海抜0m地帯に住む親だから。助け合える地域のつながりづくりを【わがまち防災1】
2011年の東日本大震災、「3・11」からちょうど10年。各地域で防災の取り組みが生まれ、取り組まれるようになった。いま「地域の防災」はどうなっているのだろうか。
第1回に紹介するのは「ハハモコモひろば」。東京の葛飾区を中心に江戸川区、江東区と広いエリアで親子コミュニティを形成している。いずれも海抜0m地帯ゆえ、防災意識が高いパパ・ママが多い。今回は、代表のナオさん(42歳)にいざというときに周りの人と助け合う“共助”にもつながる、知り合いづくりの取り組みについて聞いた。
3・11で困ったのは乳児用のミルクをつくるための水問題
「3・11といえば、金町浄水場の水道水から1kmあたり210ベクレルという高い放射性ヨウ素が出たんです。それまで、乳児のミルクをつくるのに水道水を使っていたんですが、当時は焦ってミネラルウォーターを探し回りました」
葛飾区、江戸川区、江東区の全域に給水する金町浄水場(画像提供/pixta)
区が備蓄していた水を配布したり、西日本の親戚が送ってくれたりと、結果的には何とか乗り切った。しかし、災害に備えること、そしていざというときに助け合えるような知り合いを日ごろからご近所でつくっておくことの重要性を知った経験だったという。
その知り合いづくりのきっかけになればと、ナオさんは地域でやっているイベントに参加してみることにした。
「ハハモコモひろば」の前身は2009年に発足した「母の会」である。ナオさんは2010年に出産したタイミングで、保健所が主催する乳児の会に出席。そこで知り合ったママさんに「母の会」の存在を教えてもらい、さまざまなイベントに参加するようになった。
「母の会」は2015年に『ハハモコモひろば』に名称を変更し、2012年からスタッフ加入したナオさんが昨年から代表を務めている。
オンラインで人気だった「おうちプレようちえん」
2012年、「母の会」時代に開催したクリスマスイベント(写真提供/ハハモコモひろば)
「主な活動内容は、ママ向けや親子向けの教室を開催したり、親子で楽しめるワークショップを集めたフェスのようなイベントを行ったりしています。文字どおり、“母も子も”楽しめるイベントが多く、もちろんパパさんも参加可能です」
スタッフとイベント参加者(画像提供/ハハモコモひろば)
内容は必ずしも防災につながることばかりではなく、地域の防災に重要なのは、“いざ”というときに助け合えるように関係性を高めておくこと。そのため、コロナ禍でもオンラインイベントを途切れさせることはなかった。
昨今は会議やミーテイング、保育園・幼稚園の説明会、塾の保護者会などもオンラインツールのZoomで行われているが、使い方が分からないというママも多い。そんなママたちと楽しくお喋りをしながら「Zoomの使い方」をやさしく教えるイベントだ。
2020年4月から「Zoom」を使ってさまざまなオンライン講座を開催
また、2020年6月からZoomを使って毎月開催している「おうちプレようちえん」。2~3歳の子どもが入園前に体験する「プレ幼稚園」の雰囲気を家で体験してもらおうと、幼稚園ママのスタッフと元保育士のママで企画したものだ。
子どもの名前を呼んで出席も取る「おうちプレようちえん」(画像提供/ハハモコモひろば)
「スタッフは、“年齢がバラバラ”“子どもの学校も別々”“同じ町内に住んでいるわけでもない”と、本来であれば出会わなかったかもしれない人達。奇跡的な繋がりだと思っています。地域やパパ・ママたちに何か貢献したい!という、共通の思いを持って参加しているので、時には本気でディスカッションすることもあります。大人になって出会えた“最高の仲間”だと思います」(ナオさん)
葛飾区は防災イベントに若いパパ・ママを呼び込みたかった
こうしたゆるやかなつながりづくりのなかで、防災の講座やイベントも行っている。
2016年からは葛飾区と組んで「パパママ防災講座」「パパママ水害講座」などを実施してきた。ナオさんが「かつしかFM」の番組に出演したことをきっかけで危機管理課の職員と繋がったという。
「予想に反して防災意識が高いパパさんは多くて、『パパママ水害講座』もパパさんしか参加しなかった年があります」
2018年に行った「パパママ水害講座」の様子(写真提供/ハハモコモひろば)
「葛飾区としては防災イベントに年配の方は来るけど、子育て中のパパ・ママ世代がなかなか来てくれないという悩みがあったようです。こちらも防災や水害時の対応に関する区の取り組みを聞きたかったので、需要と供給がちょうどマッチしました」
葛飾区、江戸川区、江東区の多くは海抜0m地帯。豪雨の際の水害が気になるところだ。
「2019年の台風(令和元年東日本台風)の時は避難したスタッフもいました。パパママ水害講座で、避難の考え方を葛飾区危機管理課の方に教えていただいていたので、自治体からの情報を確認しながら判断することができました」
荒川が氾濫すると葛飾区の西部地域に水が流れ込む(画像提供/葛飾区)
行政と協働しようとする姿勢に“防災のプロ”も注目
防災に関する情報を発信し続けている“防災のプロ”、百年防災社。代表の葛西優香さん(34歳)も「ハハモコモひろば」の活動に注目している。
「さまざまな防災講座を設けるとともに、行政と積極的に関わって協働しようとする姿勢も感度が高いと思います。代表のナオさんは思いついたことをすべて行動に移す推進力を持っており、その後も地域と積極的に繋がっていくパパ・ママさんたちを輩出してきたコミュニティですね」
ナオさんたちは、先日も葛飾区主催の「(女性のための防災講座」災害時のトイレ・衛生対策」に広報協力したうえで、講座にも参加した。自宅に災害時用の簡易トイレはあるが使ったことはない。実際に使用してみることで、具体的なイメージができたという。
「災害時のトイレ・衛生対策」(画像提供/葛飾区)
こうした活動を通じて、ナオさんをはじめ、参加者のママさんたちの防災意識はさらに高まっていった。防災対策に関する知識も養われたという。
例えば、実際に、ナオさんも簡易トイレ以外に「非常食はローリングストック法で備蓄」「上着は、普段から防水力のあるレインウェアにする」「外でバッテリーが切れたときのために、携帯電話は2台持ちにしてモバイルバッテリーも常に持ち歩く」などの防災態勢を整えた。
簡易トイレもそうだが、トイレットペーパーも備蓄しておくに越したことはない。ナオさん宅では、通常より数倍長い「長巻きトイレットペーパー」を何ロールか常備している。昨年、新型コロナウイルスによる緊急事態宣言で店からトイレットペーパーが消えたときも、とくに困らなかったそうだ。
これらの商品は生協などで買っている(画像提供/ハハモコモひろば)
長く続けるコツは「自分たちが楽しむ」こと
実は、こうした地域コミュニティは「できては消え、できては消え」ていくそうだ。長く続けるコツをナオさんに聞いた。
「コミュニティをつくるのは簡単ですが、継続させるのが難しい。一番大事なのは、自分たちが楽しむことを忘れず、やりたいことをやるということじゃないでしょうか。例えば、ママたちの間で流行しているハンドメイド講座があっても、私たちがピンとこなかったときには、無理に手を出しませんでした。スタッフはみんなボランティアでやっていて、本業もあったり、子育てもしているママです。楽しさを失ってしまうとバランスが崩れて続かないと思います」
ナオさんたちの活動の軸は「ママたちを元気づけたい!」という思い。さまざまなイベントを通じてママたちが元気になり、地域が活性化し、そして防災意識が高まる。この好循環が、心地よいコミュニティづくりへとつながっている。
防災をメインとしていなくても、こうしたつながりづくりが結果的に地域の防災につながる。自分の住む街にどんな自治会や地域のコミュニティがあるか、見直してみてもいいかもしれない。
●取材協力
ハハモコモひろば
百年防災社 元画像url https://suumo.jp/journal/wp/wp-content/uploads/2021/03/178682_main.jpg 住まいに関するコラムをもっと読む SUUMOジャーナル
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