人と人が「つながるバス停」? 福岡・八女市でライブラリー併設のバス停が誕生!
日本各地の自治体が、人口減少や山間部の過疎問題に直面しています。課題解決に取り組む福岡県八女市は、コミュニティ通貨が利用できるライブラリーを併設した「つながるバス停」の運用を開始しました。日本初の本で人をつなげるユニークなバス停と、人と人をつなげるコミュニティ通貨「まちのコイン」は、地域にどのような影響を与えているのでしょうか。八女市とプロジェクトを企画した面白法人カヤックに話を聞きながら、新しい地域のまちづくりについて、お伝えしたいと思います。
人と人をつなげる、ライブラリー併設のバス停とは?
福岡県南西部に位置する人口約6万2000人の八女市。市街地の玄関口、西鉄バス福島停留所にできた新しいバス停は、市町村として日本初の取り組みであるコミュニティ通貨が利用できるバス停です。八女杉と漆喰の白壁を使ったぬくもりのある建物の中に、ライブラリーがあります。地域の高校生が選んだ本が並び、減農薬で栽培された八女茶を楽しむことができます。マイボトルを持参し、通勤前にお茶を入れるリピーターも多いそうです。
福岡県立八女農業高等学校の学生が栽培から製造まで一貫して行ったこだわりの八女茶(水出し)をコミュニティ通貨50ロマンで提供(画像提供/面白法人カヤック)
「つながるバス停」のオープニング式典で企画の趣旨を説明する八女市長と面白法人カヤック代表の柳澤大輔さん(画像提供/面白法人カヤック)
地元の高校生や地域で活躍している人がおすすめする本などがずらり(画像提供/面白法人カヤック)
内装には八女杉も使用。天井高は4m以上あり、開放感がある(画像提供/面白法人カヤック)
ライブラリーには、「今月のセレクター」というコーナーがあり、地域の魅力ある「八女人」が月ごとに紹介されていく予定です。屋根とベンチしかなかったバス停が、通勤通学の利用者だけでなく、お年寄りや観光客も立ち寄れる地域内外に開かれた場所に生まれ変わりました。
地域コミュニティを創り出す! 「関係人口」を増やす試み
山間部が多くを占め、八女杉を産出する自然豊かな八女市では、人口減少や過疎問題を抱えていました。
「八女市では、地域コミュニティの機能低下による悪循環をなくすために、『関係人口創出事業』の取り組みを行ってきました。民間の知恵を借りようと2020年6月にプロポーザルを実施。バス停をコミュニティライブラリーにするというユニークな発想によって乗降客のコミュニケーションの場とすることで地域内外の交流を促進させる点を評価し、『つながるバス停』が採用となりました。本をフックにするというのは、IT関係の会社の提案としては意外で、面白い発想だと感じました」と話すのは、八女市役所定住対策課町並み景観係の溝尻竜夫(みぞじり・たつお)さんです。
古いバス停を取り壊した跡地に建築(画像提供/面白法人カヤック)
外壁を木製の縦格子にすることで、圧迫感がなく、ぬくもりのある雰囲気に(画像提供/面白法人カヤック)
「関係人口」とは、移住による「定住人口」でも、観光による「交流人口」でもない、地域や地域の人と多様に関わる人を指す言葉です。若者を中心とした地域外の人材が、地域づくりの新しい担い手となることが期待されています。
「つながるバス停」を提案した面白法人カヤックの地域プロデューサー長田拓さんは、企画の背景を次のように語ります。
「八女市には、別の事業で頻繁に訪れておりますが、広く知られていないだけで、ポテンシャルが高いと感じていました。八女茶のほかにも、八女手漉和紙や八女提灯、八女福島仏壇などの伝統工芸も盛んですし、重要伝統的建造物群保存地区に選定されている江戸時代から続く白壁の町並みも美しい。そんな八女の魅力をしっかりと発信したいと考えたんです。本というアナログのものに着目したのは、八女の魅力を支えている人を起点にしたい、そのために人のつながりを可視化したいと考えたから。高校生が選んだ本や八女に関わる本、八女出身の作家の本などを置くことで、地域内外の人に興味を持ってもらい、会話のきっかけをつくる。読んだ人は、本にしおりをはさめるようになっているんですよ。しおりには、名前やニックネーム、SNSのアカウントやよく行くお店を記入できます。昔の図書貸し出しカードのように、人とゆるくつながれるアイテムとして役立ててもらえたらと考えました」
人とのつながりを実感してほしいと、30種類の人の形のしおりを作成。仲良くなるきっかけに(画像提供/面白法人カヤック)
高校生など地元の人が集まり、にぎわうオープニング式典時のバス停内(画像提供/面白法人カヤック)
室内には、八女茶の香りが漂う(画像提供/面白法人カヤック)
使えば使うほど仲良くなる!? コミュニティ通貨「まちのコイン」
「つながるバス停」での八女茶のボトリングサービス等、加盟店が提供する特別なサービスを受けるときに使える地域通貨が、「まちのコイン」です。「まちのコイン」は、面白法人カヤックが、2018年に開発を開始したコミュニティ通貨サービスで、神奈川県の「SDGsつながりポイント事業」に採択され、2019年11月に鎌倉市で実証実験を行い、現在は神奈川県小田原市や民間のデベロッパー主導で山手線大塚駅周辺の地域で導入が開始されています。八女市の通貨名は「ロマン」。コミュニティ通貨のテーマは、「大自然や歴史、伝統をつないでにぎわうまち八女」です。
アプリをダウンロードすれば、面白法人カヤックが提供するコミュニティ通貨導入地域が選択でき、どこでも利用ができる(画像提供/面白法人カヤック)
「従来の地域通貨は、お金の代わりですが、コミュニティ通貨は、人と人のつながりが生まれたときに、交換するためのものです。当社では、地域固有の魅力を資本価値と捉える『地域資本主義』を発信しています。まちのコインの流通量を増やしていくことが、地域の魅力の増加につながります」(長田さん)
「まちのコイン」アプリの操作画面。通帳から、貯まったロマンと使用頻度に応じた自分の八女レベルが分かる(画像提供/面白法人カヤック)
「クラフトコーラづくり」など地域の商店が発行するおもしろチケット
「まちのコイン」導入にあたり、チケットを発行する加盟店から戸惑いの声はなかったのでしょうか。
「市として前例がなく、参考になるものがないので、説明会などでは、『これは八女市のファンをつくるための事業です』と必ずお伝えしていました。皆さん、『面白いですね!』『八女の魅力を伝えるためなら!』と、すぐに理解してくださいました。個人事業主の方は、柔軟でチャレンジ精神も旺盛ですし、我々が思いつかないような面白いアイデアを出してくださいます」(溝尻さん)
例えば、薬膳料理の店「八女サヘホ」では、子どもと一緒にコーラシロップづくりを体験できるチケットを発行。講習では、中に入れるスパイスの紹介があるなど、なかなかできない体験が好評でした。ほかにも、醤油屋さんの若旦那とお話ができるチケットやお店の裏メニューを注文することができるチケットも。
「それらは、コインを払うチケットですが、お店にとってありがたいSNSでの発信に協力したり、八女の『町歩きツアー』に参加するだけで、コインをもらえるチケットもあります。アプリでは、活動履歴が残るようになっています。仕事とボランティアの間にあるお手伝いごとの動機付けとして、また、少しハードルが高いSDGs(持続可能な開発目標)に関係する地域活動を身近に感じるきっかけになっています」(長田さん)
「コーラの材料にスパイスがあったとは」と、参加者も驚いていた(画像提供/面白法人カヤック)
筆者も「まちのコイン」のアプリをダウンロードしてみましたが、地域ごとにおもしろいチケットがあり、ゲーム感覚で操作できるのも楽しい! 神奈川県小田原市や山手線大塚駅周辺など「まちのコイン」導入地域同士の連携や関係イベントを今後、検討していくとのことなので、最寄りを訪ねた際は、チェックして使ってみるのも良いと思います。
今後は、「つながるバス停」を交流拠点だけでなく、人材が活躍できる場所として活用していくそうです。同じ八女市が運営するコワーキングスペース「南仙荘」を中心に展開する地域仕事づくり支援事業と連携し、起業希望者に期間限定のチャレンジショップとして役立ててもらう予定です。
地域のにぎわいを生み出す「つながるバス停」と「まちのコイン」。「まちのコイン」は、人と人とのつながりを可視化し、地域をひらいていくコミュニティ通貨です。多様な人に地域に関わってもらう取り組みが続いています。
●取材協力
・面白法人カヤック 元画像url https://suumo.jp/journal/wp/wp-content/uploads/2020/12/176765_main.jpg 住まいに関するコラムをもっと読む SUUMOジャーナル
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