Netflixオリジナルアニメ『エデン』入江泰浩監督インタビュー「動きとドラマの両輪」「海外のアニメ制作環境」
Netflixオリジナルアニメシリーズ『エデン』が全世界独占配信です。本作は、『鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST』などで知られる入江泰浩監督と世界のクリエイター陣が手がけ、4話のアニメシリーズとしてはもちろん、映画のようにも楽しめる、完全新作のアニメーション。2体の農業用ロボットに愛され育てられた人間の少女サラが、世界に隠された謎に立ち向かう感動のSFファンタジーです。
【ストーリー】ロボットだけが暮らす世界「エデン」。農業用ロボットE92とA37はある日、サラという人間の赤ちゃんが入ったカプセルを偶然発見し眠りから目覚めさせてしまう。人が悪とされている世界でサラが危険だと考えた2 体は、エデンの外で密かに育てていく。成長したサラは、ある日遠くから自分 を呼ぶ声に気づく。それはあのロボットしかいないはずの「エデン」からだった─。
『エデン』予告編 – Netflix
https://www.youtube.com/watch?v=6-DOKaDoMao
入江監督に作品作りについて、海外のスタッフとの仕事を通して感じたことなど、お話を伺いました。
――本作とても楽しく拝見させていただきました! 完全新作のアニメーションとして、企画はどの様にスタートしたのでしょうか。
入江監督:元々の企画自体はプロデューサーのジャスティンが何年も温めていたものになります。本作のプロデューサーの長谷川さんが以前より私の知り合いで、Netflixで作品を作らないかとお話をいただきました。いただいた情報を見るととても面白そうだったので、是非参加したいと感じました。
――幅広い年代の方が楽しめるエンターテイメント作品でありながら、ロボットと人間の共存や愛についてという壮大なテーマが描かれていると思います。作品作りのスタートはストーリーやヴィジュアルなど、どこから決まっていったのでしょうか。
入江監督:ジャスティンのやりたい事が書かれたテキストを読んで感じたのは、「世界観」と「テーマ」が明確で一番強いなという点です。。もちろん脚本的に書かれた部分もあるのですが、この世界観の設定の中で、どう言う事を表現したいのかという部分が最初から強く固まっていた様に思います。
――『エデン』というタイトルもシンプルながら、すごく深いなと感じました。
入江監督:タイトルは最初から決まっていて、でも『エデン』というのがシンプルすぎるので、副題をつけるべきか?という話が出たこともありました。そういった事はアニメ作品を作る上でよくあるのですが、最終的にNetflix側からも「『エデン』だけで良いですよ」という話になり、ジャスティンもすごく喜んだのでは無いかなと思います。
――入江監督の描く作品には世界中にファンがいらっしゃいますが、本作の“動き”の部分で工夫された点はどんな事ですか?
入江監督:動きに関しては3DCGを使うということで、手描きアニメーションでは実現困難な「1秒間に24枚の絵を使う」ということを迷いなく選択しました。通常のテレビアニメシリーズだと「こんな芝居を足したいけど枚数を使うわけにはいかない」という事は多くあります。でも3DCGだと、時間が許す限り絵を入れることが可能なので、かねてより「こうしてみたいな」と思っていた芝居が実現出来ました。
――キャラクター描写やドラマの部分についてはいかがでしょうか?
入江監督:ジャスティンのテキストにあった、「ロボット社会が成立している世界に人間の<サラ>が放り込まれた時にどうなるのか?」という物語に対しては、ロボットと人間のファーストコンタクトが重要になってくると思いました。そして、ロボットと人間の関係性がどう変化していくか、そこを描くことが大切だとも思いました。観てくださる方がサラに「そうだよね」と共感したり「そういう風に思うんだ」と、意外性を感じてくれることが必要だなと。
――意外性と共感、というのは確かに本作を構成している要素といいましょうか、魅力ですよね。サラの表情も生き生きとして、とても好きです。
入江監督:ロボットたちに表情が無い分、表情がクルクル変わるという表現はサラが一手に担わないといけない。瞬間瞬間の表情が必要となってくるので、「この表情があるから、次の感情につながる」「この感情を描いたからこそ、次の表情が出てくる」という感じで、アニメーションとサラの感情のドラマを両輪として作っていくことが出来たのではないかと思います。
――監督は「JAniCA」(※)の代表理事として、現場の若手アニメーターの低賃金などの問題に取り組んでいらっしゃいますが、現在のアニメ制作の環境に感じることはありますでしょうか。
入江監督:設立された当時と今現在を比べた時、改善された部分と、改善されていない部分があるなとは感じています。それは制作会社レベルのこともあれば、作品レベルで改善されたこともあり、個人で良い環境で仕事が出来る人もいると思います。その中でもやはり取り残されている割合が大きいのが新人だと感じています。ただ、「新人をきちんと育てていかないと、アニメの未来が無い」と多くの制作会社が感じはじめているのも見えてきていますから、変われる所から変わりはじめているんだなと思います。
※JAniCA:一般社団法人日本アニメーター・演出協会の略称。「アニメーション制作者実態調査」などを行い、アニメ業界の労働環境問題についても積極的に取り組んでいる。
――『エデン』ではCG制作が台湾の会社だったりと、グローバルな作品作りをしていると思うのですが、環境の違いなどを感じましたか?
入江監督:今回ご一緒したその台湾の会社は全てのスタッフを社員として雇っていると聞きましたし、始業時間と終業時間が明確に決められている。「この人数のスタッフと、この時間でどのくらいの事が出来るのか」というのを会社側が把握していて、マネージャーの様な役割の方がきちんと管理しているな、と。行き当たりばったりではなく、計画的に作品作りをしている。残念ながら日本ではそういった仕事の仕方が出来ている制作会社が少ないので、今回対比として強く感じました。
日本のアニメ表現がここまで発達して、色々な作品が生まれてきたのも、長い労働時間が原動力のひとつではあると思うのですが、それありきで制作体制が組まれる悪い部分でもあります。そこは今回の台湾会社の様な制作環境を見習って、変化していくべきだなと考えています。
――その様な違いがあったのですね。今教えていただいた台湾の会社はすごく良い働き方の仕組みを作っていると思いますし、アニメ制作に携わる特に若い世代の方が働きやすい環境になってくれることを一視聴者としても願います。
【参考リンク】
日本アニメーター・演出協会(JAniCA)
http://www.janica.jp
――最後に、入江監督のお好きなNetflix作品を教えてください。
入江監督:最近ですと『極主夫道』はどんなアニメになるのかなと楽しみにしていて、実際に配信がはじまってから観たのですが、すごく面白かったです。津田健次郎さんが張った芝居というか、声量をフルに使う芝居をしていて、そんな意外な面が見れたのも良かったです。津田さんは『CØDE:BREAKER』(2012)という作品でご一緒して、その時は無口なキャラクターだったのですが、すごく真摯な取り組み方をしてくれました。今も色々な作品に出られていて次にどんなキャラクターを演じられるのか楽しみにしています。
あとNetflixオリジナルではないのですが、『エデン』に出演された伊藤健太郎さんも出ている『ゴールデンカムイ』も楽しんで観ています。他にはミュージカル映画もたくさん配信されていて、一度作品を観たあともBGMとして流していたり。たくさんの作品がある中でこうして『エデン』の配信がスタートしていることも楽しみにしています。
――ぜひ『エデン』をご覧になった後は、監督おすすめの作品もチェックしていただきたいと思います!今日は素敵なお話をありがとうございました。
エデン | Netflix (ネットフリックス) 公式サイト
https://www.netflix.com/title/80992783
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