マイルス・デイヴィス、フランシス・フォード・コッポラ、ビョークら世界が愛した才能。「石岡瑛子 血が、汗が、涙がデザインできるか」 東京都現代美術館


石岡瑛子 映画『ドラキュラ』 (フランシス・F・コッポラ監督、1992 年)衣装デザイン
©David Seidner / International Center of Photography



「血がデザインできるか、汗がデザインできるか、涙がデザインできるか。・・・別の言い方をするならば、『感情をデザインできるか』ということです。・・・私の中の熱気を、観客にデザインというボキャブラリーでどのように伝えることができるだろう。いつもそのように考えているわけです。」
石岡瑛子 世界グラフィックデザイン会議での講演より 2003 年


男性デザイナーばかりだった資生堂に女性を観客ではなく主体とする視点を持ち込み、画期的な広告で世間を席巻。独立後、アートディレクター、デザイナーとして、映画、オペラ、演劇、サーカス、ミュージック・ビデオ、オリンピックのプロジェクトなど多岐に渡る分野で新しい時代を切り開きつつ世界を舞台に活躍。ジャンル、ジェンダーや国境、あらゆる境界を超えた作品で後のアーティスト、クリエイターに多大な影響を与えた石岡瑛子(1938-2012)、その唯一無二の個性と情熱が刻印された仕事を総覧した世界初の大規模な回顧展が東京都現代美術館で開催される。


展示は大きく3つに構成される。


1 Timeless:時代をデザインする


石岡瑛子 ポスター『西洋は東洋を着こなせるか』(パルコ、1979年) アートディレクション 

ジェンダー、国境、民族といった既存の枠組みの刷新、新しい生き方の提案を、強いヴィジュアルという言語でもって社会に投げかけた石岡瑛子。グラフィック、エディトリアル、プロダクト等のデザインを通して、1960年代の高度経済成長期から80年代に至る、消費行動を通した日本大衆文化の成熟を辿る。時代をデザインしつつ時代を超越しようとする姿勢は、その後の彼女の展開を予言するものとなる。
前田美波里を起用したデザイン史の金字塔とも言うべき資生堂のポスター(1966)を皮切りに(資生堂の採用面接で「もし私を採用していただけるとしたら、グラフィックデザイナーとして採用していただきたい。お茶を汲んだり、掃除をしたりするような役目としてではなく。それからお給料は、男性の大学卒の採用者と同じだけいただきたい。」とはっきり断言したエピソードは今なお痛快だ)、独立後の挑発的なパルコのキャンペーンの数々(1970-80年代/「鶯は誰にも媚びずホーホケキョ」「ファッションだって真似だけじゃダメなんだ。」など)は彼女の姿勢も物語っている。SANYOの広告には伝説の写真家・アニー・リボヴィッツを採用し、「I AM VERY WOMAN」と既存の枠を超えた解放された女性像を打ち出すとともに、東洋と世界の諸文化を対照・混合させながら、新しい時代を切り拓いていった。女性像を石岡の才能が世に咲き誇り始めた時代であり、当時からの反骨心や大胆さ、スケールの大きさを感じさせる作品群が列挙。完璧主義者でもあり、校正紙やラフには細かく的確なアイデアや指示が残っている。彼女の口癖でもあり、その真髄でもあった「Timeless」を深く感じさせる、全く古びない表現に息をのむ。

Projects – 資生堂、角川書店、パルコ広告キャンペーン(ポスター、CM 1960s-1980s) – 角川書店『野性時代』(雑誌 1974-1978) ほか


2 Fearless:出会いをデザインする



石岡瑛子 アルバム・パッケージ『TUTU』(マイルス・デイヴィス作、1986年)アートディレクション
©The Irving Penn Foundation

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石岡瑛子 映画『ミシマ-ア・ライフ・イン・フォー・チャプターズ』(ポール・シュレイダー監督、1985年)
プロダクションデザイン Mishima ©Zoetrope Corp. 2000. All Rights Reserved. / ©Sukita


1980年代半ば以降、石岡瑛子は、クリエイターたちとの新たな出会いによって、日本から世界へと活動の場を広げるとともに、グラフィックデザイン、アートディレクション、衣装デザイン、さらにはプロダクションデザインと、デザインの表現領域を超えていく。エンタテインメントという巨大な産業のなかで個人のクリエーションのアイデンティティをいかに保ち、オリジナリティを発揮するかという問いに向き合いながら、コラボレーションによるデザインの可能性を拓いていく。
自伝『私デザイン』(講談社 2005年刊)にも克明に記述されているように、石岡瑛子の仕事は、マイルス・デイヴィス、レニ・リーフェンシュタール、フランシス・フォード・コッポラ、ビョーク、ターセム・シンら名だたる表現者たちとの緊張感に満ちたコラボレーションの連続で生み出されてきた(スティーヴ・ジョブスも石岡の熱烈なファンであったが、残念ながらそのコラボレーションが実現しなかった)。彼女は手強い相手との手合わせに決して臆しない。スポーツ選手と同じで日々自身のデザインやアートセンスを鍛錬すべしという持論を持ち、根幹や嗅覚を鍛え、相手とともに飛躍できる彼女には常にヴィジョンがはっきりと見えていた。カデミー賞を受賞した『ドラキュラ』(1992)で名実ともに世界のトップクリエイターとなった石岡は、巨匠フランシス・フォード・コッポラにして「境界を知らないアーティスト/An artist who knows no boundaries」と評されるほど「Fearless」で刺激的なものづくりを見せている。展示では、集団制作の中で個のクリエイティビティをいかに発揮するかに賭けた「石岡瑛子の方法」を、デザインのプロセスを示す膨大な資料とともに紹介し、その秘密に迫る。


Projects- レニ・リーフェンシュタールとのコラボレーション(展覧会、書籍など 1980/1991) – マイルス・デイヴィス『TUTU』(レコード・アルバム 1986) -『M.バタフライ』(演劇 1988)-『忠臣蔵』(オペラ 1997) -『ミシマ-ア・ライフ・イン・フォー・チャプターズ』(映画 1985) -『ドラキュラ』(映画 1992) ほか

3 Borderless:未知をデザインする


石岡瑛子 コンテンポラリー・サーカス『ヴァレカイ』(シルク・ドゥ・ソレイユ、2002年)衣装デザイン   
Director: Dominic Champagne / Director of creation: Andrew Watson / Set designer: Stéphane Roy / Courtesy of Cirque du Soleil



石岡瑛子 オペラ『ニーベルングの指環』(リヒャルト・ワーグナー作、ピエール・アウディ演出、オランダ国立オペラ、1998-1999年)衣装デザイン ©ruthwalz



石岡瑛子 映画『落下の王国』(ターセム・シン監督、2006年)衣装デザイン
©2006 Googly Films, LLC. All Rights Reserved.




石岡瑛子 映画『落下の王国』(ターセム・シン監督、2006年)衣装デザイン
©2006 Googly Films, LLC. All Rights Reserved.



石岡瑛子 『北京夏季オリンピック開会式』 (チャン・イーモウ演出、2008 年)衣装デザイン
©2008 / Comité International Olympique (CIO) / HUET, John

M 107 (Left to right.) Nathan Lane and Julia Roberts star in Relativity Media’s Mirror Mirror. Photo Credit: Jan Thijs. © 2012 Relativity Media. All Rights Reserved.

石岡瑛子 映画『白雪姫と鏡の女王』 (ターセム・シン監督、2012 年)衣装デザイン
©2012-2020 UV RML NL Assets LLC. All Rights Reserved.



石岡瑛子 映画『白雪姫と鏡の女王』 (ターセム・シン監督、2012 年)衣装デザイン
©2012-2020 UV RML NL Assets LLC. All Rights Reserved.



全体を通して、人間の身体の躍動感を根源に宿しつつ、「赤」をキーカラーとし、視覚的なインパクトとエモーションを併せ持つ石岡瑛子の仕事を、現在進行形のクリエーションを体感できる本展。このコーナーでは、オペラや映画、サーカスのコスチュームやオリンピックのユニフォームを通して、身体を拡張し、民族、時代、地域などの個別的な属性を乗り越えた、未知の視覚領域をデザインしていく仕事を総覧する。永遠 性、再生、夢、冒険といった普遍的なテーマを足掛かりに、人間の可能性をどこまでも拡張していく後半生の仕事は、常に新たな領域へと果敢に越境し続けた石岡自身の人生と重ねられる。70代に至るまで常に現役、常に自身の鍛錬を怠らず、その眼差しは遠く先を見ていた。伝統と革新、女と男、スウィートとタフなど自身の中に矛盾する要素を抱えていることを自覚していた彼女は、どちらも排除しない絶妙なバランスでそれらを作品に落とし込んだ。ジェンダーや国境も、アートとエンタテインメントも、大きな視点から捉えることができ、常に喜んで挑戦に向かう天才であった。
Projects -『ザ・セル』(映画 2000)-『落下の王国』(映画 2006)- グレイス・ジョーンズ『ハリケーン・ツアー』(コンサート・ツアー 2009)- シルク・ドゥ・ソレイユ『ヴァレカイ』(コンテンポラリー・サーカス 2002) – ビョーク『コクーン』(ミュージック・ビデオ 2001)- ソルトレークシティオリンピック(ユニフォーム 2002)- 北京オリンピック(開会式 2008)-『ニーベルングの指環』(オペラ 1998-1999)-『白雪姫と鏡の女王』(映画 2012) ほか



常に鍛錬し、恐れず、境界を超える石岡瑛子。彼女が残した作品の数々から我々はどんなメッセージを受け取るのか。



石岡瑛子 1983年 Photo by Robert Mapplethorpe
©Robert Mapplethorpe Foundation. Used by permission.



プロフィール
石岡瑛子(いしおか えいこ)
1938 年東京都生まれ。アートディレクター、デザイナー。東京藝術大学美術学部を 卒業後、資生堂に入社。社会現象となったサマー・キャンペーン(1966)を手がけ 頭角を現す。独立後もパルコ、角川書店などの数々の歴史的な広告を手がける。 1980 年代初頭に拠点をニューヨークに移し、映画、オペラ、サーカス、演劇、ミュ ージック・ビデオなど、多岐にわたる分野で活躍。マイルス・デイヴィス 『TUTU』のジャケットデザインでグラミー賞受賞(1987)、映画『ドラキュラ』の 衣装でアカデミー賞衣装デザイン賞受賞(1993)。2008 年北京オリンピック開会式 では衣装デザインを担当した。2012 年逝去。


「石岡瑛子 血が、汗が、涙がデザインできるか」
URL:https://www.mot-art-museum.jp

会期 2020 年 11 月 14 日(土)- 2021 年2月 14 日(日)
休館日 月曜日(11月23日、2021年1月11日は開館)、11月24日、12月28日-2021年1月1日、1月12日
開館時間 10:00-18:00(展示室入場は閉館の 30 分前まで)
観覧料 一般 1,800 円 / 大学生・専門学校生・65 歳以上 1,300 円 / 中高生 700 円 / 小学生以下無料 会場 東京都現代美術館 企画展示室 1F/地下 2F
主催 公益財団法人東京都歴史文化財団 東京都現代美術館、読売新聞社、美術館連絡協議会
協賛 ライオン、大日本印刷、損保ジャパン、日本テレビ放送網、パルコ ほか(予定)
協力 公益財団法人 DNP 文化振興財団、劇団四季、資生堂、七彩 ほか(予定)

同時開催
企画展 「MOT アニュアル 2020 透明な力たち」 コレクション展 「MOT コレクション」


展覧会カタログ
刊行:小学館
価格:3,000 円(予定) 執筆者:安藤忠雄、小池一子、松岡正剛、杉本博司、佐藤卓、朽木ゆり子、藪前知子
[ピエール・アウディ(演出家)のインタビュー収録]
デザイン:永井裕明 、石岡怜子
頁数:300 ページ
※ 価格、体裁、内容は変わることがあります。

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NeoL/ネオエル

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