『千日の瑠璃』458日目——私は皮算用だ。(丸山健二小説連載)

 

私は皮算用だ。

リゾート開発計画のために広大な土地を必要とする企業から、含みのある文面の年賀状をもらったまほろ町の人々、かれらが試みる皮算用だ。正月には付き物の屠蘇や漠とした期待が、一層私に拍車をかける。だが、最も肝心な条件が欠けている。噂ばかりが先行するなかにあって、土地の買上げ価格については、まだ一度も明示されていないのだ。

今は企業側がまほろ町の全面的な協力を得られるかどうか見極めなくてはならない時期であり、また、地主が交渉に応じるかどうかを瀬踏みする段階であって、金の話はその先のことだ。それでも、丁重な年賀状を受け取った、開発予定区域内に土地を所有する者たちは、ほろ酔い気分で電卓を幾度も幾度も弾く。弾くたびに額が大きくなり、それにつれてかれらの虫のいい期待も際限なく膨らみ、夢と現実の境界線がいよいよ怪しくなる。

丘をひとつ丸ごと買ってもらえるかもしれない男は、鬘といっしょに私を脇へ寄せてから、こう呟く。「土壇場で寝返りを打つ奴や抜け駆けをする奴がきっと出てくるぞ」と言い、「団結して事に当たらねば」と誰に言うともなしに言う。だがすぐにまた鬘をかぶり、私を相手にして、年が明けると同時に真実味を帯びてきた僥倖をしかと見定めようとする。一段と呑みっぷりがよくなった彼は、金などではどうにもならない息子にこう言う。一生に一度くらいはいい思いをしたいものだ、と。
(1・1・月)

丸山健二×ガジェット通信

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