TIFF : 『おらおらひとりいぐも』沖田修一監督、青木崇高、宮藤官九郎
55歳で夫を亡くした後に主婦業の傍ら執筆し63歳で作家デビュー、芥川賞・文藝賞をW受賞した若竹千佐子の同名小説が映画化。田中裕子が15年ぶりに主演を務めたことでも話題の本作は、1964年、敷かれたレールに乗って結婚することを嫌い、「おらは新しい女だ!」と故郷を飛び出して上京した桃子さんの55年後の物語。働き、恋愛を経て結婚、子供を育て、夫に先立たれ、ひとりの生活を送る中で様々な思いが湧き上がる中、その桃子さんの“心の声=寂しさたち”が具現化して話し始めたーーそんな桃子さんのささやかで壮大な1年を描いている。寂しさ1には濱田岳、2に青木崇高、3に宮藤官九郎という豪華キャストたちと桃子さんこと田中裕子が織りなす会話は不思議でいて、どこかノスタルジック。彼らが演奏するジャズの音色も相まって、桃子さんの寂しさが音符と共に踊り、跳ね、こんなことがあってもいいじゃないと思えてくる。このファンタジーを原作の妙味を壊すことなく具現化した沖田監督、寂しさという人ではないものを見事演じたキャストたち、そして一見どこにでもいる、病院通いを日課とし、なかなか実家に寄り付かない子供や孫を思いつつも日々を訥々と送る初老の女性だが、その芯には「新しい女」が根付いていることを視線の強さや口元から漂わせる田中裕子の凄み。全てがピタリとはまり、ほっこりを成立させると同時に、女性の生き方や高齢化社会など様々な問いかけも投げている深みのある優れた作品に仕上がっている。そして余談だが、出てくる料理が本当に美味しそうで、お腹がへる作品でもある(フードスタイリストは飯島奈美)。
――このハートウォーミングな素晴らしい作品をご紹介する機会をいただきまして大変光栄に思っております。最初に、一言ずつご挨拶のお言葉をいただきたいと思います。田中裕子さん演じる桃子さんの心の声が具現化されたキャラクターで怒りん坊で短気けれど涙もろい性格の寂しさ2を演じられた青木崇高さんよろしくお願いいたします。
青木「ロンリネス2の青木崇高です(笑)。マスクで皆様の表情を全ては拝見できないんですけども、きっとマスクの下はほっこりとした顔になられてるんじゃないかなと確信しております。本当に今日はありがとうございました」
――ありがとうございます。続きまして、陽気で歌いがち。3人いる寂しさたちの中でものんきな性格の寂しさ3を演じられました宮藤官九郎さん、よろしくお願いします。
宮藤「 ロンリネス3を演じました宮藤です。あの今の説明で全く間違えてないです(笑)。今日はロンリネス 1がいないのでロンリネスが足りないんですけど(笑)。ありがとうございました」
――沖田監督お願いいたします。
沖田監督「本当に僕がロンリネス1だったら良かったんですけど(笑)。監督の沖田です。今日はこんなに広い会場でこんなに大きなスクリーンで映画を上映して観ていただいて本当に嬉しく思ってます。よろしくお願いします」
――まずは田中裕子さんが15年ぶりの主演でいらっしゃったということで我々も観て本当に感動しましたが、皆様共演されてみていかがだったかというところからおうかがいしていきたいと思います。
青木「そうですね。こう言うと語弊があるのかもしれないんですけども、ロンリネス 1、2、3でふざけたようにとにかく楽しく現場で過ごしていました。そんな感じだったので田中さんにどう思われてるかわからないところもあるんですけど、とにかく監督が作ってくださった世界であったり空気感を含めて楽しく遊んでいました」
宮藤「僕はやっぱり昔からドラマや映画で観ている女優さんなのでそれなりに緊張していたんですけど、現場に入るともうあのセットの所に最初に田中裕子さんが座っていて、僕らが入る時にもいらっしゃるので、桃子さんがいるという状態のところに『じゃあ寂しさ1、2、3ここに座りましょうか』みたいな感じで、寂しさと衣装も同じなので、途中から4人組みたいな気持ちになってきましたよね(笑)」
――監督、田中裕子さんを主演に迎えられた経緯とこの4人、3人の寂しさと田中さんをうまく違和感なく一緒に過ごしてもらうような工夫、演出上の気遣いがありましたら教えてください。
沖田「田中さんが本当にリラックスしてあの家に座っていらっしゃって、寂しさ3人もワッと同じ衣装で集まったら、僕がどうこうするというよりかは自然とその方がいいだろうということをみんなが思ってくれて、それで現場が動いていたような気がします 」
――田中さんから皆さんにここはこうしましょうとおっしゃることはあったんですか。
宮藤「なかったです」
青木「ああ、田中裕子だ!って思いながらも、田中さんがおこた(コタツ)に入ってて、めざしをかじってたり、お茶飲んでシュウマイ食べてたりするのを見ていたら本当にその佇まいが桃子さんになっていたので 」
――女優田中裕子として皆さんとやりましょうと接するんじゃなくて最初から桃子としているからそれ以外説明が必要がないという準備を彼女がされていたということですね。
宮藤「そうですね」
――撮影後に交流されたりとかは?
青木「今日じゃないですか」
宮藤「そうそう。今日久しぶりに会って、この前に座談会があったんですけど一番田中裕子だと思いました」
一同笑
青木「今日はカジュアルな格好をされていましたし」
宮藤「喋ってるうちに1年前のことを思い出してきますよね」
沖田監督「確かに隣で田中さんがいて、僕も本当に普段着なんで、田中裕子さんだなあと(笑)」
――撮影中、いろんな3人の寂しさが桃子さんの周りで色々パフォーマンスされたり楽器演奏されたり、歌ったりされているんですけども、何かそこで印象的なエピソードは?
青木「最初に台本をいただいて読んで、すごく面白いなと思ったんですけど、その後に衣装合わせがあると聞いて、寂しさは何を着るんだ?と思ったんですよね。心の声ということだから、黒タイツとか黒子の感じかなと想像してたんですけど、実際行ってみたら、僕はちょっと身体がでかいのでその馬鹿でかいサイズの桃子さんの衣装が用意されてまして、いやあ、なるほどこう来るのかって思いましたね。そしたらやっぱり宮藤さんも濱田くんも同じ衣装で、それはめちゃめちゃ面白かったです」
――あの衣装は監督のデザインですか?
沖田監督「衣装の方とどういう衣装にしようかという話をした時に、やっぱりみんなどうするんだとなっていて、抽象的な案もあったんですけど、妖精みたいないろんなイメージがあったので、桃子さんと同じ服を着るのが一番自然で分かりやすいのかなと思ってそうしました。みんな同じ衣装を着ている面白さもあるし、かわいいなって」
――桃子さんがいない時の寂しさ3人役者さんたちは作戦会議などされていましたか?
宮藤「桃子さんがいない時は僕らもいないので。逆に桃子さんがいて、本当はみんないるんだけど、『このカットはカメラがここに入るので濱田くんはお休みです』とか言われるとすごく不安になりました。今まで3人でやってきたから、足りない!みたいな寂しさが半端なかったです(笑)。あと、なんとなく動いてると3人の位置どりと役割が決まってきますよね。繰り返してるうちに、相談してるわけじゃないんだけどこうしようかなとか思って、節分で豆をまく下りの時とかもこっちから出ようかなとかというのがなんとなく決まりますよね」
青木「はい、顔の出し方とか」
――監督が向こうで、ああそうなんだって感心されていますが。
沖田監督「3人にしかわからないことがあるんだなって。車に乗った時に、濱田さんが『シートベルトするべきですかね?』っておっしゃってて、そういうこととかもやってみないとわからなかったので」
宮藤「一応見えない設定なので」
青木「物を通り抜けられるのかとかね」
宮藤「おにぎりを握ってるあたりからどうでも良くなりましたけどね。もういっかって」
一同笑
――寂しさという役は普通ないと思いますが、その寂しさを演出するにあたっていろいろ工夫した点、あとは演じられて工夫した点があったら教えてください。
沖田監督「イメージしてたのは白雪姫の姫の7人の小人で、結局は桃子さんの孤独みたいなものを表現するための一つの役だったような気がして、現場で楽しくふざけてもらうことは桃子さんの孤独とちょっと相反するものと言うか、急に3人がいなくなった時に桃子さんがまた寂しく見えたり、そういう風なことが起こればいいなと思ってはいました。最初は小学生男子みたいな感じでと言って、めっちゃくちゃ走ったりしましたよね」
青木「そうですね。まだ結構暖かい日に、あのおばあちゃんの着重ねで走りまくってすごい汗だくでしたね」
宮藤「図書館に行く道を、ああ来た来た!って隠れてまた出てきてというのが最初のシーンでクランクインの日だったんですけど、これはなんなんだろうなって思いながらやってました(笑)。なんで俺たち見えちゃいけないんだっけ?って。桃子さんから見えてもいいような気がするんだけど、来た来た!って隠れる時は楽しかったですね。それからなんか妖精みたいな気持ちでやればいいのかなって。桃子さんにつきまとうみたいな」
――なるほど。最後に皆様から一言ずつお願いします。
青木「ご覧になってくださって本当にありがとうございました。やっぱり映画館で映画を観るって本当に楽しいなと感じられると思いますし、こういった状況ですけども、マスクを取ってこうやってみんなで笑いながら観られる日がまた来たら嬉しいですし、いつかそういう日が来ることを信じてます。また皆さんともお会いしたいと思います。本当にありがとうございました 」
宮藤「寂しさという役に選ばれたことを誇りに思います。この3人しかいないですから。坂本龍馬とかの役だったらまだ似てるとか色々条件があるけど、寂しさをやらせてもらったっていうことは誇りです。概念ですからね。寂しさとどうせはすごいと思いますよ。ありがとうございます」
沖田監督「この映画でこうやって上映して観てくださったお客さんの前に立つのが初めてで、色々ある中で本当に奇跡みたいな。これだけの人に観てもらえて上映できたので感無量です。11月6日から映画公開なんですけど一人でも多くの方に映画を観てくれたらいいなと思っておます。今日観て面白いなと思った方は周りの方にも薦めてください。今日は本当にありがとうございました」
text Ryoko Kuwahara
撮影日:2020年11月3日
撮影場所:TOHOシネマズ六本木 SC7
劇場版『おらおらでひとりいぐも』
https://oraora-movie.asmik-ace.co.jp
全国公開中
監督: 沖田修一
原作: 若竹千佐子
出演: 田中裕子/蒼井優/東出昌大/濱田岳/青木崇高/宮藤官九郎
配給:アスミック・エース
(C)2020「おらおらでひとりいぐも」製作委員会
138分/カラー/2020年日本/アスミック・エース
都市で暮らす女性のためのカルチャーWebマガジン。最新ファッションや映画、音楽、 占いなど、創作を刺激する情報を発信。アーティスト連載も多数。
ウェブサイト: http://www.neol.jp/
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