『バイオハザード ヴィレッジ』レビュー:ホラーの本質を描くことで新たな恐怖を描き出した作品

ホラーゲームというゲームジャンルを代表する作品と言っても過言ではない『バイオハザード』シリーズ。その最新作『バイオハザード ヴィレッジ』が見せてくれた恐怖は、「ホラーの本質」と「新たな恐怖のスタイル」の両方を併せ持っている。少なくとも筆者は、そう感じた。

『バイオハザード7』の直接的な続編となるシリーズ第8作

一見、タイトルに8というナンバーが見当たらないものの、『バイオハザード ヴィレッジ』はシリーズのナンバリング作品だ。実際、タイトルロゴを見たことがある人ならご存知の通り、ロゴでは「VILLAGE(ヴィレッジ)」という言葉の「VI」と「L」の縦棒部分の色が他の部分と異なっており、「VIII」と読めるデザインになっている。

ストーリー的にも『バイオハザード7 レジデントイービル』から直接つながっている。前作でルイジアナのベイカー家から妻であるミアを救出した主人公、イーサン・ウィンターズ。その後イーサンは、子どもであるローズも生まれ、ミアと3人、幸せな時間を過ごしていた。しかしある夜、その幸せが突然引き裂かれる。

前作でイーサンを助けてくれたクリス・レッドフィールドがイーサン宅を襲撃。ミアは殺され、さらにローズはさらわれてしまう。イーサンが目覚めると、そこはヨーロッパにある村。ローズがこの村の中にいるという情報を掴んだイーサンは、ローズを取り戻すため行動を開始する。

ゲームのメインシステムは、『バイオハザード7』を踏襲している。ゲームエンジンは「REエンジン」で作られており、視点はアイソレートビューという一人称視点。銃をはじめとする様々な武器を使い、敵を退けながらマップを探索するという流れも同様で、防御用のアクションとして敵の攻撃によるダメージを減少するガードが用意されている点も『バイオハザード7』から継承している。

一方、異なる点として挙げられるのが弾丸の管理。『バイオハザード7』は獲得できる弾丸が限られており、残弾数をシビアに管理する必要があった。しかし本作は弾丸がふんだんに獲得できる。弾丸は探索によって獲得するほか、素材アイテムを組み合わせてクラフトしたり、『バイオハザード4』のように商人から購入したり……と、獲得方法が多数存在する。

敵を殲滅しながら進んだとしても、よほどのことがない限り銃弾不足に悩むことは少ないだろう。この原稿は本作クリア後に執筆しているが、難易度スタンダードで終始銃弾は余り気味だった。

では本作は『バイオハザード7』のシステムを使った『バイオハザード4』なのか? というと、それは違う。『バイオハザード4』はストーリーがチャプターごとに区切られ、どんどんステージをクリアして先へ先へ進むような構成となっていた。しかし本作は、村を拠点として行動範囲が拡大していくスタイルが採られている。

ゲームを進めることで新たなアイテムが手に入り、それによって行ける場所が増えていく……。これは、初代『バイオハザード』や『バイオハザード2(RE:2)』、『バイオハザード7』といったタイトルが持っている、典型的なメトロイドヴァニア型のスタイルだ。

また、舞台となるマップ毎に異なる恐怖が待ち受けているという点は、『バイオハザード7』に近いだろう。『バイオハザード7』では、館の本館では不死身の敵に追跡されるという恐怖、館の旧館では極めて狙いにくい敵に襲われるという恐怖、そして納屋ではトラップの仕掛けられたマップという恐怖という形でマップ毎に異なる恐怖を描いていた。

本作もまた、村では動きの俊敏なライカンの群れという恐怖、城では不死身の敵に追跡されるという恐怖、館では接触=即死という敵と所持品なしで対峙しなければならない恐怖……という形で、マップ毎に味わえる恐怖が全く異なっているのだ。

未知こそ恐怖の本質! 本作が見せた新たな恐怖

ところで、ホラー映画が長期シリーズ化すると、どんどん怖くなくなっていく……という現象がある。たとえば『13日の金曜日』や『エルム街の悪夢』といった作品は、シリーズが進むとコメディ色が強くなっていった。日本の作品だと貞子の登場する『リング』シリーズも、後期の作品はコメディ色を帯びているように思う。

これは何も映画に限った話じゃない。ホラーゲームだろうとホラーマンガだろうといえること。というのも、お客さんが慣れてしまって、怖かった存在がどんどんキャラクター化してしまうから……と言われている。ごもっともだ。ただ、恐怖感が失われるのは、より根源的な部分に原因がある。

人間は様々な対象に恐怖感を抱く。たとえば、「グロテスクな外見」であったり、「モノがよく見えない状況」であったり。はたまた「悲鳴に近い高い音が鳴る状況」や、「自分の能力を超える障害が存在する状況」、「準備ができていない状態で突然襲われる」といったものも恐怖の対象だろう。なので、ホラー作品ではこういった要素を複合して演出に用いる。

『バイオハザード』シリーズも、NPCの悲鳴などで「悲鳴に近い高い音が鳴る状況」を演出した後、ややタイミングを外すことでプレイヤーを「心の準備ができていない状態」にし、暗がりや曲がり角と言った「モノがよく見えない」場所からクリーチャーを出すことが多い。

言うまでもなくクリーチャーは「グロテスクな外見」をしており、攻撃力が高かったり耐久力が高かったり生き返ったりと、プレイヤー「能力を超える障害」となっている。

こうした条件を整えることで作り上げた「恐怖」。それが崩れてしまうのが、「対処方法」が分かった時だ。たとえば、『バイオハザード4』以降登場したガナード系のクリーチャーであれば、太ももあたりを撃ってよろけたところ、体術を決める……という風に「倒し方」が分かってしまえば、「恐怖」は損なわれる。

シチュエーションによってその「倒し方」を実行するのが「難しい」といった感想は抱くかもしれない。けどそれはたとえば、『モンスターハンター』でリオレウスを倒すのが難しい……といったのと同様で、「怖い」というのとは違うだろう。

これは倒すことができない、不死身系クリーチャーでも同様だ。たとえば『バイオハザード7』で本館をうろつくジャック・ベイカーは、倒しても一定時間経つと復活してしまう。

倒しても倒しても無限に復活してくるその様子は、非常に恐ろしい。ある意味、ゾンビの持つ「不死身」という特性を最も体現したキャラクターといえるだろう。だがそんなジャック・ベイカーも、「倒しても復活するので銃弾節約のため回避すべき」「ループ状のマップ構造を利用すれば回避できる」といった「対処方法」が分かってしまうと、怖さが減少させることができる。

「対処方法が分からない」──つまり、「未知」。これぞ、恐怖の根源なのだ。これは何もホラーゲームに限った話ではない。たとえばホラーの名作『リング』。

あの作品は、映画版『リング』で描かれた、貞子のビジュアルが怖いと感じる人も少なくないだろう。確かにあのシーンは怖い。貞子が井戸から出てくるシーンのインパクトはバツグンだ。けど、『リング』の物語を追った時に恐怖を感じるのは、「対処方法が間違っている」ということだろう。『リング』の主人公・浅川は、貞子の呪いを解くために貞子の死体を発見し、供養しようとする。

しかし、『リング』をご存知の人ならお分かりの通り、この方法は解決方法ではない。我々はこういうことをしばしば行っている。つまり、「本来の解決方法」ではなく、「自分の頭で思い込んだ解決方法」を実行してしまうのだ。これが『リング』をはじめとする、さまざまなホラー作品が持つ恐怖の本質だ。

「対処方法が分からない状態が一番怖い」。だからこそ、ホラーの続編は怖くならざるを得ない。そもそも『バイオハザード』シリーズも、『バイオハザード4』を機にホラーからアクション性に舵を切ることになったわけだ。ではこの難問に対し、本作はどのように答えたのか? それは、未知の状況を作り出す……という非常に王道の回答だ。

本作は、ゲーム冒頭から非常に理不尽で、わけのわからない状況が連続する。その筆頭が、クリス・レッドフィールドの襲撃だろう。クリスと言えば、前作でイーサンを救ったキャラクターだ。いやそれだけじゃない。『バイオハザード』シリーズのアイコンともいえる存在。そんな彼が何故イーサンを襲うのか? わけが分からない。

そして、イーサンを襲撃するクリーチャーたち。ライカンと呼ばれる狼男のようなクリーチャーは、集団で連携する上に俊敏だ。その上、個体にもよるが耐久力が高く、ゾンビともガナードともモールデッドとも異なる恐怖を与えてくれる。

ライカンに慣れてきたころ、城のマップへ突入。城では、ドミトレスクとその3人の娘がイーサンを執拗に追跡する。これは『バイオハザード7』本館のジャック・ベイカーと似たシチュエーションだが、明確に異なる点として、攻撃が効かないという点が挙げられる。前述の通り、ジャックは確かに不死身だが、「死んでも生き返る」という意味での不死身だった。が、今回はそもそも攻撃が通じない。一体どうすればいいんだ? 対処法がわからない。……これもまた恐怖だ。

既に触れた通り、本作はマップ毎に異なる恐怖が待ち受けている。城をクリアし、ベネヴィエント邸に入ると、今度は一切の武器・アイテムを奪われてしまう。この館ではパズル中心の進行となるのだが、敵が出てこないわけではない。接触すると即死というクリーチャーが待っている。さあ、今度は一体どうすればいいんだ?

こんな風に本作は、『バイオハザード7』で使った「マップ毎に異なる恐怖をテーマとする」という構成も武器として、次々「対処法のわからない」未知の状況をしかけてくる。だからこそ怖い。王道の怖さ、それでいて未知だからこそ新しい恐怖が味わえるという寸法だ。

シリーズの集大成であるとともに未来を指し示す作品

『バイオハザード7』と『バイオハザード4』を融合させた形のゲームシステム、メトロイドヴァニアスタイルのゲーム進行、そして王道でありながら新しい恐怖。これらの要素によって、本作がシリーズの集大成であるとともに、シリーズの未来を指し示す作品に仕上がっていると感じた。

プレイ体験も快適。プレイステーション5でSSDにインストールしてプレイしていることもあってか、待ち時間もなく、一度プレイするとやめ時を失う楽しさだ。

ちなみに、『バイオハザード』は「初代&2、0」「3」「4~6」「7」では大きくプレイ感が異なる。なのでシリーズ中どの作品が好きかによって、評価も変わってくるだろう。参考までに書いておくと、筆者がシリーズ中高く評価しているのは、「7」と「RE:2」だ。ナンバリングでない作品も加えるなら、「リベレーションズ1」も好み。本作は、そんな趣味を持つ筆者が高く評価する作品だ。

恐らく、『バイオハザード7』以降からシリーズに触れている人なら本作の出来に満足できるだろう。『バイオハザード7』にはなかった『ザ・マーセナリーズ』が収録されているのも非常にうれしい。やや残念なのは、オンライン専用タイトルの『RE:バース』のサービス開始が後ろ倒しになったことくらいか。興味を持っているなら、プレイして損のない作品だろう。とりわけ、ストーリー的には『バイオハザード7』とセットのような形になっている。

もし前作をプレイしているなら、本作は確実にオススメだ。恐怖を最大限味わうためにも、是非、ネタバレや攻略サイトなどを見る前にプレイしてほしい。「未知」というスパイスが格別の恐怖を味わわせてくれるだろう。

文/田中一広

(執筆者: ガジェット通信ゲーム班)

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