庵野秀明「こういうところはNHK撮ってない」「誤解されているけど、僕は自分だけで作りたくないんです」『シン・エヴァンゲリオン劇場版』裏話と感謝を述べる

『シン・エヴァンゲリオン劇場版』大ヒット御礼舞台挨拶が行われ、庵野秀明氏(総監督)、鶴巻和哉氏(監督)、前田真宏氏(監督)、緒方恵美さん(碇シンジ役)が登壇しました。

庵野監督は、「僕がエヴァ関連で表に出るのは、最初の製作発表のときと、1本目が春に間に合わないときに“すみません”という謝罪会見のとき以来なんですね。今日は、皆さんに直接スタッフの代表としてお礼を言う最後のチャンスかな、と思って出ることにしました」と挨拶。

「私も謝罪会見に参加させていただいて、庵野さんと一緒に登壇させていただくのは、そのとき以来でございます」と、シンジ役の緒方さんがイベントの進行役を務めました。

「すごい誤解されているけど、僕は自分だけで作りたくないんですよ」

Q:現在、興行収入70億円を突破していることについて。

庵野:本当に有り難いです。もう、前作の『:Q』を超えて。80億円ちょっといったら、僕が総監督をやった『シン・ゴジラ』を超えてくれるので、僕の中ではレコードになるし。あと、100億円いってくれると、アニメ業界の活性化に良いんです。『鬼滅の刃』とかジブリは100を狙って当然の作品群なんですよ。でも、エヴァってロボットアニメなんですよ。

緒方:あ、ロボットアニメだったんですか!?

庵野:有名なロボットアニメで『ガンダム』がありますけど、『ガンダム』だったら100はいっていないんですよね。ニッチなロボットアニメで100を目指せるっていうのは、本当に有り難いことだなと思います。こういうものでも100いくというのは、アニメ業界にとってほんとに良いんですよ。

緒方:家族だけでなく1人で観に来られる方も多いのに、この数字になったのは本当に有り難いなと思います。

Q:一番最後の作業が終わったときの心境は?

鶴巻:スタッフで最初に完成した映画を観るスタッフ初号のときに、やっぱり涙しているスタッフもいました。僕は申し訳ないんだけど、ただ「終わってよかったな」と思っただけで、エヴァ全体のこととかは全然考えていなかったですね。本当に目の前の「明日終わるのかな?」みたいなことだけが終わってくれた、という感じでしたね。

前田:同じですね。色々直しが来ていたので、最後の方までずっと直す作業をしていたんですけど、「あれ?もう終わり? もう(直しが)来ないの? ほんとにもう来ないの? ほんとに!?」みたいな疑っているところもあって(笑)。でも、本当に終わったんだ、と安心しました。

庵野:僕も安堵ですね。「終わった、終わった」と。終わった時は感謝ばっかりだったんですよ。スタッフがメインですけど、お礼を言って周って終わりっていう。こういうところはNHK撮ってないんですよ(笑)。各セクションにも行って、頭を下げて「ありがとうございました」というのが僕の終わりでした。

緒方:我々(キャスト)は『初号試写が終わっても、きっと公開までは油断はできぬ』みたいなことをグループLINEで話をしていたんですけど(笑)。

庵野:それはない、大丈夫だよ(笑)。無茶なように見えて、無茶は本当にしていないから。やれることしかやっていないですよ? そのへん誤解しないでください(笑)。

緒方:エヴァは総監督と監督という役職が並列で立っているというのが珍しいですが、どのような役割分担があったのですか?

鶴巻:基本的には庵野が監督で、僕らが助監督みたいな立場なんだなと思っています。セカンドユニットみたいな感じで現場を仕切ってるみたいな感じかなと思います。

前田:テクニカルなところで支えていくという。

緒方:先日、NHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』でも出ていましたが、普通のアニメではあまりないような製作工程がたくさんありました。例えばミニチュアの作成やモーションキャプチャーだったり。どんなことを各々されていたのでしょう?

庵野:ミニチュア使ったり、モーキャプ使ったりってしなくてもできるんですよ、アニメーションって。手で描けば済むので。でも、手で描いたものだけにしたくない、というのがずっと『:序』の頃からあって。あれから時間が経って、いろんな技術が上がってくれて、それでようやく今回できるようになった。頭の中で出来た画面ではない、実際に存在するものを切り取ることでアニメーションを作るという。なかなか大変なので、他の人はあまりやらないと思うんですけど。そういうことを今回やって。

時間もお金もかかるんですけど、まあ自主制作なので、そこはなんとか頑張ってお金をそこに回してですね。でも、本当に大変なのでやらないほうがいいです(笑)。

鶴巻:庵野は実写の現場も経験していて、『シン・エヴァ』に関して言うと、実写とアニメーションのハイブリットみたいな作り方なんですよね。なので、庵野はたぶん経験しているし、良いところ・悪いところもわかっているから、自分の中ではこうすればいいし、こうはしなくてもいい、という感覚があるんだと思うんですけど、僕は実写の現場を経験したことがないし、スタッフも大部分がそうなので、そこで結構苦労していたというか、どこまでやるべきなのか・どこからやらなくていいのか、というのがわからないことが不安で作っていましたね。

前田:僕はどちらかというと後半のパートを担当していたので。最初のA、Bパートはリアリズムに徹した実写寄りのパート、間が入って、後半パートは完全に想念の世界、人間の頭の中に入っていく。これでキッパリ分かれて、対照的になったらカッコイイんじゃない?という話はしていたんだけど、そういう意味では、僕としては後半パートのいわゆるアニメの作り方をさせてもらったので、そんなに苦労はなかったです、すみません(笑)。

鶴巻:結局、庵野が最終的にジャッジしてくれるので、と思っていたんだけれど、(NHKの)ドキュメントにもありましたけど突然「いや、ここは1回鶴巻にやらせて」みたいな。庵野さんがやりたいから、コレやってるんですよね?と思ってたら……(笑)。

庵野:いや、自分の頭の中だけで出来ても面白くないからね。他の人がこれどうするんだろう?というのは見ておきたいから。それはすごくあります。すごい誤解されているけど、僕は自分だけで作りたくないんですよ。いろんな人の意見を重ねて、紡ぎ合わせてやっていきたい。編集も最初から自分ではしないですね。

緒方:そういう実写とのハイブリッドみたいな作り方も『シン・エヴァ』だからできた?

庵野:実写とのハイブリッドは、『:序』の頃からちょっとずつやってたんだけど。そのときはまだ実写というかCGに近かったんだけど、ちょっとずつ増やしていって『:Q』と『シン』の間が空いて、その間に『シン・ゴジラ』ができたので、そっちのノウハウがこっちに全部活かせた。『シン・ゴジラ』を作ってなかったら、たぶん『シン・エヴァ』はこういう風になっていないんですよ。だから、それは『シン・ゴジラ』をやらせていただいて本当に良かったと思います。有り難いです。やっぱり進化はしたので。

Q:アフレコはいかがでしたか?

緒方:録り方が今までとだいぶ違っていて、かなり細かく分割して長い期間をかけて録ったんですけど、何か感じたことや印象に残っていることは?

庵野:アフレコはバラでも、出来た画面がバラで録った印象にならないでしょ? 1人1人バラバラで録っていて、テイクもバラバラなんですよ。1つのセリフの中のセンテンスも、別のテイクを組み合わせていたりとか、歌に近いことも人によってはしているので。ただ、それを感じさせない、元々来ている声優さんにはすごい演技力と力があるので、それをやっても大丈夫だろう、と。掛け合いをしていないけど、掛け合いをしているようにしか聞こえない、というのは、すごいこと思うんですよね。

緒方:本当に大変です(笑)。

鶴巻:僕もすべてのレコーディングに参加しているわけではなかったんですけど、印象的だったのは、鈴原サクラ役の沢城みゆきさんが、難しい状況でのドラマが展開されるところで僕なりにはかなり不安だったんですけど、確か一発OKでしたよね。

庵野:本当はテストのものをOKしてるんです。沢城さんみたいなタイプはガーッとアフレコ前に台本を読んで溜めてきて、溜めたものを一番最初に出しちゃう。だから、最初を録らないとダメ。2回め以降は最初出したものを、もうちょっと上手くやろう、とかそっちにいくタイプの人だと思うので、とにかく最初が大事。それで、本編に入っているのは最初のテイクなんです。

緒方:確かに初動は大事ですよね。

鶴巻:庵野さんは、どこまで自由にさせるか、みたいなことがやっぱり上手いんですよね。先程の“自分の中にあるものだけじゃなくて、人からも影響を与えてほしい”みたいなところは、アフレコとかにもよく表れていて。それこそシンジの気持ちなんかは、だいぶ緒方さんに託しているみたいなところも多かったから。

緒方:いつもそうですけど、でも今回のセリフは特に私だけではなくみんながいろんな受け取り方ができるセリフが多くて。ちょっと感情の込め方が違うだけで、全然違うニュアンスになってしまうようなセリフが多かった気がします。

Q:NHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』はご覧になりましたか?

庵野:僕は観てない。僕は僕が映っているものは観ないの、嫌だから。

鶴巻:僕も実は観ていなくて。先日ディレクターの方と会ったんですけど、「すみません、5年後に観させてください」と言って謝っておきました(笑)。

前田:録画して観ちゃったよ(笑)。よく出来ているな、と思いましたよ。すごく膨大な記録がある中から、庵野さんという人がどうものを作っていると、ちょっとカッコイイですけどキュッと編集してあって、「なるほど」と思いました。

庵野:4年間と謳っているけど、4年べったりいるわけじゃないんで。間に何か月も来てない時期とか、そういうのもありました。

緒方:でも、私は何度もアフレコスタジオに伺っておりますけど、緒方の時にはいつも(NHKの密着スタッフが)いらっしゃいましたよね?

庵野:そうそう、緒方の時には来てたけど、他の人のときには来てないとかね。もっと良いシーンというか、「これ撮っときゃいいのに」っていうのは現場で結構あったんだけど。

緒方:そうおっしゃてるシーンが映像になってましたよ(笑)。

庵野:いや、本当にね、良いところに来てないんですよ。バーチャルカメラのときも、最終日になぜ来ない!っていう。大抵、初日に来ちゃって、最後に来ない。最後がいいのにね。もっと良いところいっぱいあったの、ほんとに。だから、カメラに向かっても言ってたと思うんだけど。

また、緒方さんがスガシカオさんのラジオ番組に出演した際、スガシカオさんがエヴァの大ファンで、自身が歌うテーマ曲が庵野監督のアップのところからかかったことに「とても感動した」と言われたエピソードも語られました。

最後に庵野監督から「改めてお礼を申し上げます。本当にありがとうございました。制作の途中からコロナ禍に見舞われて、僕らだけじゃなくて世界中がそういう状況になってしまって、大変な時期が今もまだ続いています。そういう大変な時期に作品を面白いと言ってくださって、また厳しい時期になっても映画館に足を運んでいただけることを本当に感謝いたします。本当にありがとうございました」と感謝の言葉が述べられました。

イベントのトークや挨拶の中で、庵野監督からは何度も「ありがとうございます」という言葉が飛び出し、降壇する際は舞台袖で何度も客席に深くお辞儀をし、そのまま舞台袖に捌けていく姿が印象的でした。

監督陣が語った本編の小ネタについてはコチラ↓
『シン・エヴァ』アスカの重要シーンに実はあの人物がいる!? 庵野秀明・鶴巻和哉・前田真宏監督陣が本編の小ネタを明かす
https://getnews.jp/archives/2985501

キャスト14名登壇舞台挨拶はコチラ↓
ゲンドウのセリフに「お前が言うな!」石田彰が絶叫!『シン・エヴァンゲリオン劇場版』完成映像に感涙のキャスト14名が心境を語る
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山寺宏一「葛城、本当によく頑張ったな」加持からミサトへのメッセージを6万人が目撃!『シン・エヴァンゲリオン劇場版』舞台挨拶に豪華キャスト14名集結
https://getnews.jp/archives/2975176[リンク]

≪作品概要≫
・タイトル:『シン・エヴァンゲリオン劇場版』大ヒット公開中
・上映時間:2時間 35 分
・企画・原作・脚本・総監督:庵野秀明
・監督:鶴巻和哉、中山勝一、前田真宏
・テーマソング:「One Last Kiss」宇多田ヒカル(ソニー・ミュージックレーベルズ)
・音楽:鷺巣詩郎
・声の出演:緒方恵美、林原めぐみ、宮村優子、坂本真綾、三石琴乃、山口由里子、石田彰、立木文彦、清川元夢
関智一、岩永哲哉、岩男潤子、長沢美樹、子安武人、優希比呂、大塚明夫、沢城みゆき、大原さやか、
伊瀬茉莉也、勝杏里、山寺宏一、内山昂輝、神木隆之介
・制作:スタジオカラー
・配給:東宝、東映、カラー
≪あらすじ≫
新たな劇場版シリーズの第 4 部であり、完結編。 ミサトの率いる反ネルフ組織ヴィレは、コア化で赤く染まったパリ旧市街にいた。旗艦AAA ヴンダーから選抜隊が降下し、残された封印柱に取りつく。復元オペの作業可能時間はわずか 720秒。決死の作戦遂行中、ネルフの EVA が大群で接近し、マリの EVA 改 8 号機が迎撃を開始した。一方、シンジ、アスカ、アヤナミレイ(仮称)の 3 人は日本の大地をさまよい歩いていた……。

(C)カラー

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