあります。
低山ハイキングの案内を生業にしている私、西野淑子のお気に入りのひとつが箱根旧街道です。自然と歴史を楽しみながらのんびり歩き、散策後は温泉三昧。心身ともに癒やされる、列車で行く1泊2日旅をハイキング初心者の方へのアドバイスも交えてご案内します。
東京駅
踊り子+箱根登山電車で箱根へ
旅の始まりはJR東京駅から。特急「踊り子」は、伊豆の空と海の色をイメージしたペニンシュラブルーを基調とした、スタイリッシュな車体です。車窓からの景色を楽しみつつ、1時間ほどでJR小田原駅へ。
小田原駅からは箱根登山電車に乗り換え、15分ほどで箱根湯本駅へ。ところどころで箱根の山々が車窓に現れ、山旅気分が高まってきます。
箱根旧街道
箱根旧街道を歩き、いにしえの旅を思う
箱根は温泉地や観光名所をつなぐバスが縦横に張り巡らされています。箱根旧街道の登山口へは、箱根旧街道経由の元箱根港行きの箱根登山バスに乗車します。
箱根湯本駅からバスで10分ほど、須雲川(すくもがわ)バス停へ。バス停から5分ほど歩くと登山口に到着します。
今回歩く箱根旧街道は、箱根湯本から芦ノ湖に至る、歩行時間3時間程度のルートです。江戸と京都・大坂をつなぐ東海道の一部で、江戸時代、箱根の山を越えるのに使われていました。急坂が続く険しい山道は、東海道の道中でも苦難の道として知られていたようです。
現在は道標も整備され、自然や歴史を愛する多くのハイカーや観光客が歩きます。
舗装されていない山道が多いので、歩きやすく履き慣れた靴、動きやすく多少汚れてもよい服、リュックサックをご用意ください。おやつやお弁当、汗ふきタオル、飲み水、雨具などの準備も忘れずに。
心地よい雰囲気の樹林を10分ほど歩くと、石畳が現れます。東海道は江戸時代初期に整備されましたが、足を踏み入れるとスネまで浸かってしまうような泥の道だったため、石畳が敷かれたのでした。江戸時代版の舗装道路、というところでしょうか。
往時の旅人に思いを馳せて歩きたい……のですが、石が濡れていると滑りやすくなるので、注意して足を運びましょう。
甘酒茶屋
江戸時代から続く茅葺き屋根の茶屋で一息
須雲川バス停から1時間ほど歩き、寄木細工の里「畑宿(はたじゅく)」へ。街道沿いに、箱根の伝統工芸品である寄木細工の工房や店が点在しています。さらに進み、「一里塚」の先から再び山道に。ところどころで車道歩きや急な階段の上りを交えながら進んでいきます。
山歩き、とくに登り斜面を歩いたり階段を上ったりするときは、いつもの街歩きの2倍、ゆっくりとしたペースを意識してみてください。おしゃべりをしながら歩いても息が切れないくらいのペースが目安です。早足で歩いて何度も休憩するより、ゆっくり長く、30〜40分歩いて5分休憩……という感じで歩くと疲れを感じにくいです。
畑宿から1時間ほどで、風情ある茅葺き屋根の茶店「甘酒茶屋」に到着。創業は江戸時代初期。険しい箱根路の道中で、多くの旅人を迎え入れ、癒やしてきた茶店です。店内あるいは縁側、広場で観光客やハイカーが思い思いにくつろいでいるのは、今も昔も同じなのでしょうね。
イラストの入った手書きの看板もいい感じです。
名物の力餅と甘酒を注文。力餅は「うぐいす(きなこ)、いそべ、黒ごま」の3種類から選べます。創業以来変わらない製法で作られる甘酒は、米と米麹の自然な風味と甘みが身上。備長炭でふっくらと焼いた力餅は文字通り、食べたら力が湧いてきそうです。
芦ノ湖
歩ききった先に芦ノ湖と富士山の姿
ここまでで疲れてしまったら、甘酒茶屋前からバスで箱根湯本や芦ノ湖方面に向かうことができます。余力がある人は、芦ノ湖を目指しましょう。
今回は芦ノ湖を目指します。甘酒茶屋からしばらく進み、車道を横切ると再び石畳の道に。最初はやや急な登りです。ゆっくり、息を整えながら進みます。
旧街道最高地点まで登りきり、少し下ると、『箱根馬子唄』の歌詞、「箱根八里は馬でも越すが 越すに越されぬ大井川」が書かれた石碑が建てられています。
甘酒茶屋から40分ほど歩き、芦ノ湖の湖畔、元箱根港に到着。湖越しに富士山が頭をのぞかせていて、箱根神社の真っ赤な「平和の鳥居」もよく目立ちます。箱根湯本から頑張って歩いてきて眺められる、とびきりのご褒美です。
湖の右手を望めば箱根駒ヶ岳や二子山の姿も。
箱根神社
開運のパワースポット、箱根神社へ
芦ノ湖の景観を楽しんだら、「箱根神社」に足を延ばしましょう。元箱根港から真っ赤な大鳥居(第一鳥居)をくぐり、徒歩10分ほどで、神社入口(第四鳥居)に到着します。石段を上り、御本殿へ。箱根神社は箱根大神を御祭神とし、運開きの神様として知られています。箱根神社の境内にはいくつかの末社があり、そのひとつである九頭龍神社は縁結びの神様として人気があります。
風格ある朱塗りの箱根神社の御本殿。
お札所で箱根寄木細工のお守りを発見。箱根大神と寄木の霊力が幸福を引き寄せるそうなので、迷わず入手。また、芦ノ湖と富士山がモチーフの裏表紙に惹かれて御神印帳もいただきました。いいことがありますように……。
箱根小涌谷温泉 水の音
ふたつの源泉が楽しめる極上の温泉宿
箱根神社入口バス停からバスで15分ほど、二の平入口バス停で下車して徒歩5分。静かな森の中に、本日の宿である「箱根小涌谷温泉 水の音」はあります。和のしつらえの門をくぐり、入口でアルコール消毒を済ませます。
ガラス張りのロビーの奥は緑が間近に迫る快適なテラス。
新館「水花の庄」と本館「水月の庄」があり、今回宿泊したのは新館「水花の庄」。窓の外に緑が広がる、心地よいお部屋でした。
箱根は「箱根十七湯」といって、17の源泉がありますが、そのうちの小涌谷温泉と宮ノ下温泉をこの宿で楽しむことができます。
まずは宿泊している新館のお風呂へ。露天風呂にとっぷり浸かっていると、ハイキングの疲れがほわほわとほぐれていくよう。
寝湯に寝転がったら心地よ過ぎて、うたた寝しそうになりました。
貸切露天風呂(無料)にも立ち寄ってみました。庭園の中に3つの貸切露天風呂があります。「楓の湯 紅葉」に入浴しましたが、目の前に緑が広がり、湯浴みをしながら森林浴気分。はぁ、極楽……。
お風呂から上がり、少し落ち着いたら夕食の時間になりました。
夕食は和食膳とともにお好みの焼き加減でお肉とお野菜を味わえる「炙り焼き会席」と、旬の素材を生かした会席料理「足柄遊膳」の2種類から選べます。今回は足柄遊膳をお願いしました。彩りよく、盛りつけも個性的な料理の数々に舌鼓。
手前が揚げ物、奥が焼き物。いずれも素材の味が生きた料理。
金目鯛の釜飯。シンプルイズベスト、旨みがたっぷり。
多過ぎず少な過ぎず、ちょうどお腹がいっぱいになる分量で、どの料理も素材の味がしっかりと伝わる味付けでした。
蓬莱園
チェックアウト前にちょこっと自然散策
朝、少し早く起きて、本館のお風呂へ。露天風呂から眺める竹林が風情たっぷり。
朝食後、チェックアウトまで時間があるので、宿の周りを散策することにしました。まず訪れたのはツツジの名所として知られる「蓬莱園」。宿から徒歩5分ほどで入口に到着します。
大正時代に小涌谷温泉三河屋旅館の創業者である榎本恭三氏が開いた庭園です。きれいに刈り込まれたツツジをはじめ、桜やカエデなども見られ、高台から眺めると深い森のよう。5月のツツジの見頃のみならず、11月中旬の紅葉の時期も美しい庭園です。
続いて向かったのは「千条(ちすじ)の滝」。蓬莱園の入口からは徒歩10分ほど。苔むした幅広の岩肌を、すだれのように水が流れ落ちていて、見ているだけで心が浄化されるようです。
小涌谷駅
最後のお楽しみは箱根登山電車の車窓風景
宿に戻り、チェックアウトを済ませたら、宿の送迎車で箱根登山電車の小涌谷駅へ。列車の時間に合わせて駅までの送迎をしてもらえます。
箱根登山電車は小田原駅から強羅(ごうら)駅までの路線ではありますが、ぐんぐん山を登り高度を上げていき、車窓から山の風景を眺められる「登山電車」らしい雰囲気を味わえるのは箱根湯本駅〜強羅駅の区間です。
小涌谷駅から箱根湯本駅までは30分ほど、山の中をゆっくりと走っていきます。
急勾配ならではのスイッチバックは3箇所で行われます。
箱根湯本駅からは再び、箱根登山電車と特急「踊り子」を乗り継いで東京駅へ。
山と温泉を満喫した1泊2日の旅でした。紅葉も新緑も素敵なコース、季節を替えて何度も訪れてみてください。
東京駅
掲載情報は2021年9月16日配信時のものです。現在の内容と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
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