冬の山形・列車旅。車窓からの雪の山形城跡にうっとり
列車旅大好き! ライターの望月崇史(もちづき・たかふみ)です。
まずは、漢字の読み方テストから! 全て山形のローカル線にある駅名ですが、みなさんは全部読めますか?
1 羽前金沢駅
2 寒河江駅
3 左沢駅
のんびりとローカル線に揺られる旅は、地元の言葉に耳を傾けるのが楽しく、車窓の美しさに癒されるのが醍醐味。さっそく、答え合わせをしながら、冬の山形が堪能できる左沢線をめざすことにしましょう。
東京駅
冬の旅は始発列車でGO!
四季の移ろいについて記された『枕草子』の冒頭に、「冬はつとめて」とあります。平安時代に生きた清少納言は「(日本の)冬はつとめて(早朝)がよい」と説きました。いまも冬の旅は、早朝出発が吉。努めて(つとめて)早起きして始発列車で東京を出発すれば、現地で日中の滞在時間を長く確保できて、ローカル線の車窓も観光も存分に楽しめます。
山形新幹線の始発はJR東京駅6時12分発の「つばさ121号」。東北新幹線との分岐駅であるJR福島駅まで「やまびこ」と併結して運行することが多い「つばさ」ですが、この列車は珍しく「つばさ」単独の7両編成で走ります。
山形新幹線のハイライトは、福島~米沢間。東北新幹線から奥羽本線に入り、JR庭坂駅を過ぎたところ。右に大きなカーブを描いて坂を力強くグイグイと登っていく新幹線が実に頼もしい! そのまま板谷峠に近づくにつれ、次第に雪深くなっていくのも、冬の「つばさ」ならでは。
山形駅
開業100周年! メモリアルイヤーの左沢線
東京駅から2時間45分、JR山形駅に到着。スカイブルーの塗色が爽やかな左沢線(あてらざわせん)に乗り継ぎます。左沢線は山形市内と最上川舟運で栄えた旧左沢町(あてらざわまち)の間、24.3㎞を結ぶローカル線。1921年(大正10年)から翌年にかけて開業し、2021年で100周年の節目を迎えます。
列車が山形駅を発車すると進行方向左側に山形城跡「霞城公園」が見えてきます。山形城は、戦においてその姿が霞に隠れて見えなかったことから、霞城(霞ケ城)の異名があります。桜の名所で有名ですが、冬はまるで水墨画のような世界。車窓から見えるお堀にも、1991年(平成3年)に再建された「二ノ丸東大手門」が映えていました。城のお堀端を走る列車って、プチ殿様気分になれますね!
羽前金沢駅
何もないけど「愛」がある! 羽前金沢駅
列車旅の醍醐味は途中下車! 最初は山形駅から約20分のJR羽前金沢(うぜんかねざわ)駅で降りました。天気がいいと出羽三山や蔵王連峰を望む美しい水田地帯ですが、真冬は白一色! その中に「大空にはばたけ」をテーマに造られた鳥の翼のような屋根の駅舎が映えます。
羽前金沢駅は、寒風の中の何もない無人駅。でも、列車の時刻が近づけば、「気をつけて行ってきてね!」と見送りの家族と乗客が交わす会話が聞こえてきます。また、列車の合間には、無人駅を管理する駅員さんもやってきて、乗客の安全のため、除雪や滑り止め散布作業も行っていきました。家族愛や列車愛が感じられるようで、心が温かくなりました。
寒河江駅
明治から現役の最上川橋梁を渡り寒河江へ!
左沢線の最上川橋梁(もがみがわきょうりょう)は、1923年(大正12年)に架橋されました。1887年(明治20年)にイギリスから技術と資材を輸入して旧東海道本線の木曽川に架けた橋が移設されたものです。明治生まれの鉄橋が現役なんて、渡るだけでもワクワクしますね!
2駅目の途中下車は、JR寒河江(さがえ)駅。特産のさくらんぼをかたどった駅名標がお出迎え。寒河江は昔、現在の神奈川・寒川辺りの人が移住したことが地名の由来になったともいわれ、意外な繋がりにびっくり。
駅には寒河江市美術館の名誉館長も務める画家・郷間正観氏の作品が展示されたステーションギャラリー「郷間正観ステーションギャラリー」、近くには「寒河江温泉の足湯」もあって、列車の待ち時間も楽しく過ごせます。
寒河江駅から再び左沢線に揺られて約15分。車窓に最上川が見えてきたら、終着のJR左沢駅はスグそこです。凍てつく寒さの中、雪に埋まった車止めの手前で、洋梨形の駅名標と並んで列車を迎える駅員さんに、ホッと温かい気持ちになります。
旧最上橋
最上川の美しさを堪能! 旧最上橋へ
左沢駅から約5分歩いて「旧最上橋」へ。1940年(昭和15年)築のコンクリートのアーチ橋が、ゆったり流れる最上川に映えて心洗われます。
ここで年配の写真愛好家の方と一緒になりました。「左沢線を挟んで逆側の楯山公園から見る最上川は最高」と温かいアドバイスをいただきましたが、公園は残念ながら冬季は雪のため入園が困難。いい時期にまた、左沢へ足を運びたくなる理由ができました。
昼過ぎに左沢駅に着いたら、帰りの列車は午後4時過ぎの発車。最上川を行き来した昔の人に思いを馳せて、川の流れのようにゆったりと時間を過ごします。夕日を浴びて、迎えの列車がやって来たようです。約40分かけて山形駅へ。今宵は駅近くのホテルに泊まります。
山形駅
新幹線と普通列車が同じ線路を走る「奥羽本線」!
2日目は山形駅から奥羽本線の普通列車新庄行でスタート。10分も乗れば、さくらんぼ農園に広がる雪原のどまん中へ。
青空と白雪、その向こうは出羽三山でしょうか。単線のため途中、新幹線を待たせることもあり、普通列車なのに少し優越感を感じることができます。
新庄駅
最上川沿いを走る陸羽西線へ!
山形駅から約70分、JR新庄駅で陸羽西線に乗り換えます。
1903年(明治36年)生まれの「赤れんが機関庫」を横目に、めざすは最上川の舟下り。
車内で「シャッター押してくれませんか?」ふいに隣席の方から声を掛けられました。快く最上川と雪を入れてパチリ。乗り合わせた旅人同士の温かい交流もローカル線の旅ならでは。
20分ほどで舟下りの玄関口・JR古口(ふるくち)駅に到着です。
最上峡芭蕉ライン 舟下り
船頭さんの舟唄もあったかい! こたつ船で最上川舟下り
古口駅から徒歩約8分、「最上峡芭蕉ライン 舟下り」乗船口の戸沢藩船番所へ。河畔へ下れば真冬でもぬくぬくの「こたつ船」がお待ちかねです。
このご時世、こたつにはアクリル板が設置され、換気のための窓開けも行われています。船頭さんの自己紹介で、川の駅「最上峡くさなぎ」まで舟下りのはじまり。
富士川、球磨川と並んで日本三大急流の1つに数えられる最上川。ゆっくり進み始めた舟も、流れが速い所に差し掛かると大きく揺れて、水しぶき立てながらアトラクション気分です!
山形訛りが魅力の船頭さんもご機嫌がよくなってきて、花笠音頭から世界三大舟唄の1つとも云われる最上川舟唄まで4曲も披露してくださいました。舟唄を聴きながら川岸を眺めれば、約50分の舟旅はあっという間です。
舟下りの余韻を感じながら再び陸羽西線で新庄へ、さらに新庄からは山形新幹線「つばさ」で一気に東京へ戻ります。行きは山形駅で下りて、帰りは新庄駅から乗車できる山形新幹線。旅のプランを自分の意思で自由に描けるのがとてもいいですね!
真冬の雪深い山形は、いろいろな意味で「あたたかい」場所でした。ローカル線やこたつ船は暖かく、そして何より人が温かい! さあ、ぬくもりが恋しくなったら、山形のローカル線でのんびりしませんか?
東京駅
掲載情報は2021年3月11日配信時のものです。現在の内容と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
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