裏おとぎ話サスペンス『哀愁しんでれら』渡部亮平監督インタビュー「“大きな愛”は素晴らしいが、反面怖さも含んでいる」
幸せを追い求めたその女性は、なぜ社会を震撼させる凶悪事件を起こしたのか? 土屋太鳳さん主演、田中圭さん共演のヒューマンサスペンス『哀愁しんでれら』が2月5日より公開となります。
【ストーリー】児童相談所に勤める平凡な女性が、一晩で怒涛の不幸にあい、すべてを失ってしまう。 人生を諦めようとしていた彼女だったが、8歳の娘を男手ひとつで育てる開業医と出会い、 優しく、裕福で、王子様のような彼に惹かれていく。 彼の娘とも仲良くなり、プロポーズを受け入れ、不幸のどん底から一気に幸せの頂点へ駆け上がる! まさにシンデレラとなった彼女は、夫と娘と共に幸せな家庭を築いていこうと決意し、 新婚生活を始めるのだが、その先には想像もできない毎日が待っていた・・・。
本作の脚本・監督を務めたのは、本作『哀愁しんでれら』でTSUTATA CREATORS’ PROGRAM FILM 2016グランプリ作品を獲得した、渡部亮平監督。自主制作映画がぴあフィルムフェスティバルに入賞、テレビドラマ、映画の脚本を中心に活動しながら、CMやMVなどへも活躍の幅を広げている今注目の監督が、現代を舞台にした“裏”おとぎ話を美しい映像で紡ぎます。渡部監督に本作への想い、制作秘話などを伺いました!
――本作面白く、怖く、観させていただきました。まずは『哀愁しんでれら』の構想がどの様に生まれたのかを教えてください。
渡部監督:元々あたためていた話を基に書いたのですが、構想のきっかけは個人的な体験にあります。僕の好きだった女の子が、本当にあっという間に結婚した事があって、ちょっとショックだったんです(笑)。その時、ちょうどオリジナル脚本を書かないといけないタイミングで、「あっという間に結婚した人のその後の人生ってどういう感じなのだろう」という大まかな話の流れを作って。『哀愁しんでれら』はその構想に、最近自分が感じている事を取り入れつつ、エンターテイメント作品にしたいなと考えました。
――映画の中にもシーンとして出てきますが、「運動会をもう1回やれ」と学校を脅迫した親の事件もストーリーをふくらませるきっかけになったそうですね。
渡部監督:そういったニュースとかを日々見ていて、思った事や感じた事は取り入れています。児童虐待のニュース等を見て、すごく嫌だなと思うのですが、自分は親では無いし、もしかしたら加害者たちも親になる前は「こんな親には絶対ならない」と思っていて、僕ら側にいたのかもしれないし。一概に「ひどい親だ」と言えない部分もあるのでは無いかと考えてしまうんです。
――「歪んだ愛」と言ってしまえば言葉が軽いかもしれませんが、本作では愛があるゆえにどんどんおかしな方向に話が進んでいってしまいますよね。
渡部監督:愛って大きければ大きいほど、それがうまくいかなかった時の喪失感ってすごいなと思っていて。「大きな愛」って素晴らしいのですが、反面怖さも含んでいるなと。『かしこい狗は、吠えずに笑う』という自主映画で友情から行き過ぎた愛情を描いたのですが、僕自身が“嫉妬しい”だと思っていて、仲良しの友達が別の友達と遊んでいるだけで寂しくなったり(笑)。そういう気持ちって誰しもにあると思うんですね。そういう気持ちを映画で描きたいなと思っている部分があります。
――本作で描かれているキャラクターたちは、実際に会ったことがなかったとしても「こういう人いるよな」というリアルさがありました。
渡部監督:田中圭さんが演じる大悟のモデルというか、性格描写をする時に参考にした方がいて。昔、CMを作っている時についていた先輩が、些細な一言にずっと怒っていて。「こんな一言で怒るんだ。普段優しいのに、ここに沸点があるんだ」ってビックリしたんですね。その相手に怒りの電話をして、切った後に「ここまで怒っておけば、二度とそれをやらないだろ」と言っていて、「あ、先輩の中では“良い事”をしているのだ」と思ったんです。
――まさに大悟のキャラクターというか、恐さを感じる部分ですね。監督は身近な人をモデルにする事も多いのでしょうか?
渡部監督:高校時代の友人とかと話している時のことを、そのままセリフに使って、謝ることもあります(笑)。日常の中にあるリアルなセリフには叶わないと思っていて、周りの言動は生かして脚本に取り込んでいます。
――小春を演じた土屋太鳳さんが素晴らしかったです。これまでの土屋さんのイメージには無かった役所ではないでしょうか。
渡部監督:本作を作り始めた時には、小春役はオーディションをしようと思っていたのですが、脚本のリテイクをしていく中で時間がかかり、土屋太鳳さんの年齢がちょうど小春に合ったというラッキーもありました。その時にSiaのMVをみて、踊っている太鳳さんのすごい表現力に感動したんです。(https://www.youtube.com/watch?v=LMdt_MD0gpY [リンク])
――物語が後半に進むにつれ、どんどん不穏になっていくのに小春の美しさが際立っていくのも印象的で。
渡部監督:前半の明るさ、好奇心旺盛な部分と、強い母性はもともと太鳳さんが持っているものだと思います。それが後半に狂気を帯びて、というか次第に大人っぽく美しくなってくる。そういった部分を表現したかったので、そう言っていただけると嬉しいです。
――田中圭さんの演技についてはいかがですか?
渡部監督:小春を太鳳さんが演じてくださるという事で、年齢差や大悟という人物が持つ魅力を体現してくれるのが田中圭さんだと思いました。田中さんは、役について事前に準備して深く考えて演じるタイプではなく、現場で演じながらどんどん大悟を作り上げてくださいました。おかしな人物の様で、大悟自身はずっと芯の通った行動をし続けていて、そういった絶妙な役所を持ち前の飾りっ気の無さで演じてくれました。
――また、映画を観た方誰もが心を奪われるのが、ヒカリ役の COCOさんの演技だと思います。
渡部監督:ヒカリ役はオーディションをして、たくさんの子役を見て、演技が上手い人もたくさんいましたが、演技経験が無かったCOCOに惹かれました。この映画でヒカリという役柄はとても重要なので、ヒカリのキャスティングを誤ると全部が台無しになる可能性があったので正直にいうと怖かったです。COCOは、当時8歳で、周りの子達の演技が上手なことにショックを受けていたけど、「私はまだ演技をやったことないけれど、やればできると思う」とハッキリ言ってくれたんです。 「恥ずかしい話、僕はデビュー作だから失敗できないんだよ!」と赤裸々に伝えて(笑)。子供だからプレッシャーを与えないほうがいいと思ったけど、彼女は頭が良い子なので、伝えたほうがわかりやすいと思ったんです。公園を歩きながらセリフを言ってもらったり、彼女は一人っ子で最初は大きな声も出せなかったけどだんだん出せるようになって。三ヶ月稽古して、一緒に一つの映画にむかって頑張ったなという気持ちがあるので感謝しています。
――本作は、観た方によって感想も全然違ってくると思いますし、とても語りがいのある映画だなと思っています。私は人間の価値観の違いというのが描かれているサスペンスだと感じましたし、例えば、お笑い芸人のしずる・村上さんの「涙が止まらなかった」という感想も面白いなと。(https://twitter.com/shizzlemurakami/status/1349678771431903235 [リンク])
渡部監督:村上さんは試写室から放心状態で出てきて、感想を伝えてくださったのですが、話しているうちに泣いてしまって。その日の夜Zoomで6時間くらい飲みながらお話しました(笑)。僕自身はこの映画に、グッとくる要素は感じていますが、泣かせようと思って撮ったわけでは無いので、そういった感想を聞くのは新鮮で嬉しかったです。映画を作っていると「泣かせる要素を入れてください」と言われる事があったりもするのですが、人が泣くというのは、一つの正解があるわけではなくて、様々な感情が入り混じっての事だと思います。これから映画をご覧になった方が、どの様な感情を持ってくれるのか、今からすごく楽しみですし、色々な感想を聞かせていただけたら嬉しいです。
――私もたくさんの人の感想を読んでみたいです。今日は貴重なお話をどうもありがとうございました!
【動画】怒涛の不幸6連発!『哀愁しんでれら』冒頭10分映像
https://www.youtube.com/watch?v=MaYGqBG_5sM [リンク]
2021年2月5日(金)全国公開
配給:クロックワークス
(C)2021 『哀愁しんでれら』製作委員会
https://aishu-cinderella.com/
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