「xiangyuちゃんと会ってなかったらコラボシリーズは始まらなかった」xiangyu & 山口美代子、岡 愛子(BimBamBoom)「そぼろ弁当」鼎談インタビュー
名実ともに日本を代表するドラマー・山口美代子のもとに、田中歩(Key)、Maryne((Ba)、岡愛子(Gt)、矢元美沙樹(T. Sax)が集結したインストゥルメンタルバンド、BimBamBoom。ジャンルを超えた独自のオルタナティヴファンクサウンドで国外でも名を馳せている彼女たちと、アフリカンルーツのGgomやシンゲリをベースとしたトラックにユニークな歌詞をのせた曲たちで注目を集めるシンガー/ラッパーのxiangyuがコラボレーションした「そぼろ弁当」がリリース。一度聴いたら耳から離れないGqomのリズムに母への思いをそぼろ弁当に代替した歌詞がのる2組の個性が見事に融合した本作について、xiangyuと山口美代子、MVを手掛けた岡愛子に話を聞いた。
――2組はいとうせいこうさんとs-kenさん(BimBamBoomプロデューサー)のイベントで出会ったそうですが、そのときの互いの印象を改めて聞かせてください。
山口「s-kenさんのイベントではxiangyuちゃんの出番がトップだったんですよ。お客さんはみんな大人だし、会場も(青山)CAYだったので座り形式で、多分普段とは違うライヴの雰囲気だろうし、トップはやりにくいだろうなと思ってたんだけど、xiangyuちゃんは一人で堂々と見事にやっていて格好よかった。しかも最後はお客さんの間を練り歩きはじめて、『この人はやる人だ!』って思いました」
岡「うん、それこそリハのときも堂々としてた。私も気になる人センサーが働いて、その後そっと様子をうかがってて、当日は多分話しかけてないと思うんですけど、遠目で見ながら、良い意味で『変な子だなあ、好きだなあ』って思ってました(笑)」
xiangyu「(笑)。当日はそんなに話せてないですよね。あの時は出演者のみなさんが大先輩ばかりで、お客さんの層もいつもと違ってて、しかもトップバッターってことで自分でもわけわからない感じになってたんです。それで出番が終わってホッとしてたら、自分がいつも出てるライヴでは聴けないBimBamBoomのみなさんのファンクの音楽が鳴って、『めちゃ格好いい!』と思って。その後にs-kenさんの生誕祭に遊びに行かせてもらって、そこでBimBamBoomのみなさんとようやく話せました」
岡「でもその時もすぐ出て行ったよね」
xiangyu「すぐ出て行った(笑)。BimBamBoomのみんなのライヴを観て、その前にご挨拶してちょっと喋って」
山口「その後シェルターでの2マンの話が出て、そこに向けて1曲つくろうと盛り上がって、コラボの話が進みました。xiangyuちゃんと会ってなかったらコラボシリーズは始まらなかったと思う。『一緒にやりたい!』と思った初めての人なんです。
BimBamBoomはこれまでにオリジナルアルバムを3枚出していて。WWWのツアーファイナル(2019年)の後からもみんなで自分たちのために曲を書き始めていて、その中でxiangyuちゃんの曲のベースでもあるGqom(ゴム/南アフリカ・ダーバンからUKを経由して世界中に広がったハウス、ダンス・ミュージック)を探ったりしていたんです。でもずっとどこかにコラボレーションのシリーズをやりたいなというのはあって。コロナ禍でじっくり作れる時間もあるからいまこそコラボをやるべきだっていうのと、xiangyuちゃんとの出会いがあって実現しました」
岡「うん、そうですね」
xiangyu「初耳でした。すごく嬉しい」
――どういうところにそこまで惹かれたんでしょうか。
山口「やっぱりライヴのパフォーマンス。やる人だっていう印象もそうだし、アートワークだったり、映像だったり、歌詞のおもしろさも魅力的だった。等身大の言葉でポンポンくるところに人間臭さがあって、トラックをバックに歌ってるけど人間臭いというそのギャップがすごくBimBamBoomの人間味とも合うんじゃないかなって」
――なるほど。今回はBimBamBoomが何曲かつくった中からxiangyuさんが選んだそうですが、全部Gqomの曲だったんですか。
山口「いや、最終的に3曲を渡したんだけど、中にはいつもBimBamBoomがやってるような8ビートのはやい曲もあったかな」
――その中からいまのトラックを選んだのはなぜ?
xiangyu「みなさんのバンドスタイルで歌ったり、パフォーマンスをした経験がなかったから、最初はどう言葉をのせたらいいのか想像がつかなかった中で、自分が一番なんとかできそうだと思って選んだのがこのトラックでした。それでも結構難しかったですね。どういう風に言葉をのせて、ラップもどういう譜割にしてのせたらBimBamBoomの良さと自分の良さをミックスできるんだろうって。まず曲を作る段階でも難しかったし、実際に会って、じゃあ合わせようという時でも聴こえ方が全然違った。さらに私は音楽の知識がなくて、『4待つ(4小節待つの意味)』とか飛び交う言葉がわからないから、『どこから数えて4?』とか、そういう基礎的なことから音楽の先輩たちに教えてもらってました」
岡「でもxiangyu ちゃん、感覚でわかってたよね」
xiangyu 「なんとなくで掴みました。最初にギターを待って鍵盤を待ってxiangyuって言われて、『もう鍵盤入ったかな?』って。超ニュアンス(笑)」
山口「逆にこっちからしたら不思議で、普段xiangyuちゃんはトラックで歌ってるけど、やっぱりイントロとか普通にあるでしょう? あれはどういう感覚でやってるの?」
xiangyu「あー、あれは……体感?(笑)」
山口&岡「体感!(笑)」
――合わせたのは何日くらい?
山口「3日間やらせてもらいました。それこそ生音だし、遠くにドラムがあってとかそういうバランスも感覚も全然つかめないだろうし、自分の声も聞こえてるのか聞こえてないのかみたいなのもあっただろうし、大変そうだからもうちょっと環境整えてあげなきゃなって1日目は終わって。でも2日目にxiangyuちゃんがちょうどドラムの対面にいたので、『あ、いま息吸った、合わせよう!』って感じで動きから入ったら、そういう感覚がハマりだして、もう大丈夫だってなりました。見た目から空気感が繋がってきてライヴにいけたっていうのはすごく覚えてる」
岡「共鳴しあってましたよね。xiangyuちゃんは天才だと思う。野生の勘、というか察知する能力がすごくて。2日目、明らかに美代子さんのテンションが変わったんですよ」
xiangyu「確かに美代さんがドラムをどういう風に叩いているかがなんとなくわかってからすごく楽になりました。でも本番は美代さんが後ろにいたからどうしようってなったんだけど(笑)」
山口「見えない!って(笑)。xiangyuちゃんの曲のバンドアレンジも楽しかったねえ。トラックを生楽器に差し替えていく作業はなかなかやることがないし、そのうえ本人とやれて」
xiangyu「あの後もうちのチームで『“風呂に入らず寝ちまった”は絶対バンドのほうがいいよね』みたいなことを言ってて。歌いやすいし、楽しいし、すごくいい経験だった」
山口「BimBamBoomだけだとパッケージしたテンポよりもライヴでは平気で10とか15とかあげちゃうんだけど、さすがに口がまわらなくなるのはやばいから、テンポ確認だけは気をつけました」
――“そぼろ弁当”ではxiangyuさんが歌詞を担当されていますが、歌詞はどういう風につくっていったんですか。
xiangyu「最初にs-kenさんに『強い女性にフォーカスして書ける?』と言われたんです。私は普段ジェンダーをあまり意識して生きてないから、女性にフォーカスするのは思ってた以上に難しかったんですけど、そのテーマでパッと浮かんだのが自分のお母さんでした。自分が憧れているのがお母さんだから、それで歌詞を書こうかなと思って、いつものテンションでそれをそぼろ弁当という題材に置き換えて歌詞を書いてみんなに投げたらOKをもらえて。 BimBamBoomのみなさんが歌ってくれるパートもあるから、作曲のnemoさんにもプロデューサーのs-kenさんやスタッフさんのアドバイスをいただきながらちょっとずつ歌詞を変えていってできあがりました。
xiangyuのソロでリリースする曲だったらもうちょっと意味をなくして、言葉の響きをメインに作っていたと思うんですけど、今回は意味もあるというのが私にとってはおもしろいチャレンジで。今までよりももっと意味と日本語の持つ音の響きをせめぎあわせながら、こっちは意味とりたいな、こっちは音優先したいって感じでつくって。それに加えて、みなさんの演奏する音とどういう風に混ざっていったらよく聴こえるかなと考えたり、歌い方も含め、かなり探ってつくりました。歌い方も結構いろいろ試して、自分の家でデモをとってる時はピンとくるものがなかったけど、みんなとリハーサルをやって、生の楽器と合わさることで曲に合う歌い方を見つけていけたんです。それも普段にはない体験だから本当におもしろかった」
山口「ライヴで先にやれたというのは全然違うよね」
xiangyu「うん。それがあったからレコーディングでも自分で歌い方のイメージを持ってやれた気がする」
――お二人は歌詞を見てどう思われました?
山口「まず日本語のはめかたが自然すぎてビックリしました。歌詞の意味やストーリーより、そこに自然にスッと入ってきた日本語たちにビックリしながら最初は聴きましたね。すごかった」
岡「シンプルに『なんやこりゃ、おもしろい!』と思いました。単純にそぼろ弁当というのがおもしろかった。私は個人的にちょっとユーモアが見える芸術が好きで、xiangyuちゃんの歌詞はまさしくそれだったんです。加えて、私は歌詞の意味を深いところまで知りたがるタイプで、xiangyuちゃんに会ったときにも色々聞いたら母の話だというので、ドーッ!(感涙)となりました。本当に、シンプルにとても良い歌詞だなと思います」
――本当に絵が浮かぶような歌詞ですが、岡さんが手がけられたMVもその斜め上をいってて最高でした。コロナ禍で動画編集を独学で勉強されたということですが、そんな短期間で習得したとは思えない監督作品ですね。
岡「いやあ、みなさんが協力的だったのでできました」
山口「それは愛子があれだけ頑張ってたからだよ。最初はギターも弾かなきゃいけないし、同時にミュージックビデオを撮るなんて可能なのかなと思ってたんです。しかも企画、脚本、監督、撮影、編集、キャストまで全部ひとりでやって。ここまでのものができるとは思っていなかったから本当にすごいなと思いました」
――あのMVの最初の発想はどういうところから?
岡「撮影するまでに時間がなかったので、手っ取り早くと言ったら失礼ですけど、演奏シーンは入れようと。ただ、こういうインストバンドとコラボするときって演奏推しのMVが多いじゃないですか。私は根本的にみんながやってることをやるのがあまり好きではないので、色々考えて、頭に引っかかってたxiangyuちゃん歌詞をどうしても活かしたいと。さらに、せっかく監督するなら自分の趣味も入れたいから、xiangyuちゃんとお母さん役の人の対決を撮りたくて。そういういろんな要素を歌詞でうまい具合にリンクさせることができたんです。
あと、xiangyuちゃんはもちろんゲストで今回のコラボにおいてすごく大切な人だけど、BimBamBoomをバックバンドにしたくなかったんです。6人でひとつのバンドに見せたかった。だからその戦闘シーンにおいても、大事な役をBimBamBoomに担ってもらって。一番最初のイントロは音楽を聴いたときに西部警察みたいな絵が浮かんだのでああいう形にして、間に母と子の戦闘があって、最後は母を交えた絵にしたら起承転結ができあがると思いついたので、それをより具体的にはめていって拙い絵コンテを描いて。演技指導や演出もしたことがなかったので、どう伝えていいかもわからず、元々ある映画の所を抜粋した切り取りを用意して戦闘シーンの参考にしてもらったりして、なんとか撮りきったって感じです。本当にみんなに助けられました。よく『みなさんのおかげです〜』みたいなのあるじゃないですか。マジそれなんですよ」
xiangyu「今のなんのモノマネですか(笑)」
山口「誰だったんだろう(笑)」
岡「(笑)。でも撮りきった後に本当にそう思いました」
山口「私たちも岡愛子監督の第一作品がBimBamBoomで良かったって思いました。もはや自分たちのものという感じじゃなかった」
xiangyu「本当に監督してもらってありがとうございます」
岡「いやいや、みなさん素晴らしかったんですよ。演技がすばらしかった。演奏シーンはもちろんみんな格好いいんですけど、お母さん役も色々考えてくださったし、BimBamBoomも演技に入っていったらちゃんと切り替えてて、はあ?ってビックリしたくらい。xiangyuちゃんもここはどういう心情でこの表情になるかとかしっかり聞いて考えてくれて。最後にxiangyuちゃんがそぼろ弁当を見て、こっちに笑顔を出してくれるシーンがあるんですけど、そのとき泣いちゃって。いやあ、演技に感動して泣くなんて、こういう感動を得ることができるなんて、監督とかカメラっていいもんだなって……もうみんなのおかげです(笑)」
一同(笑)
山口「あれも1テイクだよね?」
岡「2回かな」
山口「大体そんなものでパンパン進めてくれて。みんなすごかった」
xiangyu「愛子さんが、ここはこれくらいの素材がほしいとか全部共有してくれたからすごくやりやすかった。愛子さんは自分も出演もするし超大変だったと思うんですけど、BimBamBoomが本当に良いバンドなのが伝わってきて、私はそこで一緒のチームみたいな気持ちになれて。いつもムードがいいんですよ。大所帯だけどみんなが仲良くやってるからああいう感じにできるんだろうなって、一日一緒につくってて思いました」
――BimBamBoomは今後も女性アーティストとのコラボが続くということですが。
山口「そうですね。元々BimBamBoomオリジナル用に作った曲にコラボという形で乗っかって貰ったのが今回で。なので2バージョン出しました。自粛期間中に皆んなが作った曲がこの先、コラボの形を迎えるか、オリジナル曲になるかそこはどっちにもという感じで。まずは第2弾、動き始めています」
――xiangyuさんは?
xiangyu「4月か5月くらいに私的にめちゃめちゃ気に入ってる曲が出ます」
――生バンドの良さを知ってしまったからにはそういう企みもあったり?
xiangyu「やりたいと思いました。今まではGqomやシンゲリ(タンザニア発の高速ビートが特徴のエレクトロニックミュージック)などアフリカがルーツにあるものでやってたんですけど、それもそれでやりつつ、それだけじゃなくてもいいなって。メロディがあるようなラップとか今までとちょっと雰囲気が違う曲にチャレンジしたい気持ちになってますね。それは多分BimBamBoomのみなさんに会って歌うことにチャレンジしたことに大きな影響を受けたから。本当に楽しかったんです。また一緒に作りましょう!」
山口「しよー! 次はセッションしようよ」
岡「それはおもしろそう」
xiangyu「やりたい! こういうのは言ったもの勝ちだから、もうこれで決定ということで(笑)」
photography Sachiko Saito
text&edit Ryoko Kuwahara
BimBamBoom feat. xiangyu
「そぼろ弁当」
M1 そぼろ弁当(feat. xiangyu)
M2 そぼろ弁当(BimBamBoom ver.)
(Worldapart)
https://fanlink.to/bimbamboom_soborobento
BimBamBoom
リーダーの山口美代子はdetroit7のメンバーとしてメジャーデビュー後、tricot、Scott&Rivers、PUFFY、Rei、竹原ピストルなどのライブ&レコーディングミュージシャンとして、ワールドワイドに活躍し、名実ともに日本を代表する女性ドラマー。その彼女のもとに、田中歩(key)、Maryne(Ba)、岡愛子(Gt)、矢元美沙樹(T.Sax)と若き精鋭たちが集結。
ジャンルの壁を自由に飛び越え、見るものを引き込み踊らせていく先鋭的なパフォーマンスで注目を集めてきたインストゥルメンタルバンド。ニューオリンズ、メンフィス、フィラデルフィアなどのR&B、ファンクミュージックのルーツを徹底的に吸収し、ジェームス・チャンス、リップ・リグ・アンド・パニックなどのニューウェイブやコーラス・ワークをブレンドして独自のオルタナティブファンクサウンドを確立。ライブ会場にはさまざまな国籍のオーディエンスが集まる。
https://bimbamboom.tokyo
xiangyu(シャンユー)
2018年9月からライブ活動開始。Gqom(ゴム)をベースにした楽曲でとミステリアスなミュージックビデオで話題に。2019年、5月22日に初のEP『はじめての○○図鑑』をリリース。自主企画イベント<香魚荘>を開催、服飾を学んだ経験を活かして衣装を制作するなど枠にとらわれない活動で注目されるアーティスト。
都市で暮らす女性のためのカルチャーWebマガジン。最新ファッションや映画、音楽、 占いなど、創作を刺激する情報を発信。アーティスト連載も多数。
ウェブサイト: http://www.neol.jp/
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