ひとり親世帯向けシェアハウスに家賃補助。空室1戸からでもOK!オーナーさんにも知ってほしい新基準が登場

ひとり親世帯のシェアハウス入居に家賃補助!賃貸オーナーさんにも知ってほしい国の新基準登場

2021年4月、セーフティネット登録住宅の基準に新たにひとり親世帯向けシェアハウスの基準が設けられました。これにより、ひとり親世帯の住まいの選択肢として「シェアハウス」が増えることが期待されています。

今回の基準新設は、物件のオーナーさんや自治体、そしてひとり親世帯にどのような影響を与えるのでしょうか。専門家、自治体、そして実際に制度を活用したシェアハウスのオーナーさんに話を聞きました。

ひとり親向けのシェアハウスが抱えてきた“問題”とは?

今回の基準新設は「セーフティネット住宅」の制度についてなされたもの。低額所得者や高齢者、被災者、子育て世帯など、住宅の確保が難しい人に対して“入居を拒まない住宅”として、登録している住宅のことを言います(制度と基準新設についての詳細)。一定の収入以下の世帯が入居できる公営住宅だけではカバーしきれない、さまざまな立場の住宅弱者のために2017年、新たな住宅セーフティネット制度が施行され、その中にはシェアハウスの基準もあるのですが、実はそれはこれまで“単身者向け”のシェアハウスを対象としたものだったのです。近年、ひとり親世帯向けのシェアハウスのニーズが高まっていることにともない、今回の基準新設に至りました。

これまでの公的な住宅施策は住居しての“ハード”を提供するものでしたが、育児、家事、仕事を全てひとりで行わなければならないひとり親の生活には、“ソフト”であるサービスの存在も欠かせません。保育や家事代行などのサービスを付帯する住まいとして、また、ひとり親の「孤立」を防ぎ、「自立」を促す住まいとしてシェアハウスが注目されてきたのです。さらに新型コロナウイルスの影響によって、特に低所得のひとり親世帯が失業や減収などで生活に困窮する状況も、この基準新設を後押ししたことでしょう。

ひとり親向けシェアハウスの基準新設について国土交通省から出された通知(資料/国土交通省)

ひとり親向けシェアハウスの基準新設について国土交通省から出された通知(資料/国土交通省)

ひとり親向けシェアハウスの基準新設について国土交通省から出された通知(資料/国土交通省)

母子世帯の貧困と居住福祉について研究を深め、今回の基準新設においても尽力をし続けてきた追手門学院大学准教授の葛西リサさんは、「この基準ができるのには6年くらいかかったが、コロナ禍もあって昨年一気に実現へ向けて協議が進んだ」と言います。

「私がひとり親向けシェアハウスの研究に着手をしたのは、2008年ごろからです。ひとり親世帯は所得の低い世帯が多く、入居しやすい住宅を提供しようとすれば家賃を低めの価格帯に設定する必要があります。そのため、これまでひとり親世帯をサポートしたい、という想いを強く持ちながらも、採算が取れずに廃業・撤退したシェアハウスの運営者の方も多く見てきました」(葛西さん)

研究者としてこれまでひとり親向けシェアハウスの基準新設に尽力をしてきた追手門学院大学の葛西リサさん(写真撮影/唐松奈津子)

研究者としてこれまでひとり親向けシェアハウスの基準新設に尽力をしてきた追手門学院大学の葛西リサさん(写真撮影/唐松奈津子)

いち早く制度を活用したシェアハウスは?

この“採算性が取れない”問題を解決し、想いを持つシェアハウス運営者の後押しをするために、「住宅セーフティネット制度にひとり親向けシェアハウスの基準を設けることが必要だった」と葛西さんは言います。

「自治体が制度を設けている地域の物件をセーフティネット専用住宅として登録すれば、オーナーさんが家賃低廉化や改修のための補助を得ることができます。特に家賃低廉化補助、つまりオーナーさんに支給される家賃補助にあたるものは、国と自治体の負担分をあわせると最大で月4万円。その分、賃料を下げることができるので、入居するひとり親世帯の負担が軽くなります」(葛西さん)

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

実際にこの制度を導入した横浜市で、ひとり親向けのシェアハウスを営むYOROZUYAの小林剛さんは「セーフティネット住宅として登録しただけでも、問い合わせが増えた」と言います。

「ひとり親、特に母子世帯のなかには、DVなどの問題を抱えてまだ離婚ができていない人もいます。そのようなケースでは、一般の賃貸住宅では入居が難しいことが多いので、こちらに入居できないか、という相談が来るのです。

入居できる住まいを求めてインターネットでシェアハウスを検索するひとり親の中には、さまざまな公的なサポートの存在を知らない人も多くいます。結果的にうちの物件に入居にならなくても、ほかに活用できる制度について確認するよう話したり、ただ相談に乗ったりするだけでも不安が和らいだ、と言ってもらえることがたくさんあります」(小林さん)

今回、取材に協力してくれたYOROZUYAの小林剛さん。2020年10月にセーフティネット専用住宅としての登録が完了し、今年の3月に家賃低廉化補助金の受給が決まった(写真撮影/唐松奈津子)

今回、取材に協力してくれたYOROZUYAの小林剛さん。2020年10月にセーフティネット専用住宅としての登録が完了し、今年の3月に家賃低廉化補助金の受給が決まった(写真撮影/唐松奈津子)

自治体にとっても居住支援制度への導入がしやすく

YOROZUYAが所在する神奈川県横浜市は、今回の基準新設よりも先駆けて、2019年からひとり親向けのシェアハウスの基準を独自で設けてきました。この背景について横浜市建築局の石津啓介さんと小島類さんに話を聞いたところ、実際にひとり親世帯向けシェアハウスの運営者などから「独自で基準を設けてくれないと、運営の実態と登録基準とが合っておらず、制度を活用できない」という要望が出ていたと言います。

「横浜市では、独自基準を設けるまでに市民の方々の声を拾うほか、他の自治体の事例調査やアンケート調査など、さまざまな調査・検討を行う必要がありました。今回、国が明確な基準を示したことによって、全国の地方自治体で制度を設けやすくなったことは間違いありません」(石津さん)

横浜市建築局住宅部住宅政策課の石津啓介さん(右)と小島類さん(左)(写真撮影/唐松奈津子)

横浜市建築局住宅部住宅政策課の石津啓介さん(右)と小島類さん(左)(写真撮影/唐松奈津子)

横浜市では、2018年度からの4カ年計画の中で、2021年度末までに家賃補助付きセーフティネット住宅の供給目標として700戸を掲げていますが、まだ1割程度しか達成できていないそう。「空き家、空室に悩むオーナーさんにも積極的にこの制度を活用してほしい」と言います。

「オーナーさんが家賃低廉化の補助を受けるには、セーフティネット “専用住宅”として登録する必要があります。1棟物件を所有されている場合は、その中の1戸から専用住宅として登録することが可能です。セーフティネット住宅となったことで問い合わせが増えたという話も聞きますので、空き家や空室にお困りのオーナーさんには、一つの選択肢として検討していただきたいと思います」(小島さん)

住宅セーフティネット制度の活用を広げるために

このように、オーナーさんが専用住宅とすることに不安を感じる以外にも、この制度の活用においては、まだ、さまざまな課題があるようです。小林さんは「まず、十分な周知がされているのかが心配」と不安を漏らします。

「私は全国ひとり親居住支援機構というNPOに所属しているので、この制度のことを知っていましたが、制度の存在自体を知らないオーナーさんも多いのではないでしょうか。

また、セーフティネット住宅に登録する手続きと家賃低廉化の補助を受けるための手続きが別で、申請先が異なることも私は登録後に気づきました。セーフティネット住宅に登録すれば、自動的に家賃低廉化の補助を受けられると思っていたのです。このような手続きの煩雑さも登録への障害になっているかもしれません」(小林さん)

小林さんが運営するシェアハウスYOROZUYA(写真提供/YOROZUYA)

小林さんが運営するシェアハウスYOROZUYA(写真提供/YOROZUYA)

家賃は6万円~8.95万円だが、家賃低廉化補助の4万円を活用すれば、2万円~4.95万円で入居できる(写真提供/YOROZUYA)

家賃は6万円~8.95万円だが、家賃低廉化補助の4万円を活用すれば、2万円~4.95万円で入居できる(写真提供/YOROZUYA)

加えて、制度の運用は各地方自治体によって異なるため、セーフティネット住宅に登録しても、家賃低廉化補助の制度がない自治体もあるそうです。

「シェアハウスの運営事業者にとっては、家賃補助がなければ物件登録のメリットは感じづらくなります。コロナ対策などでの自治体の財政難も理解できますが、コロナの影響を受けた人へのサポートとしても、また空き家や子どもの貧困などの社会問題解決のためにも、セーフティネット住宅の拡大は重要です。

その一つとして、これらの問題解決に有効なひとり親向けシェアハウス普及へ向け、各自治体には家賃補助付きでの制度設計を積極的に行ってほしいと願います」(葛西さん)

これからのひとり親の住まいにはどんな選択肢が?

横浜市では、現在、約8000戸のセーフティネット住宅が登録されていますが、その中で家賃低廉化の補助を受けられるひとり親向けのシェアハウスはわずか10戸だと言います(2021年6月20日現在)。今回の基準新設により、ひとり親向けシェアハウスをはじめとするセーフティネット専用住宅の登録が増えれば、一般賃貸住宅や公営住宅とあわせて、住宅の確保が難しい人にとって有効な住まいの選択肢の一つとなりうることでしょう。

住宅セーフティネット制度に登録されている住宅は、国土交通省の運営する「セーフティネット住宅情報提供システム」のサイトから探すことができます。また、入居を検討している人の相談に乗り、入居の支援をしてくれる窓口として各地方自治体には「居住支援協議会」の設置や「居住支援法人」の登録がなされています。

新たな住宅セーフティネット制度の3つの柱(資料/国土交通省)

新たな住宅セーフティネット制度の3つの柱(資料/国土交通省)

今回取材した皆さんが声をそろえて言うように、困っているときには、これらの窓口に相談しながら、サポートが受けられる制度を活用したいものです。また、このような取り組みを多くの人に知ってもらい、困っている人がいたときには「こんな制度があるから相談してみたら」と声をかけられるといいですね。

●参考
ひとり親世帯向けシェアハウスの基準を新設/国土交通省
登録住宅について:セーフティネット住宅情報提供システム
住宅確保要配慮者居住支援法人について:国土交通省

●取材協力
・追手門学院大学 地域創造学部 准教授 葛西リサさん
・シェアハウス YOROZUYA
・横浜市 建築局住宅部 住宅政策課「家賃補助付きセーフティネット住宅」

  1. HOME
  2. 生活・趣味
  3. ひとり親世帯向けシェアハウスに家賃補助。空室1戸からでもOK!オーナーさんにも知ってほしい新基準が登場

SUUMOジャーナル

~まだ見ぬ暮らしをみつけよう~。 SUUMOジャーナルは、住まい・暮らしに関する記事&ニュースサイトです。家を買う・借りる・リフォームに関する最新トレンドや、生活を快適にするコツ、調査・ランキング情報、住まい実例、これからの暮らしのヒントなどをお届けします。

ウェブサイト: http://suumo.jp/journal/

TwitterID: suumo_journal

  • ガジェット通信編集部への情報提供はこちら
  • 記事内の筆者見解は明示のない限りガジェット通信を代表するものではありません。