「田舎で育ったので、猪などの動物の毛の感じや鳥、虫などがヘアのシルエットを作る時に自然と出てくる」I & Fashion Issue : Hayate Maeda



パンデミックで引き起こされた様々な変化を受けて、ファッションも転換期を迎えている。かねてより懸念されていた環境問題に関してのエシカルな動きは加速し、工業的な変化はもちろん、Black Lives Matterなどのムーヴメントからも文化の盗用やフィッシングをはじめとする問題にもさらに目が向けられるようになり、作り手のアイデンティティが強く問われる時代。そんな時代に、オリジナルを生み出すにはどのような思考、プロセスが必要なのか。広島から東京の日本美容専門学校に進み、現在はフリーのヘアスタイリストとして活躍するHayate Maeda。故郷である広島の自然の中で目にした様々な光景を自身のクリエイティヴに結びつけて発信している彼の向き合い方を聞いた。


――まず、ヘアスタイリストになった過程を教えてください。


Hayate「僕は広島の凄い田舎に住んでいたんです。広島市内は結構都会なんですけど、僕が住んでいたところは市内に行くのに3時間かかるような場所で、車で1時間、高速バスで2時間半みたいな山の中。車で移動するのが基本、田んぼばかりで土木関係の仕事も多いし、みんな生活に密着した格好をしていて、ロングコートを着てる人なんていないから、着てると『殺し屋だ!』って言われるような閉鎖された場所(笑)。僕も極々普通だったんですけど、高校時代に寮に入っていて、そこで一緒だった先輩が美容師になりたいと言っているのを聞いて俺もそうしようと思ったのが最初のきっかけです。それでとりあえず東京に出ようと思って、高田馬場にある日本美容専門学校に行きました。そこまでは自分がファッションのイメージを自分が作る側になることはあまり考えてなかったんです」


――美容専門学校だと、かなり個性的な人も多いですよね。


Hayate「そう。こんなのアリなんだとか、やばいなって人がたくさんいて、そこでなんでもやっちゃっていいんだと思って、派手なファッションだったりいろんなことをやってみました。その学生時代にファッションショーも観るようになって、コム デ ギャルソンのショーで加茂(克也)さんの作品などを観て衝撃を受けたり。コレクションでは普段見ているものと全く違うものが出てくるじゃないですか。技術的になんでもやりたいし、面白いと思うものをやっても、学生という立場だとこれはおかしいよと言われることもあったので、余計に惹かれました」

――それはもっとリアルなものを求められるということ?


Hayate「それもあったし、例えばアップの検定があった時に、俺は四角くしたい、角を作りたいと言ったらおかしいと言われて。でもショーではあるし、こういうものもありなんだって見て学んだ。そこからは自分もそういうステージでやりたいなと思って、ファッションのものを見るようになりました。やっぱり表現の幅があるんですよね。日常的なのもあるけど、ちょっと非日常だったり、それを日常に落としたりというのがファッションの醍醐味。その中の最初のダイレクトな表現にすごく興味が出たんです」



Hayate Maeda Works


――ファッションにおいてヘアはどういう役割を持っていると考えていますか。


Hayate「あくまで髪の毛なので前面に出すぎてもダメ。引き立て役みたいな感じだと俺は思っています。誰かが作りたい世界観に対して、自分が台無しにもできるし、すごく良いものにもできる。ヘアを主体には考えていなくて、みんなの世界観づくりを手伝うみたいな感覚でいつもやってます。自分やヘアだけで完結してしまうものにあまり価値を感じていないんです。ヘアだけでなんでもありというのもいいけど、全体の中でやる方がワクワクする」


――ファッションで自己表現する際の哲学は? 自分の場合と人への場合と両方教えてください。


Hayate「自分のファッションは生活なので、気温とか生きてくことに妨げにならないということを重要視します。寒いけどこれを着て行こうなんてことは今はしないです。理にかなっていないので、そういう攻めはしない。その日の洋服を決める時も、最初は気温を調べます。以前、ロケ撮影で死ぬような思いをしたことがあるんですよ。20歳くらいの時にmaseiyuくんたちとテストシュートみたいな感じで島に行って、コンビニもないし、防寒具もそんなに持っていっていなくて、雨も降ってきて、震えて死ぬかもしれないと本気で思って。それもあって辛い思いはしたくないから気温が第一、その次は気分です。ドレスアップとかドレスコードも好きなので、そういう格好もするし、カジュアルな格好もします。
人との仕事だと、さっきも言ったように誰かのために作るということ。一見派手だったり尖ったものを作ったりもするけど、デザイナーがこういう風にしたいという時に提案できることが前提になってる。自分の好きなことをやっていても、誰かのためになることを前提として作っています。家でウィッグを作ったり、たくさんアイデアとして保存しておいて、機会がきた時に出す感じです」

――この年代のヘアスタイルが好きだとかそういうものはありますか。


Hayate「ないです。最初はそういう知識やカルチャーが一番大事だと思っていたけど、昔のものをそのまま持ってきただけというのは逆に違うと思ってからは、今見て格好いいと思うものを信じようと思いました。もちろん仕事でヘアスタイルを作る時に、例えばデザイナーやクライアントがこの年代の感じでというリクエストを出してきたときは、その年代を意識したり、それぞれの年代にポイントがあるのでそうしたこともやりますが、とらわれすぎて、そのままやっても意味がない。
知っててやるか知らないでやるかは差が出ると思うので、ちゃんと見たり知識として持っていて、コンセプトを決める時はしっかり話したりした上で、いざやる時はそれを踏まえて、なんかこっちの方が合うなとか、この子にはこの方がいいとか、この服だと行きすぎるなとかそういうことを瞬時に判断してやってます。一番大事なのは今見て格好いいかだと思っています」




Hayate Maeda Works model: Mioko


――なるほど。では、自分のアイデンティティを作品に出すことはありますか。


Hayate「自然に出ていると思います。家族とかというより、田舎で育ったので、生きものや自然などがヘアのシルエットを作る時などに自然と出てくるというか。小さい時に山にずっといたので、猪のああいう毛の感じとか、動物のあの感じとか、自然界のものを意識することが多いですね」


――豊かなバックグラウンドですね。


Hayate「山の中なので、罠にかかった猪を食べたりしていたし、朝カーテンを開けたら庭に猪や狸がいたり。熊もいたけど、みんな鈴をつけて歩いてたからそんな来なかった。入学した時に、小学生から中学生まで全員に熊鈴が配られるんですよ。だから夕方5時くらいになるとチリンチリンチリンって聞こえるんです。朝もそう。鈴の音が聞こえると登下校の時間なんだなってわかる。今になってそういう田舎や山の独自の文化をすごく思い出します。直接じゃないけどその時思ったことが意外と出てきてるなと思いますね。庭の裏で捕まえたハンミョウとかオニヤンマ、いろんな虫や動物の色とか形が結局一番すごいなと思っていて、俺はそういうところから考えることが多いです」


――今はSNSなどで情報が大量にあるが故にオリジナルを作る時に悩むことも多いと言いますが、Hayateさんには無縁かもしれない。


Hayate「自然のものだからオリジナリティとは言えないとは思うんですけど、自分がイメージするものが他の人と違うなっていうのは思います。『鷲っぽくない?』と言っても伝わらないし、蜘蛛っぽいなとか思ってもなかなかわかってもらえない(笑)。自然界からのインスピレーションは多いですね」




――環境問題もファッションの中では大きなトピックですが、そのようなことも考えますか。


Hayate「あまり意識してなかったんですけど、いつからか頭の片隅にはあって、長く着れるものを選ぶようになりました。昔からレザーのアイテムを多く持っていて、動物の革という自分のルーツにも根ざしているし、自分の体の一部になってずっと着れるし、あたたかいし、長く使える。飽きることがない。他のものも、かわいいとかいいなって思ったりはするんですけど、いざ買うとか自分が着るとなると長く使えるとかということとを考えます。環境問題を考えて作る、買うっていうのはすごくいいことだし、Marine Serreが昔のものから集めて作ったコレクションなんかは本当に素晴らしかった。レザーも古着でたくさんあるからそれをまた作り変えたり、そういう動きが増えるのはいいなと思います」



――環境問題はじめ、Black Lives Matterや様々な政治的、社会的ムーヴメントが巻き起こっていますが、ファッションをどう変えていくと思いますか。


Hayate「日本にいると社会問題を感じることは希薄だと思うんです。それでもいろんなブランドが寄付を行っていたり、メッセージをデザインに出していたりすることで目にする機会は圧倒的に増えますよね。服はみんなが着るものだから、物凄い伝達力を持っている。だから関わるのは必然だし、元々ファッションと政治も、ファッションと生活も全部が関わっていると思います」





――COVID19で行動制限がされたことで、クリエイティヴになりにくいと感じている人もいますが、Hayateさんはいかがですか。


Hayate「クリエイティヴになりにくいとは感じません。1ヶ月くらい家にこもってたけど、めっちゃアニメを観たんですよ。アニメの髪色も自然界にある配色だからインスピレーションになるし、家にこもっていても何からでも持ってこれる。僕は猫を飼ってるので、毛の途中から色が変わってるなあとか。一見閉鎖されたように感じるけど、探せばインスピレーションの元はどこにでもあると思います」


――最後に、ヘアの学生やファッション業界に携わりたい人、殻を破りたい人たちへアドバイスをお願いします。


Hayate「とにかくやってみた方がいい。俺は卒業してすぐにヘアスタイリストになりましたけど、それは申請を出してとかじゃなく、ヘアスタイリストですって言ったんです。それで、なった。ヘアスタイリストです、やりますっていうのが一番重要というか。音楽をやりたい、写真を撮りたいとか色々なりたい仕事はあるだろうけど、とにかくやればいいと思います。最初はしっかり練習してからと思うだろうし、それは必ず必要だけど、やってみること。あそこがダメだとか絶対色々あるけど 、どんなに恥をかいてもまずは動いて、やってみるのが大事だと思う」




Hayate Maeda
https://maehaya-hair.localinfo.jp
https://www.instagram.com/hayatemaeda/


photography Shina Peng
text & edit Ryoko Kuwahara


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NeoL/ネオエル

都市で暮らす女性のためのカルチャーWebマガジン。最新ファッションや映画、音楽、 占いなど、創作を刺激する情報を発信。アーティスト連載も多数。

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